アイドルのことを考えると「フェミニズム」に辿り着く 『アイドル保健体育』 – wezzy

アイドル保健体育』(株式会社シーディージャーナル)
 ファンの日常と心に、日々大きな力や光をもたらしてくれる「アイドル」の存在。見る側の私たちがいつもその存在やパフォーマンスからエネルギーや癒しを溢れんばかりにもらっている一方で、アイドルたちの心身の健康について考えたことのある人は、どれくらいいるだろうか。
 私自身、子ども時代はモーニング娘。やあややに憧れ、学生時代はももいろクローバーZに元気づけられ、ここ数年はハロー!プロジェクトのアンジュルムやSHINee、NCTなどのK-POPアイドルたちに魅了されながら、日々並々ならぬ光やパワーをもらってこれまでの人生を生きてきた。
 けれども、大人になって改めてアイドルの活動を追いかけるようになってからは、その眩しくて楽しい側面だけでなく、心身の負荷が大きいように思える過密なスケジュールや、体型管理や容姿に関するファンの言動、アイドル特有のルールなど、違和感や不安を抱かずにはいられない側面の数々も、少しずつ見えてくるようになった。
 「大好きな推しには、出来るだけ長く活動してほしい」と願う気持ちと、「ファンならば、違和感や問題とも向き合わなければ不誠実なのでは?」という葛藤。アイドルをとりまくさまざまな問題について考え始めたいと思ったときに手に取ったのが、『アイドル保健体育』(著:竹中夏海 株式会社シーディージャーナル)という本だ。
 長年、振付師として女性アイドルたちを近くで見てきた竹中夏海さんによる『アイドル保健体育』は、月経困難症・摂食障害・身体づくりと性教育の不足など、これまで見えないものとされてきたアイドルの健康課題について書かれた、教科書のような一冊。
 竹中さん自身の現場での経験や実感と、専門家へのインタビューや現役アイドルとの対談などをふんだんに交えながら、とりわけ女性のアイドルたちが抱える心身のさまざまな問題とその対処法や改善策について具体的に知り、考えるきっかけを与えてくれる内容で、アイドルファンはもちろん、運営側やアイドル本人にとっても非常に学びや気づきの多いものとなっている。
 アイドルたちはプロ意識の高さから、いつもステージやメディア上では眩しくて完璧な姿ばかりを見せてくれるため、ファンはつい「アイドルも自分と同じ生身の心と身体を持った人間だ」ということを忘れてしまいがちだ。
 ライブや対面イベントなどの数は多ければ多いほど純粋にうれしいし、ヒールの高い靴でかっこよく美しくパフォーマンスをする姿は、つい手放しで賞賛したくなる。また、「アイドルなのだから痩せていて肌がきれいなのは当たり前だ」「アイドルなのだから容姿について言及されるのは仕方ない」と、SNSや対面で体型の変化や肌の不調に対して、安易に言葉を投げかける人もいる。
 けれども、そんな“当たり前”やこれまであまり深く考えずにいた「アイドル」にまつわるものごとを一つ一つ解体して知り、新たな視点を得ていくことで、私たちファンは何気ない自分の認識や言動が、実はアイドルたちを苦しめ傷つけることに加担していたかもしれない、と気づかされる。
 たとえば、第一章の「アイドルと生理」では、「月経」という女性特有の生理現象とそれに伴う個人差の大きいさまざまな症状や心身の変化について正しく知っていくと、そもそも体型や肌のコンディションを「本人の努力と意識の問題」としてみんなに同じような基準を求め、その基準を満たしていないことを「自己管理ができていない」などと批判することが、いかに問題であるかがわかってくる。
 また、アイドル界で度々行われてきた公開ダイエット企画が、「太ること=悪」という価値観をアイドル自身にも社会にも植え付けてしまう。さらに、容姿や体型について言及したり批判したりしてもいいという風潮を生み出し、アイドルを含む若い女性たちが摂食障害を発症しやすい大きな原因にもなっているという。
 そして、第二章の「アイドルと身体づくり」では、現代のアイドルはしばしばプロスポーツ選手以上の運動量でありながら、怪我や疲労蓄積を防ぐための基礎トレーニングやライブ前後の適切なケアを行う十分な時間がなく、身体に不調を抱えていることも多いことが明らかにされている。
 ひとたびこういった事実を知っていくと、もはやファンとしてただ無邪気にCDやグッズを買ったり、ライブやイベントに足を運んだり、コメントをSNSに書いたりして楽しく応援しているだけでは不十分であり、多くの問題を見過ごしている可能性があることが見えてくる。
 「推しを傷つけることにならないか」と常に一歩立ち止まって考え、自分のファンとしての言動を省みる必要があるのはもちろん、活動内容やスケジュールなども含め、アイドルたちが運営や他のファンの不理解や不適切な言動や対応によって苦しんでいるとわかった際には、改善を求めて声を上げることをしていけるくらいになっても、いいのではないだろうか。

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1991年生まれ。会社員兼フリーライターとして活動。
主にフェミニズムやジェンダーに関することをベースとした、カルチャー寄りのエッセイやコラムなどを執筆。
学び、考え、言葉にすることを通して、少しでも未来の世代が生きやすい世の中になることを願っています。
twitter:@emilyandtommy
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