BTSはどのように歩んできたのか?『Proof』アルバム収録曲でデビューから9年間の軌跡をたどる – CINRA.NET(シンラドットネット)

デビューから9年目を迎え、6月10日(日本では6月13日)に活動の集大成となるアンソロジー・アルバム『Proof』を発売したBTS。
アンソロジー・アルバムとはいわゆるベストアルバムのことで、メンバー自身が選定に参加して過去の楽曲やデモを収録したという、韓国のアーティストとしては珍しいリリース方式といえる。
6月14日に配信されたデビュー記念の動画で、音楽活動に関してはしばらくグループよりも個人としての活動を優先していくという趣旨の発言もあり、今回はアルバムの収録曲からグループのターニングポイントとなった曲を選んでデビューからの軌跡を振り返ってみたい。
1990年代のヒップホップをベースにしたデビュー曲“No More Dream”は、デビュー当時の「防弾少年団」としてのコンセプトを端的に表現している曲だ。
もともとBTSがデビューした2013年前後は、「メンバーの自作曲」「ラッパーが大きな比重を占めるヒップホップ調トラック」という特徴を持ったBIGBANGの大きな成功により、現在ではラッパーとしても成功しているリーダーのZICO率いるBlock Bやアンダーグラウンド系ラッパーとしての経歴があったバン・ヨングクがリーダーのB.A.Pなど、「メンバーが制作に関わるヒップホップ系のアイドルグループ」が多く生み出された時期だった。
韓国の大手事務所であるJYPエンターテインメントと共同で、2AMというチャート1位常連の人気アイドルグループを生み出していたBig Hit Entertainment(現:HYBE)が、韓国全土でラッパーオーディションを開催して練習生を集め、そのなかからメンバーを選定して誕生したのが防弾少年団(BTS)だ。
RT @BigHitEnt: #방탄소년단 의 단체 사진이 공개됐습니다. Check out the last teaser Pic of #BTS! http://t.co/yvbxp4jWlC pic.twitter.com/xaSgkLJynC
デビュー前からメンバーとファンをネット上で交流させながら、メンバーの自作曲をYouTubeに上げるなど、事前に周到な準備をしていたこの時期。コンセプトは明確で、「10代の気持ちを代弁して大人たちの偏見から守る防弾チョッキのような存在」というものだ。
このコンセプト自体は、H.O.T.やSECHSKIESなどの1990年代後半の人気アイドルによく見られていたもので、文化的に年功序列の厳しい韓国で10代を対象とした歌手のアイドルが語るのにはふさわしいコンセプトといえるだろう。
2000年代以降しばらく見られなくなっていたこの「昔ながら」のストレートなメッセージや、地方出身のメンバーが多いことをあえて主張するような泥臭いともいえる歌詞を、カニエ・ウェスト(現:イェ)のハイアーエデュケーショントリロジーを思わせるコンセプトや“Black Skinhead”の影響を感じるトレイラーなど、当時の欧米のヒップホップと合わせたというのが、当時のBTSならではのアイデンティティーとなっていたと思われる。
今回『Proof』には“Born Singer”が初収録されている。この曲はデビュー直後にYouTubeでのみ公開されていたもので、アメリカのラッパーJ. コールの“Born Sinner”のトラックにオリジナルの歌詞を載せた楽曲だ。
率直さが基本にあるヒップホップと、すべてをさらけ出すことが難しいアイドルとは本来サウンド面以外のカルチャー的には相性がよくないはずだ。だが、ヒップホップ的な「真正性」を求めるために「社会への怒り」「夢への渇望と不安」など思春期の若者が抱きやすい感情と、自分たちのリアルである「アイドルに対する目線への葛藤」を、よりパワフルな表現で行ない、日本や海外で人気が出始めた時期の代表曲といえるだろう。
2013年デビュー組としてはデビュー時からもっとも注目されたグループで、新人賞も総ナメにし海外人気も盛り上がっていたものの、リリースタイミングの問題もあり2015年までは韓国の音楽番組でなかなか1位がとれない時期が続いていた。
デビュー時からの「学校三部作」と呼ばれるアルバム3作を終えて、アイドルとしては重要な時期とされる3年目を迎える2015年4月に“I NEED U”をリリース。
トレイラーの段階から、それまでの強いイメージからはガラリと変わった情緒的かつナイーブなイメージでアイドルファン界隈ではかなり話題になり、結果的に韓国の音楽番組で初の1位をとった。
“I NEED U”からは、「花様年華(人生のなかで最も美しく輝く時期のこと)」シリーズとしてアルバムを発表。10代20代の悩みや葛藤をベースにしているのは変わらないながらも、「社会的なリアリティー」を前面に出していた学校三部作とは異なり、メッセージはより内面的かつ「ぼくたちと君たち」という内向きともいえるものになっていった時期だろう。
少年期から青年期への危うい感情の揺らぎを現すセカイ系(君とぼくの個人的な関係性が世界のすべてのように描かれたもの)のような世界観に、音楽番組で1位を取るまでに1年以上かかった彼らの苦境や個々のメンバーの素顔や成長が見えてくるようなSNS戦略が加わり、結果的には「傷つきながらも青春を生きる」「7つの心臓を持った1人の少年」というこの時期のコンセプトそのものと、リアルの彼らの心情が重なっているように思えるような状態になった。この時期は大きなターニングポイントとなったといえるのではないだろうか。
D-1 hour! 지금부터 한 시간 뒤인 4월 29일 00:00(KST)에 #방탄소년단 세 번째 미니앨범 <화양연화 pt.1> 음원이 발매됩니다. 조금만 기다려! #INEEDU pic.twitter.com/82HZa7PqIk
実際にこのコンセプトが彼らの「花様年華」となったことで、曲やイメージのコンセプトと彼ら自身の状況や成長が絶妙にシンクロして行き、フィクションとノンフィクションの境目が次第に曖昧になっていくような表現が増えていく。
トラック的には“I NEED U”や“Save ME”“RUN”などの活動曲はEDMをメインにしたポップスだが、アルバム収録曲には“Whalien 52”“Silver Spoon”“Ma City”など、ヒップホップテイストの曲も多かった時代だ。
花様年華シリーズ以降、韓国の音楽アワードでは大賞の常連となる。アイドルグループとして明確な成功を収めた後にリリースされたアルバム『WINGS』(2016年)、そしてリパッケージの『YOU NEVER WALK ALONE』(2017年)は、花様年華シリーズのテーマだった「青春」につきものの誘惑や試練と励ましがテーマだったといえるだろう。
2017年の、春と呼ぶにはまだ早い2月にリリースされた“Spring Day”は、寒い冬の日にふたたびやってくるはずの春の日と出会いを恋しく思う気持ちを描いた歌詞と、ミドルテンポの親しみやすい曲調で、韓国で曲の大衆的認知の目安となる音源チャートでも長期間チャートイン。韓国では最も大衆的に親しまれているBTSの曲といって良いだろう。
また、デビュー直後からアメリカでショーケースを行ない現地のファンにも会いに行っていたため、BTSのアルバムは『花様年華 pt.2』(2015年)のときにすでにアメリカの週間アルバムチャート「ビルボード200」にチャートインしていた。
このあと、『WINGS』も「ビルボード200」の26位に入り、アメリカでのKCON出演や全米アリーナツアーを完売させるなど、現地で実際に「ファンと会う」活動と連動するようにチャートの順位を上げ、アメリカ国内でも着実にファンダムを拡大させていた。
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この時期から、熱心なことで知られるファンダム(ARMY)がアメリカでもハッシュタグ運動をSNSで呼びかける姿が目立つようになり、2016年まではやはりファンダムが熱心で知られるジャスティン・ビーバーが連続受賞していたビルボードミュージックアワードの「Top Social Artist(SNS上のハッシュタグ数で決まる賞)」を、2017年から廃止される2021年まで受賞することになる。
アメリカでの注目度が高まった時期にリリースしたアルバム「LOVE YOURSELF」シリーズは、起承・転・結の三部作で「自分を愛すること」(奇しくもジャスティン・ビーバーも同タイトルの曲を出している)をテーマにしたシリーズだ。
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「ぼくたちと君たち」の関係性が世界のすべてだった時期を過ぎ、自分自身をただそれだけで愛するために自分の内面へと旅する物語は、このあとの「MAP OF SOUL」シリーズへと続いていく。
シリーズの最初を飾る『LOVE YOURSELF 承 ‘HER’』(2017年)のタイトルトラック“DNA”は、K-POPトレンドの王道を行くようなフューチャーベースジャンルのトラックと、愛と運命を明るく歌う歌詞で、アイドル/ポップスターとしての喜びや魅力を全身で表現しているような楽曲だ。
アルバムは「ビルボード200」のTOP10に初めてチャートイン(7位)。“DNA”も、アルバムチャートよりもチャートインのハードルが高い「Hot 100」に初めて入った楽曲となった。これ以降、BTSはアメリカ活動を本格化していく。
これまでのアルバムリリース日はすべて韓国のチャート集計に合わせた月曜日発売だったが、『LOVE YOURSELF 轉 ‘TEAR’』(2018年)以降はアメリカビルボードチャートの集計開始曜日である金曜日発売に切り替え、アルバムチャートで1位を獲得するようになった。
また、ロゴマークが防弾チョッキから扉へと変わり、もともと防弾少年団の英語表記であるBangTan Sonyeondanを略してBTSと呼ばれることはあったが、Beyond The Sceneという新しい意味づけとともに、日本を含む海外でのグループ名の表記はBTSで統一されるようになった(韓国では現在も防弾少年団(방탄소년단)の呼称が使われている)。
アメリカ含むアジア以外での海外活動が活発化する一方で、「LOVE YOURSELF」シリーズから次のアルバムである「MAP OF THE SOUL」シリーズまでは、「Hot 100」でも“FAKE LOVE”(10位) “Boy With Luv (feat. Halsey)”(8位) “ON”(4位)と、韓国語での活動曲でアメリカ国内での着実なファンダム拡大とともにチャート順位を上げていった。
「Hot 100」でもTOP3までもう少しという2020年、予定されていた大規模な世界ツアーがパンデミックの影響で中止となるなか、初の英語曲として単独シングルリリースされたのが“Dynamite”だ。
予想できない世界的なパンデミックにより混乱する世の中を慰めたい、という意図で計画されたというこの曲は、事務所のプロデューサーやメンバーによるいつもの「チームBTS」ではなく、アメリカの所属レコード会社であるコロンビア主導でつくられた、ソニーミュージック所属の作曲家による作品(コロンビアはソニーの傘下)である。
もともとアルバム収録曲のみで4位までチャートインしていた状況で、さらにチャートインしやすいシングルとしてリリースされることで、見事に韓国のアーティストとして「Hot 100」でも初の1位を獲得することとなった。
このあとにメンバーたちの企画でリリースされた韓国語版のアルバム『BE』のタイトル曲“Life Goes On”は、韓国語の曲ではじめて1位を取っている。しかし「初1位」「グラミー賞ノミネート」というわかりやすく大きな看板のもとで、明快なテーマと、キャッチーでさらりと聴きやすい近年の「アメリカンポップス」を体現したような英語詞の曲である“Dynamite”のほうが、BTSとしての人気と知名度をより拡大する代表曲となった。このことが、後のグループとしての活動に与えた影響は大きかったのではないだろうか。
今回、アルバムには3つの新曲“Yet To Come (The Most Beautiful Moment)”“Run BTS”“For Youth”を収録。そのいずれも、ファンあるいはすでにBTSを知っている人たちへのメッセージソングのような内容となっている。
“For Youth”がいままでのファンへの感謝の気持ちを込めた曲だとすると、“Yet To Come (The Most Beautiful Moment)”はファンに対するこれからについての告白の曲、“Run BTS”はメンバー同士がいままでの道程を振り返って確認していくかのような曲といえるだろう。
「MAP OF THE SOUL」シリーズ以降のBTSの楽曲は、自分たちの内面を語るというよりも、だんだんと表現する対象のほとんどがファンダムとの絆に集約されていった感は否めない。
今年のFESTAの動画のなかで、SUGAが「歌詞を書こうとしても何を書いたらいいのかわからなくなった」と吐露していたのも、『Proof』を順番に聴きながらグループの取り巻く環境の変化と曲の内容を追っていくことで、なんとなく納得のいく面もあるかもしれない。
今後グループとしての納得のいくアウトプット環境が整うまではそれぞれがソロでの活動に力を入れて行くようだが、新しい活動への模索の旅を終えたBTSが今後グループとしてどのような姿を見せてくれるのか、過去の歴史をたどりなおしながら想いをはせるのも良いのではないだろうか。
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