春野 – Beat Makers Laboratory Japanese Edition Vol.22 〜作品ごとに … – サンレコ

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【Profile】東京を拠点に活動するシンガー・ソングライター/プロデューサー。4歳から始めたクラシック・ピアノを軸に、2017年にボカロPとしてデビューする。その後もローファイ・ヒップホップのインストゥルメンタル作品や自身がボーカルを務めるEPを発表し、人気を博している。
Release
CULT – EP
 
 東京を拠点に活動するシンガー・ソングライター/プロデューサーの春野。ボカロPとしてデビュー後、Ujico*/Snail’s Houseとのコラボ曲を収めたローファイ・ヒップホップのインストゥルメンタル作品や、自身がボーカルにも挑戦したEPを発表し、近年YouTubeなどを中心に人気を集めている。彼の音楽は、チルやローファイ・サウンドを取り入れたビートに乗る、心地良いウィスパー・ボイスが特徴的。今回は、制作の背景について話を聞いた。
 両親から聞いた話なんですが、僕が4歳のころにテレビで坂本龍一が「energy flow」を演奏する姿を見て、“ピアノをやりたい”と唐突に言い出したらしいんですよ。それから週に1回ヤマハ音楽教室に通い始め、小学校を卒業するまでクラシック・ピアノを学びました。中学時代はオリコン・ランキングが大好きで、よく国内の新譜をチェックしていましたね。当時はYUIやPerfume、コーネリアスなどが好きでした。DAWで音楽が作れるのを知ったのは、高校を卒業して一人暮らしを始めたころ。鍵盤楽器しか弾けず、バンドを組むタイプでもなかったので一番向いているかなと思ったんです。それから2016年の夏には作曲を始め、ボカロPとして活動開始したのが2017年の1月。初めて投稿した作品では、自分でもびっくりするくらい良い反応がもらえてうれしかったのを覚えています。その後Vocaloidを使わない音楽にも興味がわいて、ローファイ・ヒップホップのビートを作り始めました。作品は、音楽配信サービスのTuneCore経由でストリーミング配信していましたね。最初は反響が無かったのですが、作っている自分が満足していたのであまり気にならなかったんです。それからも黙々と作り続け、2018年にリリースした2つのインストゥルメンタル・アルバム『sigh.』『The Quiet』が、YouTubeを中心に注目を浴びました。
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 注目されるのはうれしかったのですが、そのころの自分はボカロPでもインストゥルメンタルのビート・メイカーでもなく、自分が歌った作品を作りたいと思っていたのです。しかし、これまでボーカリストとしての経験が無かったため自信も無く、新しい表現方法を模索していました。そこでいろいろと探し求めた結果、FKJ「Skyline」に出会ったのです。しっかりとした歌を入れるのではなく、プロダクションの一部としてボーカルを取り入れるアプローチにとてもインスパイアされました。同曲を聴いたときはとても感動しましたね! さらにアリアナ・グランデ「thank u, next」の歌い方やアレンジにもヒントを得て、ウィスパー・ボイスを織り交ぜた自分なりのボーカル・アプローチを確立することができたのです。その流れを受けて制作したのが、2019年8月リリースの『CULT – EP』。結果的には、これが僕のキャリアの中で一番ヒットした作品となり、世の中に知られるきっかけになりました。
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 初期はWindowsマシンにSTEINBERG Cubaseを入れて使っていました。オーディオI/OはROLAND Quad-Caputre、モニターはYAMAHA MSP5 Studioでしたね。実は最近まで2イン/6アウトのUNIVERSAL AUDIO Apollo Twinを使用していたんですが、インプットの数がもっと欲しくて16イン/22アウトのApollo X6に買い換えたんです。
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 このスタジオは防音物件というわけではないのですが、近隣に迷惑がかからないので24時間スピーカーから音出しが可能です。制作時は、開放型ヘッドフォンFOCAL Clear Professionalとモニター・スピーカーのFOCAL Shape 50を併用しています。もともとヘッドフォンのみで制作していた期間が長かったので、Clear Professionalで音作りをし、低域の確認時などにShape 50を鳴らしていますね。
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 自分の作る音楽はリラックス系の楽曲なので、登場する音数が増え過ぎないように気を付けています。ついつい盛り上がって、いろいろなパートを増やしたくなってしまうときもありますが(笑)。“せっかく作ったからこの音も使おう”ではなく“この音を抜いたらこっちの方がいいじゃん”みたいな、引き算の美学を大切にしています。
 まずサンプルを使用するにあたって、“ワンショット素材はOK/ループ素材はNG”というマイ・ルールがあるんです。理由は、ループ素材を使うと簡単にグルーブが出せてズルをしている気持ちになるから。個人的には、ワンショット素材を駆使して作ったビートでグルーブを出せたときが最高ですね。グルーブの秘けつは、グリッドにサンプルを配置せずに一つずつ手作業で配置していくこと。サンプルやMIDIノートをグリッドに沿って置けるのはDAWで作業するメリットの一つでもありますが、“グルーブを出す”という点においてはデメリットになると思います。そのため、僕はループ再生しながらキック、スネア、ハイハットの順番でサンプルの位置を微調整していくんです。それでもうまくいかないときは、MIDIコントローラーのNEKTAR Panorama P6に搭載されたパッドをたたいてみます。逆に上モノでは、奇麗にMIDIを打ち込んだあとに手動でずらしていくことが多いです。
 ドラムはサンプルで、生ベースにはIK MULTIMEDIA Modo Bassを使っています。Modo BassはCPU負荷が軽く、さまざまなベースの音をすぐに出せるので優秀です。よくサチュレーションを使って、前後の距離感を調整しています。シンセでよく使用するのは、ビンテージ・モデルを再現したU-HE DivaやRepro-1です。音作りのしやすさナンバー・ワンだと思うのはLENNARDIGITAL Sylenth1。ピアノにはSPECTRASONICS Keyscapeを用います。プリセットが膨大なので、その中からイメージに近い音色を選んでいじることが多いです。また、高級グランド・ピアノをサンプリングしたVI LABS Ravenscroft 275もお薦めですね。よくやるのはレイヤーで、オクターブ違いだったりデチューンをかけたオルガンをピアノにうすく重ねたりしています。こうすることによって、音に厚みと広がりが出せるのです。ボーカルによく使うリバーブはUNIVERSAL AUDIO UAD-2 Lexicon 480L。密度のある残響音が奇麗に減衰していくところが好きなんです。お気に入りのコンプは、GOODHERTZ Vulf Compressor GHZ-0002 V3。ローファイのパラメーターを上げると、一発でくぐもった雰囲気が作れます。ドラムのバスやピアノなど、何にでもかけていますね。
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 まだライブをやったことがないので、近いうちに実現できればといいなと思っています。早く皆と会場で一緒に歌ったりしてみたいですね。また、自分は飽き性なので同じことを長く続けられないタイプ……。だから、これからもどんどん新しいことに挑戦していきたいと考えています。ファンの方たちには、作品ごとに自分が大きく変化していくところを楽しんでもらえたらうれしいですね。
 
thank u, next
「現在の僕自身の音楽スタイルに限りなく影響を与えている一枚。リリースから1年以上たった今でも毎日聴いています。彼女の曲は、いつも僕の心を揺さぶりますね」
 
open.spotify.com
「彼のサウンド・メイキングは天才的! 大胆かつ緻密(ちみつ)なんです。以前は、彼の作業動画をよく見て勉強していました。この作品では「Lunar」が特に好きです」
 
Chameleon – EP
「率直に言うと、グレイはどの曲もひたすら音が良い。また、音の配置の仕方も素晴らしいです。収録曲の「Crime(withSkott)」は、今でも思い出の曲ですね」
 
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 ジコは韓国のラッパー/シンガー/プロデューサーで、裏も表もこなせるマルチなアーティスト。ビート・メイキングや楽曲の構成、使用するスケールなど、どの点においても抜群にセンスが良く、僕の音楽の“お手本”と言える存在です。一つの音楽ジャンルや既成の概念に縛られない発想を持つ彼に、僕はとてもあこがれています。今はまだファンの一人に過ぎないけれど、いつかどこかで対等な立場で会ってみたいです。 
Thinking, Pt. 2 – EP
 
www.snrec.jp
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サウンド&レコーディング・マガジン 2023年2月号
発売日2022.12.23
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