chilldspot Zeppファイナルで見せた懐かしいのに新しい、本物の日本語ロックの香り – http://spice.eplus.jp/

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バンドの存在を知ってから1年半ほど経つが、ようやくワンマンライブを観る機会に恵まれた。10月26日、chilldspot「One man tour“Road Movie”ファイナル。サブスクとYouTubeの時代、ことにコロナ禍以降はアーティストが“ブレイクする”手法や基準が大きく変わったようだが、“ライブを体感すること”がアーティストにほれ込む最も重要なチェックポイントであることは変わらない。全員が2002生まれの、今後の日本の音楽シーンで大きな存在になる可能性に満ちた若き逸材。東京・Zepp DiverCityは1階も2階もすでにchilldspotの魅力に取りつかれたオーディエンスでいっぱいだ。
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左向きにエレクトリックトリックギターを構えた比喩根が素晴らしくソウル溢れる声で歌い出す、1曲目「music」のワンコーラスで早くも心をぎゅっと掴まれる。ほのかにレゲエを感じる心地よいグルーヴにファンキーなカッティングを添えた、バンドアンサンブルはセンス良くストイック。「今日はみなさんと一緒に楽しみましょう。手拍子お願いします」――緊張でちょっぴり上ずった比喩根の呼びかけが初々しい。R&Bと言うよりリズム&ブルースを感じさせる「line」、そして比喩根と玲山のツインリードがかっこいい、ねっとりスローな「yours」。ハタチそこそこのバンドのグルーヴとは思えない、ブルース、ソウル、ロックンロールの勘所を押さえた渋さ満点の歌とプレー。かといってまったく古さを感じない溌剌とした勢いと、ティーン世代のみずみずしい感情がほとばしる若い言葉。たった3曲でこれはすごいライブバンドだと納得させる、目の覚めるようなパフォーマンス。
「今日はツアーのラストですね。メンバー一同、今日という日をすごく楽しみに待っていたので、一緒に最後まで楽しい時間を作っていきましょう」(比喩根)
chilldspot
歌う時のド迫力とは裏腹に、手を振りながら笑いながら、しゃべる時の比喩根は少女めいた愛らしい表情を見せる。楽器の一音一音に個性がにじみ出る、ぎりぎりまで音数を切り詰めたスローチューン「hold me」から、玲山がかっこいいワウギターのソロを決める「shower」、そして「flight」とコクのあるミドルテンポの楽曲が続く。うなるような語るような低音から、叫ぶように舞うように突き抜けるハイトーンまで、比喩根の歌は巧いうえにとても情感豊か。明るくはずむ「Sailing day」の、同世代を励ます応援歌を思わせるメッセージの説得力も満点だ。歌を支えるドラムのジャスティンとベースの小崎の、ストイックな職人気質のプレーも聴き入るほどに味がある。誰か一人が飛びぬけてもバンドは成り立たない。4人のバランスがとてもいい。
「結成3年目、初めての全国ツアーです。“Road Movie”は主人公たちがいろんなところを回りながら成長していく映画のジャンルのことで、この4人が主人公となって成長していきたいという思いで付けました。楽しくて、成長できるライブにできたらいいなと思っています」(比喩根)
比喩根
玲山
みなさんともっと距離を縮めるために。ハンドマイクを手に取った比喩根が、ステージ最前線へ歩み出て歌う「夜の探検」。ヒップホップを感じるビートと、大人になることの不安と期待を色鮮やかに描くリリックと、韻を踏んだラップ風のボーカルがとてもクール。「weekender」もティーン特有の繊細な内省をテーマに、日記を朗読するような身近さと共感を、そして「夜更かし」は、演劇のセリフめいた歌唱を交えながら一人で過ごす夜のひそかな楽しみを、たっぷりとビートの間をあけたスローナンバーで絶妙に表現する。
「dinner」は、ジャスティンの叩く微妙にテンポをずらせたリズムが特長的な、サイケデリックな酩酊観がとても面白い曲。「Monster」は何と言っても歌詞が強力で、心通じ合えない大人たちを「Monster」に例え、どぎついグリーンとレッドの灯りが照らす中、怒りと悲しみをこめて吐き捨てるように歌う比喩根。さらに、ステージの上から下からまばゆく照らすミラーボールの下、今日イチのダンサブルなアップテンポで突っ走る「未定」、続けて「この曲でぶち上げていきましょう」と煽り、オーディエンスの手振りとダンスでフロアが揺れた「Groovynight」へ。玲山が激しく動き回りながらワウの効いた渾身のソロを決める。ジャスティンと小崎がリードする、スロー/ミドルテンポのアーシーでソウルフルな演奏ぶりもかっこいいが、ディスコやファンクを取り込んだねばっこいダンスチューンも実にハマってる。「ついてきて!」と比喩根が叫ぶ。強引なほどの突破力と引率力でバンドは走る。
小﨑
ジャスティン
「今まではコロナ禍でスタッフさんとのコミュニケーションがあまり取れなかったけど、今回のツアーでチームとして結束力が強くなったと思います」
「演奏面でもすごく成長したと思うんですよ。初めてのワンマンライブから1年しか経っていないのに、自分たちでも成長を感じれるし、以前観たことのある人もちょっと印象が変わったと思います」(ジャスティン)
ジャスティンは人間関係の面から、比喩根は演奏の面から、それぞれにツアーの成果を語る言葉が頼もしい。学生バンドの面影を残すざっくばらんな友達言葉と、男性陣のシャイなたたずまいが微笑ましい。「ここからは落ち着いてしっとりした曲を」という比喩根の言葉に続く、気だるくメロウで肉感的な「ネオンを消して」、フォークロックふうのきらめくギターリフが印象的な「Ivy」、そして素晴らしくエモーショナルな三連符のロックバラード「Kiss me before I rise」。いとしさとせつなさと力強さと、深い情感を込めた歌を淡くにじんだ照明の下で響かせる比喩根。周りの見えない暗がりが距離を縮めて巨大なライブハウスであることを忘れさせ、バンドと自分が一対一になれる素敵な時間。
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「ライブにはいろんな形があるけど、フリーになって、楽しく、手を叩いたりはしゃいだり、そういうことができるのがライブの醍醐味なのかなと思っています。ラスト3曲、とびきり楽しくて幸せで、盛り上がれる曲を持ってきたので、みなさん一緒に盛り上がってくれますか?」
どこまでも現実逃避していこうよ。旅に出よう。盛大な手拍子と、オーディエンスが左右に打ち振る手のリズムに乗って軽快に、トーキング調の歌が楽しい「your trip」。無邪気にポップで明るいリズムに理屈抜きで乗れる「BYE BYE」。そして最後は「こんな素敵な景色を私忘れないから」と、感極まる声で紹介した、テレビ朝日系「あざとくて何が悪いの?」あざと連ドラ第6弾主題歌/ CITEN スペシャルムービータイアップソング「Like?」。比喩根は手を上げ、足を振り、飛び跳ねながら歌ってる。今日初めてハンドマイクを握ってライブをやったとは思えない、挑戦というより新しい遊びを見つけたようなフリーダムなはしゃぎっぷりがいい。たっぷり90分で20曲、今のchilldspotのすべてを出し切った濃密な時間。
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すべてを出し切ったおかげでバンドがアンコールで歌う曲がなくなってしまったと、比喩根が謝りながら笑ってる。しかし彼女が一人きりエレクトリックギターを爪弾き歌った、最新アルバム『ingredients』収録の「私」は、熱気と興奮で飽和したフロアの空気を和らげるのに最適の選曲だった。心の奥底に沁み入るように、ソウルに触れる歌声。最後は再び4人が揃い、手を振りながらステージを去る。遠目にもわかる満面の笑みで、またの機会の再会を強く願って。
chilldspotの音楽は、懐かしいのに新しい、J-POPやシティポップと呼ばれるよりも前の美しい本物の日本語ロックの香りがする。ロック、ソウル、リズム&ブルース、フォークなどルーツ音楽の影響をダイレクトに取り込んだ骨太な演奏と、ティーンズの思いを代弁するみずみずしい歌詞と、そして素晴らしい比喩根の歌がある。この音楽がどこまで広く遠く広がって行くのか、期待は尽きない。未来には希望しかない。

取材・文=宮本英夫 撮影=Kana Tarumi
ENDO
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