PLATINUM 900『フリー(アット・ラスト)』90sシティ・ポップ幻の名盤、奇跡の再発に寄せて – Mikiki


坂田直子、西村一彦、飯星裕史からなる和製ジャズ・ファンク・バンド、PLATINUM 900。97年にデビューし、シングル1作とミニ・アルバム2作、フル・アルバム1作を残して99年に解散した幻のバンドだ。作品数の少なさや活動期間の短さ、メンバーが音楽活動を引退していることなどから、長らく謎に包まれていた。
PLATINUM 900が残した渋谷系ともシティ・ポップとも呼びがたい魅力に満ちた作品はひっそりと愛されつづけており、廃盤となった後も密かに評価を高めていた。特に唯一のアルバム『フリー(アット・ラスト)』(99年)は、レコード・コレクターズ増刊「シティ・ポップ1973-2019」(2019年)ディガー集団〈lightmellowbu〉による「オブスキュア・シティポップ・ディスクガイド」(2020年)で取り上げられるなど近年さらに注目を集め、中古盤価格が高騰。ディガーたちが血眼になって探していた一枚である。
そんなタイミングで、ついに『フリー(アット・ラスト)』が再発される。メンバー立ち会いによるリマスタリング、坂田と西村への貴重な録りおろしのインタビューを収録したブックレット、さらにCDとLPでのリリースと、PLATINUM 900の音楽を20年越しで聴き手に再び紹介するこの上ないリイシューだ。
今回、『フリー(アット・ラスト)』の再発にあわせて、以前から本作を高く評価してきたlightmellowbuのbu員に執筆を依頼した。INDGMSKがリスナーの視点から音楽性について、thaithefishがディガーの視点から本作のリイシューについてそれぞれ綴る。 *Mikiki編集部
 
PLATINUM 900の音楽は本当の意味でレア・グルーヴとなった
by INDGMSK

『フリー(アット・ラスト)』再発。誰もが待ち望んでいた再発だろう。
94年の結成以来、自らレア・グルーヴを標榜していたPLATINUM 900。バンドのサウンドは70年代のディスコやジャズ・ファンクからの引用とボサノヴァ+αというところになるだろう。しかし、音楽的な完成度もさることながら、リスナーとして彼らに魅力を最も感じるところは、かつてSMAPのシングルに起用された(99年のシングル“Fly”のカップリングに“End of time”を提供した)ことからもわかるように、レア・グルーヴでありつつもJ-Pop的なその歌謡センスにある。活動の途中から彼らのコンセプトにもなった〈ださカッコいい〉にも通ずる部分だ。
ポップであるということは誤解される余地があるということでもある。ださカッコいいとはイコール隙があるということだ。PLATINUM 900に歌謡的な魅力を吹きこんでいるのはヴォーカルの坂田直子だろう。あえてなのか、ナチュラルにそうなったのかは知る由もないが、彼女のあまり技巧を凝らさず淡々と歌い上げる90年代的なヴォーカル・スタイルと、バンドのファットで肉感的な演奏とがいい意味でのギャップを生み出している。
また、楽曲の制作に関しても90年代という時節柄、確固たるコンセプトがあるからこそ、より洋楽っぽいアプローチを突き詰めて……という流れになりそうだが、彼らはあえてそれを日本語詞のポップスとして提示した。一歩〈ださ〉い方向へ戻るその塩梅が彼らの目指した方向性なのだろう。それはつまり、何であれ極点を目指さないということだ。〈〇〇っぽい〉と言われること、誤解される余地を残すことが大衆性を帯びるための要点なのだ。結局彼らは大衆的な人気を得る前にいなくなってしまったのだけれど。
アルバムに触れていこう。まず冒頭3曲が畳み掛けられる。1曲目“天国と地獄-Heaven or Hell”はハードなホーン・セクションにハモンド・オルガンの応酬の荒削りなファンク。2曲目“眩しいフォトグラフ”はPLATINUM 900のメロウ・サイドでは出色の出来のストリングスとエレピがエモいミディアム・メロウ。3曲目“フリー(アット・ラスト)”は冒頭からリフレイン中心のジャムっぽいシンプルな構成で、時折入ってくるモーグ・シンセが良い。
冒頭3曲で一気に心を掴まれた後に、小休止的に差し込まれるメロウでスムースなソウルの“夜明け前”はミュートされたトランペットとギターが良いアクセントになっている。
そこから多彩な音楽的バックグラウンドが見えてくるアルバム中盤は、響き重視のコーラスが気持ちいいグルーヴィーな4つ打ち“ハリーは毛むくじゃら”、スキャットに始まりコーラス・ワークで魅せるボサノヴァ“月灯りの下で”は展開毎に細かく楽器を切り替える遊び心も良い。7曲目“セイ・ホワット?”もグルーヴィーで気持ちがよく、ベースラインのうねりが最高でスペイシーなシンセも聴きどころ。
アルバム終盤に入ると一転、しっとりとした西村一彦のヴォーカル曲の“クライ・ベイビー・クライ”。ストリングスとギター・フレーズが絡み合うロマンチックな楽曲を挟み、お待ちかね“レッツ・ブギ・ザ・ナイト”は〈なんだかんだ言ってもみんなこの曲が一番好きなんでしょ?〉と言っているようなグルーヴィーなブギーアンセム。本来ならシティ・ポップ不遇の時代から、現代シティ・ポップへの嚆矢たる曲と言ってもおかしくはない1曲だ。
アルバム最後に収録のボッサ“カミーニョ・ド・マー”は歌詞、アレンジは異なるものの1曲目と同じ曲らしいが、後半一気にブラジリアン・フュージョンへと走る展開には一筋縄では終わらない格好よさが感じられる。
これだけ洗練された楽曲群を携えながら、リリース当時セールス的に奮わなかったのがなんとも悔やまれるが、いずれにせよ、〈おしゃれアカデミズム〉を自称し、洒落であれ〈日本レア・グルーヴ学会〉というホームページを運営していた彼らの作った音楽が、約20年という長い歳月が経つ間に、ネットの海で、中古レコード屋の棚で、少しずつ拾い集められ、評価され、この度再発された。この流れこそがまさにレア・グルーヴ完成までの美しい道筋であり、PLATINUM 900の音楽は本当の意味でレア・グルーヴとなった。彼らの目論見は成功裏に終わったのだ。

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