HAN-KUN、J-POPへのリスペクトとレゲエへの愛 名曲カバーに挑戦する理由 – Real Sound

『Musical Ambassador II 〜Juke Box Man〜』インタビュー
 湘南乃風のボーカリストであり、ソロアーティストとしても意欲的な活動を続けているHAN-KUNがレゲエカバーアルバム第2弾『Musical Ambassador II 〜Juke Box Man〜』をリリースした。前作『Musical Ambassador』は男性アーティストの楽曲のみで構成された作品だったが、今作では「オリビアを聴きながら」(杏里/1978年)、「元気を出して」(竹内まりや/1988年)など、初めて女性シンガーの楽曲にも挑戦。1970年代から2020年代までの楽曲を取り上げることで、幅広い層のリスナーが楽しめる“ジュークボックス”的な作品となっている。彼のルーツであるジャマイカのミュージシャンの演奏による、現在進行形のレゲエを体感できるのも本作の魅力だ。『Musical Ambassador II 〜Juke Box Man〜』の制作プロセス、コロナ禍での制作スタイルの変化などについて、HAN-KUN自身に語ってもらった。(森朋之)
ーー『Musical Ambassador II 〜Juke Box Man〜』がリリースされます。まずはカバーアルバム第2弾の制作に至った経緯を教えてもらえますか?
HAN-KUN:去年の11月にオリジナルアルバム(『UNCHAINED』)を出させてもらったんですけど、ライブができなかったんですよ。アーティストはみんなそうだと思うんですけど、ライブで披露することで初めて完成すると思っているし、それができなかったことがかなりフラストレーションになっていて。制作意欲はすごくあって、「どんどん作りたい」と思っていたんですけど、この先も現場で歌えない状況が続けば、自分のなかで完成に至らない作品が増えてしまう気がしたんです。自分たちは現場の叩き上げでここまでやってきましたし、ライブで歌うことを想定して曲を作ることが大半なんですよ。そこが見えないのはやっぱりきつかったし、予期せぬ壁にぶち当たって、どうしたらいんだろう? って。
ーーマスク着用、声出し禁止、おまけにタオルを回すのもダメってなると、HAN-KUNさんとしてはどうしようもないですよね。
HAN-KUN:本当にそうなんですよ。ただ、そんな時間のなかでも音楽は聴いていて。2019年にカバーアルバムの1枚目(『Musical Ambassador』)をリリースさせてもらった後も、日常的に過去の曲をいろいろ聴いていて。勉強も兼ねていたんですが、名曲の素晴らしさもずっと感じていたし、「俺、めちゃくちゃ音楽を楽しんでるな」って気付いたんですよね。こういうご時世でも変わらず音楽を楽しめているのはいいことだと思ったし、自分でカバーさせてもらうことで、名曲を語り継ぐことにもなるのかなと。カバーアルバムを制作することが次のオリジナルアルバムに向けた充電期間に置き換えられるとも思ったし、年末から制作をスタートさせました。
ーー『Musical Ambassador II 〜Juke Box Man〜』は幅広い年代の楽曲が収められていますね。
HAN-KUN:前作は自分が実際に歌ったことがある曲、通ってきた曲を中心に選曲させてもらったんですけど、今回は“Juke Box Man”というサブタイトルの通り、より幅広い世代の方に聴いてほしくて。ジュークボックスみたいにどの世代の方にも楽しんでもらえることを意識して、70年代、80年代、90年代、00年代、10年代、20年代からそれぞれ曲をセレクトしました。通して聴いたときに、年代を超えたプレイリストになるような構成ですね。
ーーそれだけ幅広い年代からセレクトするのは大変だったんじゃないですか?
HAN-KUN:そうですね。10人くらいのスタッフに参加してもらって、各年代からピックアップして、そこから絞り込んで。今回は女性アーティストの楽曲もカバーしているんですよ。最初は「女性の楽曲だけでやってみようか」という話もあったので。
ーーHAN-KUNさんのキーはもともと高めですし、女性シンガーの楽曲もすごく似合いますね。
HAN-KUN:あ、よかった(笑)。実は今回力を抜いて歌えるように、キーを低めに設定しているんです。10代、20代の若いシンガーが声を張り上げて歌うのはいいと思うし、その時期じゃないと出せない良さがあると思うんですけど、自分はいろんなことを経験して、そのなかでわかってきたこともあって。そういう男が一生懸命に声を張り上げてると、レゲエのリラックスした雰囲気が出せないのかなと。ちょっと力を抜いて、語り掛けるように歌えたらいいなと思っていましたね。
ーー先が見えない状況が続いてるからこそ、リラックスした雰囲気のなかで名曲を届けたいという気持ちもありそうですね。選曲的にも、リスナーに寄り添って、背中を押すような楽曲が多いのかなと。
HAN-KUN:そこは意識してましたね。「元気を出して」(竹内まりや/1988年)なんてまさにそうだし、「WOW WAR TONIGHT〜時には起こせよムーヴメント〜」(H Jungle with t/1995年)も、めちゃくちゃ今の時代に合ってるんですよ。〈たまにはこうして肩を並べて飲んで/ほんの少しだけ/立ち止まってみたいよ〉という歌い出しも、この状況に合わせて作られた感じがあって、当時とは聴こえ方が変わってるんですよね。25年前に埋めたタイムカプセルを掘り返したら、“〇年後のおまえに”という手紙が入っていて、それが今の自分にフィットしてた、みたいな(笑)。自分自身もこの曲の力をお借りして、この時代に言葉を投げかけたくなって。オリジナルの歌詞を加えさせてもらいました。
ーー「WOW WAR TONIGHT〜」のジャングルというジャンル自体、もともとはハウスとレゲエの融合から生まれたものだし、HAN-KUNさんの音楽性ともつながってますからね。「つつみ込むように…」(MISIA/1998年)にも新たに歌詞を加えています。
HAN-KUN:MISIAさんの音楽的な背景にはブラックミュージックがあって、この曲がリリースされた当時もクラブでめちゃくちゃかかってたんですよ。オーバーグラウンド寄りの“パーティ箱”といわれる店だけじゃなくて、アンダーグラウンドのクラブでもしっかりプレイされていて。上にも下にもリーチしていた曲だし、自分自身の記憶にもすごく残っているんです。そのことを大事にしつつ、自分のフィールドである“ダンスホール”というキーワードでつなげてみたいなと。歌詞に関しては、導入とアウトロに添えているんですけど、原曲を聴き込んで自分なりに解釈したうえで書かせてもらいました。原曲を愛している方に「それは違う」と言われるかもしれないし、諸刃の剣みたいなところもあるかもしれないけれど、そこは自信を持って提案したいなと。最大限のリスペクトを込めているし、きっと伝わると思います。ビートがダンスホールなので、すごくペンも走りましたね(笑)。
ーー「LA・LA・LA LOVE SONG」(久保田利伸/1996年)もブラックミュージックが背景になっている楽曲ですね。
HAN-KUN:まさに。久保田利伸さんはR&Bの先駆者だし、メジャーの音楽シーン、歌謡曲シーンにR&Bのエッセンスを、なるべく形を変えずに届けた方だと思うんですよね。今回のカバーはもちろん原曲への敬意を持ちながら、ビートに関しては最近のトレンド、たとえばムーンバートンみたいなアプローチも取り入れいて。いつかぜひ、このバージョンでご本人に歌ってほしいなと思っています(笑)。
ーー良さそうですね! HAN-KUNさんのカバーも素晴らしくて。久保田さんの声質に似てる瞬間もあるような……。
HAN-KUN:そう言ってもらえるのは光栄なんですけど、もしかしたら、ちょっとマネしている節もあるかも(笑)。前回、TUBEの「湘南My Love」のカバーをさせてもらったときも、プロデューサの方に「あれ? 寄せにいってる?」って言われて。自分ではそんなつもりはないんだけど、原曲をかなり聴き込んでるから、節回しが似てしまった可能性はあります(笑)。
ーーAIさんの「Story」(2005年)に関しては?
HAN-KUN:世代的にも近いし、活動を始めた時期も近いから、昔から現場でちょくちょく会っていたんですよね。いちばん交流があるのは若旦那(湘南乃風)なんだけど、シーン的にも親和性を感じていたし、「Story」もいつかカバーさせてほしいなと思っていたんです。時代を代表する楽曲ですよね。
ーー「あなた」(宇多田ヒカル/2017年)の歌唱も素晴らしいなと。この楽曲を選んだのはどうしてなんですか?
HAN-KUN:「あなた」は映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』の主題歌だったんですけど、まず、原作マンガの『鎌倉ものがたり』(双葉社)がもともと好きだったんです。おふくろもこのマンガが好きで、家にあったんですけど、小学生のときにたまたま手に取ったら、実家の近所の駅とか知ってる風景が描かれていて、そこからハマって。映画もすごくよかったし、主題歌の「あなた」も素晴らしくて、一時期、かなり聴いてたんですよ。“10年代の歌”としてこの曲をカバーさせてもらえたらいいなと思ったし、宇多田ヒカルさんの背景にもブラックミュージックがあるから、この曲でもダンスホール的なアプローチをさせてもらって。もちろん名曲というのもありますですけど、「あなた」については「自分が好きだから歌いたい」という気持ちが強かったです。
ーー初回盤には、ボーナストラックとして「I LOVE…」(Official髭男dism/2020年)を収録。今作では最新のヒット曲ですが、ヒゲダンに対してはどんな印象を持っていますか?
HAN-KUN:時代を作っているバンドですよね。今回、「I LOVE…」という楽曲に向き合って、解体するような感じでいろんな角度から見させてもらったんですけど、“緻密に楽しんでるんだろうな”という印象がありました。4曲分くらいの要素が1曲に集約されていたり、計算され尽くした部分もあるんだけど、レゲエやヒップホップみたいなワンループの面白さも入ってたり。
ーー緻密に構築されている側面と、自由に音楽を楽しんでいる雰囲気が両方あるというか。
HAN-KUN:そうですね。ブラックミュージックの背景も感じるし、ジャンルに関係なく、いろんな音楽を聴いている感じもしました。それはたぶん彼らだけではなくて、若い世代の音楽の聴き方なんだと思います。
ーースカの軽快なアレンジも気持ちいいですね。
HAN-KUN:原曲のホーンセクションを聴いたときに、僕としては「スカしかない!」と思って(笑)。「バンザイ〜好きでよかった〜」(ウルフルズ/1996年)もスカなんですけど、原曲を聴いていて、「想いが成就した主人公がこの後、走り出したらどうなるだろう?」と想像したんですよ。川沿いを走ってるイメージが浮かんできて、だったらスカかなって。

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