米ジャズプレーヤーが解き明かす“J-POP”の正体、音楽的アイデンティティ – premium.kai-you.net

Interview
インタビュー
Column
コラム
Review
レビュー
Series
連載
Discord
コミュニティ
Discordに参加する
会員限定コミュニティにようこそ!
Interview
インタビュー
Column
コラム
Review
レビュー
Series
連載
FOLLOW US
メニューを閉じる
Interview
日本の音楽が持つアイデンディティとは何か。

米サックス奏者が看破するその正体。黒人文化と共鳴する精神とは?
クリエイター
この記事の制作者たち
柴那典
インタビュー・執筆
LiT
通訳
和田拓也
撮影・編集
グラミー賞ノミネート経験もある第一線のジャズミュージシャンであり、日本のポップカルチャーの熱いファンでもあるパトリック・バートレイJr.はJ-POPの音楽的な特徴を誰よりも鋭く、かつ愛情を持って分析できるミュージシャンの一人だ。
数々の大物ミュージシャンとステージを共にする一方、自らが主宰するプロジェクト「J-MUSIC Ensemble」では多くのJ-POPやアニソン、ゲーム・ミュージックの楽曲を自らアレンジし演奏している彼。 幼い頃からの音楽の英才教育、そしてジャズミュージシャンとしての素養をもとに、J-POPやアニソンの成り立ちをさまざまな角度から分析してきた。
そこでKAI-YOUでは来日したパトリックのロングインタビューを実施。彼自身の生い立ちとアニメ愛をじっくり語ってもらった。

日本のアニメとゲームが、アメリカ黒人社会の少年と世界を繋いだ
自身が率いるプロジェクト「J-MUSIC Ensemble」で、多くのJ-POPやアニソン、ゲーム・ミュージックの楽曲を自らアレンジし演奏し…
こちらでは、日本の音楽の持つユニークな特徴をパトリックに解き明かしてもらう。
淡谷のり子や坂本九から、AKB48やモーニング娘。、椎名林檎、初音ミクなどさまざまな名前を挙げながらの解説。メロディが持つノスタルジーの感覚、音韻とリズムの関係など……専門的な内容も含まれるが、とても興味深い言葉が次々と綴られる。
インタビュー・執筆:柴那典 通訳:LIT_JAPAN 撮影・編集:和田拓也 取材協力:Jazz Cafe Bar DUGJazz House NARU
パトリック・バートレイJr.
──パトリックさんはJ-POPを研究して音楽的に分析してきたということですが、まずはどんな特徴が挙げられますか?
パトリック 僕は日本の社会のあり方が音楽に影響を与えていると考えています。アメリカや西洋社会全般においては「個人」にフォーカスが当てられている一方で、日本では「集団」が重視されているように見えます。これは他のアジア社会でも同じかもしれませんが、その価値観が音楽にも染み込んでいると思います。そこが僕がまず興味深いと思っているところですね。
例えばAKB48やモーニング娘。などを見ていると、これらのグループのメロディ、ダンス、振り付け、ファッションのほとんどが、ある特定のフォーミュラ(公式)に沿って作られていることがわかります。そこにはある種の団結や結束の心理をかき立てるようなものがある。嵐やKAT-TUNなどのジャニーズグループの音楽もそうです。これらのグループが非常にポピュラーなのはそれが理由にあるように思います。
加えて、こうしたグループが歌うメロディは、非常に多くの音が詰め込まれ、早く展開する、日本らしいポップなメロディです。それがJ-POPのユニークさを生み出していると思います。
──日本らしいメロディということですが、それはどういうものですか?
パトリック いくつかのメロディの発想があり、それを理解していればこんな風に15秒で「J-POPっぽい」音楽を作ることができます(と、鼻歌でメロディを歌う)。多くの日本の作曲家は、こうした聴き馴染みのあるメロディを生み出しています。日本の素晴らしいキーボーディストであるBIG YUKIとセッションをしたときにも、「なあ、俺、J-POP風メロディを10秒で作れるよ。作りたいなら作るよ! 500万円!(笑)」と言って、即興でメロディを歌ったことがありました。日本の作曲家は、この「聴き馴染みのあるフィーリング」をリスナーから引き出す方法を理解しているように思います。これは僕にとってすごく興味深いコンセプトとフィーリングなんです。
──パトリックさんがジャズを学んだ経験は、日本の音楽を分析する上で役立ちましたか?
パトリック もちろんです。ジャズという音楽は、他のどのジャンルよりも深堀りしないと音楽の全体像が見えないジャンルだと思うんですね。学習することで音楽のより深い部分が見抜けるようになる。少なくともプレイヤーにはそれが求められます。かつ、ジャズは、大胆で冒険的なプレイヤーたちが、他のタイプの音楽からコンセプトや音楽理論を引っ張ってきて取り込み続けているジャンルです。
TKY04401.jpg
パトリック つまり、重要なのは、ジャズミュージシャンは楽曲構造や高度な音楽理論を勉強し、その上で新しいものを作ることが求められるということです。即興で新しいものを作り出し、楽譜には書かれていないニュアンスを高いレベルで表現する必要がある。だから、僕たちは、一つの和音を聴いたときに、それを解釈して拡張する様々な可能性が”聴こえている”んです。即興演奏においては、高度な集中力と、高度な音楽理論の知識を総動員しなければいけない。ジャズミュージシャンはそれをコンスタントに行う訓練を積んでいるわけです。
──そうした視点を踏まえて、パトリックさんに“聴こえる”可能性とはどういうものでしょうか?
パトリック 日本の音楽を聴いていて一番面白いなと思うのは、ジャズやクラシックのミュージシャンであれば普通は演奏しない音が聴こえてくることです。特に、日本の音楽はノスタルジア、伝統、家族といった感情を呼び起こすんですね。それがたとえ荒々しいメタルやビジュアル系のサウンドであってもそうです。日本の文化と心には、ノスタルジアや故郷に関する感覚が深く刻まれているように聴こえるんです。これはアメリカの文化圏で確立されているものとは真逆です。アメリカでは「故郷から逃げ出したい」「自分のアイデンティティを見つけたい」「新天地でチャンスを手にしたい」「ヒップでクールでいたい」という感じなんですね。
ジャズミュージシャンにもそういう側面がありますが、その気持ちはまた別のところから来ているんです。ブラック・コミュニティの”もがき”、つまり不自由だった奴隷時代以降のアイデンティティの欠如から来ている。だからこそ僕はその経験を”僕の耳で聴こえている”日本の音楽に取り入れているし、さらにその経験を日本の音楽に注入したいと思っているんです。ジャズに影響を受けた日本の作曲家たちも、そういう風に自分なりの経験を音楽に取り入れていると思います。
──それは例えばどなたでしょう?
パトリック 服部良一がまさにそうです。彼が書いた、淡谷のり子の「別れのブルース」まで遡ります。ジャズが持つ自由やアイデンティティを渇望する心と、日本のアイデンティティが比較されている。それがとても面白いんです。
TKY04752.jpg
この記事の続きを読むには
あと8561文字/画像8枚
すでにアカウントをお持ちの方は ログイン
アカウントを作成
お支払い情報を入力
サブスク登録完了!
メジャーキーで「ノスタルジー」を想起させるJ-POPの謎
日本から見る中国のbilibiliカルチャー

2021.12.26
日本から見る中国のbilibiliカルチャー

日本で始まり、いまや世界中で人気の高いバーチャルYouTuber(VTuber)。もちろん日本で人気の高いVTuberや海外からデビューするVTuberもいますが、…
2021.12.26
新世紀の音楽たちへ

2021.01.27
新世紀の音楽たちへ

同人音楽の動向を紹介してきたこの連載もついに最終回を迎えました。 これまでの連載では、同人音楽のサークルや作品に触れつつ、その文化的な位…
2021.01.27
海外トップアニメYouTuber「Gigguk」が語るアニメの現在地

2021.04.20
海外トップアニメYouTuber「Gigguk」が語るアニメの現在地

「やっと、アニメがクールになった」 KADOKAWAの市ヶ谷ビルで、そう沁み沁みと語るのはアニメ系YouTuberのGigguk(ギグーク)。2007年に活動を開…
2021.04.20
KAI-YOU アカデミー

2021.05.31
KAI-YOU アカデミー

ボーカロイドをはじめとしたネットカルチャー出身のアーティストたちが、活躍の幅を広げている。そんな音楽シーンについて、東京大学で講義を行って…
2021.05.31
現代イラストレーターの肖像

2020.11.21
現代イラストレーターの肖像

LAMさんの描くイラストの特徴は、攻撃的という表現すら優しく感じるほどに強烈な「目」だ。その目が放つ神秘的な閃光が拭い去れない違和感として残り…
2020.11.21
「BATTLE SUMMIT」 ハハノシキュウが目撃した伝説の一夜

2022.09.17
「BATTLE SUMMIT」 ハハノシキュウが目撃した伝説の一夜

君は誰に愛されたいの? 俺は俺に愛されたいよ 勿論、君にも愛されたいよ 欲張りと言われても仕方ないもう裂固 feat.Authority「ANSWER」 「…
2022.09.17
様々なジャンルの最前線で活躍するクリエイターや識者を中心に、思想や作品、実態に迫る取材をお届け

2022.10.12

今、バーチャルシーンで最もヒップホップシーンに近いVTuber・オシャレになりたい!ピーナッツくん。反対にヒップホップからバーチャルに最も近いラ…
2022.10.12

2022.10.09

ヒップホップやラップミュージックがメインストリームを席巻するUSでは、ヒップホップ=ポップミュージックと同義に扱われているが、ここ日本におい…
2022.10.09

2022.10.08

今年4月に開催されたFPSタイトル『VALORANT』の公式大会にて、日本代表のプロチーム「ZETA DIVISION」(ZETA)は、日本チーム初となる総合3位という…
2022.10.08

2022.10.07

昨今のボーカロイドシーンの隆盛に密接に関わっているのが、2020年の冬から毎年開催されている株式会社ドワンゴによるボーカロイドの祭典「The VOCAL…
2022.10.07

2022.10.02

1970年代に誕生したカルチャーでありながら、現代においてニコニコ動画やYouTubeといった動画文化と融和し、ブームを巻き起こしているTRPG。 出版…
2022.10.02

2022.10.01

マルチな才能で活躍する──メディアではそんな陳腐な常套句で片付けられてしまうかもしれない。確かにELIONEは、ラッパーとしてだけでなく、プロデュ…
2022.10.01

2022.09.30

何度目かの「e-Sports元年」を乗り越え、本格的な隆盛を見せるe-Sportsシーン。ブーム到来の要因のひとつには、コロナ禍を背景にした「ゲーム配信」…
2022.09.30

2022.09.25

バーチャルセックス。 VR空間上で、ゴーグルやコントローラーを介して物理的には遠く離れた人間を相手に、一対一、あるいは複数で性的な快感を目…
2022.09.25

2022.09.22

パクリやトレース、著作権侵害、テクノロジーへの対応など、ポップカルチャーに関する法律的な問題が注目される機会は増え続けている。そこでKAI-YOU…
2022.09.22

2022.09.20

インディペンデントカルチャーを支えるプラットフォーム・Discordを探訪する本連載。 今回のテーマは「メタバース」だ。 ──もちろん、話題のバ…
2022.09.20

2022.09.18

D.OとRed Eyeによる初対談。司会はどちらのこともよく知る漢 a.k.a. GAMIだ。 テキーラを煽り、極上のヘネシーとシガーに耽る仲間だけのスモーキ…
2022.09.18

2022.09.17

君は誰に愛されたいの? 俺は俺に愛されたいよ 勿論、君にも愛されたいよ 欲張りと言われても仕方ないもう裂固 feat.Authority「ANSWER」 「…
2022.09.17
様々な記事の中から編集部で厳選したイチオシ作品をご紹介
INTERVIEW
昨今のボーカロイドシーンの隆盛に密接に関わっているのが、2020年の冬から毎年開催されている株式会社ドワンゴによるボーカロイドの祭典「The VOCAL…
2022.10.07
ライター
アンチボカコレとして生まれながら、ドワンゴ全面協力のもと実現した無色透名祭。ボカロシーンに残したものの本質を振り返るこの対談が、ボカコレ秋へのささやかなバトンになれば幸いです。
COLUMN
「アニメ・ゲーム・漫画・ライトノベル」といえば、00年代から20年ほどにわたって続くインターネット・カルチャー内の共通言語として大きなハブとな…
2022.07.31
編集
みんなが薄々感じながらも積極的には口に出さず、体系的に論じてこなかった現在のオタク的潮流。客観的数字で裏付けながら「アニメからVTuberへ」の流れを超絶ボリュームで論じてます。
歌い手たちのキャリアストーリー
歌い手たちのキャリアストーリー
INTERVIEW
数々の先駆者たちの躍進があり、「歌い手」や「歌ってみた」は今やポップなカルチャ―として、世の中から知られつつある。ボーカロイドカルチャー同様…
2022.07.29
ライター
今歌い手の世界に何が起こっていて、彼らはどこへ向かっていくのか、そのキャリア観に迫る連載がスタートしました。一本目は、活動14周年を迎えたばかりのそらるさんに登場いただきます。
INTERVIEW
正午に一同が集合し、3rdアルバム『Walk Through the Stars』の爆音上映とインタビュー前半の収録を終えた時点で、時計の短針は四を指していた。 …
2022.06.17
KAI-YOU CEO / プロデューサー / 編集者
プロデューサーを招き入れ、音楽制作の環境を刷新させたピーナッツくん。仲間たちと作り上げたアルバムの全曲解説から、主観的な作風になったと語る彼の変化を垣間見ることができます。ヒップホップシーンから熱視線を浴びる、ピーナッツくんの最新型がここにあります。
『なめらかな世界と、その敵』伴名練インタビュー
『なめらかな世界と、その敵』伴名練インタビュー
INTERVIEW
文庫化された『なめらかな世界と、その敵』を軸に、現代を代表するSF作家・伴名練の「SF観」について前編では掘り下げた。 後編では、その作…
2022.05.29
編集
KAI-YOUスタッフ全員ハマった傑作小説集の作者。覆面作家ということもあって常々お会いしたいと強く思っていたところ、芥川賞作家の高山羽根子さんも同席くださるという贅沢なシチュエーションで取材させていただきました。
NFTはカルチャーの“希望”たりうるか?
NFTはカルチャーの“希望”たりうるか?
INTERVIEW
2021年、一大ブームとなったNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)。ブロックチェーン上の識別子をデジタルデータに紐付け、その所有権を証明…
2022.05.25
ラッパー/ライター/編集
一大ブームとなったNFTはカルチャーに何をもたらすのか? その最前線にいる方々への取材などを通し、NFTの"価値"を改めて問い直す連載が始まりました。NFTに期待している人も懐疑的な人もぜひ読んでいただければ。
境界線を飛び越えて──ボーカロイドが繋ぎ、残した文化と才能
境界線を飛び越えて──ボーカロイドが繋ぎ、残した文化と才能
INTERVIEW
ボカロ・歌ってみたのMVを中心に、これまで約100本の動画を制作してきたりゅうせーさん。前編の最後には、「今が一番心地よい立ち位置になっている」…
2022.05.13
ライター
10年にわたりボカロMVの第一線で活躍されてきたりゅうせーさん。カゲプロの盛り上がりを真横で見ていた当時の思い、担当作品に対する責任感や葛藤など、赤裸々に語っていただきました。
VIDEOS
「今だから言えるけど、お互い絶対好きじゃなかったっすよね」 ラッパーのRYKEY DADDY DIRTYとMU-TON。今、彼らは共に過ごす時間の中で音楽制作に…
2022.03.26
編集
意外な組み合わせ、でも深く話を聞くと、出会ったのは必然だったように腑に落ちてくる2人のラッパー。ここだけの話が動画になってます!
ラッパー/プロデューサー
バーチャルYouTuber/Amazonプライマー/ゆるキャラ
VTuberクリエイター
ライター
KAI-YOU CEO / プロデューサー / 編集者
文筆家

source

最新情報をチェックしよう!
広告
>すべての音楽情報をあなたに・・・

すべての音楽情報をあなたに・・・

インターネットで情報を探すとき、あなたはどうやって探しますか?いつも見ているページで情報を得る?検索エンジンで好きなアーティスト名を検索してでてきたものを見る?本当にそれであなたの欲しい情報は手に入れられていますか?

CTR IMG