デザインの基は「聞く力」 元バンドマンのアートディレクター大井 … – 中国新聞デジタル

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記者:栾暁雨
記者:高橋洋史
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 1日にオープンした「中国新聞U35」の新サイト。デザインやキャッチコピーを担当したのは広島市南区のアートディレクター大井健太郎さん(42)です。広島パルコ(中区)の広告なども手がける大井さんは元バンドマン。音楽とデザインの共通点は「聞く」ことと語ります。(聞き手・栾暁雨、写真・高橋洋史)
【大井さんってどんな人?】 おおい・けんたろう 廿日市市生まれ。舟入高卒。広島工業大環境デザイン学科を中退し、穴吹デザイン専門学校でグラフィックデザインを学ぶ。卒業後、友人と結成したバンド活動のために上京。バンド解散後は東京都内のデザイン会社に就職し、31歳で広島に帰郷。34歳で独立し、南区宇品御幸にデザイン事務所「Listen」を立ち上げる。
 ―事務所では音楽を流しながら仕事をすることが多いそうですね。
 音楽とデザインって、ちょっと似てる気がするんですよ。というのも、デザインには「視覚的なリズム」のようなものがあって。
 例えばパンフレットで、写真の大きさや配置、文字のフォーマットを同じにすると、ページをめくった時の感覚が、ダンスミュージックの「四つ打ち」っぽいビートになる。等間隔で「ドン・ドン・ドン・ドン」と音を鳴らすリズムです。見た人はテンポ良く感じられる。
 事務所で流す音楽が、デザインのフィーリングにつながることも多いんです。ジャズを聞いていると、ふと「この作品の写真はジャズっぽいスウィング感がある配置にしようかな」とひらめくこともあります。
 ジャズやソウルなどさまざまなジャンルが好きで、パソコンの中には洋楽・邦楽を含めて千曲以上入っています。「このデザインはこのアーティストのこの曲が合いそうな世界観だなー」などと想像しながら、気分によってランダムに再生しています。
 ―音楽とデザインがつながっているんですね。屋号の「Listen」も聞くという意味です。U35のサイト作りでは、私たちの話をたくさん聞いてもらいました。
 Listen、にはクライアントの要望にしっかりと耳を傾けて仕事をしたい、との思いを込めています。僕が目指すのはデザインを見せた時に「そうそう、こんな感じ」じゃなくて、相手の想像の上を行く「おー!」という反応。そのためには、相手が訴えたい、伝えたいことの言葉になっていない部分まですくい取ることが必要です。
 だから、とことん聞きます。イメージをすり合わせてデザインに落とし込み、視覚化し、言語化する。
 そのとき、自分の中にいくつも人格を作って、クライアントやユーザーの立場になって考えてみるんです。僕たちの仕事は、誰かのメッセージを代弁する作業なんですが、人ごとのように考えると全く深みが出ません。まずは私自身が興味を持って没入してみる。視点の高さを合わせる。そうやって、いろんな角度から立ち位置を変えて対象物を見るようにしていて。
 フリーランスはシビアな世界で、仕事に満足してもらえないと二度と次の依頼は来ません。制作物でしか判断されない。だからこそ、全力で相手の要望に応えて成果を出したい。「仕事が名刺代わり」「仕事が仕事を呼ぶ」というか。
 ―すくい取ったニーズを形にするには、センスが必要ですよね。大井さんがデザインで大切にしている3要素があるとか。
 「論理的・美的・直感的」です。「論理的」は、フォントや色の組み合わせなどデザインの全てに理由があること。「美的」は美しくバランスが取れたものであること。「直感的」は、パッと見て「なんかいい」と感じられること。この三つがそろってこそ、良いデザインにつながると考えています。
 ただ、僕の役割はデザインよりも広い領域のアートディレクション。ウェブサイトやパンフレットを作るときに、どんな全体像にするか、コピーや写真はどんなイメージか、モデルを誰にするかなど総合的にプランを立てます。多くの人が関わるので、デザイン力はもちろん全体を見渡す視野の広さ、調整力、聞く力が一層求められます。
 ―「聞く」ことの原点は大学時代のバンド活動にあるそうですね。
 友人7人とバンドを組んで、トランペットを吹いていました。高校時代にインテリアデザイナーに憧れて、それが学べる大学に進んだんですが、建物の構造計算のような理系の勉強が向いてなくて、ちんぷんかんぷん。気付けばバンド活動の方に夢中になってました。「東京スカパラダイスオーケストラ」が人気だった時期で、卒業後に上京して、メジャーデビューを夢見ていました。
 管楽器パートの作曲を担当し、広島のインディーズレーベルからCDも出して。ジャケットのデザインも自分でやっていましたね。家賃を節約するためにメンバーとルームシェアしたり、下北沢の中古レコード店でバイトをしたり。
 20代をささげたバンドは結局解散してしまいましたが、誰かと一緒にハーモニーを奏でて、作品を完成させていくという経験は今に生きています。互いの音を聞かずに独りよがりの演奏をすると不協和音になってしまう。でもメンバーの音をよく聞いて互いの癖がわかっていれば、アドリブにも対応できます。クライアントの要望を聞くこととも共通点がある気がします。
 ―スマートな印象の大井さんですが、意外にも工事現場で働いた経験があるとか。
 バンド解散後、そろそろ定職に就こうと都内のデザイン事務所に就職しました。アシスタント業務から始めて基礎から教えてもらったのですが、勉強しなきゃいけないことが無限にあって。自分の実力不足に心が折れて2年ほどで退職してしまったんです。
 そこから日銭を稼ぐために、半年ほど工事現場で日雇い労働をしました。そしたら今度はリーマンショックで求人がなくなった。朝、集合場所に行っても「今日の定員は埋まったから」と断られてばかり。明日からどう生活しようかと途方に暮れました。
 どん底でした。でも、このどん底があったから精神的に鍛えられたし、仕事の粘り強さにもつながっている気がします。今はありがたいことに20案件以上の依頼がありますが、フリーランスは常に仕事がなくなる不安とは隣り合わせ。でも当時に比べたら何とでもなるかと。バンド活動も含めて遠回りした気もしますが、人生に無駄なことはないなと思います。0から1を生むクリエーティブな職種ほど、あらゆる経験が生きるのかもしれません。
 その日暮らしが続く中で危機感が募り、今度こそデザインに真剣に向き合うと決意できました。一人で最初から最後まで担う少人数制の事務所に入り、「どんなことも食らいついてやってやる」の意気込みで、朝8時過ぎから終電まで働きましたね。ハードでしたが、すごく勉強になりました。この仕事はいつも複数のタスクが同時進行していて納期や時間を管理することが求められますから。
 企画書作りも任され、僕は言葉で的確に表現するのが得意だと気付けたことも収穫でした。小さい頃から文字や本を読んで、想像を膨らませることが好きで。そこから自分なりのワードセンスを獲得したのかもしれません。コピーが書ければ仕事の幅が格段に広がるんですよ。
 ―仕事ではコピーを考えるのが得意なのに自分を語るのは苦手だそうですね。
 多分、僕は本質的にアーティストではないんだと思います。自分が心から「これを表現したい」という渇望はない。基本、のめり込まない性格で、何かを収集したりハマったりした記憶もありません。「自分はこう!」と主張するより、誰かの思いをすくい上げる方が得意なんでしょうね。
 カープファンだけど、ほどほどだし、サッカーW杯も日本が勝っている時だけ見る、みたいな。盛り上がっている瞬間は興味あるけど、それが持続しないというか。でも、自分はこれ!というのが薄いからこそ、多角的な視点が持てるというメリットもあるのかな。
 ―例えば?
 千葉県の津田沼パルコがもうすぐ閉館するということで昨年、広告を担当したんです。僕は津田沼に行ったことも住んだこともないけど、きっと地元の人はパルコにすごく愛着があるはずですよね。ツイッターでお店に関する声を集めたり、自分の青春時代にも思いをはせたりして、追体験しようとしました。
 完成したのは、屋上から手を振る従業員たちの集合写真に添えた「その瞬間まで、ここで。」というコピーです。45年の歴史に幕を下ろす日が迫る中、閉店まで元気に営業を続けるとの決意を言葉にしました。
 ―すごく響きます。広島パルコの広告「こころまでステイしてたまるか!」も印象的でした。
 コロナ禍がひどかったときに考えたコピーです。家からは出なくてもオシャレする気持ち、ファッションへの情熱までは諦めない、との思いを表現しました。
 この仕事が楽しいのは、自分の知らない世界をのぞけること。新しい学びがあることです。クライアントは新聞社や飲食店など異業種の人たちばかり。時には商品がマニアックすぎて面食らうこともあるけど、まずは知らなきゃ始まらない。想像力を働かせて相手の趣旨やニュアンスを理解するようにしています。
 U35のサイトづくりの仕事はいかがでしたか。
 中国新聞は実家が購読していたので親しみがありました。新サイトの打ち合わせでも「ニュースを届けたい」「役立つものにしたい」という熱量が感じられた。新聞離れとも言われていますが、「ないより絶対あった方がいい、それが新聞の情報なんだ」と、自分なりに解釈しました。
 新聞社の皆さんの熱量や汗が伝わるコピーにしたくて、「熱」や「サプリ」「栄養」というワードが浮かんだんです。ロゴの丸みには元気さとポップさ、気軽に構えずにニュースに触れてほしいというメッセージを込めました。デザインも含め、新サイトに注目してほしいですね。
 ―仕事熱心ですよね。すごくお忙しいようですが、息抜きもしていますか。
 独立するまではパソコンだけの無機質なオフィスで働いていたのですが、デザインのことだけを考えていると息が詰まります。今の事務所には、あちこちに観葉植物やドライフラワーを置いています。妻がフラワーアレンジメントをやっていて。職場に物音や環境の変化がある方が刺激をもらえるし、仕事と私生活が共存している方が心地いいタイプなんです。
 ―事務所にお邪魔したときに、ビニールプールがあってびっくりしました。
 ああ、それは2歳の娘が夏に遊ぶ用なんです。たまに子連れ出勤してて。無趣味の僕が今一番楽しいのは娘との時間かな。表情がくるくる変わるし、日々進化していて面白いんですよ。「父親」という立場が加わったことは仕事にも生きています。飲食店に行く時も、一人の時と子連れで行く時の違いを知って、ファミリー層のニーズが理解できるようになりました。
 ちなみに広島パルコの昨夏の広告で、「イケイケゴーゴー アチアチサマー大作戦」というコピーを考えたんですが、これも娘が熱い物を食べて「あちっあちっ」と言っていたのがヒント。かわいさと無邪気さがある語感で気に入っています。子どもがいなかった頃なら出てこなかったコピーです。一緒に遊んだり、お風呂に入れたり寝かしつけたり。仕事に割く時間は減ったけど、得る経験は増えています。 
 ―黒猫の「クロ」にも玄関先で何回かあいました。
 地域猫でいつの間にか居着いたんです。気まぐれなので、すぐプイっといなくなるんですが、餌をもらうときは愛想良く近づいてくるんですよ。機嫌がいいと尻尾を触らせてくれます。パソコンに向かうことが多いからこそ、猫や植物のような生き物との触れ合いが癒やしの時間です。締め切りが迫って「いよいよやばい」ってときに、毛をなでているとほっとするんですよね。
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