中島美嘉の1stアルバム『TRUE』に見る時代の変遷にも紛れない唯一無二の歌声 – music.jpニュース

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中島美嘉が5月4日、通算10枚目のアルバム『I』がリリースされたということで、今週は邦楽名盤コラムでは彼女のデビューアルバム『TRUE』を取り上げる。新作『I』は全曲の作詞作曲を中島美嘉本人が手掛けた初めての作品で、デビューから20数年を経て、自らのプロデュースを行なうアーティストにまで成長したその証と言えるだろうか。加えて、先日テレビ番組を観ていたら、綾戸智恵が“自分の歌の経験を託したい人”として中島美嘉を指名していた。キャリア豊富なベテランのジャズシンガーにそう言わしめるほどに、彼女はシンガー、アーティストとして確固たるポジションを築き上げてきたわけだ。そんな中島美嘉のデビューはどういうものだったのか? まずはそこから振り返ろう。
中島美嘉は2001年10月に女優としてデビューし、同年11月にはそのドラマの主題歌でもあったシングル「STARS」で歌手としてデビュー。「STARS」はいきなりチャート初登場3位という好リアクションを示した。その後、2nd「CRESCENT MOON」(2002年2月)、3rd「ONE SURVIVE」(同年3月)、4th「Helpless Rain」(同年5月)、5th「WILL」(同年8月)と立て続けに発表したシングルは、いずれもチャートトップ10入り。そして、同年8月にリリースした1stアルバム『TRUE』はチャート初登場1位を記録して、ミリオンセラーを達成する。さらに彼女はその年の日本レコード大賞で最優秀新人賞を受賞し、NHK紅白歌合戦にも初出場を果たした。

それまでの彼女は、何でも[高校には進学せず、約1年間地元のファーストフード店などを中心に友達4人と共同生活をしながらアルバイトをしていた。1999年、福岡県福岡市に移り住み、アパートの一室で集団生活をしながらモデルのアルバイトを始め]ていたらしく、そこだけで見たら、まさしくシンデレラストーリーの主役である([]はWikipediaからの引用)。しかしながら、何と言うか、ことはそう単純なものではないようである。筆者がそれに気づいたのは数年前。彼女が某ラジオ番組にゲスト出演していた時のことだ。そこでのトークがなかなか興味深いものであった。“デビュー20年になってこれを言っていいのか分からないんですけど…”と前置きをして彼女は次のようなことを語り出した(以下はその時の彼女の発言を筆者なりに要約して再構築したものであることをご了承ください)

当初はここまで長く歌手活動を続けるつもりはなかったし、歌手になりたい、女優になりたいという気持ちでオーディションを受けたつもりはなかったので、すごく幸運だった──彼女はそう言うのだ。経緯はこうだ。友人の作曲家に“僕が作った曲に仮歌を入れてくれない?”と依頼され、その意味もよく分からないまま、“私で良ければ”と受諾。その仮歌が入ったデモは、友人の作曲家によってオーディションに応募された。彼女の写真付きで送られたという。そう考えると、その作曲家は彼女を推したのだろう。そして、彼女はそのオーディションに呼ばれることになる。本人は応募した記憶がないので当然、戸惑ったというが、その曲自体を売り込まないといけないという想いからその場はしっかりと対応。その甲斐あってか見事に合格する。そして、前述した女優デビューということに相成った。

しかしながら、そんな調子で臨んだオーディションだったので、“芸能界に入った”という気持ちもなく、ドラマが終わったら次のバイトを探すつもりでいたという。無論、デビューは嬉しい出来事であったことは間違いなく、デビューできたことに感謝もしていたが、決して歌手を目指していたわけではないので、心境は複雑だった。インタビューなどで“デビュー前はどんなふうにレッスンしていたんですか?”と訊かれても答えに窮していたというし、その一方で、“私がオーディションに応募したんじゃないんです”って言うのもカッコ付けてるみたいでイヤだったそうだ。葛藤が消えなくて心苦しかったと述懐していた。

そんな彼女が芸能界でやっていこうと肚を決めたのは、当たり役と言われた映画『NANA』への主演が決まった時だという。それが2005年のことだから、おおよそ4~5年は心の中のモヤモヤが続いていたことになる。今となっては、それはそれで逆に肝の据わった話でもあると思うのだが、とにかくもともと歌手になることを強く望んでいたわけではなかったようである。才に長けた人は自ら運命を引き寄せるものなんだなと思うと同時に、デビュー当時の彼女がそうした思考だったことはさもありなんと言えばさもありなんというか、何となく想像も付いていた。当時、TV番組などで見かけたクールなイメージからもそう思っていたのだが、何よりも今回デビューアルバム『TRUE』からもその気配を感じたところである。
オープニングM1「AMAZING GRACE」は申し分のないトラックだ。彼女が発する独特の雰囲気を上手く形に残している。サウンドはシンセとピアノ。派手じゃないところがいい。歌を邪魔していないように思う。彼女の声は太くはないけれど、芯がしっかりしている。フワフワしてないというか、(この説明でいいかどうか分からないけれど)声質のわりにはどっしりとした存在感あるのである。その意味でスタンダードナンバーを頭に置いたのは正解。とにかく声の良さが際立つ印象だ。

M2「WILL」はいわゆるアルバムのリードシングルというかたちであったので、この2曲目が定位置だろう。ピアノからストリングス、そこからのバンドサウンドと、これもまた徐々にじっくりとテンションが上がっていく。若干、舌足らずな歌はデビュー作であることを考えればご愛敬でもあるし、この人ならでは味わいと見ることもできる。前述した通り彼女の声はか細い印象で、パッと聴きには喉と口で歌っているようでもあるが、聴き進めていくうちにちゃんと腹から出ていることがよく分かる。ハイトーンに音階を辿るところでそれがはっきりする(サビの《夢を見て来たのだろう》や《瞳を開きながら》のところ)。高音に突飛な感じがないのだ。小手先で歌っているとこうはならない。簡単に言えば、彼女はやはり歌が上手いのだと改めて実感させられるナンバーなのである。

今回『TRUE』を聴いて意外だったというか、“中島美嘉がもともと歌手になることを強く望んでいたわけではなかった”ということに、勝手に納得したのはM3「ONE SURVIVE」以下だ。意外というのは、あくまでも個人的な見解…と前置きしておいたほうがいいだろう。中島美嘉の音源を粒さに聴いてきたわけではないし、それどころか、端的に言って中島美嘉と言えば10th「雪の華」(2003年)と16th「GLAMOROUS SKY」(2005年)のイメージが強く、そんな自分にとっては少なくともコンテポラリーR&Bの印象はない。だが、本作では、M3からM7「I」まではブラックミュージックの色が濃いように思う。

M3「ONE SURVIVE」はキラキラとしたサウンドのディスコティックダンスチューン。M4「HEAVEN ON EARTH」、M5「DESTINY’S LOTUS」、M6「Helpless Rain」はそれぞれテンポもサウンドの方向性も違うが、まさに当代R&Bだ。M7はギターの音色に耳を惹かれるが、やはりこれもR&Bにカテゴライズされるものだろう。別にそれがいいとか悪いとか言うつもりはないけれども、5曲連続とは如何にも時代を感じる。宇多田ヒカル『First Love』がリリースされ、日本国内のアルバムセールス歴代1位を記録したのが1999年のこと。以降、邦楽シーンは浜崎あゆみ、椎名林檎、aiko、MISIA、倉木麻衣ら、女性シンガー全盛期となっていく。それはコンテポラリーR&Bばかりではなかったものの、やはり趨勢を占めていたことは間違いなかろう。

そう考えると、中島美嘉の1stアルバムがこうなったことも理解できるところではある。しかも、彼女は歌手を強く志望していたわけでもないのだ。スタッフが流行のサウンドを取り込んだのは当然のことだったと言える。ちなみに、M11「JUST TRUST IN OUR LOVE」もR&Bナンバー。シングル「WILL」のカップリング曲でもあるのだが、このアルバムバージョンはテンポアップしてダンサブルに仕上げている。この辺にスタッフが当時、彼女の方向性を模索していた様子を感じるのは穿った見方だろうか。

ただ、だからと言って、そこに聴くべきものがないかと言ったら、それも違う。例えば、M6では如何にもブラックミュージック的な男性コーラスを(とりわけアウトロでは特に)派手に用いているのに対して、ストリングスがポップス的な鳴りをしていて、その融合が面白い。また、M5、M7ではあえてコテコテのR&Bを避けた感じもある。決してベタに流行の音楽だけを持ってきた形跡は感じられないと言えばそうだ。実際のところはどうだったのか。その辺は当時のスタッフに訊いてみないと分からないけれど、リアルタイムで聴いたリスナーがどんなふうに受け取ったのかは少し気になるところではある。20年経った今、筆者の感想は、このアルバム中盤でのブラックミュージック要素は、奇しくも中島美嘉というシンガーがコンテポラリーR&Bというカテゴリーに収まり切らない様子を写しているのではないかと受け取った。
さて、結論を述べてしまったようなところはあるが、もう少し続けて、アルバムの残りの楽曲を見ていこう。M8「TEARS(粉雪が舞うように…)」はさすがにその声に初々しさを感じなくはないけれども、ここまで聴いてくると、その無垢に音符を追いかけて歌う姿に好感を持ってしまう。ガチャついたサウンドよりも、プレーンな彼女の声のほうを聴きたいと思ってしまうと言ったらいいだろうか。その点では、M8「TRUE EYES」やM9「CRESCENT MOON」もなかなかいい。バッキングは派手で好みは分かれるところであると想像できるものの(M8ではシタールっぽい音を重ねるなど、その試みは楽しい)、サビがキャッチーであるので、まずそのさわやかなメロディーが素直に耳に飛び込んでくる。Cメロも用意されたJポップらしいナンバーでもあり、その旋律の多彩さは彼女の歌声を楽しむには十分なものであろう。

ラスト2曲は、1stシングルでもあったM12「STARS」とM13「A MIRACLE FOR YOU」。まずM12からいくと、これもまた初々しさが残るのは当然として、逆に言えば、そんなに背伸びもしてないことが分かる。これもコンテポラリーR&Bに分けられておかしくないナンバーではあるけれども、フェイクに頼ることなく、素直にメロディーを歌っているところがいいし(特にサビ)、そこが中島美嘉というシンガーの良さであることを、ここに来てダメ押し気味に示してくれているようだ。個人的な見解としては、彼女の声はそれ自体に独特の揺れがあって、そこが聴いていて心地よく感じられるので、変にブラさないほうがいいのだと思う。

M13ではそれも証明しているようだ。オルガンとピアノの音色に彩られたミディアムバラード。冒頭のコーラスから讃美歌っぽいというかゴスペルっぽいというか…なのだが、《歌うよ この声 張り裂けて燃え尽きても》と歌っているものの、それほど声を張り上げていない。…いや、それは冗談だが、張り上げられないと言ったほうがいいかもしれない。でも、それが正解だったと思う。レンジが広く突き抜けるようなハイトーンを駆使するシンガーも、黒人さながらのフィーリングで迫力のあるボーカリゼーションを披露するシンガーも他にいる。だが、中島美嘉は中島美嘉の歌しか歌えないし、それが唯一無二なのである。このアルバム『TRUE』はオープニングM1「AMAZING GRACE」で、ラストが讃美歌、ゴスペル調のM13で締め括られる円環構造っぽい作りだ。実際のところ、その意図は不明だが、こうした作りにしたことで(奇しくも…ではあるかもしれないが)、彼女の声質、その特性は際立ったようなところはあるように思う。彼女自身が“どうしても歌手になりたい!”というような強い想いがなかったからか、微妙にシンガーとしての方向性が定まっていないようなところもあるにはあるが、それゆえに、最も特徴的である彼女の声が浮き彫りにされたところもあるだろう。当コラムで好んで用いている“デビューアルバムにはそのアーティストの全てがある”理論は、この『TRUE』にも当てはまった。彼女の歌声だけは20年経った今でも輝き続けているのである。
TEXT:帆苅智之
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中島美嘉の1stアルバム『TRUE』に見る時代の変遷にも紛れない唯一無二の歌声

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