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配信
（C）ANYCOLOR, Inc.
現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一つであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。 【動画】10分で分かる雨森小夜 メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ1年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加している。 デビューから順を追うように紹介してきた本連載。元1期生、元2期生、元ゲーマーズ組の次は2期にわたる元SEEDs組。SEEDs2期生は複数回に渡ってデビューが分かれているなかで、ここ数週は第1弾として発表された面々を中心に取り上げてきた。 漢のなかの漢・舞元啓介に続いて前回書かせていただいたが、彼の横にいるにじさんじのタレントといえば、盟友のジョー・力一と雨森小夜を思い浮かべるファンが多いかもしれない今回はそんな雨森小夜について記していきたい。 2018年8月9日にTwitterに初ツイート、12日に「001.女生徒」を投稿。黒上のボブカットに髪留めで括り、黒いセーラー服、黒ストッキングに黒いローファー。そのビジュアルはどこか昭和の女学生を思い起こさせ、可憐でありながらも儚げでミステリアスな風貌であった。 だが彼女の配信を見てみれば、その印象はガラリと変わるはずだ。 速射砲のように次から次へと話をつづけていくお喋り好きな彼女。とめどなく話題を引っ張ってこれるだけのエピソードも豊富で、逆に「これは冗談ですよ？」と言われるまで本当だと思わせてしまう作り話の即興力もある。「山で山賊に間違えられる」「病院で頭の検査を受ける」「学校のころにみた校長先生」など、どこまでが本当でどこまでが嘘なのか、いっさい分からないレベルである。 そうかと思えば、画面上で行われているチンプンカンプンな動きや、ちょっとした企画と展開の数々を通して、視聴者の想像からはるか彼方へと飛び出していってしまうのも彼女である。 2本目の動画となった「第一話 ねらわれた学園！？目覚める勇者！！」は、銃撃戦となったジャングルのなかを疾走していらすとやのキャラクターと会話してから甲子園へとぶっ飛び、とある時期からはバーチャル網走刑務所ならびに網走駅前から配信を始めたりと、ある日の雑談では自分が自分に対談・会話を仕掛けてみたり……。 彼女が投稿している初期8回分の放送をまとめた動画を見てみても、「たしかにまとまってはいるが、なぜこんなことになっているのかが分からない」ということが伝わるはずだ。 なかでも「運営から動きが少ないので、動きをつけてみましょうと言われたので……」と始めた超高速・雨森小夜をお披露目した配信は、にじさんじのなかでも屈指のハイライトシーンに数えられるだろう。このほかにも数々配信してきた生放送のなかで、ちょっとしたネタを用意してはリスナーを笑わせ、戸惑わせ、記憶に残る配信をいくつも届けている。 か細くも芯のある声をもつ彼女。会話の中でも、時に弱々しく、時に妖しく、時に元気よく、さまざまな声色でリスナーに語り掛けてきた。同僚らからの評価も高く、「センシティブ雨森」といつのころからか評価されるようになった。 そのボイスの威力とトーク力は、にじさんじのタレントでは特に舞元啓介への異常な愛情となって配信に出てくることが多く、「ねぇダーリン」「啓介ぇ」とハートマーク多めに呼びかける声は一級品である。ちなみに2人が語るところによると、配信外でもほとんど会話することはなく、メッセージでやりとりを始めると絶妙な距離感でフザけ倒してしまうとのこと。 緑仙が企画した「にじさんじ架空声優」では、3キャラクターの演じ分けを某声優・某女優・某ボーカロイドを感じさせながら演じ、4つ目に演技した「すみれの人生」では年少・老婆・男性・女性をストーリー仕立てで変化しながらも演技するという、多くのリスナーの度肝を抜くレベルのアクティングを見せつけた。「雨森小夜の本気」に触れた瞬間として忘れられないところだろう。 学生のビジュアルで奇才っぷりを見せつけるという点では、やはり月ノ美兎の姿がダブって見える人もいるだろう。一瞬のキレという点においては、もしかすると委員長を超える切れ味を誇っているのかもしれない。 そんな彼女が愛し続けているものとしてあがるのは音楽、とくに00年代以降の日本のロックミュージックである。 The Birthday（元THEE MICHELLE GUN ELEPHANT）のチバユウスケ、Number Girl・ZAZEN BOYSの向井秀徳、BUMP OF CHICKENの藤原基央、ELLEGARDEN・MONOEYES・the HIATUSの細美武士などについて話しはじめると、楽曲についてだけではなく、妄想話までに膨らんでいってしまうほどに熱狂的だ。 彼女とロックといえば、2019年8月2日に「にじロック」と名付けられた邦ロックリレー配信に参加し、歌リレー配信を届けたことまでさかのぼる。緑仙、三枝明那、加賀美ハヤト、轟京子、ジョー・力一、夢追翔に雨森小夜の7名が参加した同配信リレーは大盛り上がりであった。ほかにも歌配信・動画などには前向きであり、久遠千歳や加賀美ハヤトとのデュエットなどをみせてくれていた。 2021年10月30日には、2020年にオープンしたばかりのぴあアリーナMMにて『NIJIROCK NEXT BEAT』としてライブを披露。先に述べた邦ロックリレーに出演した7名が出演した同イベントで、轟京子とともに自身の3Dビジュアルを初めてお披露目した。 彼女の配信アーカイブをみれば分かるように、デビューから4年の中でも動画・生配信の数は80個ほどとかなり少ない。そんななかでも、本イベントに関する話題が出たあとの配信では、あまりの嬉しさと緊張のためか2週のうちに3回も雑談配信をするという、彼女にしてはかなり珍しい配信ペースとなった。3回の配信のなかでは必ず「00年代の邦楽ロック」「一般人じゃ体験しえないエピソード」を存分に語っている。 横浜アリーナはかつてTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTが日本で初となる「アリーナ会場でのオールスタンディングライブを開催」した会場である。そこから目と鼻の先にある新たな横浜のライブ会場「ぴあアリーナMM」にて、日本のエンタメ・最先端を走る彼らが「ロック」なライブを披露するというと、巡りあわせがとても感慨深くなってしまったのを覚えている。 可憐さ・不穏さの奥に特大の愛を秘めた雨森小夜。2021年11月11日に「振り返り」配信をして以来、じつは本稿を執筆している10月10日まで一切配信をしておらず、2021年12月10日に予定していた3Dお披露目配信も親族の事情でキャンセル、2022年に入ってからSNSを通してメッセージを発したのも6月3日のツイートのみ。 2022年9月23日に公開された『にじさんじの奇怪な物語』にて、エピソード「追いかけてくる公衆電話」に出演するなど、その姿は確認されてはいるものの、やはり配信などをしていないとなると、少しばかり不安な気持ちになってしまう。 にじさんじに所属しているタレントは様々な事情を抱えている。あるものは兼業として活動し、あるものは都心からは程遠い場所で活動し、あるものは一人暮らしではなく家族とともに活動している者もいる。 それぞれに合わせた活動内容・ペースがあって然るべきなのを承知で話せば、にじさんじに所属するタレントのなかで、いま現在なにをしているのかが皆目見当がつかず、3Dお披露目配信はおろか通常配信がもっとも待たれているタレントの一人として、語部紡やギルザレンⅢ世とともに雨森小夜の名前が間違いなく上がるだろう。 先にも書かせてもらったが、彼女はこれまでに80回ほどの動画・生配信のアーカイブを残している。その配信は1時間から2時間ほどで終わるものが多く、ここまで記してきた雑談のなかで尖りに尖った奇才っぷりを見ることができる。決して多くはない彼女のアーカイブを知りながら、彼女の復活を待ってみてはどうだろうか。
草野虹
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