モノンクル、言葉の持つパワーとイメージを追求した表現方法 これまでの道のりと新たなフェーズを語る – リアルサウンド

 吉田沙良(Vo)と角田隆太(Ba)によるデュオ、モノンクルから新曲「Higher」が5月11日に届けられた。
 2011年に活動をスタートさせたモノンクル。2017年にリリースされたアルバム『世界はここにしかないって上手に言って』がApple Music、Spotifyなどのジャズ部門配信チャートで1位を獲得。その後もセルフプロデュースによるアルバム『RELOADING CITY』、シチズン「クロスシー」のCMソング「Every One Minute」、モーニング娘。「抱いてHOLD ON ME!」のカバー、そして今年1月にはTVアニメ『ヴァニタスの手記』(TOKYO MXほか)エンディングテーマ「salvation」を担当するなど、話題曲を次々とリリースしている。
 リアルサウンド初登場となる今回は、これまでのキャリアや音楽的な変遷を振り返りつつ、新曲「Higher」の制作について語ってもらった。(森朋之)
ーーまずはこれまでのキャリアを振り返ってみたいと思います。モノンクルの結成は、2011年。当初は平仮名の“ものんくる”名義でしたが、吉田さんがCDを制作したことがきっかけだったとか。
吉田沙良(以下、吉田):はい。音楽大学(洗足学園音楽大学)に通っていたんですが、先生から「名刺代わりのCDを作ってみたら?」と声をかけてもらって。その頃はジャズシンガーとして活動していたのですが、ある現場で一緒になった角田さんのオリジナル曲がすごくカッコよかったので、一緒にCDを作りませんか? とお願いしたんです。
ーー角田さんの楽曲を吉田さんが歌うという基本的なスタイルは、そのときからだったんですね。
吉田:そうですね。私は自分で曲を作っていなかったし、ライブでもカバーが中心だったので。周りにもオリジナル曲を作って、それをメインに活動してる人はあまりいなかったんですよ。
角田隆太(以下、角田):タイミングもよかったんですよね。僕はそれまでジャズベーシストとして、特にバンドもやらずに活動していて。そんな中、CRCK/LCKSの小西遼の企画したバンドで沙良と何度か会ううちに仲良くなって、バンドを一緒にやっていく流れになりました。
ーー結成当初はバンドでしたよね?
吉田:実はそういうわけでもなくて。
角田:バンドとかユニットという区切りをしていなかったのかな。コアメンバーはいつつ、スケジュール空いてなかったら他の人にやってもらって、バンドなのかユニットなのかは自分たちも気にせずやっていました。今考えてみると、それが当時のジャズのマナーというかトレンドだったようにも感じますね。
ーー現場によって参加するメンバーが変わるのは確かにジャズのマナーかもしれませんね。角田さんはジャズ以外にもいろいろな音楽を通っているそうですが、具体的には?
角田:子どもの頃はみんなと同じようにJ-POPを聴いていたし、中学生、高校生になって楽器を持ってバンドをやるようになると、ハードコアやメタルを聴いたり、尖った音楽に興味が出てきて。ジャズは大学に入ってからですね。友達がビッグバンドのサークルに入るっていうから「俺もやってみよう」くらいのノリで入ったら、すっかりハマってしまって。
ーー吉田さんは10代の頃からジャズを通ってきたんですか?
吉田:いえ、全然聴いていなかったです。高校まではクラシックや声楽を学んで、「大学はどうしよう」と考えていたんですけど、「洗足学園にジャズコースがあるらしいから、そこにしてみよう」というノリでした(笑)。そこで初めてジャズに触れたんですけど、すごく面白くて。
ーーモノンクルが始動した時期は、ロバート・グラスパーの『Black Radio』(2012年)をきっかけに、現代のジャズシーンが一気に活性化しました。お二人も影響を受けたのでは?
吉田:完全にハマってましたね。グラスパーもそうだし、グレッチェン・パーラト、エスペランサ・スポルディングとか。自分のライブでもカバーして歌っていました。
角田:2010年代前半のジャズは僕もどっぷりハマってましたね。あの頃に培ったものは、今も受け継いでいると思います。
ーー1stアルバム(『飛ぶものたち、這うものたち、歌うものたち』/2013年)は最新鋭のジャズの潮流にありつつ、歌モノとしての魅力を押し出した作品だったと思います。当時、ポップスとジャズの距離をどうやって取ろうとしていたんですか?
角田:両立を考えていたんですよね。(ジャズとポップスが)同じくらいの成分になる音楽を目指していたというか。アルバムでいうと『飛ぶものたち、這うものたち、歌うものたち』、その後の『南へ』(2014年)まではそういう感じだったかな。
吉田:そうだね。
角田:それがちょっと変わってきたのは『世界はここにしかないって上手に言って』(3rdアルバム/2017年)の制作のときですね。ジャズって、形のなさが素晴らしいと思うんですよ。プロダクトからはみ出していくところにジャズの美しさを感じているんですけど、ポップスはそうじゃなくて、プロダクトに収めて凝縮する音楽で。アルバムを作るなかで、そこには結構な隔たりがあるなと実感したんです。なのでその後はスタンスを変えて、サウンドに関しては意識してポップス的に振る舞うようになりました。まあ、最初から気持ち的にはずっとポップスだと思って作ってたつもりなんですけど……。
吉田 うん。『南へ』や『世界はここにしかないって上手に言って』を作ったときも、本人たちは「すごくポップス的なアルバムができた」と思っていたんですけど、今聴いてみるとまったくポップスじゃないなって(笑)。最近の曲はポップスを理解した上で作ってるつもりだけど、時間が経つとどう感じるかわからないですね。そう考えると、ずっと変わってないのかも。
角田:そうかもね(笑)。言い換えると、ジャズは整理されない美しさだったり、それぞれのプレイヤーの思想が平等にぶつかり合うところが良さだと思っていて。ポップスはそこをもっと整理してわかりやすくパッケージするという印象です。
吉田:ひとつの意見をみんなで提示するというか。
角田:そのほうが伝わりやすいからね。『RELOADING CITY』(4thアルバム/2018年)からは、そのあたりも意識していました。
ーーアルバム『RELOADING CITY』は、2020年に東京で予定されていたオリンピックを背景に、“リロードする都市”をテーマにした作品でしたよね。
吉田:タイトル曲の「RELOADING CITY」が先にできて「これをもとにアルバムを作りましょう」ということになったんです。
角田:当時は“街が変わっていくにつれて自分たちも変わっていく”というイメージがあったんですよね。でも今は、そういう感覚で街を捉えている人は多くないと思っていて。むしろ場所と自分が切り離されている感じが強いし、コロナ禍を挟んでフェーズはかなり変わっていますね。「RELOADING CITY」を聴き返すと、昔考えていたことっていう感じがするというか……。
吉田:その後、どんどん新しい曲を出してますからね。シングルが中心ですけど、二人でたくさん話をして、どういうことに興味があるかを共有することで、作り方も変わってきて。角田さんが言ったように時代の変化も大きいと思います。コロナ禍の前と後では全然違うだろうし。
角田:音楽の響き方も違うからね。サウンド、歌詞もそうだけど、知らず知らずのうちに、いろんな影響を受けているんだと思います。
ーー2020年以降は「Every One Minute」「抱いてHOLD ON ME!」「GOODBYE」などを次々と配信リリースしていますが、コロナ禍においてモノンクルの楽曲はさらに広がった印象があります。
吉田:ライブがほとんどなくなったので、自然と制作が中心になりましたね。
角田:無意識のうちにバランスを取っていたところもあると思います。「外に向けて発信したい」「みんなとつながっていたい」という気持ちが強いと、自粛期間がつらくなるじゃないですか。だから不思議と心は自動的に内向きに適応して、2020年、2021年は黙々と制作してました。それが去年の終わりから今年にかけては少しずつ意識が外に向くようになって。無意識の心の作用って、よくできてるなって考えさせられましたね。
吉田:私自身は2年間の内向きな生活のなかで「自分はライブアーティストなんだな」と実感しました。去年も何本かライブをやったんですが、1年ぶりくらいのステージだったし、気持ちがまだ内向きだったこともあって、お客さんを目の前にすると「どうやるんだっけ?」という感じだったんです。でもだんだん思い出してきて、今年の3月のワンマンのときは「ここが居場所だ」と再確認できました。
ーー変化したところ、再確認できたことが両方あると。聴く音楽も変わりましたか?
角田:めちゃくちゃ変わりましたね。以前はフォーキーな音楽をそんなに聴かなかったんですけど、その人が近くで歌っているように響くものがいいなと思うようになって。特にフィービー・ブリジャーズには助けられました。沙良もエリザベス・コットンとか聴いてたよね?
吉田:うん。自粛期間中はビリー・アイリッシュもよく聴いていました。彼女は内なるものをそのまま出す人じゃないですか。サウンドも自分の世界観100%という感じなので、自分と向き合う時間が増えたことで、そういう音楽に興味が湧いたというか。今まではそんなに聴いてなかったんですけどね。
ーー沙良さんは本来、自分をどんどん解放していくタイプですか?
吉田:確かにそうかも。今まで自分と向き合ったこともなかったから。
角田:それもすごい話だけどね(笑)。
吉田:……って言い切れるくらい、フワフワ生きてたんですよ。歌うという柱があって、歌に向き合ってきたから何とかやってこれましたけど、それ以外のことは何も考えてなかった。角田さんは自分と向き合ってしっかり考えるタイプなので、真逆ですね。私もこの2年間でだいぶ変わりましたけど。
ーーTVアニメ『ヴァニタスの手記』エンディングテーマ「salvation」も話題を集めました。タイアップソングの面白さについては、どう感じていますか?
吉田:テーマ自体もそうですけど、二人で作っているだけでは思いもつかないところから始まったんです。アニメ作品を意識して作ること自体が面白いし、さらに開けた感覚がありますね。いろんな作り方ができるし、スランプに陥る暇がないというか(笑)。スタッフの方から意見をもらいながら制作することも刺激になるし、海外の方から反響があるのも嬉しくて。特に『ヴァニタスの手記』は海外でも人気があって、YouTubeにアップしているMVにもたくさんコメントをもらってるんですよ。

関連記事
インタビュー
Pick Up!
「インタビュー」の最新記事
blueprint book store
© realsound.jp

source

最新情報をチェックしよう!
広告
>すべての音楽情報をあなたに・・・

すべての音楽情報をあなたに・・・

インターネットで情報を探すとき、あなたはどうやって探しますか?いつも見ているページで情報を得る?検索エンジンで好きなアーティスト名を検索してでてきたものを見る?本当にそれであなたの欲しい情報は手に入れられていますか?

CTR IMG