Bialystocks、あくまで作品が主体の“制作集団”としてのスタンス 2人の音楽的ルーツから紐解く – リアルサウンド

「Signal to Real Noise」第十二回
 Spotifyが注目するニューカマー発掘プレイリスト『RADAR:Early Noise』と、リアルサウンドのコラボによる連載企画「Signal to Real Noise」。プレイリストでピックアップされた“才能の原石”たちへ、音楽評論家がその音楽遍歴や制作手法などについて取材する。
 今回は、今年飛躍が期待される国内アーティスト10組が選出される『RADAR: Early Noise 2022』の中からBialystocksにインタビュー。金子厚武氏が話を聞いた。(編集部)
第一回:福岡から世界へ、Attractionsが考える“アジアで通用するということ”
第二回:Newspeakが語る“リバプールと日本の違い”
第三回:CIRRRCLEに聞く、国やバックグラウンドを超えた音楽作り
第四回:Mega Shinnosukeに聞く、“何でも聴ける時代”のセンスとスタイルの磨き方
第五回:世界を見たShurkn Papに聞く、地元から発信し続ける理由
第六回:竹内アンナに聞く“独特のハイブリッド感”の原点
第七回:海外公演も成功、気鋭の3ピースバンド TAWINGSインタビュー
第八回:Doul、世界に向けて発信する10代のメッセージ
第九回:にしなが明かす、曲を書き歌う理由
第十回:(sic)boy、ロックとヒップホップを見つめる視線
第十一回:菅原圭、ネットやストリーミングが叶えた自立した音楽活動
 映画作家でもあるボーカル・甫木元空の監督作品『はるねこ』の生演奏付き上映会をきっかけに、2019年に結成されたBialystocks。キーボードの菊池剛による、オルタナティブなジャズやR&Bの影響を感じさせるアイデアに富んだアレンジメントと、甫木元によるフォークのような、童謡のような、人懐っこい歌の組み合わせに独自性があり、今年1月にリリースされたEP『Tide Pool』や、ドラマのエンディグテーマとして書き下ろされた「差し色」がジワジワと話題を集めている。
 11月には甫木元が監督を務めた2作目の長編映画『はだかのゆめ』の公開が決まり、その劇伴もBialystocksが担当。彼らは自らを「制作集団」と位置付け、過去にはダンスや漫才といった様々な表現形態ともコラボレーションを行っていて、そのあり方自体も他に類を見ないものだ。新曲「灯台」のリリースを機に、甫木元と菊池にあらためて「Bialystocksとは?」を聞いた。(金子厚武)

Bialystocks(写真=林直幸)

――Bialystocksはもともと甫木元さんが監督をした映画『はるねこ』の生演奏上映をきっかけに結成されて、最初の4人から現在は2人になっています。Bialystocksはバンドなのか、ユニットなのか、ご自身たちとしてはどう捉えていますか?
甫木元:結成したときからあんまり「バンド」という感じではなくて、制作集団というか、「まずはみんなで曲を出し合ってみよう」みたいな感じだったんです。なので、呼び方は自由でいいと思っていて、バンドとして捉えてくれるならバンドでもいいと思いつつ、もう少し自由な形態になれたら面白いのかなって。始まりからしてちょっと変わっているし、音楽以外のことも含めて、いろいろ混ぜていけるようになったらいいなと思います。
――最初が4人だったから「バンド」というイメージもあったけど、そもそもが不定形の制作集団であって、根本は変わらないと。
菊池:「バンド」だとメンバー全員で音を鳴らすのが基本だと思うんですけど、そういうスタンスではなくて、曲によっては自分が弾かなくてもいいと思っていて。演奏することよりも、作ることに焦点を当てている感覚はありますね。
甫木元:あくまで曲が主体、曲が良くなることが一番です。
――「音楽的な方向性は特に決めていない」と以前のインタビューで話していたのを見たのですが、今は方向性を探している最中なのか、「決めない」ということ自体がアイデンティティなのか、どちらが近いでしょうか?
甫木元:まだそんなに曲数も多いわけじゃないので、自分たちを客観視できていないっていうのもあると思うんですけど、今のうちにあまり決めすぎない方がいいかなとは思っています。なので、何か大きなテーマに基づいて活動するというよりは、そのときハマっているものとか、そのときの感性で、まずは実験してみる感じが今のところ強いですね。もう少し自分たちを客観視できるようになったら、また違う方向に行くのかもしれないけど、まだ自分たち自身が自分たちのことをわかっていないので、あんまり決めすぎない方がいいなって。
菊池:なので、さっきの質問で言うと、現段階では後者のほうですね。今は決めないことが大事というか。文脈はあまり考えないようにして、そのときやろうと思ったことをそのままやるようにしています。
――バックグラウンドの異なる2人がアイデアを出し合って、そこで何が生まれるのかを実験している感覚もあるように思いますが、甫木元さんはお母さんがピアノの先生で、そこが音楽的にはルーツになっているそうですね。
甫木元:そうですね。家で先生をやっていて、毎日バイエルの同じような曲を聴いていたので(笑)、その刷り込みは大きいと思います。あと、母は合唱の先生もやっていたので、小学生のときはそこにも自然と通っていて。そんなにスパルタな感じではなく、街のちょっとしたイベントで歌うくらいだったんですけど、それは嫌いではなかったですし、そこで歌っていなかったら、「歌」というものに意識は行ってなかったと思います。
――Bialystocksのボーカルとして歌う上でのポップスからの影響はいかがですか?
甫木元:一人の人に長くハマるみたいなことがあまりなくて、誰かに影響を受けてることもないんですよね。ルーツ的なことで言うと、父親がミュージカルの演出家をしていて、どちらかというと、家で流れる音楽の主導権は父親にあったんですよ。なので、劇伴がよく流れていて、『レ・ミゼラブル』の音楽とかチャップリンの曲とかも流れていたり。とはいえ、そういうものばかりというわけでもなく、The Beatlesや民族音楽、若い頃の長渕剛さんの曲が急に流れたり(笑)、いろいろではあったんですけどね。
――じゃあ、自分の歌に関しては幼少期以降に明確なルーツがあるわけではなく、そこもまずは曲ありきで試行錯誤している段階というか。
甫木元:小さい頃から「自分で作らなくちゃいけない」という感覚がなんとなくあった気がするんですよ。「教育」とまでは行かないけど、両親を見ながら育つ中で、何かの模倣をするのではなく、自分で作ることが大事だと思うようにはなっていて。なので、「テレビの中の人に憧れて」とかではなく、「何かを自分で作らないと」っていう刷り込みがおそらくあって、それが自分の作る映画や音楽に自然と繋がってるのかもしれないですね。
――菊池さんはニューヨーク留学を機にジャズに傾倒したとのことですが、それ以前はどんなキャリアがあったのでしょうか?
菊池:自分も小さい頃からピアノを習っていて、当時は「音楽は演奏するもの」という感じでした。でも、中高生からは普通にJ-POPとか流行りの洋楽を聴いていましたね。ピアノは5歳くらいから高校生までヤマハの教室に通っていて、クラシックだけではなく、ラテンとかいろいろ演奏する機会があったので、「クラシック育ち」の自覚はあんまりないです。
――「ジャズ」と一言で言っても色々ですが、Bialystocksの音楽はジャンルにしろ、生楽器と電子音にしろ、いろいろな要素が混ざっていて、いわゆる現代ジャズからの影響を感じます。ニューヨークに行って、そういったミュージシャンに傾倒したのでしょうか。
菊池:当時は最新のジャズの良さは全然わからなかったです。ニューヨークに行く前、高校生のときにフランク・シナトラにハマって、そのくらいの時代が好きだったんです。ニューヨークに着いて最初に観に行ったのがトム・ハレルで、「いい感じじゃん」と思ったりして(笑)。今は現代ジャズの良さもわかるようになって、好きなんですけど、曲を作るときに「そこから取り入れる」というよりは、シナトラなどの時代の人を参考にしつつ、それを今のサウンドにすると、現代ジャズに影響を受けたかのようなサウンドになる、ということなのかもしれません。
――ちなみに、ニューヨークには何年に行かれたんですか?
菊池:2012年です。
――ちょうどロバート・グラスパーの『Black Radio』の年ですよね。でも、そこにリアルタイムで衝撃を受けた、とかでもないと。
菊池:若手のプレイヤーのライブにもときどき行ってみたんですけど、そのときの自分には音楽的に高度で、完全には理解できなかったんです。現代ジャズにより興味を持ったのは、ブラッド・メルドーあたりがきっかけでした。
――甫木元さんのお父さんがミュージカルの演出家というお話がありましたが、菊池さんもミュージカル映画がお好きなんですよね?
菊池:そうですね。高3のときに『プロデューサーズ』という映画にハマって、それは1000回くらい、全部の台詞を覚えるくらい観ました。ちょうど部活を引退して、早めに家に帰って、NHKのBSでたまたまやってたのをなぜか最後まで観てしまったんですよ。他のミュージカル映画もいろいろ観たんですけど、そんなに響かなくて、でも『プロデューサーズ』だけは死ぬほど観ました。なので、ミュージカルそのものがすごく好きというよりは、一部の昔の作曲家が好きという感じが強いですね。
――僕がBialystocksの曲で最初に衝撃を受けたのが「I Don’t Have a Pen」で、それこそコーラスや和声はミュージカル的な要素のようにも聴こえますが、あの曲はもともとどのように作られた曲だったのでしょうか?

菊池:あの曲はむしろ普段作らない感じのものを作ろうと思ってできた曲で、手癖レベルでは影響があるかもしれないけど、意識的にミュージカルを取り入れたとかではなくて。最初は誰かの曲を聴いて……ループ系の曲だったと思うんですけど、ラップみたいなイメージが浮かんで。でも甫木元はラッパーではないので、メロディに変換していくようなプロセスを経て、今の形になりました。
甫木元:菊池のデモは大体英語で歌っていて、それを日本語に変換すると基本的にダサくなるんですよ。なので毎回「これでよかったのだろうか?」と思うんですけど、パズルみたいな感じというか、意味より音でハメていって、そのなかで言葉遊びもできたらいいな、くらいの感じですね。他の人が英語で歌っているメロディに日本語を乗せるということはこれまでやったことがなかったので、いろんな発見がありながら、試行錯誤している感じです。「I Don’t Have a Pen」に関しては、「ここは変えられないな」っていう部分はそのままで、サビは菊池のデモのままです。
――ちなみに、最終的にできあがった歌詞やタイトルには意味性もあるんですか?

Bialystocks(写真=林直幸)

甫木元:いや、あの曲はホントに音ですね。歌詞を文章で考え始めるとドツボにハマると思ったので、とにかく何十回も歌って、録音して、自然に出てきた言葉を組み合わせていきました。歌の根本はむしろそっちというか、意味先行ではなくて、音先行なのかなと思うと、これを書き換える必要はないと思ったので、耳に残るかどうかを優先させたくて。そういう本来の、音で楽しんでいる感じが残ったらいいなと思っていたら、知り合いの子供があの曲を一番好きらしく、サビ前の部分をいつも歌っているみたいで、それはよかったなって(笑)。
――ミュージカルとは直接関係なかったとしても、コーラスやハーモニーの多用はBialystocksの楽曲の特徴ではあると思うんですけど、そこは意識されていますか?
甫木元:緩急がつけやすいんですかね。風景がガラッと一変したりとか、そういう変化がわりとどの曲にもあると思うんですけど、そういうときにすごく便利というか。ミュージカルをいつも意識しているわけではないですけど、やっぱり潜在的な部分にはあると思うから、いきなりスポットライトがバンって当たったり、いきなり踊り出したり、そういう場面展開を曲のなかで作るときに、コーラスが出てきやすいのかもしれないです。
――たしかに、曲展開の面白さも特徴的ですよね。曲の最後がただでは終わらずに、驚きのある展開で終わる曲も多い印象です。

Bialystocks(写真=林直幸)

菊池:昨今多いループの音楽みたいな感じじゃなくて、起承転結をつけなきゃいけないんじゃないかっていう強迫観念みたいなものがあるんですよ。
甫木元:僕が書くメロディは普通と言えば普通なので、その分アレンジで変なことをしたりもしていると思うんですけど、でも尖るのって簡単じゃないですか。攻撃的な音を入れれば、尖った感じはすぐに出せる。そうじゃなくて、「ちょっと変」くらいがいいなって(笑)。
菊池:でも最近はあんまりそういうこともしたくないというか、「尖るのは簡単」っていう話のように、展開を増やすのはそんなに難しいことじゃないので、それをしなくてもちゃんと成立するような曲を作りたいと思うようになりましたね。
――曲作りはどのようなデモからスタートするんですか?
甫木元:最近は2人とも弾き語りみたいな感じで、アレンジ先行というよりは、ホントにメロディがいいもの、弾き語りでも聴けるものをまず作って、そのなかから選んでいく感じになっています。構造的に変なことをしたいというよりは、もともとメロディがいいものが2人とも好きなんですよ。とっつきにくい人たちだとは思われたくないですし(笑)。最初の「制作集団」という話に戻りますけど、まずはいいメロディが主軸にあって、それが一番いい形になるように仕上げていく感じですね。最初からアレンジの方向性をガチッと決めるんじゃなくて、まずは下地が大事というか、大元のメロディがあって、それをどんどん強化していく感じです。

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