「サステナブル」と「サステナビリティ」の違いとは? 本質的な理解を阻む … – WWD JAPAN.com


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文・ ソーン マヤ井口恭子木村 和花

 「WWDJAPAN」の翻訳担当による連載「翻訳日記:イマを読み解くキーワード」では、翻訳した米国版「WWD」のニュースを引用し、その言葉が日本語や英語でどのように使われているかなどを考察。注目のニュースから英語的な感覚を養い、物事を新たな角度から見るきっかけを提供する。連載を担当するのは、「WWDJAPAN」で翻訳を主に手掛ける先輩Kと後輩M。気づけば翻訳の道に入ってはや四半世紀の先輩Kと、入社3年目でミレニアルとZ世代の狭間を生きる日英バイリンガルの後輩Mが交換日記を交わすように話を深めていく。
 4回目は、国内セレクトショップなどのほか、サステナビリティにアンテナを張った記事コンテンツを多く手掛け、翻訳記事の執筆もする入社4年目の記者Aを招いて雑談。「サステナブル」「サステナビリティ」の文法的違いなどを起点に、サステナビリティにまつわるニュースの翻訳で気をつけていることなどの裏話を語る。
後輩M:自分自身もサステナビリティについてはまだまだ勉強中なので、ぜひ3人で同トピックの翻訳事情について考えていけたらと思います。私は「サステナブル」と「サステナビリティ」という言葉が混在している現状に違和感があります。曖昧な言葉の使用によってサステナビリティに対する理解が遠ざかってしまっている気がして……。
先輩K:「サステナブル(Sustainable)」は形容詞。直訳すると「持続可能な」という意味ですね。「サステナビリティ(Sustainability)」は名詞形なので、一般に「持続可能性」と訳します。日本では主に地球環境を保護する行動や取り組みに対して使いますが、本来はそれぞれ単に「持ちこたえられる」「持ちこたえる力」という広い意味を持つ言葉です。
後輩M:文法的には、「サステナブルに取り組む」は誤用で、正しくは「サステナビリティに取り組む」もしくは「サステナブルな取り組みをする」となりますよね。
先輩K:そうですね。日本語では「ラグジュアリー」も似たような感じで、本来は形容詞である「ラグジュアリアス」を使うべき場合でも名詞形の「ラグジュアリー」を使うという用法が定着してしまっていて、個人的には引っかかります……。
 話をサステナビリティに戻しますと、環境に関する話題も「サステナブル」の一言で片付けるのではなく、使っている素材や製造工程などを具体的に示し、「だからサステナブルなんだ、持続可能なんだ」と読者が分かるようにすることも大切ですね。
記者A:「WWDJAPAN」でも、「サステナブルと言わずにサステナビリティを語ること」を心がけています。「サステナブルな新製品」というと聞こえはいいですが、素材や働き方、売り方など、どういった要因で「サステナブルなのか」を明記しないといけないですよね。
後輩M:ビューティ雑誌の「アルーア(ALLURE)」は2021年4月以降、「地球に優しい」「エコフレンドリー」といった、定義が曖昧な言葉の使用をやめるという方針を固めています。同じメディアとして、刺激を受けました。
後輩M:サステナビリティは環境問題に加えて、持続可能な労働環境かどうかといったフィルターを通して、ジェンダーや人権の問題にも延長して考えることができます。確かに「サステナブルなパーカを発売」と聞いたり、見出しを書いたりしたときに、それがジェンダーに包括的なパーカーであると想像することは難しいし、英語圏でもそういう使い方はしません。ただ、自分で考えていけるような深い理解のためには環境の話に限定したものではないと認識は必須ですよね。
 南アフリカ出身でケープタウンを拠点とするデザイナー、シンディソ・クマロ(Sindiso Khumalo)は、「サステナビリティについて話すとき、私は貧困問題を解消するという側面から見るようにしている」と語っていて、実際2020年に発表したコレクションにはブルキナファソ(西アフリカの国)にあるブランドの工房で手織りしたダファニコットンを使用し、搾取的な性産業から逃れることを支援するケープタウンのNGOを通して女性を雇用して、手編みのポケットや刺しゅうを作品に施しています。クマロは「セックスワーカーにトレーニングを提供しながら共に仕事し、性産業に戻らないようにすることは私にとってサステナビリティの一部。オーガニックコットンをたくさん使用するだけでサステナブルなデザイナーになれるとは思わない。それ以上のことをしなければならないような気がする。素材に限ったことでなく、価値観や人に関連したものでなければならないと理解する必要がある」と言っていたことにすごく共感しました。
記者A:「WWDJAPAN」のウェブサイトにサステナビリティのタグを新設するときも、サステナビリティが何を含む言葉なのかについてたくさん議論しました。22年現在は個人のアイデンティティーや人権に関する問題などの一環として、LGBTQ+の話題もサステナビリティタグの中に含んでいます。
後輩M:環境に関する用語も、サステナビリティ、エコ、エコフレンドリー、エシカルなど多様なのでジャンル分けは難しいですよね。
記者A:「サステナビリティを担当しています」と言うと、「エシカル系ね」と言われることもあるんです。日本では今でいう“サステナブランド”はこれまではエシカルブランドと呼ばれていたように思います。エシカルとサステナビリティのニュアンスの違いも気になります。
先輩K:エシカルとサステナビリティの違いは、エシカルは環境や社会への配慮という意味の中でも、より倫理的かつ道義的な配慮が含まれていることです。似た文脈で使われることもありますが、サステナビリティが出てくる前からある言葉ですし、精神的な部分や語義的な意味で異なると思います。国や宗教、世代によってエシカルの概念も違うので一言では表しづらいですが、より人権問題を強く意識している感覚です。Aさんは他にも気をつけていることや、悩んでいることはありますか?
記者A:やっぱりサステナビリティに関する話題では、日本にない概念や新しい言葉が多いので言葉選びには苦労します。カタカナの方が伝わりやすいこともありますし、日本語に直すとしてもどう表すのが適切かとても悩みます。例えば、航空燃料を化石燃料ではなく、代替素材の燃料にするというニュースがありました。この代替素材の燃料は、サステナブル・アビエーション・フューアル(Sustainable aviation fuel)と呼ばれ、航空業界ではSAFという名称で浸透してます。しかし「WWDJAPAN」でこれをSAFと書いてもピンとくる人は少ないだろうし、カタカナで書いても伝わりづらい。結局、記事内では固有名詞は使わずに「化石燃料の代替を進める……」という風に言い換えました。
後輩M:概念が浸透してその言葉に慣れてきたらカタカナの方がわかりやすい時もありますし、読む人の知識量やバックグラウンドにも左右されますよね。
先輩K:私は概念が浸透する前のカタカナ語は使わないようにして、固定訳がないものでもなるべく漢字で説明して、カッコ書きをつけるようにしています。文章として見ると鬱陶しいんですが、文章の美しさよりは内容が伝わることを重視した方がいい。言葉の定義やイメージが曖昧になりがちなカタカナ語は、それが一般化するまでは日本人がイメージしやすい日本語に直して、正しい理解を促すことにしています。
記者A:本来のメッセージ性も併せて翻訳できれば良いのですが……。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が最新の報告書を発表した際、同団体は地球温暖化に関する危機感を“Now or Never”という強い言葉で表していたんです。Z世代の環境アクティビストの子たちは、「日本のメディアは訳が柔らかすぎる。全然危機感が伝わらない」と言っていました。私自身が翻訳をする際は「迅速な対応が必要だ」とコメントしているという形で記事を書いていたのですが、“Now or Never”を訳すのに最適な言葉はなんだったのだろうとモヤモヤしています。
先輩K:記事を書く側としては、仮にピッタリの和訳があっても、ニュース記事らしい言い回しやコンテクストを考慮すると使えないこともあります。“Now or Never”だったら、Aさんのような訳や、「今取り組まないと間に合わない」という感じになるでしょうね。訳として間違っていなくても元のメッセージが持つ言葉の力強さやキャッチーさが失われてしまうのは悩ましいところです。
後輩M:サステナビリティというトピックスは、そもそも難しい数字やデータだけでなく、NPO団体や新素材の固有名詞もたくさん登場しますし、アクティビストの多い分野なので一個人の思いも多く取り扱いますよね。「サステナブルな〜」と使いたくなったら「それは何を持ってサステナブルなのだろう」と待ったをかけていくことが大事なのだと思います。

ソーン マヤ
「WWDジャパン」記者


She/Her。韓国とイギリスのミックスレース、日本で高等学校まで過ごす。卒業後はオランダのライデン大学に進学して考古学を主専攻に、アムステルダム大学でジェンダー学を副専攻する。2020年にINFASパブリケーションズに入社。「WWDJAPAN」編集部で翻訳をメインに、メディアの力を通して物事を見る視点を増やせるような記事づくりに励む
She/Her。韓国とイギリスのミックスレース、日本で高等学校まで過ごす。卒業後はオランダのライデン大学に進学して考古学を主専攻に、アムステルダム大学でジェンダー学を副専攻する。2020年にINFASパブリケーションズに入社。「WWDJAPAN」編集部で翻訳をメインに、メディアの力を通して物事を見る視点を増やせるような記事づくりに励む。高校生のときからアルバイトを続け、カフェ・レストラン勤務やベビーシッター、アパレルスタッフ、大手出版社の編集補佐などを経験した。インターンでは、イスラエルやオランダ南部で発掘作業に携わった。電車で本を読むのが好きで、週末は近所の図書館に通う。好きな作家は山内マリコ、好きな出版社はエトセトラブックス、好きな漫画家は中村珍(キヨ)など

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