2年半ぶりに訪れたタイで変わっていたものと変わらなかったもの| – @DIME

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そろそろ海外旅行を解禁してもいいだろう、と考える人も増えてきたのではないかと思う。筆者と同じように、行くならまずはバンコクかな、という人もきっと少なくないはずだ。そこで、「久々にタイ旅行に出かけたらこんな感じだった」というレポートを、この場を借りて3回に分けてお届けしたい。
【第一回】燃油サーチャージが高すぎる!?ポストコロナのタイ旅行、何が変わった?
人生で初めて訪れた海外の都市がバンコクだった。いまから20年前のことだ。それから数え切れない回数この街を訪れているが、今回ほど緊張したことはない。長いブランクができたことで、まるで初めての海外旅行のときのような初々しい気持ちで向き合える。考え方によっては、貴重な経験ともいえる。
リバーサイドのホテルに予約を入れたのは、さらに新鮮な体験ができそうに思えたからだった。実は、これだけ来ているのに、リバーサイドには一度も泊まったことがない。バンコクで滞在するエリアといえば、バックパッカーをしていた頃はカオサンで、その後シーロムを経て、結局スクムビットに落ち着いていた。
初めてリバーサイドに滞在してみて、なんて魅力的なところなのだろうかと素直に感じた。ホテル内は静寂に包まれている。都会の喧噪が嘘のようで、けたたましいクラクションの音も聞こえない。
それに、人口密度が薄いのもいまの時代に合っている。一時期に比べ感染状況が落ち着いてきたとはいえ、まだまだ心の中では警戒しているのも本音だったりする。可能な限り「密」を避けたいのなら、リバーサイドは悪くない選択に思えた。
時間の流れもゆるやかだ。川沿いのホテルの多くは高層ビルで、客室からの眺望がとにかく素晴らしい。少し奮発してリバービューの部屋にして正解だった。滔々と流れるチャオプラヤー川を、ゆったりとボートが進んで行く。そんな光景をボーッと眺めているだけでも幸せな気持ちになれるのだった。

リバーサイドに滞在していると、自ずと行動範囲も変わってくる。主な移動手段はボートだ。主要なホテルやスポットにはピア(桟橋)があって、川を行ったり来たりするような形になる。風を浴びながら川を疾走するのは本当に気持ちいいし、渋滞を気にしなくていいのも大きなメリットだ。
ただし、船の本数が限られるし、一発で行きたい場所へ辿り着けないこともある。サトーン・ピアという水路のターミナルのような桟橋までいったん出て、そこから別の船に乗り換えるというパターンが定番だ。その際、まずは目的地とは逆方向へ進んでから、乗り換えた船で来たルートを引き返すというようなケースもままある。
川をホッピングしていくような感覚である。場所によっては時間はかかるし、決して効率的とはいえない。けれど、そういうものだと割り切ったほうがいい。時間の流れはゆるやかだから、抗わずにのんびり構えた方が得策だ。

川沿いは空間が広く、視界が開けているから、ボートで移動していると発見の連続だ。次々と気になる建物などが出てきて「あれは何だろう?」となるので、その都度「Googleレンズ」で調べるのが楽しい。建物にスマホを向けるだけで、それが何なのかが瞬時に分かるのは本当に便利だ。ほかにもGoogleレンズはレストランで外国語のメニューを翻訳して解読するときなどにも重宝する。もはや、海外旅行の必須ツールといっていいだろう。
リバーサイドの建物で、ひときわ目立つ存在なのが超大型商業施設「アイコン・サイアム」だ。というより、これができたことでこのエリアが脚光を浴びるきっかけになった。以前に来たときに建設中なのは知っていたが、グランドオープンして間もなくコロナ禍に突入してしまい行く機会を逸していた。

アイコン・サイアムへはサトーン・ピアから無料のシャトル・ボートが頻発している。次々とボートが川を渡っていく。桟橋に着いたら、吸い込まれるようにして人々が我先に中へ入っていく。要塞のような外観からして、途轍もないインパクトだ。個人的には、近未来を舞台にしたRPGなんかに出てきそうだなぁ、などというのが第一印象。

入口の前には、お姫さまの飾りみたいなキンキラのオブジェが設置されていて、浦安にある某テーマパークを思い出したりもした。実際、中に入ってみて感じたのが、ショッピングセンターというよりはテーマパークのようだなあということ。フロアごとに、まったく違った世界が広がっている。通路やエスカレーターなども迷宮のように入り組んだつくりで、迷いそうになるがそれがむしろ面白い。

たとえば、アパレルが集まったフロア。数階上まで吹き抜けとなって広々としたホールの中央に、巨大な全面ガラス張りの構造物が作られている。建物の中に、別の建物が入っているかのような不思議なつくりで、見た目はなんだか宇宙船のようだ。そこは何のお店なのかというと、お馴染みのH&Mなのであった。

その威容に圧倒されながら、フラリと店内に吸い込まれてしまう。ショッピングセンターなんかに来ても別に買いたいものもないしなぁ、などと思っていたはずが、気がついたらシャツを買っていた。しかも3枚も。いや、本当は欲しいものが4枚あったのだが、これでも1枚我慢したのだ。
円安の影響はやはり大きく、タイの物価もずいぶん上がった印象を受ける。1バーツが約3円という時代が長かったが、いまや1バーツが約4円である。3円と4円で1円違うだけでもだいぶ違う。ちなみにシャツは、1枚400バーツだった
H&Mなんて日本にもあるが、タイの店舗は品揃えが若干違うと感じた。南国チックなデザインのものが多い。ちなみに最初は帽子でも買おうかと思ったが、なぜかニット帽しか売っていなかった。常夏のこの国でニット帽? と驚いたが、訪問した7月はタイの中では比較的涼しい季節になるのかもしれない。
アイコン・サイアムの中にはありとあらゆるお店が入っている。H&Mのような庶民的なお店がある一方で、高級ブランドのブティックもずらり揃っている。「アイコン・クラフト」というタイの最新雑貨を集めた一画や、日本人に人気の「Naraya」なんかもあって、土産物などはここだけで大抵のモノは揃いそうだ。
日本の高島屋もここにある。セントラルワールドの伊勢丹、MBKの東急がコロナ禍の2020~21年に相次いで撤退してしまい、バンコクの日系百貨店としては高島屋が唯一の店舗となった。
個人的に衝撃を受けたのは、ユニクロの隣にメイソウが並んでいたことだ。そう言っただけで伝わる人はきっとアジア好きな人だろう。メイソウは中国発の雑貨店で、どこか日本風のお店の雰囲気から一時期話題になった。同じような赤地に白文字のロゴのお店が二軒並ぶ前を、橙色の袈裟を着たお坊さんが通り過ぎて行く光景がなんだかタイっぽいなあとしみじみした。
上層階にあるレストラン・フロアもまた内装など世界観が作り込まれており、テーマパークの別のエリアへやってきたような気持ちになった。ファンタジックであり、リゾーティでもある。たとえば木に無数の鳥かごがぶら下がっている店があって、そこは寿司屋だったり。広々としたテラスもあって、外に出たら対岸の摩天楼ビューも堪能できる。

気になるトピックスとしては、「ティップ・サマイ」が出店していたのには歓喜した。タイ好きには古くから知られたパッタイの名店だ。パッタイを卵焼きで包んだメニューがお気に入りで、筆者も過去に作ったガイドブックで取材させてもらったことがある。ただ、場所が王宮に近い旧市街エリアで、ちょっと行きにくいのが難点だった。そして、いつ行っても混んでいるイメージがあった。
本店は普通の屋台・食堂といったたたずまいだったが、アイコン・サイアムのお店は流石に洒落た雰囲気だ。久しぶりに食べてみたら、安定の美味しさ。しかし、卵焼きで包んだパッタイが169バーツもして、本店で食べるよりも値段が高い気がした。サービスチャージ10%に加え、税金7%もかかる。

ティップ・サマイでぜひ頼みたいのがオレンジジュースだ。注文するとボトルに入ったジュースと、先端がスプーンになったストローが出てくる。なぜかというと、オレンジの果肉がたっぷり入っているからだ。119バーツとこれまたジュースにしては結構いい値段がするが、これを飲むためだけにバンコクへ来てもいいレベルの美味さ。
そういえばこれは余談だが、「ピンクのカオマンガイ」で知られるカオマンガイの名店「ラーン・ガイトゥーン・プラトゥーナム」も、すぐ近くのラチャダムリ通り沿いに綺麗な支店ができていた。ティップ・サマイ同様、本店は屋台風だが、支店はクーラーの効いたきちんとしたレストランという感じ。長年自分が通っていたお店が「出世」することは喜ばしいが、時代の移り変わりも実感した。
アイコン・サイアムについては書きたいことが多すぎてキリがないのだが、もうひとつだけ。というより、ここが最大の目玉といっていいだろう。一階の「SOOK SIAM(スークサイアム)」である。
ここでは屋内施設なのに、水上市場が再現されている。無数の屋台がひしめき合った、昔ながらのタイの屋台街といったたたずまい。タイ全土から集まった、各種ローカルフードが食べられるのがウリだ。屋外の本格的な屋台街は苦手という人にとっても、ここなら抵抗なく屋台グルメの食べ歩きを堪能できるだろう。

個人的にとくに嬉しかったのは、ロティの屋台が出ていたこと。これが大好物なのだ。小麦粉の生地を薄くのばして焼き上げたタイ風クレープだ。スライスしたバナナを入れるのが定番。クレープといっても円形ではなく、四角形。お好みでチョコなど色々とトッピングできるが、通常はコンデンスミルクを全体にふりかけ、ヘラで格子状に切り込みを入れて出来上がり。

スーク・サイアムは被写体の宝庫で、あらゆる場所が「映える」。そもそも、そうなることを想定して作られているようにも感じられた。施設内でかかっている音楽もやたらと壮大なオーケストラ楽曲で、これまたテーマパークっぽい。
写真を撮っていたら、食事をしていた人たちが突然その場で一斉に起立する場面に出くわした。国歌斉唱の時間である。タイでは毎日夕方6時にラジオなどで国歌が流れる。変わりゆくタイで変わらない日常をこの目にしてホッとすると同時に、もうそんな時間なのかと驚いた。気がついたら日が落ちている――まさにテーマパークに来たかのようだ。アイコン・サイアムはここだけで余裕で丸1日はつぶせるほど見応えのあるスポットである。

長びくコロナ禍により、海外旅行の地域別ガイドブックなどは壊滅状態だ。定番シリーズはどれも最新版が発行されていない。現在書店に並んでいるものは、コロナ以前に取材をしたと思われるものばかり。当時は人気だったスポットでも、もう存在しないようなところもあったりするから要注意だ。
たとえば、何百ものカラフルな屋根が並ぶ幻想的な風景が人気を博した「ラチャダー鉄道市場」は、残念なことに閉鎖されてしまった。筆者も何度か行ったことがある。迷いながらも練り歩くのが楽しいナイトマーケットだった。2019年に刊行された『地球の歩き方 バンコク 2019~2020版』ではこのラチャダー鉄道市場が表紙絵となっていることからも、その頃の旬スポットだったことが分かる。
観光客に人気のバンコクのナイトマーケットとしては、「アジアティーク・ザ・リバー・フロント 」もある。こちらはかろうじてまだ営業中だ。久しぶりに行ってみたら閑散としていて、かつての賑わいが嘘のようだ。通りに面したショップはいちおう営業しているが、一歩中へ入るとシャッターを降ろしたままの店も多い。

せっかく来たのだからと、土産物屋を物色する。子ども用のスカートを手に取ったら、1つ300バーツだけれど、2つなら550バーツでいいという。思わずニヤリとしてしまった。同じリバーサイドでもアイコン・サイアムは値札が付いている。こちらはまだまだ昔ながらの言い値の世界が残っていて、懐かしくなる。結局、500バーツで手を打った。
レストランも閉まっているところが大半で、そのせいか一部の営業している店に客が集中している。若い店員さんが、蒸し暑い中でもマスクをきちんと付けて忙しそうに動き回っている。入店して、タイ料理をいくつか頼んだ。外国人向けなのか盛り付けが上品だが、口に入れるとしっかり辛いところはさすがタイである。

アジアティークはそれなりに楽しめたものの、このままでは不完全燃焼だった。そこで、欲ばってもう一つ別のナイトマーケットへも行ってみることにした。気になっていた夜市があったのだ。
その名も「タラート・ダオカノン」という。ネットで調べると、日本語のサイトには「インディマーケット」という名で紹介されている。現地にも確かに「Indy Market」という看板が出ていた。しかし、タクシーの運転手に「インディ・マーケット」と言っても通じなかった。調べてみたらバンコクにはほかにも「Indy Market」があるようだ。「タラート」はタイ語で「市場」を意味する。タラート・ダオカノンと呼ぶほうがいいかもしれない。
場所はチャオプラヤー川の対岸だ。川から少し内陸に入ったところなので、船だけでは行けない。夜だし、アクセスにはタクシー利用がベストだろう。アジアティークからメーター・タクシーで約60バーツだった。
タラート・ダオカノンは、あのラチャダー鉄道市場を彷彿させた。規模こそやや劣るものの、コンセプトはほとんど同じに思える。衣類や雑貨などを売る屋台が所狭しと並び、外周には食べ物の店やバーが集まっている。

立地的にも外国人は少なく、ローカルの若者たちが中心の夜市のようだ。いかにもな機材を持って動画を撮っているYouTuberぽい人もいたが、タイ人だった。確かに動画で撮りたくなるような市場である。とくに何かを買うわけでもないのだけれど、ブラブラしているだけでも飽きない。
小休止がてらビールを飲むのにバーに入ると、二階建てのバーの二階のテラス席から市場の全景が眼下にできた。電灯に照らされた色とりどりのテントが、タイルを敷き詰めたように並ぶ様はまさに一世を風靡した映え絶景そのものだ。

バーの店内BGMでは、洋楽のヒット曲などではなく、タイポップスがかかっていたことも嬉しかった。タイの歌謡曲は歌心が感じられるものが主体で、自分が好きなR&Bのような系統の楽曲も多い。一時期ドハマリしてしまい、手当たり次第CDを買い漁ったり、現地のライブに足を運んだりしていたことを思い出す。
バーのお姉さんが注文を取りに来てシンハービールを頼んだ。一応英語は通じるがたどたどしいというか、自分も英語は得意ではないので、聞き取れない言葉もあった。何を言いたいのだろうかと思ったら、どうやら氷を入れるかどうか訊ねているようだ。ビールを氷で冷やしながら飲む。暑い国ならではの流儀だ。「コー・ナムケーン」(氷をください)とタイ語で言ったらそっちのほうが通じたようで、お姉さんはニッコリ微笑んで氷を持ってきてくれたのだった。
次回はコロナ禍の間に新しく誕生したタイの注目スポットと帰国に向けた手続きに関してレポートしていく。
取材・文/吉田友和(よしだ・ともかず)
旅行作家。1976年千葉県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。旅先からリアルタイムに更新し続け話題になった旅行記サイトの書籍化『世界一周デート』(幻冬舎文庫)で作家デビュー。これまでに約90カ国を訪問。雑誌やWEBメディアへの寄稿のほか、編集者として旅行ガイドの制作なども手がける。2020年に小説『修学旅行は世界一周!』(ハルキ文庫)を刊行。近年は「子連れ旅」「半日旅」にも力を入れている。
公式サイト:旅行作家★吉田友和 Official Web
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