J-POP vs K-POP、国内市場は10倍なのに海外での認知は十分の一 … – TORJA Japanese Magazine

 音楽業界ほど技術の進歩に振り回され続けてきた業界も珍しい。蓄音機(1877)、ジュークボックス(1889)、LPレコード(1904)、テープレコーダー(1950)、カセット(1973)、CD(1983)、Napstar(1999)、Apple iTune(2001)、YouTube(2006)、Spotify(2008)と、新しいものが生まれるたびに業界構造は大きく変化する「変わりすぎる業界」でした。ですが同時に、その変化に対応するために多くの統廃合が起こり、昔からユニバーサルミュージック、ワーナーミュージック、ソニーミュージック(と2012年そこに吸収されたEMI)という大手3大レーベルが強い寡占状態を続けてきた、ある意味「変わらなすぎる業界」ともいえます。
 この業界の捉えづらさは「360度ビジネス」と言われるそのすそ野の広さにあります。IFPIという英国の国際音楽協会が1992年から毎年出している音楽市場統計はあくまで「音楽レコード関連収入(カセット・CD・デジタルダウンロード・デジタルストリーミングなどメディアに「録音」されたもので行うビジネス。フィジカル・デジタル・パフォーマンスライツ・シンクロの4種類からなる)」約3兆円の市場ですが、それは実は一部に過ぎません。それ以外にも「音楽出版権(音楽の著作権による印税収入)」が数千億円と「音楽ライブ市場」がその3兆円を上回る規模があり、さらには「マスターライツ権市場(音楽を録音した原版の著作権)」「タレント商品化市場」「ファンクラブ市場」があるからです。全て合わせると世界市場は10兆円を超えますが、それを包括する統計は存在しません。レーベルと芸能事務所の収益を全て足せば、それなりの数字が出てくるかとは思いますが、なかなか難しい。
 いったんここでは「音楽レコード関連収入」の3兆円市場の国別の傾向を図1でまとめてみます。エイベックスや小室哲哉ブームの日本がそうであったように、世界でも1997年が市場のピークでした。当時はCDのシングル・アルバムという超高収益率のパッケージビジネスの全盛期、誰もが「音楽を聴く≒CDを購入する」という形で、消費がそのまま経済活動にひもづいていたからです。だが前述のNapstar、iTune、そしてYouTubeといったインターネット普及がその黄金時代に終止符を打つ。音楽を聴くのに、必ずしも「購入」という形式をとらなくてもよくなったからです。
図1.国別音楽市場
 北米・欧州は前述の大手3大レーベルが統合・集約していくことで、この絶不調期を乗り切り、日本は「音楽ライブ・物販」にシフトすることによって、成長を維持してきました。そんな日本が、実は世界のなかではあまりに特異な環境にあることはご存じでしょうか?3兆円の世界音楽レコード関連収入市場においてCDの売上はすでに2割を切っており、趨勢は7割に近づいたストリーミングへと移っています。SpotifyやYouTube Musicのサブスク収入である。このストリーミング割合は、まだパッケージが3〜4割残っている欧州や韓国で半分を超えてきたところですが、米国や北欧・中南米・インドなどでは7〜8割、中国ともなるともう9割がストリーミングという状況ではあります。
 では3兆円市場の大半がストリーミングといいながら、日本はどうでしょうか。実はいまだ2割に満たず、CD販売が6〜7割が売れているのです。日本は「世界一のCD販売大国」であり、他国の10年前のような割合がいまだに続いているのです。それだけライブでのイベント物販やEC市場が活性化しているともいえるし、ストリーミングが弱いともいえるし、ユーザーがモノに愛着を持ち続けているともいえます。
 日本が世界2位の経済大国でなくなったのは、2010年。42年ぶりにその地位を中国に追われ、現在では3倍以上の差がついています。音楽業界においても同じことが起こり始めており、2021年にこれまで3千億円級を維持してきた日本音楽市場が、中国音楽市場によって抜かれることになります。これもまた、30年以上ぶりの事態です。図1でみるように、世界の音楽市場は常に米国が4割以上を占める、ハリウッドが寡占する世界映画市場とも近い状態が続いてきました。ですが同時に日本もまた2割のシェアを守り続けてきました。音楽の祖国ともいえる英国と比べても、統計のあるこの30年で抜かれたことは一度もないのです。国別割合でみると米国4割:日本2割:英独仏で2割:残り100数十カ国で2割。そのくらい市場だけでみれば日本は盤石だったのです。
 ソニー、ワーナー、ユニバーサルにとってもその日本法人は常に米国に次ぐ重要拠点であり、グローバルな経営体制においても英国もしくは米国のHQからはたいがい独立しており、ローカル支社で駐在ではない日本人に経営を任せるなど「日本だけは特別」というマネジメントが長らく行われてきました。コロンビアやビクター、ポリドールといった米国音楽レーベルは1920・30年代から進出していましたが、キングレコードやテイチクのような内資企業も強く、東芝EMIやソニーCBSなどのようにジョイントベンチャーで日系企業の協力を仰がなければ攻略難易度が非常に高い市場でもありました。
 さらにはジャニーズやホリプロといった事務所、テレビ局との関係性調整も必要な上に、そのすきを縫ってエイベックスやアミューズのような「新興ベンチャー」がどんどん育ってくる。そういった背景もあって、ガラパゴスではあっても「日本だけは特別」と常に注目を浴びてきたといえます。K-POPがすさまじい勢いで伸びている、とはいっても、韓国音楽市場も中国音楽市場も、今では考えられないほど「小さい」ものに過ぎなかったのです。
 世界トップ10に入っているとはいえ、韓国の音楽市場は長い間ずっと日本市場の「3%未満」に過ぎませんでした。CDが売れなくなるスピードがあまりに早く、2000年代後半にはすでに100億円未満のサイズになってしまっています。そんな韓国音楽市場が、少なくとも日本の10分の1の規模に「成長する」のは2014年になってからのこと。BIGBANGやKARAが盛り上げはじめ、PsyのYouTubeで世界中を席捲をした2012年がK-POPの「のろしがあがった」時代であり、その後は2013年にデビューしたBTSがこの10年間、その知名度を引っ張り上げてきました。対するJ-POPは世界において認知を引き上げる中心的なタレントがおらず、2010年代はほぼグーグルトレンドではK-POPの十分の一といったサイズできています。
図2.世界におけるGoogleトレンド
 あまりに対照的ですが、国内の音楽市場でみてしまえば3千億円の日本に対して、ここ数年で1千億を超えてくるまでは2010年代は3百億円にも満たなかった韓国市場。だからこそフィジカルな音楽市場には早々に見切りをつけて(中国音楽市場も全く同じ)、SNSやストリーミングに一気に舵を切ることができました。ただ「世界一になった」とは言っても、Justin Bieber、Ariana GrandeからLady Gagaなど数えきれないアーティストをひきこみつづける米国音楽市場の1.5兆円に比べれば、まだまだその足元にたどり着いたに過ぎません。
 「輸出」としての韓国音楽市場は2019年で6.4百万ドルに過ぎません(かつ北米向けはまだ2割程度、半分はいまだ日本市場向けなのです)。ピークとなるかもしれない昨年2021年でも、おそらく1千億円程度といったところでしょう。国内音楽市場と同規模の輸出がなされている点は驚愕ではあるが、北米のなかでみると数%のサブジャンルとして受け入れられている、という見方はまだ覆せません。かつ韓国からのコンテンツ輸出で考えれば「ゲーム」の7千億円、キャラクターの1千億円、その次が音楽なのです。テレビ映像、出版、アニメなど2〜3百億円、Webtoonにいたってはこれだけの認知度がありながら、実はまだ100億円にも満たないのです。
図3.韓国コンテンツの輸出総額
 ここまでみてきたように認知度と国内市場規模、その輸出市場というのは必ずしも連動しません。PsyのYouTubeが何億回再生されようと、それがそのまま売上につながるわけではないのです。ただK-POPの動きをみていると、確実に先行者の活躍によってひきあげた認知度をベースとして、「K-POP」というひとまとまりのなかで市場化への画策が行われています。5年〜10年単位では確実に市場化の波をつくるように、各事業者が勝ち馬にのろうという機運が強い。日本でも北米で需要されているアーティストはいます。Baby Metalもワンオクも、LiSAもアニメ文脈にのせて人気が高い。ですが、そうした「認知度の引き上げ」に対して、事業者として海外に取り組む動きがあまりに単発的で「波」になっていない。責任は英語で話せないアーティストに付されがちですが、むしろそれを商売に結び付けられない事業者側に大きな問題があるのではないか、と韓国のHYBE、SMエンターテイメント、JYP、YGの動きを見ていると思います。
 世界2位〝だった〟音楽大国日本、ここ10年で凋落を続けるJ-POPのプレゼンスが再び引きあがってくる予兆はあるのでしょうか?

atsuo-nakayama

中山 淳雄

エンタメ社会学者&Re entertainment代表(http://reentertainment.online) 。研究(早稲田博士課程、慶應・立命館大学客員研究員)と実業を両立するエンタメ専門家として、日本エンタメのデジタル化・海外化を支援している。リクルートスタッフィング、DeNA、Deloitteを経て、バンダイナムコスタジオやブシロードでカナダ・シンガポール駐在し会社・事業立ち上げ。ゲーム、玩具、アニメ、スポーツの海外展開を担当後に独立して現職となる。著書に『推しエコノミー』『オタク経済圏創世記』『Third Wave of Japanese Game』『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』など。 新刊告知!『推しエコノミー』(https://www.amazon.co.jp/dp/4296000357/)発売! 鬼滅の刃、ウマ娘、ソニーなどを取り上げ、アニメ・ゲームなどオタク経済圏の未来を解説しています。

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