韓国での統一教会はどんな存在? 問題になったことはないの? 韓国在住40年の黒田さんに聞いてみた – カドブン

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安倍元首相の銃撃事件で注目が集まっている統一教会(現世界平和統一家庭連合)。1950年代に韓国から日本に来たこの宗教、韓国ではどのような存在なのでしょうか。韓国在住40年の日本人ジャーナリスト、黒田勝弘さんに聞いてみました。
黒田さんは2013年に刊行した角川新書『韓国 反日感情の正体』で統一教会について言及。合同結婚式で韓国に渡った日本人妻に着目し、韓国社会の受け止めなどをウォッチし続けています。
――7月の安倍元首相の銃撃事件後、統一教会が大きくクローズアップされており、改めて2013年に刊行した黒田さんの角川新書『韓国 反日感情の正体』を読み直しました。最後の章で、統一教会のことを取り上げていたからです。今回の統一教会問題に関して、韓国での関心はどうですか。
黒田:安倍元首相が亡くなった時は韓国でも大々的に報じられ、日韓関係への影響など政治外交的な意味で大きな話題でしたが、その後の「統一教会問題」はあまり伝えられていません。日本国内では、それが自民党非難となって政治問題化していることを含め、一般の人はほとんど知らないですね。
――8月18日には、ソウルの中心街で在韓日本人女性らの信徒たちによる抗議デモがあったと報じられています。日本国内における統一教会非難に抗議する、という趣旨ですが、市民など韓国での反応はいかがでしたか。
黒田:現場に行ってみましたが、全国各地から貸し切りバスでやってきていましたね。警察当局の発表でも約3500人でしたから相当の規模でした。ほとんどが中年以上の日本人女性で、日本語のプラカードも掲げられていて、日ごろデモの多いソウルでも珍しいデモでした。
 沿道の市民の一部は不思議そうに見てましたが、しかしテレビ、新聞などマスコミではまったくといっていいほど報道されなかったですね。韓国にとって今回の日本での統一教会問題は不愉快なことですから触れたくない、避けたいという心理の表れですね。
――日本での巨額献金のことは話題になっていないのでしょうか。
黒田:とくに関心の対象にはなっていませんね。韓国から日本への資金流出ならともかく、日本から韓国に入っているので問題視する必要はないわけです。銃撃事件の背景になっている容疑者の母親の件も、特異宗教にはまった特異例、といった受け止め方です。
――統一教会の名称変更は韓国ではどうなっていますか。
黒田:韓国では日本より早く「世界平和統一家庭連合」になったように思います。ソウル駅近くの鉄道沿いに10階建てほどの本部ビルがあって電車からよく見えます。そのビルの名称がいつの間にか変わってましたね。
 しかし一般の人はみんな今でも「トンイルギョ(統一教)」といってますよ。
――日本で問題になっているのはいわゆる霊感商法や巨額献金などですが、韓国ではそういった事件的なことはなかったのですか。
黒田:韓国における統一教会の巨額献金事件というのは聞かないですね。どの宗教、宗派も信徒集め、つまり布教活動はあの手この手でやってますが、統一教会の布教活動が日本でのようにことさら問題になったことはなかったですね。宗教団体の献金については、韓国の多くのキリスト教会で必ずしも強制ではないですが「収入の10%を」といわれているように、よくあることですからね。
 統一教会は、教祖が外国人男女を結びつける合同結婚式や、ソウル近郊に広大な「統一教タウン」、さらにリゾート開発や飲料メーカー、旅行社、プロサッカー、不動産経営などビジネス活動で知られていましたが、宗教としての影響力はそれほどなかったと思います。
――日本では自民党との関係が問題になっていますが、韓国では政治との関係はいかがですか。
黒田:統一教会には当初、国際勝共連合という政治団体があって共産主義反対の運動をやってましたから、北朝鮮の脅威にさらされてきた韓国では政治的影響がありました。東西対立の冷戦時代だった1980年代までは韓国政府と密着していたように思います。
 日本の自民党との関係もそうした冷戦時代の名残りといえますが、韓国社会では民主化時代が始まった90年代以降、それまでの「反共」とか「勝共」といったスローガンが姿を消し、統一教会の政治的影響力も後退した印象です。韓国では保守勢力の中心を一般のキリスト教会が占めていて政治的影響力も強いので、マイナーな統一教会が出る幕はないということでしょう。
――統一教会が韓国系ということで日本社会ではあらためて反韓・嫌韓感情が刺激されています。韓国にとっては気になる出来事だと思うのですがいかがですか。
黒田:韓国人にとっても本当は大いに気になることなんですが、それゆえに韓国メディアは伝えることを遠慮しているように見えますね。
 理由は二つあって、一つは今回、統一教会非難というのはいわば韓国が批判、非難されているようなものですから、そんなイヤな話は知りたくない、伝えたくないという拒否感。もう一つは、統一教会は韓国ではごくマイナーな特異な宗教というのが一般的な受け止められ方なので、従来からその動向は無視するというところがあります。
 同じ韓国モノでもドラマやKポップの日本での人気ぶりはしょっちゅう大きく伝えられ、みんな気分がいいのですが、統一教会関連はいささか迷惑という感じでしょうかね。
――統一教会はキリスト教系でマイナーということですが、韓国はキリスト教徒が多いですよね。
黒田:5000万人を超える全人口の3割以上がキリスト教で、病院やコーヒーショップより教会の数が多いといわれるほどです。韓国旅行をすれば分かりますが、どこに行っても夜空に教会の十字架のネオンが輝いています。そんないわばキリスト教の本場みたいなところですから、統一教会は異端あるいは邪教視されていて、韓国では広がっていません。街頭での布教活動などほとんど見たことがないですね。
 かなり以前、統一教会の若い日本人男女が地下鉄の車内で募金活動をしたり、住宅街で新聞配達をしているのが話題になったことはありましたが。
――そもそも韓国でキリスト教徒が多いのはなぜですか。
黒田:一般的にいえば背景として、
 ①韓国には伝統的に「ハヌニム(天の神)」という絶対神(一神教)が存在するという考え方があった(ハヌニムは国歌にも登場する)
 ②日本統治時代に教会が韓国人を保護した
 ③解放後、とくに朝鮮戦争の後、米国のキリスト教会が物心面で人びとを救援した
 ④急速な産業化、都市化による故郷喪失者の心の拠り所になった
 などが挙げられます。と同時に「純粋で思い込みが激しい」という韓国人の気質に合ったからという説もありますね。
 そのあたりは角川新書の拙著『韓国人の研究』(2014年刊)で紹介したことがありますが、韓国のキリスト教会の海外活動は世界で米国に次いで2番目に活発といいます。彼らはあのイスラム世界でも平気で布教活動をして、逮捕されたり殺害されたり、よく問題になってます。
――韓国では異端視されたマイナーな統一教会が、日本で多くの信者を集め、莫大な資金を獲得できたのはなぜだと思いますか。
黒田:そのことは日本人、日本社会の問題なので専門外ですが、韓国がらみであえて日本的な背景を考えれば、日韓の歴史にかかわる贖罪(しょくざい)意識があったと思います。
 昔、韓国を併合し支配したことに対する「すみません」という意識ですが、戦後日本では教育やメディア、大学など知識人世界ではこれが広範囲に存在しました。今でも慰安婦問題やユネスコ歴史遺産問題などをめぐって、日本では韓国の立場を支持し支援する運動が結構あるじゃないですか。統一教会はこうした日本人の対韓贖罪意識を、つまり原罪意識としてうまく利用し、大学での原理研究会などを通じて真面目(?)な若者を引き込んだように思います。
 以下は余談になりますが、したがって日本社会では左翼・リベラル系と反共の統一教会系が対韓贖罪意識では共通していて、日本社会を悩ませているということですね。
――『韓国 反日感情の正体』で書かれていたのは、合同結婚式で韓国にわたった統一教会の日本人妻たちのことでした。苦しい家庭生活で思い余って病弱の韓国人の夫を殺してしまった事件も紹介されています。本の刊行からもうすぐ10年になりますが、彼女たちの現状はいかがですか。
黒田:集団としては今回の抗議デモの風景がそれですが、その存在が日常的に表面化することはあまりないですね。
 現在、日本大使館が把握している韓国在住の邦人は約4万人で、その約半数が結婚女性とその子供となっており、そのほとんどが統一教会関係者と見られています。日本からの献金を想定した教会の方針でしょうか、彼女らは日本国籍を維持していて、しかも地方在住が多いので、大使館としてはパスポート発給など対邦人業務で定期的に地方出張をしているほどです。
 本で紹介した殺人事件では、韓国のメディアが日本人妻を反日的に悪しざまに報道したのに対し、ネット世論では逆に同情論が強く、むしろ病弱で定職が無く、酒グセの悪い夫を長年、苦労しながら支えた日本人妻を称賛し、メディアを非難する声が圧倒的だったという話でした。
 ボクもこれまで個人的に信者の日本人妻から、離婚話などを相談されたことがあります。
 一つは、夫が重度の障害者で離婚したいのだが、夫の家族から巨額の慰謝料を要求され困っているという話で、もう一つは離婚予定の日本人女性を引き取って結婚したいという、韓国人男性からの相談でした。ただ、信仰心もあって多くの日本人女性はガマン強く、苦労しながらも定着しているという印象ですね。
――韓国の地方では「嫁とり」のために、男性が統一教会に入るケースもあると聞きましたが。
黒田:ローカルではよく耳にしましたね。なかには「日本の嫁がきたので商売が繁盛した」などといって、われもわれもと日本人女性を求めるとか。
 大使館関係者がいっていましたが、韓国では近年、ベトナムやフィリピン、中国など外国人嫁による“多文化家庭”が増え、各地で「多文化共生社会」を目指す行政やイベントが活発ですが、その現場で統一教会系の日本人女性たちが先頭に立っているといいます。彼女らは真面目でほとんど大卒ですから。
 あるいは韓国KBSテレビの長寿番組に「NHKのど自慢」をまねた、各地を回る「全国歌自慢」というのがあるのですが、そこにも時々、そうした地方在住の日本人女性が登場しますね。それだけ韓国社会に定着しているということですね。
――著書の『韓国 反日感情の正体』では韓国における創価学会のことも書かれてます。その意図はなんだったのでしょうか。
黒田:統一教会は日本では外来の韓国系新興宗教でしたが、その意味では韓国における日本系の創価学会も似たような立ち位置にあるということで、その様子を紹介したのです。
 創価学会は海外では通称「SGI(ソウカガッカイ・インターナショナル)」といってますが、韓国では今や信徒数160万人の大教団になっています。当初は「倭色宗教」とか「宗教侵略」などと非難され、反日の対象として排斥されていたのに、それがなぜ成功し定着したのだろう? 「あの韓国でここまで日本が入り込んでいる!」という驚きもあり、その秘密みたいなものを探りました。
――創価学会と統一教会を比べるのは少し無理がありませんか。
黒田:宗教団体としての比較ではそうかもしれません。ただボクの関心は、統一教会の日本人妻たちも日本宗教の創価学会も共に韓国における「日本」ということですから、それが韓国社会にどんな影響をもたらすのか、気になったわけです。ウオッチャーのボクとしてはやはり関心の対象ですね。
1941年、大阪生まれ。産経新聞ソウル駐在客員論説委員、神田外語大学客員教授。64年、京都大学経済学部を卒業後、共同通信社に入社。78年、韓国・延世大学留学後、共同通信ソウル支局長に。89~2011年、産経新聞ソウル支局長兼論説委員。1992年、ボーン・上田記念国際記者賞、2005年には菊池寛賞および日本記者クラブ賞を受賞。近著に『韓国語楽習法』(角川新書)。在韓40年。
韓国語楽習法 私のハングル修行40年
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