2020年代HIPHOPが本格化―加速度を増すヒップホップ×ダンスミュージックの新解釈|日刊サイゾー – 日刊サイゾー

 ヒップホップにダンスミュージックの波が来ている――と言ってみたところで、そもそもヒップホップは本来的にダンスミュージックであり、そこまでさかのぼらなくとも2000年以降のヒップホップでさえ、常にそれらに影響を受けてきたと言えるはずだ。例えば、もっともダンスと縁遠く、ベッドルームで哀しみに暮れながら聴く音楽だったであろうかつてのエモラップですら、甲高い音で規則的に刻まれるハイハットはダンスミュージックの人工的な高揚感と接続していた。
 国内でも、当時YDIZZYは『DIZZiNESS』を、KOHHは『UNTITLED』をリリースしロックの雑然としたサウンドを作品に取り入れたが、そこでも例えばTR-808は一定のリズムを鳴らし、リスナーを躍らせるギリギリのレベルでのループ性を担保していたのだ。
 とはいえ、それらループ性をより大胆に導入した例を探るべく現在の国内ヒップホップ×ダンスミュージックの源流を辿った際に、まず行き当たるのは2018年にDaichi YamamotoがQUNIMUNE「Foolish」で、Awichが「Fade Away」(EP『Heart』収録)でチャレンジした2ステップのビートだろう。
 しかし、今思えば当時のヒップホップはまだまだ牧歌的だったように思う。トラップミュージックが完成型へと向かいつつあった18年~19年頃、10年代の終焉とともに3連符のフロウやゆったりとしたBPMは徐々に影を潜めていくことになった。だからこそ2ステップは、当時まだテスト的に「やってみた」感があり、その余裕ゆえの遊び心が一種のスパイスとして機能していたはずだ。

 というのも、パンデミックの前後から、ヒップホップはかろうじてあったそのような素朴でのどかなムードを急速に失っていったからだ。
 すでにデスメタルやブラックメタルのリフとヒステリックな声を吸収したトラップメタルが地下シーンで暴れまわっていたが、徐々にメインストリームでもビートは凶暴化の一途を辿り、レイジやドリルといった躁鬱がシーンを支配し始めた。国内では、それらに加えて日本特有のボカロミュージック勢の影響を受けたハイパーポップの波も加わり、ポスト・ヒップホップなる音楽は常にどこかの音域を過密化させ、テンションを詰め込んだラップで次々に音の炎上を生んでいくことになった。つまり、ダンスするための音楽をはるかに超え、暴れ/トリップする音楽として、ヒップホップがそれまでとは異なる機能性を獲得し振る舞うようになったのである。
 そうなると、いよいよ止まらない。いつの時代もヒップホップはゲームを加速させ、資本を回し、空虚さを目指して突き抜けていく。次にいくつかの有能なラッパーが目をつけたダンスミュージックは、トランスだった。その姿勢は今年に入りさらに顕著になり、Tohjiの『t-mix』やゆるふわギャングの『GAMA』、さらにはvalkneeの『vs.』に至るまで、トランシ―なビートの解放感がヒップホップに新たな高揚をもたらしている。

 特筆すべきは、トランスの煌めきと性急なBPMが、それらラップにも大きな影響を与えている点だろう。Tohjiの脱ラップ的フロウは今に始まったことではないが、例えばゆるふわギャングが「E-CAN-Z」「Step」「LAV」といった曲で聴かせるワンフレーズのことばのループは、これまで垣間見せていたアプローチがさらにエスカレートしている。
 一方、valkneeは「KILLING ME!」でことばのむち打ちを超高速で展開してみせる。そして奇妙なことに、そこには“J”の断片が観察されるのだ。
 Tohjiは浜崎あゆみのユーロダンス作品からの影響を明らかにしているし、ゆるふわギャングが今作で宇多田ヒカル「One Last Kiss」をサンプリングしていたのも話題になった。valkneeはさらに“J”をいびつに引用する――「KILLING ME!」の高速ラップを受け止め解放させる「もっと速く切り抜いてね/もっと速く繋がってね」というパートのメロディラインには、J-POPの叙情性が宿っている。
 ヒップホップは今、トランスという飛び道具を導入することで、おおよそ遠い存在であったヒップホップとJ-POPという両者を接続することに成功し、新たなダイナミズムを獲得している。
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