クリス松村「音“楽”家(おんらくか)」として「いい音楽」を伝えていきたい – GetNavi web

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昭和歌謡やシティポップ、そして現在のヒットチャートのエキスパートとして、多数の音楽番組レギュラーを持つクリス松村さん。2時間以上にわたって、大好きな音楽はもちろんのこと、ラジオ論から日本人論まで全方位的に語り尽くしてもらった!
 
(構成・撮影:丸山剛史/執筆:小野田衛)
 
──現在、クリスさんはラジオで3本、テレビで1本の音楽番組を持っています。現場で心掛けていることはありますか?
 
クリス松村 ラジオDJをやり始めたとき、スタッフさんからは「もっとヒット曲をかけてくれ」と言われることが多かったんです。「リクエスト曲を増やしてほしい」というリスナーの声も結構ありましたね。だけど、そういう構成だったら別に私じゃなくてもいいわけですよ。やるからには、すべてこだわって取り組みたかったんですよね。たくさんいい音楽はあるということを伝えたかったです。
 
──番組ごとにコンセプトは明確に分けています?
 
クリス たとえば、ラジオ日本の『クリス松村の「いい音楽あります。」』は選曲がマニアック。bayfm『9の音粋 Thursday』は、生放送ということもあり、「今」を取り上げたかったんです。おかげさまでどれも聴取率や再生数がいいんです。でも、SNSのリアクションと実際の数字が必ずしも比例しなくて……。改めてラジオって難しいです。
 
──そういったネットの声も気にされるんですか。
 
クリス もちろん。エゴサーチは結構します。私は裸の王様にはなりたくないので。かと言ってリスナーに寄り添い過ぎの構成なってしまったら、番組としてはつまらなくなっちゃうんですけど。私は出来る限りこだわって取り組みたいので、番組の構成作りから使用音源までも持参しています。だから当日も作業は大変ですよ。Twitterを見て、メールを読んで、番組を進行して、レコードをかけるときは自分で針まで落として(笑)。
 
──DIY精神での番組作りというわけですね。
 
クリス たとえば“テーマ縛り”ってあるじゃないですか。「6月になったから雨の曲」みたいな。私もたまにやることはあるけど、そうするとどうしても流す曲の傾向が狭くなっちゃうんですよね。だからテーマを決めないで、始まりから終わりまで番組全体の流れを意識したオーダーメイド感覚で毎回作っています。
ただ、たのしい企画物もありますよ。「妄想ザ・ベストテン」という企画。すべての順位は私自身が当時の記録で妄想の音楽番組を作っています。放送の中で私が慌てふためいているのも実は当時の黒柳徹子さんのバタバタした雰囲気を再現したかったから。昔の華やかな音楽番組や芸能界が大好きだから、その空気感を私なりに伝えたいんです。
 
──クリスさんは音楽全般に造詣が深いので、そこも大きな強みなのでは?
 
クリス でも、私は楽譜も読めないし楽器も弾けない。だから音楽理論とか構造的なことは全然わかっていないんです。単なるリスナー上がりの音楽ファン。同じラジオのDJでも、たとえばピーター・バラカンさんみたいに分析できる評論家タイプとはアプローチがまったく違うんですよね。音楽が好きなだけだから、自分では「音“楽”家(おんらくか)」だと名乗っています。
 
──ラジオの現場で変化を感じることはありますか?
 
クリス 洋楽が苦手だというリスナーが確実に増えていますね。これはちょっと危機感を覚えます。やっぱりなんだかんだ言っても、日本の音楽というのは少なからず洋楽から影響を受けているんですよ。これはロックだろうがジャズだろうがヒップホップだろうが全部同じ。どのミュージシャンに聞いても、否定しないはずです。今年、歌い手として出てきたギタリストのスティーヴ・レイシーなんかピンときて才能を感じたし、そういう発見は楽しい。ぜひとも幅広く聴いてほしいです。
 
──日本は良くも悪くもガラパゴスなのかもですね。
 
クリス アメリカのHOT100の40位内に入った日本人アーティストって、いまだに坂本九さんとピンク・レディーさんだけじゃないですか。もちろん私だってTravis Japanには頑張ってほしいと思っていますよ。やるからにはBTSを超えてほしい。全米進出はジャニー(喜多川)さんの悲願でしたから。
 
──では、なぜ日本ではBTSのようなグループが生まれないのでしょうか?
 
クリス これは複雑な問題ですけれど、海外の人が日本に抱くイメージって、寿司に着物にサムライ、富士山みたいなそういうものが基本的にあって、それを打破するぐらいの英語力と独特の音楽、パフォーマンスが求められていると思うんです。それを打破したのがBTSだと思います。ですけれど、先ほども触れましたが、ジャニーさんは60年代からそれを始めていたわけで、ジャニーズ(※グループ名)さんもフォーリーブスさんもチャンスがあったはずなのにと残念でなりません。挑戦している最中に帰国しなければいけないという当時の日本の芸能界の環境もあったように思います。
そんな中でも松田聖子さんは諦めずに何度も挑戦して、ついにジャズ部門でも結果を残したわけだから、すごいと思います。いずれにせよ、そもそもの見られ方が違うので、海外の音楽市場のトレンドだけを追っかけていても難しいと思います。日本発の新しい風を吹かせてほしい。
 
──日本発とは?
 
クリス 今の日本のミュージシャンってすごく器用なんですよ。演奏も上手だし、クオリティも決して低くはない。だけど、そこに突出した個性があるかというと、それは別問題。もともと日本人は職人気質だから質が高いものを作るのは得意なんだけど、アメリカで成功するにはオーラが求められるわけですね。アデルはラスベガスのコロシアムで何か月にもわたって定期公演をやる。ブルーノ・マーズは急に来日が決まったにもかかわらず、何万円もするチケットが即ソールドアウトした。そのスケール感に対抗するにはカリスマ性がどうしても必要なんだけど、なかなか難しいですよね
ミュージカルで言えば、ブロードウェイやウェストエンドのような場所もないし、そういう楽しみ方が日常の中にない文化という基本的なハードルがあるように思うんです。
 
──たしかにそこは難しい問題かもしれません。
 
クリス 日本人は「新しいものを作り上げる」とか「議論を重ねて変革を進める」といったことを嫌う一面もあるように思います。横並びで荒波は避けると言いますか……。でも、そこがうまくいかない要因になるのかもしれません。
音楽に関しても、テレビ、ラジオでの選ぶ側に偏りが見られると個人的には感じているので、テレビはテレビ、ラジオはラジオ、個々の番組が金太郎飴のようにならなくなればいいなと思います。
 
──旧態依然とした体質は、いまだに根強く残っていますからね。
 
クリス 私もこういうインタビューが文字になったとき、偉そうに見えたら困りますが(笑)。
番組を放送するためにはスポンサーは必要なわけで、そうするとその意向は無視できないですから。でも、今の日本のチャートって、売れるもの売れないものが極端で、それはやはり売る側の事情の結果だと感じることもあります。
アメリカのチャートも間違いなく売れるミュージシャンはいるけれど、先ほど触れたスティーヴ・レイシーのように100位に初登場して3か月ぐらいかけて1位になるという曲もたくさんあります。日本だと今はないですよね、そういうヒット曲。ヒット曲と売上枚数は、今は昭和の時代と意味が違うと思います。願わくばヒット曲が生まれてほしいです。
 

──ところで、なぜここに来て昭和歌謡など過去の音楽が見直されていると思いますか?
 
クリス 売上枚数はすごいけれどヒット曲がないということも関係しているかもしれません。昔に戻るということは、基本に帰るとも言えますが、それは現状に満足していない方々もいらっしゃる証拠。人気のある曲はあっても、大衆の心に届く曲が少ないのかもしれない。
私自身は回顧主義者ではないし、ノスタルジーに浸る気もありません。だから新しいアーティストも取り上げています。藤井風さんは売れる前からずっと応援してました。才能ある人って目立ちますからね。いわゆる有名な音楽番組に出ていなくても素晴らしいアーティストはたくさんいるんです。
なので、私の番組では、そういう有名な音楽番組にまだ出ていない新しいアーティストを積極的に取り上げています。デビューの頃から取り上げている藤井風さんもVaundyさんも今や紅白出場ミュージシャンですが、あまり知られていないうちがラジオDJ的には旬(笑)。それは音楽番組DJのひとつの楽しみじゃないかな……。
 
──シティポップなんてNight Tempoなどによって注目される前から、クリスさんはプッシュし続けていましたよね。今のブームをどう思っているんですか?
 
クリス シティポップにきますよね、この流れだと(笑)。そもそもシティポップという言葉の定義がどうなのかという問題があると思うんです。だって、当時は誰もシティポップなんて言っていなかったですから。今は山下達郎さんや大瀧詠一さんとかだけじゃなく、下手したらYMOすらもシティポップ扱いされちゃうでしょ? ディスコだろうがテクノだろうが、あの当時に人気だったものが全部シティポップということになっていますし。──そもそも言葉自体がブームですからね。
この前、あるインタビューで「山下達郎が目指していたシティポップとは何だったと思いますか?」と最初に質問されたんです。それを聞いて、椅子からズッコケそうになりましたよ。山下達郎さんは、一部の若い方々からすると、シティポップを目指したというふうになってしまうぐらい、シティポップというカテゴリが流行なんだなって。私たち世代は、昔、フォークかニューミュージックか議論していましたから、なんかそのころは熱かったなって思ってしまいました(笑)。
 
──では、改めてクリスさんなりにシティポップを定義すると?
 
クリス まず当時の時代背景を考えてほしいんです。79年にソニーのウォークマンが登場した。大学生がカーステで好きな曲を流しながらクルマを運転するようなった。丸井のカードを使ってDCブランドの洋服を若者が買うようになった。70年代では許されなかったようなことが当たり前になったんですね。もちろんそこにはバブル経済も密接に絡んできます。そういった都市型のゴージャスな文化に対する憧れが、シティポップの前提にはあるわけですよ。
 
──実際のサウンド面はいかがでしょうか?
 
クリス 一流のスタジオミュージシャンが完璧な演奏をしているのだから、悪いはずがない。YMOの方々も、結成前も後も数多くの作品に関わっています。デヴィッド・フォスターは来生たかおさんの無名時代に関わっていたり、「嘘でしょ!」ということの連続。ただ再評価するのは大いに結構なのですが、「シティポップがなぜ当時はそこまで売れなかったのか?」という点も考えるべきだと私は思うんです。
 
──ズバリ、なぜでしょうか?
 
クリス その後に誰もが知るヒット曲やアルバムを出された方々もいらっしゃるわけですが、当時はテレビの時代でしたから、テレビに合う、合わない、出る、出ないは間違いなく関係あります。また、音が素晴らしすぎてインスト感覚に聴いてしまって、ヒット曲にはなりにくかったという部分もありますね。それと今でも大切ですが、ファッションという部分も大きいと思います。そういう意味では、50年前からすべてが完璧だったのが松任谷由実さんでしょう。半世紀前からってところが別格です。すごいとしか言いようがありません。
 
──う~ん、考えさせられる話です。
 

クリス 今、日本の音楽界では過去に経験したのないことが起こっている最中なんです。非常に悲しいことだけど、私たちは吉田拓郎さんや小椋佳さんの引退を見届けなくてはいけない。ひょっとしたら山下達郎さんや桑田佳祐さんだって、遠くない将来に歌わなくなる日が来るかもしれない。彼らは間違いなく音楽界のレジェンドじゃないですか。そのレジェンドが最前線で変わらず今も活躍しているし、現役バリバリ状態のまま引退をするかもしれないという過渡期なんです。桑田さんもそうですし、山下達郎さんもおっしゃられていましたけれど、このぐらいの年齢の方々が新しい曲でCMソングなんて、昔では考えにくいですよね。新曲、ニューアルバムをリリースして未だに1位、昭和では考えられない新しい歴史の最中なんです。
 
──そう考えると、レジェンドたちの存在感は圧倒的ですね。
 
クリス 本当に勇気を与えてくださいます。でも頼ってばかりいてもいけませんよね。音楽には、今、生まれた新しいミュージシャンの活躍が常に必要です。ですから、レコード会社もテレビ局もラジオ局もスポンサーも勇気をもって「新しいミュージシャンが活躍できるチャンスを!」という気持ちが音楽ファンとしてはあります。今、CMで使用される曲って、70年代、80年代のものが多いでしょ? それは嬉しいことでもありますが、なんだかちょっと心配。「21世紀はどうしたの?」って。
 
──業界全体が保守的になりすぎているのかもしれませんね。
 
クリス もっとも、今は新しい音楽を探すのが難しくなっているという側面もありまして。特にサブスクが普及してからはその傾向が強くなっていますね。サブスクは何でも聴くことができるけど、同時に「何から聴けばいいのかわからない」という意見も多いんです。そういうとき、私のラジオ番組が良質な音楽を知るための案内役になれたらいいんですけど。この“きっかけ作り”というのは今の時代にラジオが果たす役割としては大きいと思います。テレビはもっと幅広い層を対象にしているから、それをやろうとしても現実的に難しいので。
 
──今の若い人たちはYouTubeやサブスクのおかげで昔の音楽に精通しているケースも多いです。
 
クリス 私の番組もリスナーは若い方が確実に増えています。Twitterでも反響がわかります。年齢が書いていなくても、大体どれくらいの世代なのか雰囲気でわかるところがあるじゃないですか。こっちが「え!?」って驚くくらい若い人たちが昔の曲に興味を持ってくれているのを見ると、さすがに感慨深いものがあります。
 
──音楽の消費のされ方も、ここ数年でだいぶ様変わりしました。TikTokで新たな音楽に触れるというパターンも多いですし。
 
クリス 今はフィジカル(※CD、レコード、カセットなど実物のあるメディア)でリリースしないアーティストも増えていますしね。アメリカやヨーロッパではCDを出さず、アナログレコードと配信だけ販売するというパターンも多くなっています。私自身は物欲が強い人間だし、手元に物体がないとソワソワしちゃって落ち着かないんですよね。ジャケットや歌詞を眺めることも好きですし。
 
──話を聞いていると、改めて音楽業界は曲がり角に来ているようですね。
 
クリス そうですね。聴き方すべてが変わってしまったので、曲がり角……なんでしょうけれど、変わっていく聴き方を決めることはできません。自由ですから。でも、私は自分ができる範囲で音楽に貢献していきたいです。「私にできることは何なのか?」と悩むこともありますが、とにかく流されないで、ひとりのDJとして個性を生かしてアプローチしたいです。
 
──現在は昭和歌謡やシティポップのオーソリティとなったクリスさんですが、バラエティ番組での活躍で存在を知ったという人も多いはずです。これはご自身で意図的に立ち位置を変えていったということですか?
 
クリス 「オネエタレント」として世に出たのは手段だったんです。最初に芸能事務所に所属したのは1980年でしたが、何も動きがなく、サラリーマンになって、ダイエットのために始めたエアロビクスが副業になり、そんなときにテレビ出演。チャンスのつもりでバラエティ番組に出演しましたが、それが、「オネエ」と結びつき、次々と新しい芸能活動の場が広がりました。いわゆるブームにもなりましたし、その波には乗りましたが、社会の空気感が世界的にも変わりましたよね。ある意味、ピエロを演じることしか手段がなかったと思っていた私も変わる必要がありました。
 
──そういう背景があったんですか。
 
クリス ラジオのプロデューサーから声をかけていただいたのが12年前。しかし、当時オネエタレントとしてのイメージが強すぎて、最初のうちは音楽番組とはまったく関係のない、かなり差別的なことをリスナーからは言われました。そんなときに出会ったのが山下達郎さんでした。「時間がかかるよ」「クリスさんは自分の持っているマニアックともいえる部分をやられたほうがいい」って励ましてくださって、その言葉を力に自分のやりたい方向性でやっていき、今に至る感じです。
 
──全部が繋がっていますね。
 
クリス そうなんです。もっと細かく言えば、ラジオに関しては昔、ラジオ関東(現・ラジオ日本)の美少年オペレーターボーイズに応募して、電話受付をやっていたこともあるんですよ。だからラジオの世界に飛び込んだときも「戻るべき場所に来た」という感覚でしたね。今こうやってラジオで仕事していても天職だと思いますし。
 
──今後、どういったことを目指していきたいですか?
 
クリス 番組をやっていて痛感するんですけど、やっぱり時代というのは確実に進んでいるんですよ。音楽知識においては私が当たり前だと思っても、若いスタッフさんは知らないし、逆にベテランのスタッフさんは記憶が曖昧なところもあって……。ラジオに育ててもらった私としては、「頑張らなきゃ!」と思っています。頑張ると言っても楽しくて仕方ないわけですが、DPAとかEPAとかそういう記憶に良いとされるサプリメントをとって努力しています。(笑)。
 
──いやいや、クリスさんの記憶力は尋常じゃないですよ。
 
クリス たとえば中島みゆきさんは知っていても『わかれうた』は聴いたことがないとか、サザンオールスターズでいえば『いとしのエリー』を知らないといった世代が増えているのは事実ですから。私たちの世代にとっては当たり前のことが当たり前ではないんです。だとしたら、ちゃんと次の世代にも過去の「いい音楽」を伝えていかなくちゃいけないし、同時に昔の曲しか聴いていない中高年に向けて今の「いい音楽」も届けていきたい。ジャンルも年代も私に言わせれば関係ないですよ。いいものはいい。それだけの話です。
 
 
【取材協力】
ラジオ日本
クリス松村の「いい音楽あります。」
放送日時:毎週日曜日 20:00~21:00

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