プライマル・スクリーム(Primal Scream)が名盤『Screamadelica』を完成させるまでの実験と冒険 – Mikiki

91年のリリースから歳月を経てなお、プライマル・スクリームの最高傑作と名高い『Screamadelica』。80年代終盤からイギリスを席捲していた〈セカンドサマーオブラブ〉のムードを反映した同作は、インディーロックとダンスミュージックの記念すべき交差点として、現在も多くのアーティストに影響を与え続けている。
発表から30年目となる今年、『Screamadelica』制作時のデモを集めたアルバム『Demodelica』が登場した。“Come Togeher”や“Higher Than The Sun”といった代表曲のデモを含む全16曲は、バンドがいかに試行錯誤をしながら『Screamadelica』を作り上げていったのか、その実験と冒険の軌跡と言えよう。また、同時代のバレアリックやクラブミュージックとの共振がオリジナル盤以上に窺えることも興味深い。音楽ライターの三田格が『Demodelica』を解説した。 *Mikiki編集部
 
プライマル・スクリームはダンスカルチャーに乗り遅れていた
イギリスのインディーロックがダンスカルチャーと交錯し始めたのは87年からで、ポップ・ウィル・イート・イットセルフとエイジ・オブ・チャンスがまずはイギリス中部から飛び出した。すぐ後につけたのがマンチェスターのハッピー・マンデーズとスコットランドのシェイメンなど北部のバンド群。こうした動きに刺激を受けたのか、セカンドアルバムでサイケデリックロックの復権を印象づけたジーザス&メリーチェインは翌88年になると“Sidewalking”でダンスカルチャーの可能性を急拡大させる。サーフィンロックとヒップホップ・ビートを結びつけ、独特のノイジーな処理がアンダーグラウンドに与えた影響は計り知れないものがあり、ジーザス&メリーチェインのデビューアルバムでドラムを担当していたボビー・ギレスピーも少なからず心は動かされたに違いない。
そこからはヴェテランも職業の区別もなくダンスカルチャーに対してさまざまなアプローチが入り乱れ、キュアーのようにバンド活動を中断して海賊ラジオでレコードばかりかけていたグループも現れる。プライマル・スクリームは、その時点ではガレージロックに取り組んでいて、言ってみれば完全に乗り遅れていた。間違っても先駆者ではなく、プライマル・スクリームのセカンドアルバムに収録された“I’m Losing More Than I’ll Ever Have“をアンディ・ウェザオールが90年にリミックスするまでは最後尾にさえたどり着いていなかった。
 
『Screamadelica』の骨格をなしているのは60年代の感覚
ウェザオールが手を加えた“Loaded”により、一気にハッピー・マンデーズやフラワード・アップと肩を並べることができたのはブルースギターをダンスフロアに鳴り響かせるという発想があまりに斬新だったから。ロックをハウスに寄せるのではなく、いってみればハウスをロックに引き寄せるという重心の移動がしっかりと形になっていたのである。90年という年はアシッドハウス・フィーヴァーが過熱しすぎて、よりハードに向かう流れがある一方、どことなく倦怠感もあり、アンビエントハウスへの助走もすでに始まっていて、“Loaded”のブルースギターは後者に驚くほどアピールしたのだろう。
続く“Come Together”は本人も発言していたようにソウルフルであからさまなハッピー・マンデーズへのアンサー。さらに91年に入ってリリースされた“Higher Than The Sun”は(あっという間にアンビエントダブの覇者となってしまった)ジ・オーブの手腕を借りたサイケデリックヒップホップで、『Demodelica』に収録された“Higher Than the Sun”(と“Inner Flight”)の各デモを聴くと、ビートルズの“Lucy In The Sky With Diamond”や“Strawberry Fields Forever”をダブでやろうとしているような初期衝動が聴き取れる。
ハウスやブレイクビートはあくまでも味つけであり、アルバムの骨格をなしているのは60年代の感覚だったということが否応もなく伝わってくる(『Demodelica』は全体にモータウンもしくはそれをマネたローリング・ストーンズのリズムとビートルズのコード進行が随所で交錯しまくる印象というか)。

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