TOTOとシティ・ポップ〜結成45周年に振り返る、AORの王者と国内シーンの関係 – マイナビニュース

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TOTOにとって2022年は結成45周年、『TOTO IV~聖なる剣』 リリース40周年、ジェフ・ポーカロ没後30年というビッグ・アニバーサリー・イヤー。この8月には『TOTO IV~聖なる剣』40周年記念デラックス・エディション、デヴィッド・ぺイチ初のソロ・アルバム『Forgotten Toys』という2つの話題作もリリースされた。彼らはここ日本でも大いに愛され、シティ・ポップ周辺の音楽に大きな影響を与えたことでも知られている。そこで今回は、AOR〜シティ・ポップの第一人者である音楽ライター・金澤寿和(Light Mellow)に、TOTOと国内シーンの関係を振り返ってもらった。
いま世界中でブームを引き起こしているシティ・ポップ。その定義や再評価のキッカケは、様々なところで数多く語られている。それに対して、シティ・ポップのスタイル構築に大きく寄与したAORとの共通点、距離の近さを伝える評文は、あまり多くないようだ。アレンジや演奏に影響を与えたソースとしてのAORには言及があるが、そこを掘り下げたアナライズは限られる。本稿では、その両者の蜜月ぶり、とりわけ代表作『TOTO IV~聖なる剣』がリリース40周年を迎えたTOTOをAORの立役者=シンボルに据えて考察を進めたい。世界的ブームの発火点が竹内まりや「Plastic Love」と松原みき「真夜中のドア~stay with me」だったことは、この潮流に興味をお持ちの方なら誰でもご存知だろう。そのまりやの4作目『Miss M』は、TOTOのメンバーが大活躍するLA録音作。「真夜中のドア~stay with me」を作曲したヒットメイカー・林哲司はデヴィッド・フォスターから多大な影響を受けていて、この曲の元ネタ的楽曲もTOTOのメンバーがサポートしている。
そもそもシティ・ポップというのは、洋楽に影響された日本のシンガー・ソングライターたちが、米ウエストコーストの音楽を取り入れて進化せたのが発端。そのビジュアル・アイコンである永井博や鈴木英人のイラストを見ても、カリフォルニアへの憧憬を表現しているのは明白だ。例えば、日本でAOR名盤として人気の高いラリー・リーの1982年作『ロンリー・フリーウェイ』(原題:Marooned)は、オリジナル盤の本人ジャケが、山下達郎『FOR YOU』のカバーで脚光を浴びた鈴木英人のイラストに差し替えられ、清々しいほどの衝撃を与えた。参加メンバーの多くもAOR系セッションの常連が多く、親近感を抱かせる。
『ロンリー・フリーウェイ』(Marooned)にはTOTOのデヴィッド・ハンゲイトも参加

TOTO、左からデヴィッド・ぺイチ、スティーヴ・ポーカロ、ボビー・キンボール、スティーヴ・ルカサー、デヴィッド・ハンゲイト、ジェフ・ポーカロ
実際にTOTOのメンバーが日本人アーティストのレコーディングに関わるのは、来生たかおの1977 年作『ジグザク』が最初だ。参加したのは、この年からスタジオ・ワークを始めた駆け出しのスティーヴ・ルカサー(以下、ルーク)。ただしセッションの中心は、ジム・ケルトナー、ダニー・コーチマー、デヴィッド・フォスターらが在籍したアティチューズの面々で。そこにジェイ・グレイドンやリー・リトナーら先輩ギタリストと共にルークが参加した。だから80年代の彼みたいなドライブ感のあるロック・ギターを求められたワケではなく、むしろ”ルーキーを揉んでやろう”、”経験を積ませてやろう”という兄貴分たちの心遣いだった気がする。アレンジの星勝も、井上陽水『二色の独楽』(1974年)の編曲で既に当時のモータウン系セッションメンとスタジオ入りし(ジョー・サンプル、レイ・パーカーJr、ハーヴィー・メイソンなど)、来生作品の直前に手掛けたフライング・キティ・バンド(小椋佳をフィーチャー)ではアティチューズ周辺と交流した。そのチームの片隅に若きルークがいたのである。
その後ジェフ・ポーカロが高中正義『BRASILIAN SKIES』、ルーク、ジェフ、デヴィッド・ペイチが大村憲司『KENJI SHOCK』に参加。しかしこれはいずれもシティ・ポップにも貢献したギタリストたちのソロ作。他にもルークがジャズ系セッション・シンガー・TANTAN(後の大空はるみ)のアルバムに参加したが、それならTOTO加入前のマイク・ポーカロが参加した、竹内まりやのデビュー・アルバム『BEGINNING』や野口五郎『LAST JOKE』を押さえたい。単なるベース・プレイヤーとしての協力ながら、まりやのアルバムでは山下達郎、細野晴臣、林哲司らの楽曲、野口のアルバムは筒美京平作品でプレイした点に、やはり適性を感じるのだ。
『BEGINNING』収録「夏の恋人」。作詞・作曲は山下達郎、リー・リトナーやジム・ケルトナーなどが演奏。
『LAST JOKE』収録「シスコ・ドリーム」
80年代〜90年代におけるTOTOメンバーの活躍
このあと80年代に入ると、TOTOのメンバーたちの立ち位置が少しずつ変わってくる。ドゥービー・ブラザーズやルパート・ホームズ、クリストファー・クロスらが全米No.1を獲得。1978年にバンド・デビューしたTOTOも、『TOTO IV』でグラミーを受賞した。日本でいうAORが世界的人気を誇るようになったのだ。それに連れてLAのセッション・ミュージシャン需要が高くなり、TOTOの面々やデヴィッド・フォスター、ジェイ・グレイドン、ビル・チャンプリンら、周辺ミュージシャンの活躍が目立ってきた。
とりわけコレに敏感に反応したのが、日本の音楽関係者と音楽ファンたちである。もともと日本人には、裏方の仕事や職人芸に美徳を感じる国民的指向性があるが、70年代中盤頃のクロスオーバー・ブーム下では、そうしたセッション・ミュージシャン集団たちの匠なプレイにスポットが当たった。ジェイムス・テイラーのバックを務めたザ・サクションや前述したアティチューズ、ニューヨークのジャズ出身者が集ったスタッフ、そしてラリー・カールトンやリー・リトナーの人気沸騰がそうである。そしてその流れを継承しつつ、シンガーを立ててポップ・ロック・シーンに斬り込んだのがTOTOだった。更に1980年になると、追い討ちをかけるようにフォスター&グレイドンがエアプレイを組み、”AORの金字塔”と謳われるアルバム『ロマンティック』(原題:Airplay)を発表。そこで2人を支えたのも、TOTOの中核メンバーたちだった。
そしてその緻密なアレンジワーク、完成されたプレイが日本の音楽界、特に作編曲家やミュージシャンたちに衝撃を与え、日本の歌謡〜ポップ・フィールドにTOTO/エアプレイ・サウンドが蔓延した。当時の松田聖子のヒット・シングル「チェリーブラッサム」や「夏の扉」を聴けば、きっとそのインパクトの大きさが伝わるだろう。エアプレイは本国ではまったくプロモートされなかったが、クインシー・ジョーンズやトミー・リピューマ、アリフ・マーディンらのように、ポップとロック、ジャズ、ソウル/R&Bとジャンルを越えて高度な音楽性を持つプロデューサーがヒット作を連発する時代が到来。ハイスキルで柔軟性の高いTOTO系ミュージシャンは、ますます活動領域を広げてステイタスを高めていった。
80年代前半の和モノでTOTOのメンバー参加作を見ると、浜田省吾『Home Bound』、葛城ユキ『L.A. Spirits』、水越恵子『Im Fine』、鈴木義之『L.A Lullaby』、ジャズ出身のアンリ菅野『ショウケース』、そして海外進出を試みていた矢沢永吉『P.M.9』『YAZAWA Its Just Rockn Roll』『I am a Model』と数が多い。中でもシティ・ポップのメインストリームで、中身も大充実していたのが、冒頭に触れた竹内まりや『MISS M』と尾崎亜美『HOT BABY』である。これは前者がフォスター&グレイドン、後者はフォスターがアレンジを手掛けたもので、ルーク、ジェフを中心にデヴィッド・ハンゲイトも参加。数年前にSuperflyがまりやと共演した「Sweetest Music」が『Miss M』の楽曲だったり、亜美はフォスターを日本へ招いて2作連続でコラボして『Air Kiss』を作るなど、それぞれのキャリアでも重要な一枚になっている。
少しロック寄りだが、同時期のChar『U.S.J.』や米国プログレ界で活躍を続ける奥本亮『Makin Rock』も、ほぼ同じ陣容が相当にハイテンションの演奏を聴かせるので要チェック。また河合奈保子が『DAYDREAM COAST』『9 1/2 NINE HALF』の2枚、岩崎宏美が『I Wont Break Your Heart』と、実力派のアイドル・シンガーがLA録音でオトナの女性へと成長していく姿を描いたことも興味深い。とりわけ河合の『9 1/2』は、ルークとのデュエットを聴かせた点も高ポイント。
レコーディング・ユニットとしてのTOTO/エアプレイ一派が最も華々しく活躍した一方で、まだ海外録音そのものがステイタスになった時代。シティ・ポップ的にはまさに絶頂期と言えるが、売れっ子ミュージシャンとのコラボは、まだハードルが高かった。そうした雲行きが変化してきたのが、80年代後半〜90年代である。小田和正『K.ODA』、『Flower bed』『HELLO LOVERS』の2作で共演した渡辺美里を筆頭に、オフコース、中村雅俊、上田正樹、大貫妙子、杏里、山本達彦、黒住憲五、麻倉未稀、飯島真理、杉山清貴など、メンバーが個々にセッション参加するパターンが増加。複数作に渡ってTOTO勢が入れ替わりで参加した浜田麻里や河内淳一(KUWATA BAND)など、以前よりロック色が濃い作品に貢献する機会も増えた。いわゆるシティ・ポップがJ-POPに吸収され、自ずとベテランからのオファーが多くなったこと。プログラミングの進化に圧倒されつつも、メンバー自身のプレイが円熟し、メンバーひとりひとりが個性を確立。ハードさを増幅したルークが象徴的なように、クライアントのニーズによって一本釣りされるセッション・ワークが増えた。

デヴィッド・ペイチ(Photo by Alessandro Solca)
作編曲面でTOTOサウンドの骨格を作ったデヴィッド・ペイチは、キャリア50年にして初めてのソロ・アルバム『Forgotten Toys』を発表したばかり。健康上の問題から、現在は準メンバー的ポジションに退いているが、グループ創設者で、「Rossana」に代表される初期レパートリーをほとんど一人で書いただけあり、その内容には今もTOTOらしさが漲っている。もちろんルークや、現行TOTOには欠かせないシンガーのジョセフ・ウィリアムスも参加している。
フォスターやグレイドンと違って、ペイチ自身はアレンジやプロデュースに積極的ではなかったが、その分ルークやポーカロ兄弟の当時のスタジオ・ワークの数は半端ではない。仮にギャラが多少嵩んでも、仕事が早くて的確だから、トータルでメリットが高い。しかも彼らには知名度があるので、参加が実現すれば注目度が上がる。そうやって日本からのオファーが増えていった。もし彼らの参加がなくても、日本で一世を風靡しているTOTO/エアプレイのスタイルを取り込めば、作品のグレードが上がる。今剛、松原正樹、井上鑑、林立夫らが組んでいたスタジオ・ミュージシャン集団パラシュートが注目されたのも、”日本のTOTO”と見なされたからだ。
シティ・ポップ再評価が世界的潮流となった今、そこに隠れたAOR周辺ネタは、これからも掘り起こされていくに違いない。ウィーザーがTOTOの「Africa」をカバーしたことと、ザ・ウィークエンドが亜蘭知子「Midnight Pretenders」をサンプリングしたことは、彼らがおおよそ同じ方向を見ている証しと言えるのだ。

デヴィッド・ぺイチ
『Forgotten Toys|フォガットゥン・トイズ』
2022年8月24日(水)リリース  
日本盤:高品質Blu-Spec CD2仕様、歌詞・対訳・解説付 
購入:https://SonyMusicJapan.lnk.to/ForgottenToys

TOTO
『TOTO IV~聖なる剣 40周年記念デラックス・エディション』  
発売中
日本独自企画|完全生産限定盤
●SACDマルチ・ハイブリッド・ディスク仕様(SACD5.1ch&2ch、そしてCDがこの1枚で再生可能)  
●18cm×18cmの7インチW紙ジャケット仕様 
●オリジナルLP(US初版)内袋復刻  
●オリジナルLP盤風レーベル面CD  
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※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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