スコーピオンズ新作『Rock Believer』の内容: バラードは1曲のみ … – https://www.udiscovermusic.com/

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2022年2月25日に発売となったスコーピオンズ(Scorpions)7年ぶりの新作アルバム『Rock Believer』。
1972年のデビュー・アルバム『Lonesome Crow(恐怖の蠍団)』から50年を迎えるこの新作について、音楽評論家の増田勇一さんに寄稿いただきました。
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2月25日、スコーピオンズの新作アルバム『Rock Believer』が発売を迎えた。2010年発表の『Sting In The Tail』を最後に一度は引退を決めていた彼らだが、同作に伴うワールド・ツアーでの想定以上の熱狂的反応を経てプランを撤回。2015年にはまさに永続宣言をするかのように『Return To Forever』と題されたオリジナル作を発表している。
それから7年を経て登場した今作は通算第19作にあたり、モーターヘッドの最期を看取ったドラマー、ミッキー・ディー(2016年加入)を擁する現布陣での初作でもある。収録曲のひとつである「Peacemaker」が昨年11月に先行配信されてからというものファンの期待感は膨らむ一方だったはずだが、同楽曲に勝るとも劣らないキラー・チューン満載の今作については、早くも「2022年のベスト・アルバム候補」といった絶賛の声が集まり始めている。
このバンドと向き合った際にいつも実感させられるのは、衰えとはまったく無縁の“現役感”のすごさだ。実際に現在進行形で続いている現役バリバリのバンドに対してこのような言葉を使うのは失礼かもしれないが、このバンドの創設時からのメンバーであるクラウス・マイネ(vo) とルドルフ・シェンカー(g) はともに1948年生まれで現在73歳ということになる。彼らの若々しく精気に満ちたたたずまいや、今作における“枯れ”とは無縁の鋭利なバンド・サウンドに触れると、年齢相応などという言葉が無意味なものに思えてくるほどだ。
スコーピオンズがドイツのハノーファーで結成されたのは1965年のこと、そして『Lonesome Crow』と銘打たれた1stアルバムが世に出たのは1972年のことだ。つまり今年はこのバンドにとってデビュー50周年のアニヴァーサリー・イヤーにあたる。1972年といえば、ハード・ロック史においてはディープ・パープルの『Machine Head』が登場した年にあたるが、この年の日本では小柳ルミ子の「瀬戸の花嫁」がヒットし、郷ひろみ、西城秀樹がデビューし、前年にデビューしていた野口五郎とともに“新御三家”として人気を集め始めている。グアム島で元日本陸軍兵士の横井庄一さんが発見され、札幌で冬季オリンピックが実施され、沖縄がアメリカから返還され、アメリカ映画『ゴッドファーザー』が公開されたのもこの年のことだ。
そんな時代に登場した『Lonesome Crow』は同年を象徴するようなヒット作品にはならなかったし、スコーピオンズ自体もまだ自らのスタイル確立にまでは至っていなかったが、クラウスの歌唱、マイケル・シェンカーのギターワークなどには若さとは不釣り合いな凄味がすでに伴っていた。ルドルフの実弟にあたるマイケルはほどなくUFOに引き抜かれる形でバンドを脱退し、結果的に彼にとってはこのデビュー作がスコーピオンズでの唯一の全面参加作となっている。
 
激しさばかりではなく哀愁を帯びたメロディやねばりのある歌声を特徴とするスコーピオンズの音楽は、ここ日本でも70年代なかば頃から人気を集めるようになり、そうした音楽性自体も“日本人好み”のものとして認知されるようになった。だからこそ当然のようにこの国との関わりも古く、1978年4月には初のジャパン・ツアーが実現。東名阪での計5公演が実施され、そのうち4月24日、27日に行なわれた東京・中野サンプラザホール公演の模様が収録されたライヴ・アルバム『Tokyo Tapes』も同年中にリリースされている。ちょうど同じ年にチープ・トリックが『At Budokan』、翌1979年にはジューダス・プリーストが『Unleashed In The East』という日本での収録による歴史的ライヴ作品をリリースしている事実も興味深い。当時の日本がすでに欧米のバンドにとって「ワールド・ツアーのたびに当然のように赴く国」だったならば、この国でライヴ・レコーディングすることに特別な意味はなかったはずだ。
その『Tokyo Tapes』にも収録されている象徴的な楽曲のひとつに“荒城の月”がある。言うまでもなく滝廉太郎の作による日本の楽曲だが、この曲は、この国のオーディエンスに対する敬意と感謝を込めて彼らがセットリストに組み込んだもので、その選曲自体は当時の日本のファンクラブの提案によるものだったという。彼らは初来日時以降もこの曲を演奏してきたが、日本以外の国でオーディエンスがこの曲を合唱するという現象もたびたび起きていたという。
彼ら自身が異文化の架け橋になっていたとまで言うと少しばかり大袈裟かもしれない。ただ、1991年に『Crazy World』(1990年)からシングル・カットされた美しいバラード「Wind Of Change」が大ヒットし、世界を繋ぐ希望の曲といった認知を獲得することになった現象にも重なるものが感じられる。同楽曲は、1989年にモスクワを訪れた際の印象をクラウスが綴ったところから生まれたもので、歌詞の内容も旧ソビエト連邦のグラスノスチを祝うものとなっているが、同じ年に彼らの母国ドイツではベルリンの壁が崩壊。同国においては東西ドイツ統合を象徴する楽曲としても浸透しており、ドイツ人アーティストとして国内においてもっとも高い売り上げを記録したシングルとなっている。
 
その「Wind Of Change」の桁外れのヒット以降、スコーピオンズには「バラードで支持を集めているバンド」というようなイメージも付きまとうようになった。とはいえそれ以前から彼らのアルバムには名曲と呼べるバラードがかならず収められていたし、今作『Rock Believer』に収録されている「When You Know (Where You Come From)」も、そうした名バラードのリストに名を連ねることになるだろう。ただ、いわゆるバラードとして分類可能な曲は、今作にはその1曲以外には見当たらない。
その事実にも裏付けられているように、今回の彼らが目指したのは、あくまでハード&ヘヴィなロック・アルバムを完成させることだった。実際、このアルバムには、彼らのこれまでの歴史における絶頂期と目されてきた『Blackout』(1982年)や『Love At First Sting』(1984年)にも重なる感触があり、ロック・アルバム然としたスピード感が伴っている。なおかつ70年代的な味わいも感じられ、楽曲自体も粒揃いで、新曲のみで構成されているにも拘らずベスト・アルバムを聴いているかのような錯覚をおぼえるほどだ。
今作は、スコーピオンズにとっては「デビュー50周年記念作品」といえるものでもあり、このバンドの特性が凝縮されたかのような作品像にもそう呼ぶに相応しいものがあるが、1stアルバム発表から半世紀を経てきた老舗バンドに似つかわしい説得力を持ち合わせてはいても、ノスタルジックな空気とはまるで無縁のものだ。ただ、これまで常に作曲先行という形式でアルバム制作をしてきたのに対し、今作では大半の収録曲が歌詞先行で作られており、クラウスによるこれまでの歴史を振り返るような表現もあちこちに見受けられる。
「When I Lay My Bones To Rest」は彼が長年のパートナーであるルドルフとの友情とこのバンドの成り立ちについて綴ったものだし、「Knock ’Em Dead」ではアメリカ市場へと打って出た頃の心境が描かれている。
さらに日本盤のみに収録のボーナス・トラック「Out Go The Lights」では日本での記憶が書き連ねられていて、その歌詞中にはBullet Train(新幹線)や、Mr.Udo(ウドー音楽事務所のファウンダーである有働誠次郎氏)の名前も登場する。1978年の初来日当時のカルチャー・ショック的な体験も、確実にこの歌詞に反映されているはずだ。
実際、彼らはその日本初上陸時に、自分たちの音楽が国境や文化の違いを超えて世界に届きつつあることを初めて実感することになったと認めている。そうした所縁深いここ日本のロック信者たちのためにも、この最新作を携えながらの来日公演実現を期待したいところだ。
Written By 増田勇一

スコーピオンズ『Rock Believer』
2022年2月25日発売
CD /  iTunes Store / Appel Music / Spotify / Amazon Music


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