異例の「BTSのホワイトハウス訪問」計算されたSNS戦略…政治とアイドル「ギリギリ」の距離 – Business Insider Japan

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ホワイトハウスの会見室「ジェームズ・ブレイディ・プレスブリーフィングルーム」に詰めかけた報道関係者。カメラからスマホまで多くの取材陣がスピーチを映像で残した。
ホワイトハウスの会見室「ジェームズ・ブレイディ・プレスブリーフィングルーム」に詰めかけた報道関係者。カメラからスマホまで多くの取材陣がスピーチを映像で残した。
REUTERS/Leah Millis
世界的人気を誇る韓国の音楽グループBTS(防弾少年団)が5月31日(現地時間)、バイデン米大統領と面会したことは世界中のメディアが報じた。
アーティストがホワイトハウスで米大統領と会った例は過去にもあるが、政権が重視する政策に直結するテーマで、海外の男性アイドルグループが大統領と面会するのは異例だ。
SNS(本記事ではTwitterを中心に取り上げる)を最大限に活用した一連の情報露出を時系列に並べて見ていくと、これが実に計算されたプロモーション戦略であることも見えてくる。
BTSが米政権に選ばれた理由を読み解く。
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今回のBTSのホワイトハウス訪問は、「アジア・ハワイ・太平洋諸島系アメリカ人の文化遺産継承月間」である5月の最終日にあわせて計画された。
新型コロナウイルスの流行後に急増したアジア系アメリカ人に対するいわれのないヘイトクライム(憎悪犯罪)の対策として、バイデン政権は約1年前の2021年5月、「COVID-19ヘイトクライム法」を成立させた。多様性を重視するバイデン政権にとって、アジア系アメリカ人へのヘイト対策はアピールしたい政策のひとつだ。
とはいえ、今回のホワイトハウス訪問の発表(5月25日)直後には、一部のファンから強い反発の声が上がっていた。
実は6月10日にBTSは11カ月ぶりの新譜発売を控えている。K-POP用語で「カムバ」(カムバックの略)といわれる新譜の発売前には、プロモーションのための大量のコンテンツ制作やメディア露出など、メンバーが多忙を極めるのはファンの常識だ。
その多忙な時期に、「韓国からアメリカのとんぼ帰り日程を組むなんて……所属会社のHYBEは利益のためにBTSを働かせすぎだ」という反発だ(ファンからの不安の声を予想したのだろう、リーダーのRMはスケジュール発表とほぼ同時にファンコミュニティーのWeverse上で「心配しないで」と投稿もしている)。
今回のBTS訪問にかかわる情報公開のタイムラインを見ると、計算され尽くしたプロモーション戦略を感じずにはいられない。以下にまとめてみた(時間はすべて米東部時間)。

出典:ホワイトハウス公式YouTubeチャンネル「05/31/22: Press Briefing by Press Secretary Karine Jean-Pierre Featuring BTS」より
BTSはホワイトハウス報道官の定例記者会見の冒頭に登場し、7人全員が順番に15秒前後の短いコメントを発表した。
「ヘイトクライム(憎悪犯罪)の増加に愕然とし、心を痛めている。これに歯止めをかけるために、自分たちの声を伝えたい」
「人と違うことは悪いことではない。平等は、違いを受け入れるところから始まる」などと発言。
記者会見では質問は受け付けず、出入りと報道官からの紹介も含めてわずか6分10秒。とはいえ報道する側にとっては十分な情報量だ。世界中のメディアはBTSの肉声を伝え続けた。
ホワイトハウスは記者会見の全文を公開している。会見は、英語に堪能なリーダーのRM以外は韓国語で行われ、直後に通訳された。
ホワイトハウスの報道スタッフによる投稿のうち、若手アシスタントたちがアップしたBTSの素の笑顔が見える画像と動画は、夕方までに削除された。情報統制したことがうかがえる。
筆者が確認した限りで公式に残る舞台裏の様子は2投稿のみ(/)。なお、2人がアップし削除された画像は、ファンが見逃さずに保存し再投稿している
[#오늘의방탄] BTS visited the #WhiteHouse to discuss anti-Asian hate crimes and Asian inclusion!
잊을 수 없는 경험을 선사해 준, 전 세계 모든 아미 여러분 고마워요!#BTSatTheWhiteHouse#백악관소년단#BTS#방탄소년단pic.twitter.com/PwPhHK8T1w
It was great to meet with you, @bts_bighit. Thanks for all you’re doing to raise awareness around the rise in anti-Asian hate crimes and discrimination.

I look forward to sharing more of our conversation soon. pic.twitter.com/LnczTpT2aL
1分ちょうどに緻密に編集された動画が、バイデン大統領本人の公式アカウントで公開された。この時間まで、ホワイトハウスの公式ホームページや大統領公式アカウントからBTSの情報は公開されていなかった。「なるほど、この発信のインパクトを最大化したかったのか」と納得した。
Thanks for having us at the White House! It was a huge honor to discuss important issues with @POTUS today. We’re very grateful for #BTSARMY who made it all possible.??
#BTS#방탄소년단#BTSatTheWhiteHousepic.twitter.com/PZd8Ox2Kea
大統領アカウントからの動画投稿の3分後。K-POPアイドルから世界に広がった「指ハート」の仕草を、バイデン大統領がBTSとともに披露する写真がBTS側から公開された。この投稿で、政治的メッセージはバイデン大統領、親しみやすさをアピールするコンテンツはアーティスト、という発信の役割分担が鮮明になる。
青空のホワイトハウス前に立つ7人の写真を所属レーベルが報道向けにリリース。この写真は当事者のSNSアカウントでは公表されず、日頃付き合いのあるメディアに配布したとみられる。
“Everyone has their own history. We hope today is one step forward to respecting and understanding each and every one as a valuable person.”
–V of @bts_bighitpic.twitter.com/bikkWhWJov
Thanks for stopping by the White House, @bts_bighit. pic.twitter.com/JRE3Firnbc
バイデン大統領とBTSの7人がにこやかに会話する様子を、ホワイトハウスの公式アカウント、続いて大統領公式アカウントが投稿(それぞれ写真は別カット)。ホワイトハウス公式はメンバー「V」の前日の記者会見での発言をそのまま引用した。
It was great to meet with you this week at the White House, @bts_bighit. The rise in anti-Asian hate crimes requires all of us to stand up, speak out, and give hate no safe harbor. Thanks for all you’re doing. It matters. pic.twitter.com/R1YpKnO9zA
会談から4日後の週末に、大統領公式アカウントが4分51秒の動画を公開した。内容は「BTSのミュージックビデオ in ホワイトハウス」と言ってよいほどBTSをフィーチャーしたものだ。BGMはBTSのヒット曲メドレー。未公開発言満載で、カマラ・ハリス副大統領(アジア系アメリカ人)と面会していたことも初めて明かされた。
こうして時系列で眺めると、(1)BTSの会見6分10秒と7人の写真、(2)バイデン大統領との面会動画1分と写真、(3)ホワイトハウス内のBTS詳報動画4分51秒……という、大きく3つの塊の情報が、(1)会談直前、(2)会談の半日から1日後、(3)会談後の週末、というタイミングに分けて発信されたことが分かる。
あえて情報を小出しにして、一回の面会のPR効果を最大化させる戦略とみるべきだろう。BTSという熱烈なファン層を抱える「素材」だからこそ通用する戦略だが、アカウントの使い分けも含めて非常に興味深い政策プロモーションだった。
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REUTERS/Leah Millis
大統領との直接のやりとりで驚いたのは、BTSのリーダーRMが自分からアメリカの「COVID-19ヘイトクライム法」に言及し、「大統領の決断に心から感謝します」と伝えたことだ。韓国人のアイドルが、アメリカの個別の法律名を挙げて支持を表明するとは、かなり踏み込んだ発言だ。
一方、バイデン政権にとっては、超党派で成立した法律の成果をあらためてアピールし、多様性を重視する若年層の有権者に支持を広げるための絶大な宣伝効果があったはずだ。
今回のバイデン大統領との面会にあたっては、「なぜBTSなのか」と疑問に思われた方も多いだろう。
BTSファンには周知の事実だが、BTSが人種差別に反対の声をあげるのは、今回が初めてではない。

・2020年6月4日 ブラック・ライブズ・マター運動を支持するツイート
米ミネソタ州で黒人男性が白人警官に殺された「ジョージ・フロイドさん事件」の1週間後、「私たちは人種差別に反対する。暴力を強く非難する」と発信。所属事務所とともに100万ドル(当時のレートで約1.1億円)をブラック・ライブズ・マター運動に寄付した。
・2021年3月30日 アジア人差別反対のツイート
米ジョージア州のマッサージ・スパ店での銃撃で、アジア系女性6人を含む8人が殺害され、アジア系への憎悪犯罪への懸念が全米で急速に高まったタイミング。「私たちもアジア人として偏見に直面しました」「このようなこと(人種)を理由に、憎悪と暴力の対象となることの痛みを言葉で言い表すことはできません」と発信。
・2021年9月18日 国連のSDGsキャンペーンへの賛同ツイート
「私たちは人種差別とヘイトスピーチに反対します」というメッセージを画像にして、国連のSDGsサイトに投稿した。

BTSがこうした発信をするたびに、ファンは彼らを支持し、ネット上で拡散して「彼らを誇りに思う」と賛意を表してきた。
このようにBTSが「社会」に積極的に関わろうという姿勢は、デビュー以来一貫している。
2013年にデビューしたBTS「防弾少年団(BangTan Sonyeondan)」は、10代の少年少女の心を大人や学校の「銃弾」から守りたいというコンセプトで始まったヒップホップグループだ。
K-POPアイドルだが、7人中3人がラッパー。うち2人はデビュー前から韓国のアングラシーンで実力派として知られる存在だったという。
楽曲づくりに積極的に参加し、自分たちの言葉で、学校や社会に対する怒りや不安や悲しみを歌った (もちろんアイドルらしいスイートな恋愛の歌も多々ある)。
彼らが成長するにつれ、歌にこめたメッセージも成熟し、つらくても自分を愛することが何より大切だと、「Love Yourself」と銘打ったアルバムを3枚も出している。さらにコロナ禍では「ダイナマイト」などの明るく勇気づける歌をリリースして、孤独を感じていた幅広い世代のハートをつかんだ。
BTS-バイデン大統領の面会を理解する上で、彼らが持つ「言葉の力」というのは、1つのポイントだ。
BTSが持つメッセージ性に最初に目をつけたのは国連だった。

「世界中の若者たちへ〜BTS防弾少年団が国連総会で行ったスピーチ /日本ユニセフ協会」として公開中。日本語字幕が付いている。
出典:日本ユニセフ協会公式YouTubeチャンネルより
ユニセフ(国連児童基金)は2017年以降、BTSと共同で「Love Myself」という子どもへの暴力の撲滅を目指すキャンペーンを展開。この一環で2018年9月に国連本部でスピーチをしたBTSリーダーのRMは、アイドルとしてのつらい経験を率直に明かしたあと「あなたの声、あなたの信念を聞きたい」と語りかけ、大人世代にも大きな共感を呼んだことはファンの間で語り草となっている。
関連リンク:ユニセフが公開しているスピーチ全文と動画(https://www.unicef.or.jp/news/2018/0160.html)
2021年9月には韓国の文在寅大統領(当時)の特使となって国連総会に同行し演説もしている。
過去を振り返れば、バイデン政権内部にも、興味深い動きがあった。
バイデン政権の副大統領、カマラ・ハリス氏は、2020年の選挙キャンペーン中、自身のSpotifyのプレイリストにBTSの曲を入れていたことで知られる。また副大統領就任直後には副大統領の公式アカウントでBTSをフォローしたことが話題になった(今はフォローを外している)。
BTSのホワイトハウス訪問にあたって、同行した人物の存在が一部のファンの眉をひそめさせたことは、報道メディアではあまり語られていない。一連の完璧に計算された広報戦略の中で、1つだけ異例の発信があったのだ。
#BTS at the White House discussing ways to prevent anti-AAPI hate. Making changes for a brighter future 🤝 @bts_bighit@scooterbraunpic.twitter.com/xYXstfWq2w
SB プロジェクツ(HYBEアメリカの100%子会社)の公式アカウントが、同社を経営するスクーター・ブラウン氏とBTSメンバー全員が並んでホワイトハウス内で撮った写真を公開した。
BTSがマネジメント側のメンバーと共に表に出ることは珍しい。たまにあっても、通常はデビュー以来苦楽を共にしたHYBE創業者のパン・シヒョク氏が登場する。推測にすぎないが、スクーター・ブラウン氏の姿は、今回のホワイトハウス面会のキーパーソンであることをアピールしているようにも見える。
ちなみにスクーター・ブラウン氏は2021年にHYBEの傘下に入った米ithacaホールディングスの創業者で、ジャスティン・ビーバー、アリアナ・グランデといった大物アーティストをマネージしている。
米芸能ウェブメディア『Variety』のスクーター・ブラウン氏の経歴ページによると、同氏は前々回の大統領選挙戦でヒラリー・クリントン大統領候補の資金集めパーティーを自宅で開き、前回の大統領選挙ではカマラ・ハリス副大統領候補の資金集めパーティーを自宅で開いたとある。
民主党の支持者である業界の大物が、民主党の政策PRとBTSの新譜の宣伝の両方にプラスになる今回の面会を仕掛けたのではないか……そんなうがった見方をしたくなるような舞台仕掛けだ。
biden_bts_at_whitehouse

出典:ホワイトハウス公式YouTubeチャンネル「President Biden and Vice President Harris Welcome BTS to the White House」より
BTSのホワイトハウスでの立ち居振る舞いは、これまで彼らが一貫して発してきたメッセージと何の矛盾もない。彼らの「authenticity」(真実らしさ)はまったくブレなかった。「彼らは本心からこのスケジュールに協力した」と納得できるものだった。
BTSが実際に発した言葉が伝わって以降、ファンの不満の声はスッと消えたように見える。
ミュージックビデオのように作りこまれた発信は、政治と人気アイドルグループとの距離感として、ギリギリの線まで行きついた印象だ。

BTSは確かに政治利用された。自分たちが発したいメッセージを広める意味で、BTSもまた、大物たちを利用した。所属会社は新譜のプロモーション効果も当然期待しているだろう。
ただ、アジア人差別とヘイトクライムは、バイデン政権と、メッセージの力を持つ人気グループに「ギリギリの距離」を取らせてでも解決を目指すべき深刻な問題だ。少なくとも両者にはその認識があったのではないか。
最後に、動画で公開されているBTSとのやりとりから、会談を象徴する言葉をいくつか引用しておきたい。
BTSリーダーRM「ホワイトハウスと政府が(アジア人差別の問題への)解決策を見つけようと努力していることに、とても感謝しています」「僕たちはただ、今までもらってきたたくさんの愛をお返ししたい。そのために自分たちの声(発信力)を使いたいんです。だから今日は僕たちにとって、とても歴史的で大切な日です」
バイデン大統領「あなた方は素晴らしい才能を持っているだけではない。あなた方が発信するメッセージこそが、重要なのです」「私はあなた方に深く感謝する(appreciate)、一人の大統領です」
(文・山本名美)
山本名美:テレビ東京で長く経済報道畑を歩み、WBSトレたまなどを担当。2016年よりメディア戦略や技術戦略、データ・マーケティング戦略に携わり、放送局の変革を裏方として支える。 現在は総合マーケティング局統括プロデューサー。ニューヨーク支局、日本経済新聞社への出向(日経電子版立ち上げ)も経験。音楽好きで最近BTS沼にハマった。経営学修士(MBA)、京都先端科学大学特任教授(非常勤)。 記事は個人の見解で、所属組織のものではありません。
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