サラ・オレイン インタビュー――デビュー10周年を経て輝きを増す唯一無二の存在が特別な年にリリースするアルバム『One』 | USENの音楽情報サイト「encore(アンコール)」 – encore(アンコール)

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ライヴで人気の楽曲を多数収録した3年半振りのNEW ALBUM『One』を5月20日にリリース。その間には新型コロナウイルスによる世界的パンデミックなど様々な状況の変化があった中、デビュー10周年という特別な年を迎えたサラ・オレインにじっくりと話を聞いた。
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──デビュー10周年、おめでとうございます!10周年を迎えた心境はいかがですか?

「ありがとうございます。10周年…2022年はいろいろなことが重なっている年です。私は寅年なのですが、今年は36年に一度の五黄の寅。さらに10周年イヤーという、とても特別な年ですね。もともとは留学生として来日したのですが、大好きな日本で、大好きな歌で、10年間活動を続けてこられたことを本当に嬉しく思いますし、スペシャルな年にアルバムを発表できることに、とても感謝しています」

──今作は前作から約3年半ぶりとなりますが、その間には新型コロナウイルスによる世界的パンデミックが起こり、私たちの生活が大きく変わる出来事に見舞われました。それによって多くの人がそれまでの常識や価値観を見つめ直す期間でもあったと思います。それはサラさんも同様だったと思いますが、その間に思いを巡らせた結果が今作にも影響しているのでしょうか?

「間違いなく影響しています。まず、最近の自分にとって大きなテーマとなっていることの一つに、“メンタルヘルス”や“セルフラヴ”があります。というのも、これまであまり語ってきませんでしたが、実は小さい頃からメンタル不調を抱えていました。でも、その話題に触れるのはどこかでタブーのような気がしていましたし、音楽家という表舞台に立つ仕事を選んだ以上、自分の過去のすべてを語らなくても、音楽を通して語るべきと思っていたところがありまして。ただ、パンデミックで世界中の人が同じような苦境に立たされ、メンタルへのダメージも大きなものになったとき、純粋にもっと発信したいなと思いました。そのターニングポイントとなったのは、親友2人の死でした。何も語れず去っていった彼女たちの存在をきっかけに、“自分を大切にする”ということはどういうことなのか、生きにくい社会をどう生き抜いていくかを、さらに深く考えるようになったと同時に、活動のテーマにすら昇華したというか。“もう黙ってはいられない”と。そして、試しに自分のラジオやSNSで話してみたところ、共感してくださる方がたくさんいて。そのときに、私はやはり表現者であり、いろいろな方にとって安心できる場所を作りたいなという想いに改めて気がつきました」

──そんな辛い出来事があったんですね…。事前にいただいた資料によると、そうしたサラさんの想いが今作のアルバムタイトル『One』には込められているとか。

「はい。コロナ禍で実現することができた数少ないライヴでも、テーマとして必ずどこかに“セルフラヴ”や“一体となる”ということに触れています。“セルフラヴ”という言葉はアメリカなどでは割と普通に使いますが、やはり、他人も大事ですけれども、それ以前に自分自身を大切にしないといけない。なぜなら自分は1人しかいない、唯一無二の存在です。ただ、それと同時に、“あなたは1人ではないよ”ということも伝えたくて。この世の中で、いろいろな問題を抱えているのはみな同じです。だからこそ、お互いに支え合うことの大切さを伝えたい。そういった意味で、アルバムタイトルを『One』と名付けました」

──選曲はどのように行われたんですか?

「基本的には、この3年半の間にライブで歌い続けた楽曲です。全曲カバーのアルバムを発売するのは、実は今回が初めてなのですが、収録した楽曲は結果的に“セルフラヴ”“メンタルヘルス”というメッセージを伝えやすいものでもありました」

──映画音楽が多いですね。

「私が普段、個人的に聴いているプレイリストも映画のサウンドトラックの楽曲が多いです。“こんなにサントラばかり聴いていたのか!”と思ったほどです。映画自体も好きですし、自然とこうなった感じではありますが、今の時代に響く楽曲というのを意識しました」

──映画『シンドラーのリスト』のテーマや、「Merry Christmas Mr. Lawrence(Somewhere Far Away)」(映画『戦場のメリー・クリスマス』より)あたりですね。さらに「ひこうき雲」も、映画『風立ちぬ』の主題歌です。まさに今の世界情勢に当てはまる楽曲たちですが、選曲を行ったのはそれよりも前のことになるのでは?

「ウクライナ以外にも、実はいろんな場所で戦争や紛争が起きています。私たちが知らないだけで。そして、それは決して他人事ではないと思います。同じ人間として、“戦争、兵器のない世の中になりますように”という願いを込めて選曲しました。ただ、「ひこうき雲」はそれとは違う、よりパーソナルな理由で選んでいます。先ほども話した親友…若くして亡くなりました。歌っていると込み上げてくるものがありますが、どうしてもライヴ感を残したくてライヴ音源を収録しました」

──どの楽曲も思い入れが強いものだと思うのですが、どうしても収録したかった1曲を選ぶとしたらどれになりますか?

1曲は難しいですね。でも、いろいろな意味で“戦場のメリー・クリスマス”は特別かもしれません。私は坂本龍一さんを大変リスペクトしています。世界中の誰もが知っている作曲家であり、この曲も世界的に知られていますよね。もとはインストゥルメンタルの楽曲ですが、英語の歌詞は戦争について語っています。それはつまり、他人事ではありません。同じ人間として支え合わなければいけない、自分を大切にしましょうというメッセージでもあり、このアルバム『One』のテーマをもっとも体現する楽曲のように思います」
──ここからは、いくつか楽曲をピックアップしてお聞きしたいと思います。まずはアルバムの1曲目を飾るQUEENの「ボヘミアン・ラプソディ」。原曲のイメージが強いので、オーケストラ要素を盛り込んだアレンジ、さらにドスを効かせたような歌声など、アルバムを聴き始めて早々に驚きました。

「この曲もよくライヴでパフォーマンスしています。いわゆるワン・ウーマン・バンドで。歌って、ヴァイオリンを弾いて、ドラムも叩いて、という、とても忙しい感じなんですけれど(笑)。「ボヘミアン・ラプソディ」を1曲目にした理由はいくつかあって、まず、冒頭からアカペラで幾重にも厚く重ねた自分の声だけで始まる力強さ。そして、私は現実逃避することはとても大事だと思っているのですが、音楽でも映画でも本でも、その世界に浸っている間は、いい意味で作品の中に逃避できますよね。そこで一度心を休ませて、また現実に向き合うことができます。「ボヘミアン・ラプソディ」は<Is this the real life? Is this just fantasy?>という、とても深い問いから始まることからも、ぜひ1曲目に収録したいと思いました」

──なるほど。

「さらにアレンジに関しても、今回はシンフォニックロックにしたかったのです。自分のルーツであるクラシックの要素もあり、これまでにないハードな要素もあり、さらにヴァイオリンもエレキヴァイオリンを選んでいます。それこそ、デビューアルバム『Celeste』から大切にしている私のすべての要素が含まれていて、10年間の集大成のようなトラックになっていると思います」

──今作は全曲カバー曲ということで、アレンジをするときにサラさんが心掛けていることはどんなことですか?

「(収録されている楽曲は)もともとリスペクトしている作曲家によるもので、作品としてぜひ表現してみたかったものです。そもそもクラシックやジャズの世界は、言ってみればほぼカバーが前提にある世界とも言えると思いますが、今作にはポップや映画音楽も含まれています。そういった名曲をカバーさせていただくのであれば、私ならではの味付けをしたいと思いました。原曲と同じアレンジでも、私が表現することで違うものになるとは思いますが、リスペクトがコアにあるからこそ、私なりのアプローチをしたい。そういった意味で、アレンジのこだわりは、11曲に対して強くありました。例えば3曲目の「ザ・ウィナー(The Winner Takes It All)」は、オリジナルから一番違っていると思います。ABBAが歌う原曲は、サウンドはミディアムで明るい。でも、歌詞で歌われていることは非常に暗くて」

──曲調と歌詞の内容にギャップがあるのは、結構“洋楽あるある”ですよね。

「特に昔の洋楽のポップスに多いですよね。そのギャップが持つ良さもあると思いますが、私が今回のようにダークなアレンジにしたのは、パンデミックの影響が大きいかもしれません。Winner…特権がある人たちが全て持っていってしまうという…。そういった悔しさをそのまま、叫びとか暗さで表現したいと思いました。アレンジはプライベートでも親交のある作曲家の富貴晴美さんに、“彼女しかいない!”と思ってお願いしました。言ってみれば、私のオリジナル曲だと勘違いされるくらいまでに仕上げるのも、私のこだわりの一つです」

──また、「ディーヴァ・ダンス」(映画『フィフス・エレメント』より)や映画『ウエスタン』のテーマは歌詞がなく、旋律をサラさんが歌で表現していて、まさに“声は楽器”であることを実感させられる楽曲です。歌詞がない楽曲を歌うのは難しいのか、あるいは逆にやりやすいのか、どちらですか?

「非常に歌いやすいです。自分のルーツがヴァイオリンにあることもあり、これまでも基本的に声も楽器としてとらえてきたように思います。むしろ、声はヴァイオリンやピアノよりもいろいろな音色が出せますし、コントロールできるので、楽器以上の可能性があると思っています。映画のサントラも、インストの世界だけで人の心を動かすパワーがありますよね。それと同じで、言葉で説明しなくても人の心を感動させられるところが、インストの素晴らしいところだと思います。とはいえ、「ディーヴァ・ダンス」は映画の中でも人間が歌えないとされている曲なので、難しかったですね。楽しかったですけど(笑)」

──そして、先ほどサラさんが挙げられた映画『シンドラーのリスト』のテーマ。この曲では歌を封印し、ヴァイオリンの音色で聴かせます。

「アルバムの中で一番、圧倒的な難しさがある曲でした。今の世界情勢もあり、アレンジもどうしようかと非常に迷いました。オリジナルのサントラは壮大なオーケストラ演奏ですが、今回は逆に素朴な感じ、素朴さの中にあるリアリティを表現したかったので、ライヴ音源の「ひこうき雲」や「マイ・ウェイ」を除き、レコーディングした中で一番小さな編成にしました。でも、小さな編成だからこそ、どれだけの想いを込めるのか、あるは引くのか、その調整も含めてとても難しく、時間も掛かりました」

──想いがあるゆえのこだわりですね。

「そうですね。それから、この曲では出だしの部分や曲の途中に、映画の中で使われた別の曲のフレーズも入れこみました。曲名でいうと「Jewish Town(ユダヤ人街(1941年、クラクフのユダヤ人移住区にて))」と「Remembrances(追憶)」になります。この映画をよくご存じの方は、“あのシーンの!”と気がつかれると思います。映画をご存じない方でも、この作品には多くのメッセージが含まれていると思うので、今だからこそ収録すべきと思いました。続く“戦場のメリー・クリスマス”と合わせて、このセクションではそのような想いを込めました」

──お話をうかがっていると、今作は本当にサラさんの気持ちがそのまま、素直に表現されたものなんだと感じます。10年という時が経ち、それができるようになったという感じなのでしょうか?

「そうですね、本当に。昔から正直ではあったと思うのですが、このように言葉ですべてをお話しするのは怖かった。ですから音楽に委ねていたし、それで自分も救われていました。それを可能にしてくれる音楽は素晴らしいと思う気持ちは変わりません。唯一変わったのは、自分の目標を言葉で明確に伝えられるようになったこと。このアルバム『One』のコンセプトもそうですし、やはり私はささやかでも、みなが安心できる場所を作りたいなと思います。生きづらい瞬間て、誰しもあると思うんです。ライヴ音源で収録した「マイ・ウェイ」のMCにもあるように、うまく生きるのはなかなか難しい。そう感じている人って多いのではないかと。私は、服装もキラキラしたものや華やかなものが好きだったりするので、結構明るい人間だと思われがちなのですが、根はとてもダークで。でも、そういう自分でも別にいいんだなと思えるようになったというか。テンションも、“今日も頑張ろう!”と言われるより、“頑張らなくていいよ”と言われたほうがホッとするときもあります。ですから、みなそれぞれ自分に合った方法、やり方でいいんですよね。「スピーチレス〜心の声」(映画『アラジン』より)は、“誰も私を黙らせることはできない”という、とても力強い歌。マイノリティの声でもあります。一度きりの人生だし、自分の人生だから、自分らしく生きたい。でも、この社会は生きにくい。であれば私は、音楽や、ゆくゆくは映画によって、同じように感じている人たちが少しでも安心できるスペースを作ってみたい。デビューから10年、そしてこのアルバムを制作して、自分にはこのような目標があるということがわかりました」

──今、ライヴ音源による収録のお話が出ましたが、今作ではもう1曲「スペイン」という楽曲がライヴ音源です。レコーディングではなく、ライヴ音源にこだわった理由は?

「「スペイン」はジャズですが、ジャズはそれこそ生きた音楽なので毎回違いますよね。今回収録したのは、私が初めて「スペイン」を披露したライヴでの音源なんです。なので、かなり貴重です(笑)。初めての緊張感もありつつ、また、昨年、この曲を作曲されたチック・コリアさんが亡くなられて。彼へのオマージュという意味も込めています」

──タイミング的にも“今”だったんですね。

「そうですね。そういう意味でいえば、「ウォーキング・イン・ジ・エア」(映画『スノーマン』より)も、今だから収録したい曲でした」

──というのは?

「これはもともとボーイ・ソプラノによる楽曲。私、声の種類の中でボーイ・ソプラノが一番好きなんですね。女性の声とは違うピュアさがあって、どこか儚くて。小さい頃からずっとボーイ・ソプラノになりたいと思っていたくらいで、特にデビュー当時はそれをイメージして高音で歌っていたんです。でも、声は変わっていくもの。ボーイ・ソプラノも一瞬の時期しか出ないし、私自身も歳を重ねていくと、こうした高音がいつ出なくなるかわかりません。それこそ10年後はハスキーな声しか出ないかもしれない。それは人生の儚さや尊さと似ていて、この歌でそれを表現してみたかったですし、それができるのは今しかないかもしれないと思いました」

──今作リリース後は、5月は「サラ・オレイン Fantasyの扉を開けて! 〜オーストラリア、日本、そして世界へ〜」が、7月には10周年記念ツアー「One」が開催されます。それぞれどんなステージになる予定ですか?

「テーマとしては共通性がありますが、バンドの編成や、それに伴い曲調は変わっていきます。ですから、“Fantasyツアー”でしか聴けないもの、“One”でしか聴けないものがありますね。もちろん“One”のほうでは今回のアルバムの楽曲をすべて披露する予定です」

──10周年って、一つの区切りと同時に、次の10年に向けたスタートを切るタイミングだと思います。サラさんが今後の活動でチャレンジしたいことは何ですか?

「これまでやったことがないという意味では、映画を作るのが夢ですね」

──先ほど、みんなが安心できるスペースの一つとして映画を挙げていましたね。映画制作のどのへんに携わりたいとかあるんですか?

「すべてですね。今も、ラジオでは自分で台本や選曲を組んでいますし、今回のアルバムもセルフプロデュースしています。それと同じで、自分が映画を作るときも、脚本から音楽、演技、監督まで、すべての面で携わりたいです。わかりやすい例で言えば、チャーリー・チャップリンでしょうか。でも、その前に、俳優として演じることもやりたいです。歌い手のイメージが強いせいか、なかなかチャンスがないので…。でも歌も、特にカバー曲の場合は、どこか演じているところがありますし、レディー・ガガやバーブラ・ストライサンドなど、歌も演技も素晴らしい方がたくさんいらっしゃいます。ですから、このアルバムを通じて、日本の監督のみなさんにも私の存在を知ってもらえたらうれしいです。さらにもっと近いところだと、次のアルバムのことも考えています。今回は初の全曲カバーだったので、次は全曲オリジナル曲にしたいなとか」

──まだまだやりたいことがたくさんありますね。

「はい。自分を大事に歩んでいきたいです。そして自分の活動を通して、“心のケア、セルフラヴをしましょう”というメッセージが多くの方に伝わるとうれしいです」

取材・文/片貝久美子
サラ・オレイン『One』
2022年520日(金)発売
限定盤(SHM-CD+フォトブック付 デジパックトールケース仕様)/UWCD-900013,850円(税込)
ユニバーサル ミュージック
サラ・オレイン『One』限定盤
サラ・オレイン『One』
2022年520日(金)発売
通常盤/UWCD-100013,300円(税込)
ユニバーサル ミュージック
サラ・オレイン『One』通常盤
サラ・オレイン Fantasyの扉を開けて! ~オーストラリア、日本、そして世界へ~
ゲスト:岡本知高(ソプラニスタ)
5月21日(土) 愛知県名古屋 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
5月25日(水) 大阪府岸和田市 岸和田市立波切ホール 大ホール
5月26日(木) 京都府城陽市 文化パルク城陽 プラムホール
5月27日(金) 兵庫県西宮市 兵庫県県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール
サラ・オレイン Fantasyの扉を開けて! ~オーストラリア、日本、そして世界へ~
SARAH ÀLAINN 10th Anniversary 〜 One
7月6日(水)  東京 東京国際フォーラムホールC
8月21日(日)  大阪 NHK大阪ホール
9月7日(水)  札幌 札幌コンサートホール Kitara 大ホール
9月25日(日)  宮崎 メディキット県民文化センター 演劇ホール
10月1日(土)  岡山 岡山市民会館
10月14日(金) 神戸 神戸文化ホール 大ホール
10月15日(土) 広島 広島国際会議場 フェニックスホール
10月18日(火) 福岡 福岡国際会議場 メインホール
10月23日(日) 浜松 アクトシティ浜松・大ホール 『ヤマハ ジャズ フェスティバル』
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