表現者として歩み出したMori Zentaroの原点 – BIG UP!

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インタビュー
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5月18日に初のソロEP『Hue』をリリースしたMori Zentaro。2013年頃よりトラックメイカーとして活動を開始し、〈Soulflex〉を率いながらSIRUP、iri、向井太一、香取慎吾など様々なアーティストへの楽曲提供、プロデュースを行ってきた。
これまで関わった楽曲の数々を聴けば、彼の音楽性の底知れなさが伝わるだろう。その才能を自身の表現のために存分に発揮した今作からは、表現に対するアツい欲求がひしひしと伝わってくる。表現者としてさらに世界を広げた彼に、各楽曲の制作背景や作品に込められた想いを聞いた。

ー音楽活動を始めたきっかけは?
高校生の時に友達とバンド活動を始めたのが最初です。当時好きだったパンク、ガレージ、グランジ、インディロック系のサウンドに影響を受けたオリジナル曲をやっていました。
父親が音楽好きだったので、幼少期からThe Beatles、The Rolling Stones、Miles Davisなど、​​いろんなジャンルを聴いていて音楽への目覚めは早かったんですけど、実際自分が曲を作ってみよう、楽器を弾いてみようって思ったきっかけはパンクロックでした。
ーバンドを始めた当時はどんなアーティストをよく聴いていましたか?
今でもずっとインスパイアされ続けてるThe Clashです。彼らのファーストを聴いたことが、今自分がここにいる理由といっても過言ではないくらいに影響を受けています。他にも高校生の時は2000年前後のThe Strokesのムーヴメントを目の当たりにしていたし、Nirvana、Weezer、The White Stripes、The Libertinesも当時影響を受けたバンドです。
ーオリジナル曲をやっていたということで、そのバンドでデビューすることを考えていたんですか?
高校生の時はただ好きでやっていた感じですね。それで積極的にライブをやったり、当時周りでブレイクダンスが流行っていたから、ブレイクしてる友達と一緒に定期イベントをやったりしているうちに、意外と地元でぽっと人気が出て。さらに、高校3年の時にYAMAHAさんが主催するバンドコンテストに出場してみたら、地元で優勝して、中四国大会で準優勝したんです。
ーすごい!
そこで「なんかいけるんじゃない?!」って思っちゃって、大学進学を選ばずに地元・高知からバンドメンバーと一緒に大阪に出ました。でも、大阪に出たらあっけなく解散しちゃったんですよ。人生で初めての挫折経験でしたね。その時にロック以外の音楽を掘りたくなって、ワールドミュージックを聴き始めたんです。そこはThe Clashを聴いてた影響があるかなと。
ーThe Clashはレゲエ、スカなどいろんな影響を受けてますからね
だから最初はレゲエにハマって、初期のレゲエはアメリカのコーラスグループから影響を受けていることがわかって、今度はR&Bやモータウンに興味が移っていったんです。その時に「Stevie Wonderって名前ばっか知ってて、ちゃんと曲を聴いたことがないな」って思って、『Music of My Mind』っていうアルバムを聴いてみたらThe Clashのファーストを聴いた時と同じくらいの衝撃を受けて。
ーどんなところが衝撃でした?
その時に僕が聴きたいと思ってたすべてが詰まってる感じがしました。音楽で自由になるってこういうことなのかなって。そこからソウルミュージック、R&B、ヒップホップとか、アフロアメリカンの人たちの音楽に夢中になったんです。
そんな風にリスナーとしての趣向が変わったのと同じタイミングで、DTMを始めました。DTMとセットで思い切ってMIDIキーボードを買って、曲を作ってみようって思ったのが今の作風の始まりです。
ーそこから〈Soulflex〉へとつながっていくと。
Stevieを聴いて、もっとこういうの聴きたいって思った時にバチっとはまったのがD’Angeloで、『Voodoo』はロックの文脈でも捉えられる要素が多いアルバムだから、かなりストライクだったんです。さらにその背後にSoulquariansっていうものがあるとわかった時に、ちょうど現・SIRUPのKYOtaro(前名義)や〈Soulflex〉のドラムのRaBと出会いました。この人たちとだったらSoulquariansみたいなことができそうだなと思って始めたのが〈Soulflex〉の始まりですね。
ーそうして〈Soulflex〉での活動や楽曲提供を続け、今回ソロプロジェクトという形での作品リリースですが、制作を始めたきっかけは?
ずっとシンガーソングライター的な気質はあったんです。バンドをやってた頃はギターボーカルで作詞作曲もやっていたし、〈Soulflex〉を始める前も自分で歌ったデモをCD-Rで配っていたし。でも〈Soulflex〉のみんなと出会って、こんだけ歌うまくて演奏できる人がおるんやから自分はビートメイカーに徹しようって思ったんです。
ただ、ZINやSIRUPの活動を見て、自分も言葉を含めた表現をやりたい気持ちが膨らみ続けていたので、いつかソロ作を出そうとは思っていました。でも〈Soulflex〉や提供の仕事が忙しくてなかなか形にできてなくて。ようやく去年〈Soulflex〉のEPを出して、自分的には一段落した感覚があったんで、出すなら今だ!と思って制作を始めました。
ー制作するうえで、プレッシャーはありましたか?
プレッシャーはありました。僕はそんなに器用じゃないので、いつも肉をちぎるような思いで作ってるんですよ(笑)。インストの2曲(「Parallax」「Whirl」)は去年〈Soulflex〉のEPの制作と並行して血反吐を吐いて作ったし、もともとあった曲のブラッシュアップも命がけだったし。
ー今作はそのインスト曲の一つ「Parallax」で幕を開けますが、最初はインストでいこうと決めていたんですか?
この何年間かはビートメイカーとして認識されていたと思うので、挨拶するならまずはビート系の曲だなと。でも、あんまり気張りすぎないように、ワクワクを煽る感じにしました。
ーそして次の曲で歌声が聴こえてびっくりしました。あれはMoriさんが歌っているんですよね?
冒頭には自分で歌う曲を入れたかったんです。曲自体は2015、6年ぐらいにできていたものですが、改めて歌詞を見てみたら今の自分が言いたいことをこの曲が言ってくれていたんですよね。今出さないとタイミングもなくなるかもと思って、ギターを加えたりしてブラッシュアップしました。
ー今の自分が言いたいこととは?
どんなに頑張っても、他人のことをそのまま理解することってできないと思うんです。絶対に先入観や自分の願望が投影されるから。
これって、根源的に人は100%わかり合えることはないって意味だからすごい悲しいけど、その違いがあるからこそ、音楽や芸術が生まれるわけで。だから悲しくもあるけど、その癒し方も僕たちは知ってるよねっていうことを伝えたくて。音楽や芸術で世界を解釈する手段を持ってるのは、一つの豊かさだよねって言いたかった。僕、歌詞を書くときにいつも「人にとって豊かさとはなんだろう」っていうことを考えていて、これも一つの豊かさの提示ですね。
ー現代の思いが、この曲を作った2015、6年ごろと重なっているのも興味深いですね。その頃はすでに〈Soulflex〉として活動していますよね?
はい。でも「これから俺たちどうする?」みたいな時期だったと思います。今みたいに曲もいっぱいなかった時期で。
ー個人的にはMoriさん自身がソロを始める意味とも重なっている感じがしました。もっと表現したい欲と重なっている歌詞なのかなと。
まさにそうだと思います。だから、自分的にもこの曲で初めて歌声を披露できて良かったです。
ーそこから3曲目「Escape」ではMALIYAさんを迎えていますが、これは今回のために作ったものですか?
そうですね。MALIYAちゃんの曲を作り始めた頃には他の曲が出揃っていたので、穴埋め式に「こういう曲がいるよな」って思って作りました。さらに〈Soulflex〉でR&Bを集中して作ってきたから、そういう部分も出したくて。で、この曲調ならMALIYAちゃんしか思い浮かびませんでした。

ーMALIYAさんのアルバムにも参加されてた影響も大きいですか?
かなりあります。この曲とほぼ同時進行でMALIYAちゃんのアルバム曲を作っていたので、その流れも汲んでいますね。
ーこの曲、アウトロがすごく気になったんですけど…。
そこは絶対聴いてほしいところです(笑)。 「僕はCD世代からきたぜ!」っていう隠しメッセージで、インタールードカルチャーをオマージュしています。R&Bやヒップホップを聴き始めて面白いと思ったことの一つだったんですよね。D’Angelo『Voodoo』しかり、Mary J. Bligeのアルバムもやたら留守電の寸劇みたいなのが入っていたり。またその曲がやたらカッコ良かったりするっていう。
ー確かにR&B作品でよく耳にしましたよね。
あれはレコードにない、CDの収録時間が可能にしたカルチャーだと思っていて。僕はCDをアルバム聴きして育ったので、自分で作品を作る時にはその要素を入れたいと思っていたんですよ。その後のDaichi君(Daichi Yamamoto)の曲との繋がりも考えてますが。
ーDaichiさんとの曲はソロで最初にリリースした曲でしたね。ソロでやると決めた時からDaichiさんを迎えようと決めていたんですか。
そうですね。Daichi君の作品をずっと聴いていたので、声をかけさせてもらいました。トラックも当て書きしたような感じで作ってます。
ーめちゃめちゃライブで盛り上がりそうな曲ですよね。
あの曲は自分が歌う「Plain」とは正反対に、ただただ体で楽しんでほしい曲です。Daichi君にリリックをオーダーした時も「あんまり意味がないようにしてほしい」とお願いしました。
ーMoriさんから見てDaichiさんはどんなアーティストですか。
最初にデモを送ったら、ラップのフロウの“こんな感じ”ってものがすぐに返ってきたんですよ。その時点でフックの《Kaikan》っていうフレーズも入っていて、このフットワークの軽さはヤバイなって思いました。
それで大感激して実際にお会いしたら結構ゆったりしたムードの人で、制作中に会ったのは2回ぐらいなんですけど、なぜか狩猟の話で盛り上がったのはいい思い出です(笑)。
ーそのあとはnazさんを迎えた「Barefoot」ですね。
これは2019年にできた曲なんです。当時流行り始めたオルタナR&Bやアンビエントの要素を入れるイメージで作り始めました。その時にnazちゃんの冨田ラボさんとの作品が大好きだったので、曲調とも合うしお願いしたんです。制作する際に、自分の中にあるブリストルサウンド、トリップホップの要素を入れたら自分っぽくなるかなと思っていたんですけど、面白いことにnazちゃんもMassive Attackが好きってことがわかって、より声かけて良かったなって思いました。
ーコーラスとリリックにZINさんが参加された経緯は?
最初は自分で歌詞を書こうとしていたんです。でも、R&Bっぽい英語の取り入れ方のプロフェッショナルが隣にいるし、それはもう頼った方がいいだろうと思って。
歌詞のテーマや「Barefoot」が何を意味するかを伝えて歌詞にしてもらったんですけど、そういう作業をZINとするのは初めてだったんです。〈Soulflex〉の曲の歌詞はいつもお任せしていたので。またこういう形でZINとやりたいなって思うぐらい楽しい作業でした。
ーそして最後はインスト曲で締めくくりという。
「Whirl」の核はギターサウンドです。今後の自分のテーマは〈Soulflex〉以前の自分と〈Soulflex〉以降の自分を統合させることだと思っていて。そこに自分のオリジナリティがあるんじゃないかなって思うんです。具体的にいうと、ロックギター的なサウンドとビートメイク、R&B、ヒップホップの手法を統合させること。この曲はその“ことはじめ”みたいなつもりで作りました。このEPは大団円で終わるんじゃなくて、これから僕はこういう方向に進んでいくよっていうことを暗示させるように終わりたかったんです。
ーソロ作品と〈Soulflex〉との違いは?
〈Soulflex〉はソウル、R&B、ヒップホップ的なものを突き詰める気持ちでやっていて、人に提供する曲もちゃんとジャンルの音がするように作っています。でも“Mori Zentaro”っていう枠組みに関しては、The ClashやD’Angelo、J Dillaとかからの影響がごっちゃごちゃになっている自分と言葉を合わせて表現していきたいんです。そういう意味で『Hue』っていうEPの核は自分が歌った「Plain」にあるかなとは思いますね。
ー『Hue』というタイトルにはどんな想いを込めましたか?
サウンド先行でつけた名前ではあるんですよ。人の名前みたいにパッと呼べるタイトルにしたいと思ってたときに、家にあるデザイン辞典を読んでいたら「hue」って言葉があって。“色相”っていう意味なんですけど、僕の作風ってグラデーションの幅があるし、今回の6曲もジャンルが一つとして一緒じゃないのでちょうど良いなと思って。自分の「hue」を感じてもらうイメージでした。
ーこれからはソロとしてライブをやっていく予定はありますか。
一アーティストとしてあんまり言ったらいけないかもしれないけど、僕ライブが怖いんですよ。
ー意外すぎますね(笑)。
僕は一定のラインから演奏の技術がなかなか上達しないんです。その反面、作曲やビートメイクはずっと右肩上がりで充実したものが作れるようになってきたので、演奏に対してはかなりコンプレックスがあって。だからこそDTMに救われた気もするし、今の時代にミュージシャンで良かったなって思ってます。
ーでは、ソロアーティストとして今後どんなことに挑戦したいですか?
一番長く続けてきたのが音楽だから、自己表現しやすい手段ではあるけど、言葉や映像でイメージが浮かぶこともあって。だから、もっと映像作品にも関わってみたいし、もっと文章も書いてみたい。ビートメイカーではなくて、Mori Zentaroっていう表現者として生き抜きたいですね。
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