2010年代のアイドルシーン Vol.10 海外から見た日本のアイドル(前編) ~ 海の向こうのファンに聞いた「私がアイドルに魅了された理由」(音楽ナタリー) – Yahoo!ニュース – Yahoo!ニュース


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海外から見た日本のアイドル(前編)
2010年代のアイドルシーンを振り返るうえで外せないキーワードの1つに「海外進出」がある。背景にあるのはYouTubeやSNSの加速度的な普及。2010年代以前と比べ、日本のアイドル楽曲は海を越えて消費されやすい存在となった。その代表格はもちろんBABYMETALだが、最近はATARASHII GAKKO!名義で88risingから世界デビューし、逆輸入という形で注目される新しい学校のリーダーズや、「すきっ!」がTikTokでワールドワイドにバズった超ときめき♡宣伝部も次々とブレイク。耳の肥えた世界の音楽ファンが日本に目を向けているのは間違いなさそうである。 【動画】【生きる場所なんてどこにもなかった】でんぱ組.inc「W.W.D」Full ver.(他29件) そこで今回、本連載では前後編に分けて「日本のアイドルは海外からどのように見られているのか?」というテーマを多角的に掘り下げる。前半となる今回は海外のアイドルファンおよび関係者の肉声をキャッチ。3カ国の5人が、それぞれの立場から日本のアイドルに魅了された理由を説明してくれた。 取材・文 / 小野田衛 ■ ①【フランス】アンソニー・エリーさん(34歳 / IT関連) □ 「未知のグループを調べるワクワクした陶酔感は、言葉で説明するのが難しい」 日本のアイドルカルチャー全般に造詣が深く、DD(※誰でも大好き=特定のアイドルではなく、複数のグループを推すファン)を自任するアンソニー・エリーさん。アイドルに興味を持つようになったのは、フランス・パリで開催された日本文化の総合博覧会「Japan Expo」にAKB48が出演したことが大きかったという。2009年の出来事だ。以降、興味の対象はモーニング娘。などのハロー!プロジェクト勢にも広がり、折から勃発していたアイドル戦国時代のムーブメントと呼応するようにDD化に拍車がかかっていく。中でもエリーさんに最大限のインパクトを与えたのは、でんぱ組.incの存在だった。 「彼女たちの存在は、YouTubeのミュージックビデオがきっかけで知りました。2012年、日本の『TIF』(『TOKYO IDOL FESTIVAL』)に行ったときも彼女たちのステージを観ましたけど、やっぱり自分の中で決定的だったのは『W.W.D』のMV。曲の出だしでメンバーがいろんな国の言葉をしゃべっていたから、なんだかそれがすごくうれしかったんです。その後、でんぱ組.incの歌詞を翻訳しているファンと知り合って、歌っている中身がわかるようになると、本当に感動しましたね。というのも、メンバーが歌っていた内容はちょっと前……今より若かった頃に私が学校で経験した孤立感やいじめ問題と同じだったからです」 でんぱ組.incの「W.W.D」はひきこもり、いじめ、ネトゲ廃人などメンバーが実際に経験した過去が描かれた私小説的なナンバーだ。このヒリヒリした衝動がやり場のない思いを抱えた日本の若者たちから厚い支持を集めたが、そのメッセージは海を越える普遍性を持っていたのだろう。2013年と2015年には、でんぱ組.incも「Japan Expo」に出演。現地ファンから熱狂的な歓迎を受けることになるが、その際、エリーさんは日本からやって来たファンと交流を深めたという。 「以前は年に1、2回ペースで日本に行く機会もありました。すると、でんぱ組.incのステージを楽しんでいる観客の中で西洋人は自分だけ……みたいなケースもけっこうあったんですよ。やっぱり目立つみたいで、日本人のファンから『ひょっとしてTwitterに書き込んでいたフランスの方ですか?』と話しかけられることも多かった。そういうことも僕にとっては面白い経験でしたね。今はコロナのせいで日本にも行けない状況が続いていますが、でんぱ組.incに関しては引き続き可能な限りフォローしていきたいです」 日本のアイドルにハマり始めた当初、エリーさんはネットを頼りに情報を収集していった。特に重宝したのが「Kawaii girl Japan / BARKS Kawaii」というYouTubeチャンネルで、多くのグループをここで知ることになる。エリーさんの目からは、同チャンネルで司会を務めていた愛川こずえが自分の好きなでんぱ組.incのメンバーになったことも運命的に映ったという。ほかにもTwitter、音楽ナタリーなどの情報サイト、まとめサイトなどに気になるアイドルの情報がアップされていると、すぐさま翻訳サイト「DeepL」を駆使して内容をチェックした。 「彼女たちの歌う楽曲ももちろん好きなのですが、『AKBINGO!』(日本テレビ系)や『ハロー!モーニング。』(テレビ東京系)といった日本のテレビで見せるおどけた一面に夢中になった部分も大きかったですね。ときには親切な人が字幕を付けてネットに上げてくれたりもしたけど、日本語がわからない状態でも十分に番組内容とメンバーの魅力は理解できました」 ネットのおかげで日仏の距離が縮まったとはいえ、フランス人のエリーさんにとって何よりも大きかったのは「Japan Expo」の存在だった。「どんなグループが来るんだろう?」「どんなパフォーマンスをするんだろう?」と、その年の出演者に対して“熱狂的な予習活動”を行うのが習わしとなっていく。 「ワクワクしながら情報を集めているときの陶酔感は、言葉で説明するのが難しいですね。すでにファンがたくさんいる有名なグループであっても、新しいアイドルでパフォーマンス内容を白紙の状態から調べなくちゃいけないグループであっても……。でも長い間、『Japan Expo』の開催自体が僕の機動力になっていたのは間違いないです」 そんな彼に転機が訪れる。「Japan Expo」に観客として参加するだけでは満足できなくなったため、メディア側の立場からイベントに携わるようになったのだ。具体的には、海外ファンに向けた日本のエンタメ系音楽情報サイト「JaME」のフランス語版に記事を書き始めた。 「『Japan Expo』はもちろん、それ以外にも日本のアーティストがフランスを訪れた際はインタビューをさせてもらうようになりました。僕が日本を訪れたときに『JaME』用の取材をすることもありましたね。コロナ禍の現在は残念ながら直接会う形式での取材は難しくなっていますから、メールを使ったインタビュー記事の作成を考えています」 アイドル音楽は世界中に存在するが、日本のアイドルのスペシャルな点はどこにあると思うか? そう尋ねると、アンソニーさんは「それは日本独自の音楽マーケットを抜きには語れない」と断言した。いまだにCDを買うという行為が当たり前に行われているのは、世界的に見るとかなり珍しいこと。ことアイドルの場合、もちろんこれは握手会、撮影会、お話会などの、いわゆる接触サービスが伴うからだ。こうした現象について、アンソニーさんは「ヨーロッパと違い、日本ではアーティストとファンの距離が近い」と好意的に解釈している。 「音楽的な面では、エネルギーがいっぱいで常に動き回っているようなイメージが強いです。僕は特にヒャダインこと前山田健一さんが作った曲が好きなんです。あとは観衆を元気付ける要素が強い点も日本人アイドルの大きな特徴じゃないですかね。ファンと演者が一緒に歌うことを想定して曲が作られていますし。このへんは本当にユニークな点だと思う。K-POPを聴いてみると、韓国って地理的には日本に近いけど、やっていること自体は西洋に近づけようとしている印象があるんですよ」 海外から応援するファンにとって、気軽に日本へ渡航できなくなったコロナ禍は恨めしい問題である。しかし同時に、ライブ配信サイト・ZAIKOなどが盛況を見せるように、海外にいながらも日本人アイドルの応援をすることが容易になるという面もあった。アンソニーさんも再び日本の地を踏むことを心待ちにしつつ、オタ活動の可能性が広がる道を今は模索している。 ■ ②【フランス】リオネルさん(45歳 / 製造業) □ 「見た目のかわいらしさとか、歌やダンスのうまさよりも重要なことがある」 AKB48とその派生グループを中心に、ラストアイドルなども含めて秋元康プロデュースのグループが一番自分の心に刺さる──そう語るのは45歳を迎えたフランスのリオネルさんだ。なぜ日本のアイドルなのか? 実はアイドルにハマる前、彼は日本の特撮をよく観ていたのだという。 「まず覚えておいてほしいのは、『宇宙刑事ギャバン』(テレビ朝日系)や『超電子バイオマン』(テレビ朝日系)といった日本の特撮は、フランスでも大変な人気だったということ。私も例外ではなく、夢中になって観ていました。もっとも当時は日本で放送されていたことも知りませんでしたが。 そして途中で気付いたのですが、女性出演者には“アイドル的な要素”が盛り込まれているんですよね。『忍風戦隊ハリケンジャー』(テレビ朝日系)に出演していた長澤奈央さんなどは顕著な例ですが。もちろん欧米でも駆け出しの若手女優がそうした役割を担うことはありますけど、日本ではもっとアイドル特有のかわいらしい側面が前面に出ている気がしたんです」 2009年、リオネルさんはパリで開かれた「Japan Expo」に足を運ぶことにした。大好きな特撮について、さらなる情報を得られるだろうと期待したからだ。会場ではテレビゲーム、アニメ、マンガなどのコンテンツが数多く展示されていたが、結局、満足できるほどの収穫はなかったという。しかし、ここでアイドル音楽というジャンルの面白さに開眼する。この年、「Japan Expo」にはAKB48が登場したのである。 「正直言って私はAKB48のことをほとんど何も知らず、数年前に流行ったイギリスのSpice Girlsと似たようなものだろうという認識でいました。しかし、この判断はとんでもない大間違いだということがわかります。実際に公演場所に足を運ぶと、AKB48のメンバーが観客を熱狂させていました。現場で実際に見たこの光景が、日本のアイドルに抱いていた西洋的な私の見方を根本から変えることにつながったのです。ステージ上にはエネルギーが満ちあふれ、日欧の文化の違いと言語の壁があるにもかかわらず、パーフォーマーたちが全精力を観客に振りまいていて……。それ以前に私が見たことのないコンサートの進め方でした」 「Japan Expo」でカルチャーショックを受けたリオネルさんは、当然のようにAKB48の熱狂的ファンとなった。この時点で理解したのは日本のアイドルは単なる音楽のジャンルにとどまらず、エンタメ全体にとって必要不可欠なピースだということ。その認識は、翌年、モーニング娘。が「Japan Expo」に出演して驚異的なパフォーマンスを披露したことで確信に変わった(参照:モーニング娘。フランス「JAPAN EXPO」で4000人動員)。 「彼女たちは本当に驚くべき公演を実現してくれました。また短時間ではあるもののメンバーと言葉を交わすことができ、その日、私は並外れた遭遇ができたと感じました」 こうしてリオネルさんは日本のアイドルにますます没頭するようになる。ちょうどタイミング的にもアイドルシーンが何度目かの黄金時代を迎えつつある時期であったため、底なし沼の深みに感嘆する日々が続いた。 「2009年時点のAKB48は『言い訳Maybe』をプロモーションしていたんです。すごくキャッチーであることに加えて、多くのエネルギーを発する前向き志向な1曲。メロディも覚えやすいし、ギターの演奏も印象的でした。その次に出たシングル『RIVER』は彼女たちの心情をはっきり明示しており、一種の天啓とも言うべき作品だったと思っています」 AKB48が日本のテレビ番組に出演する様子やライブ映像も、ネットを通じて浴びるように鑑賞した。「やはりこのグループは並外れた魅力を持っている」と改めて感嘆したという。 「つまずきや欠点があっても最善をつくそうとする意志……そうした姿を表面に出しているのが新鮮だったんです。ともすると“弱み”と受け止められかねない部分が、彼女たちにとっては“強み”になっている。私にとっては、見た目のかわいらしさとか、歌やダンスのうまさはそれほど重要ではなかった。それよりも前へ進もうとする彼女たちの断固たる姿勢こそが心を打ったのです。 エンタテインメントの世界でAKB48が私に教えてくれたのは、すべての人が目標までたどり着けるわけではないにせよ、苦労さえいとわぬ人に不可能なことはない、ということ。それは同じく秋元康プロデュースのラストアイドルやザ・コインロッカーズも同様です。ザ・コインロッカーズのメンバーには音楽の素養がまったくない人も含まれていましたから」 ここでリオネルさんが指摘しているのは、「成長過程を見守る」という日本アイドル特有の文化だろう。しばしば指摘されるように、K-POPアイドルは何年にもわたる厳しい練習期間を経たうえでデビューする。最初から隙のない完成形として土俵に上がる。ともすると「それに比べて日本のアイドルはレベルが……」という意見に単純化されがちだが、リオネルさんはそれとは別の角度から持論を展開する。 「多くのフランス人にとってアイドルソングというのは幼児あるいは若い青年層向けの音楽だし、取り扱われるテーマもかなり狭い。心ない形でレッテル貼りされているのが現状で、要するに“素人っぽい”と取り扱われているんです。こんな調子だから欧米社会ではアイドルがプロフェッショナルとして社会的評価を得ているとは言いがたく、例えばコンサートで録音された音源(口パク、被せ、同期)を流す芸術家は下に見られてしまうんですね。でも日本のアイドルファンにとって、そんなことは優先順位として二の次じゃないですか。このへんの意識の差は、かなり大きいと思います」 自分が日本のアイドルに惹きつけられるのは、彼女たちのアティチュードによるところが大きい──。これがリオネルさんの首尾一貫した主張である。過呼吸で倒れるバックステージでの様子までコンテンツ化する日本アイドルの価値観は確かに特殊かもしれないが、それゆえに海外ファンから支持を集めているという側面もある。「いつか日本に行って、好きなアイドルを現場で見るのが夢」と語るリオネルさんは、今日も翻訳ツールを駆使しながら極東アイドルの動向をチェックしていることだろう。 ■ ③【タイ】ヒカリンさん(22歳 / Siam☆dream、LOVE LETTER元メンバー。現在はファッション系企業勤務) □ 「“ファンが笑顔になるためにがんばる”のは同じ。でも、がんばり方が日本は違う」 Siam☆dreamは、タイ・バンコクを拠点とする日本人とタイ人の混合アイドルユニットだ。ヒカリンさんはそのメンバーとして2018年から2020年まで在籍し、カバーダンス中心のLOVE LETTERと兼任。「TIF」や「JAPAN EXPO THAILAND」に出演するなど、目覚ましい活躍を繰り広げてきた。日本のアイドルに憧れていたタイの少女が“やる側”としてステージに立ったとき、いったいどんなことが頭によぎったのか? 当事者ならではの説得力ある発言が飛び出した。 「好きなアイドルですか? NGT48、ももいろクローバーZ、わーすた、虹のコンキスタドール、まねきケチャ、MAJIBANCH、Appare!、カラーポワント……挙げていったらキリがない(笑)。もともと私は子供の頃から日本のアニメを観るのが大好きで、そうした中に『AKB0048』(tvkほか)があったんですよね。AKB48の曲もたくさん流れていたし、ダンスのシーンもいっぱいあった。女の子たちの夢と希望があふれている感じで、すごく印象に残りました。 最初に生で観た日本のアイドルは、夢みるアドレセンスでした。タイでは日本の文化を伝える展示会がよく行われていて、日本から来たアイドルやアーティストがライブを披露するんですよ。握手会や特典会を行うこともありますし。夢アドは曲が楽しいし、メンバーの皆さんの生き生きしている姿が印象的でした。ライブもすごく盛り上がっていて、私もグループを応援したいという気持ちになったことを覚えています」 好きになってからのアクションは早かった。CDを購入するだけでは飽き足らず、しばしば日本を訪れて推しグループのライブやイベントに参戦。その様子を日記形式で克明にレポートしていく。 「タイに住んでいる身からすると、日本のアイドルをリアルに現場で観る機会というのはとても貴重なんです。会場はどんな雰囲気か? 特典会はどんな内容なのか? セットリストは? それに自分が感じた印象なども加えて、スマホで必死にメモしていましたね。そこで日本人アイドルのやり方を吸収していったというか……。途中からは自分がアイドルになったということもあり、“見学”して“勉強”するために現場参戦していました」 昔からタイには独自のアイドル文化が存在していた。2010年前後には一気にシーンが盛り上がり、フォーモッド、FFK(フェイファンケウ)、G-Twenty、Candy Mafia、Sugar Eyes、オリーブスなどが群雄割拠。中でも2010年に日本デビューを果たした双子デュオ・Neko Jumpは、熱心なアイドルファンなら名前くらい耳にしたことがあるかもしれない。こうしたムーブメントの中心的役割を担ったのがKAMIKAZEレーベルであり、その名の通り、所属アーティストは日本アイドルの影響を多分に受けていた。そしてこうした流れと前後するように、タイもほかのアジア諸国と同様、K-POP旋風が吹き荒れることになる。しかし、その状況も2017年に一変した。BNK48が大ブレイクを果たしたのである。 「BNK48は一番人気のある日系アイドルグループですね。本当にみんなから愛されている。日本のポップスと“Kawaii”カルチャーを届ける若者たちのアイドルになっています。BNK48がブレイクしたことで、タイのアイドルも大きな影響を受けました」 坂道グループのマナーを忠実に踏襲しながらデビューしたFEVERは、新型コロナの影響を受けて解散を余儀なくされたものの、一時はタイ国内で確固たる地位を築いた。最近では、じゅじゅやBLACK NAZARENEを擁する日本のプロダクション・キゲキが仕掛けたKAIBUTSU-怪物も注目されている。ヒカリンさんが所属したSiam☆dreamも、こうした「日本アイドルへの根強い関心」というバックボーンの中で誕生したグループだった。衣装やメイクからも、あからさまに日本アイドルからの影響が見て取れる。 「Siam☆dreamも日本のアイドルみたいにして活動していたから、ステージ上ではそこまで極端に日タイの違いは感じませんでした。でも1つ言えるのは、タイのアイドルってライブでも練習してきたパフォーマンスを披露することを最優先するんですよ。完璧に歌って踊れることが最終目標なので。それに比べると日本のアイドルは表情やメンバー個々の動きを大切にしているし、何より目の前のファンと一緒に楽しむことをゴールにしているじゃないですか。どっちも“ファンが笑顔になるためにがんばっている”という点では同じなんでしょうけど、そのがんばり方が違う気はしますね」 きゃりーぱみゅぱみゅやBABYMETALは言うに及ばず、タイでは仮面女子やPassCodeなども若者からの人気を誇っている。K-POPだけがアジアのアイドルではないことを、タイのファンは本能的に理解しているのかもしれない。 ■ ④【タイ】エーさん(32歳 / カバーダンスグループ・Se7en Seas主宰、日系企業勤務) □ 「日本のアイドルは特別な存在。私、一生ハロヲタ宣言しているんです(笑)」 筆者がエーさんに最初に会ったのは9年前にさかのぼる。Berryz工房のタイ公演を密着取材した際、会場でハロプロのカバーダンスを披露していたのがエーさん率いるSe7en Seas(当時はZen se7en名義)だった。オフィシャル生写真を参考にした手作りの衣装(わざわざ素材を問屋街から探し出したという)、とめどなくあふれるアイドル愛、「タイと日本の架け橋になりたい!」と語る熱いまなざし……まぶしさに圧倒されたことを覚えている。ひさしぶりにコンタクトを取ってみると、日本語を学ぶ大学生だったエーさんは日系企業で働く社会人となっていた。 「日本のアイドルを好きになったのは、確か2003年の初め頃だったと思います。友達から紹介されたんですよね。すごくキラキラしていたし、歌もダンスも上手だねって友達と話していました。それが今はNEWSにいる小山慶一郎さん。当時はジャニーズJr.でした。小山さんのことは今でも大ファンですね」 ジャニーズで日本のアイドルを知ったエーさんが、次に向かったのはモーニング娘。だった。これには理由がある。エーさんが子供の頃、タイのケーブルテレビでは「ハロー!モーニング。」(テレビ東京系)や「ASAYAN」(テレビ東京系)が放送されていた。ネット全盛の時代になる前からハロプロは馴染みのある存在だったのだ。タイの若者は日本人以上にSNS依存の傾向が強い。全体としてはK-POPの勢いに押されていたものの、ネット上ではハロプロのファンダム文化もしっかり根付いていた(参照:モー娘。バンコク握手会、ファン3000人に「コップンカー」)。 「最初の推しメンは石川梨華さん。2005年に石川さんが卒業すると、道重さゆみさんを崇拝するようになりました。でも、その道重さんも2014年にグループを去りましたよね。心にぽっかり穴が空いた気分でした。個人的な話になるんですけど、ちょうどその頃、日本に留学したんですよ。せっかく日本に来ているんだから、ライブに行きたいじゃないですか。もともとハロプロ全体が好きだったこともあり、石川さんや道重さんと同じくらい熱中できる対象を探していて……。そんな自分の心にピタッとハマったのがアンジュルムだったんです。今は竹内朱莉さんが神推しですね(笑)」 タイではカバーダンスがエンタテインメントとして広く認識されている。バンコクの商業施設では、10年以上前から月2、3回ペースでJ-POPやK-POPのカバーダンス大会が開催されていた。エーさんも仲間たちとカバーダンスグループを結成し、こうしたイベントに積極的に参加。「Japan Festa」(「Japan Expo」の前身イベント)のメインステージにも出演している。暑いタイにおいても日本のアイドルのようなファー付きのファッションでキメて、少しでも“本場”のエッセンスを取り入れようとしていた。 「やっぱり日本のアイドルソングはメロディがほかの国とは違うんですよね。聴けば誰でもすぐに違いがわかるはずです。歌詞の面でも、すごく内容が深いなと感動することが多いですし。好きな日本のアーティストは大勢いますけど、中でもハロプロは自分にとって本当に特別な存在。私、“一生ハロヲタ宣言”しているんです(笑)」 アイドルはずっと心の拠りどころであり続けた。お金を貯めては日本に行き、コンサートやイベント、握手会にも参加。もはや趣味の範疇を逸脱するかのように全精力を傾けていく。アイドルには人の生き方を一変させるだけの力があるが、その影響力は国境を軽く超えていくようだ。エーさんは今も変わらずにカバーダンスを続けている。「Se7en Seasはハロプロ全グループの楽曲をカバーしているんですよ」と、はにかみながら笑った。 ■ ⑤【イギリス】トム・スミスさん(32歳 / JPU Records主宰者) □ 「BABYMETALはメタル文化に永遠に刻まれる足跡を残した」 イギリスにある邦楽アーティスト専門のレコード会社・JPU Records。その主宰者兼ディレクターを務めているのがトム・スミスさんだ。 同社は日本のバンドが海外で活動する支援をしていて、これまでBAND-MAIDやLOVEBITES、最近だとNEMOPHILAを海外のメディアや音楽ファンに紹介してきた。 「BUCK-TICK、SCANDAL、MAN WITH A MISSIONなどジャンル的にはロックやメタルといったリスナーに訴求しやすいアーティストの作品を手がけることが多いのですが、その一方で虹のコンキスタドール、LADYBABY、PassCodeといったアイドル作品もリリースしてきました。JPU Recordsの特徴として、商品に英訳の歌詞や日本語のローマ字読みを掲載しています。ファンがシンガロングしたり、音楽を通して日本語を学んだり、その曲が伝えようとしているメッセージを理解したりすることができるようにするためです」 そもそもイギリス国内では、どんなファン層が日本のアイドルを聴いているのだろうか? 日本発のポップカルチャーといえば、真っ先に挙げられるのがアニメ。両者に相似点はあるような気もするが……。 「確かに一部のアイドル楽曲はアニメファンによって見出された部分もあると思います。 例えば『ラブライブ!』は海外でアイドル音楽を聴いているファンに大きな影響を与えましたし。でも私が見たところ、アニメとアイドルがクロスオーバーするケースはそれほど多くない。むしろソーシャルメディアやインフルエンサーたちの影響のほうが大きいように感じています。今はアイドルにハマった人たちも簡単に仲間を見つけ、一緒に盛り上がれるようになっていますから」 スミスさんによると、日本のアイドルを好むファンの総数は明らかに増加傾向にあるという。世界各地で開催されているポップカルチャー関連のイベント・コミコンの会場でも以前はhideやYOSHIKIのコスプレをする人が多かったが、最近は「ラブライブ!」やBABYMETAL関連のコスプレが目立つ。BABYMETALの圧倒的なオリジナリティはヨーロッパ人に大きなインパクトを与えるとともに、広い層に受け入れられるだけのポピュラリティを獲得した。 「何しろイギリスはメタルの発祥地ですからね。私たちはメタルに誇りを持っているんです。BABYMETAL、神バンド、キツネ様は大変な才能を持っているし、メタルカルチャーをリスペクトしていることがよく伝わってきます。イギリス人はそのルーツを理解しているので、BABYMETALの音楽を素直に受け入れることができるんです。 あくまでも個人的な考えなのですが、メタルが再び流行るためには“何か”が必要だった。BABYMETALの存在が、シーンにいい流れを作ってくれたことは確かでしょう。その一方でBABYMETALが海外のアーティストにどれくらい影響を与えているのかも気になります。というのも、例えばPoppyやBring Me the Horizonの楽曲を聴いていると『この曲を制作しているとき、BABYMETALを聴いていたんじゃないかな?』と考えてしまうことがあるからです。BABYMETALは間違いなくメタル文化に永遠に刻まれる足跡を残しました」 初音ミクの影響力も無視できない。「HATSUNE MIKU EXPO」と呼ばれる世界ツアーが大々的に開催されていることもあり、海外におけるライブ動員数はBABYMETALに次ぐレベルだと見られている。また、LADYBABYも口コミベースで一気に人気が拡散された印象があるとスミスさんは語る。 「ただ、アイドル音楽を海外で売るのはすごく難しいんです。日本のマネージメントやレコード会社は、アイドルの音楽をチェキやサインといったグッズと一緒に売っていますよね。だから海外のアイドルオタクも、日本から直接購入することで特別なアイテムやグッズを手に入れているのが現状なんですよ。 我々JPUとしては、アイドルグループの作品をリリースする際、ディープなアイドルファンの枠を超えてクロスオーバーできるものを探します。例えばBABYMETALやLADYBABYは他ジャンルのファンにもクロスオーバーできるでしょう。虹のコンキスタドールはBABYMETALやLADYBABYほど簡単にはいかないでしょうが、彼女たちが持つエネルギーや楽曲の一部は、より広い層にアピールすることができると考えています。彼女たちの『†ノーライフベイビー・オブ・ジ・エンド†』は天才的な楽曲ですね」 立場上、さまざまなアーティストと接する機会が多いスミスさんだが、アイドルの“舞台裏”を見たことで大きな感銘を受けたこともあるという。それは、でんぱ組.incのライブ会場での出来事だった。 「私の純朴な“西洋人脳”では、アイドルは演技する職業。ライブが終われば彼女たちも普通の一般人に戻るという認識でいました。だけど、でんぱ組.incは違ったんです。オフステージでもメンバー全員から驚くようなパワーを感じたんですよ。舞台裏での彼女たちの姿はステージとまったく同じ。中でも成瀬瑛美さんは私がこれまで出会った中でもっとも楽しい人物でした。妄想キャリブレーションもそうでしたね。ディアステージが特殊なのか、アイドルの一般的な風潮なのか……」 日本のイベント関係者とも交流を深めるようになったスミスさんは、多くのアイドルのステージを目にするようになった。バラエティに富んだ音楽性やコンセプトに驚くとともに、オーディエンスの姿も印象に残ったと振り返る。心の底から楽しみつつ音楽に触れている様子は、他ジャンルには見られない熱気が感じられた。そんなスミスさんが考える「日本のアイドルならではの特徴」は、どんなところにあるのか? 「まずアレンジやメロディは、私たちが“ポップミュージック”として捉えているものと比べて相当カオスな印象があります。それに現実世界と切り離されているところも大きな特徴だと思う。アイドルの音楽に触れているときは、日常生活や社会の問題をすべて忘れることができる。内に秘めている感情を表に出すことを後押ししてくれる。スピリットの部分が私たち西洋の文化とは決定的に違うんでしょうね。日本のアイドルは、とにかく明るくて激しいので」 スミスさんは日本のアーティストと契約するにあたって「ヨーロッパの人に受け入れられやすいか?」という点を判断基準にしている。ひょっとしたら我々が当たり前に感じていて見過ごしている日本のアイドルの魅力もあるのかもしれない。 いくら日本発のアニメやゲームが世界で大きなシェアを誇っているとはいえ、まだまだ日本のアイドルが世界的に「知る人ぞ知る存在」なのは間違いない。特典会の開催をベースにしたビジネスモデル、MIXや振りコピに代表される観客参加型の応援スタイル、世界的な音楽的トレンドと相反するように独自の進化形態をたどる楽曲群……日本のアイドルが一種のガラパゴス状態にあるのも事実。ただ一方でインターネットの普及によって、急速に日本のアイドルカルチャーが身近なものとなっている現実もある。エンタメ業界を取り巻く環境は刻一刻と変化しているが、今後、世界市場を無視できなくなっていくのは間違いないだろう。特集後編では、世界的に活躍するギタリストのマーティ・フリードマン氏が登場。さらにディープに音楽面から「日本アイドルの特殊性」を掘り下げていく。 ■ 小野田衛 出版社勤務を経て、フリーのライター / 編集者に。エンタメ誌、週刊誌、女性誌、各種Web媒体などで執筆を行っている。著書に「韓流エンタメ日本侵攻戦略」(扶桑社新書)、「アイドルに捧げた青春 アップアップガールズ(仮)の真実」(竹書房)がある。芸能以外の得意ジャンルは貧困問題、サウナ、プロレス、フィギュアスケート。
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