88risingがフェスを通して伝えるカルチャーの姿とは? 『HEAD IN THE CLOUDS』レポ – マイナビニュース

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アジア系ヒップホップ、R&B、ポップのレーベル、そして、クロスメディア企業/ブランドの88risingが毎年開催しているフェスティバル『HEAD IN THE CLOUDS』が、8月20日、21日の2日間にわたって米ロサンゼルス、パサデナのローズボウル・ブロックサイドの特設会場で行なわれた。日本から出演したTERIYAKI BOYZⓇの協力を頂き、参加、取材した。
【写真を見る】コーチェラで歌う宇多田ヒカルと88rising出演者たち
近年アメリカにおいて、ダイバーシティが語られる中、アフリカ系、ラテン系だけでなく、アジア系が注目される中、音楽分野で目覚ましい活躍を見せたのが88risingだ。かつて、黒人のモータウンやラテン系のファニアといった、レーベルとして社会にインパクトを与え、社会を変えたように、今、この瞬間もアジア系アメリカ人、そしてアジア人、またその周りにいる人々の意識を変えていっているように感じる。
今回の取材期間にもまさに、88risingの中心アーティストの一人である日本とオーストラリアのハーフのシンガーソングライター、Jojiが新曲「Glimpse of Us」を全米および全世界のポップチャートにトップ・ランクインさせ、トップ・レベルのブレイクに手をかけている。このように88risingの勢いはさらに増してる。12月にインドネシアのジャカルタで開催されるこのフェスにYOASOBIの出演が発表され、いよいよ世界と日本の距離は縮まっている印象を与えた。また、最近「死ぬのがいいわ」が世界でヒット拡大する藤井風の動向の中で88risingとの関係も注目されている。アジアの一員であり、国際化が課題である私たち日本の音楽関係者にとっても、88risingの活躍は重要なトピックでもある。初日フェス開始前に話した88rising CEOのショーン・ミヤシロが「1年で一番楽しい日」と語った総本山であるフェスをレポートし、注目の88risingの「今」をレポートしたい。

Photo by ALIVECOVERAGE
●88risingとは
アジア系ヒップホップ/R&B/POPのレーベル、そして次世代メディア企業である88risingは、デジタルマーケティングと鋭い嗅覚とクリエイティブ力を武器に、リッチ・ブライアンやJojiといったアジア系アーティストを全米チャートにランクインさせ脚光を浴びた。2021年にはマーベル初のアジア系スーパーヒーロー映画『シャン・チー』の音楽を手掛ける。2021年4月に世界最大級のフェス『コーチェラ』メインステージでの「HEAD IN THE CLOUDS FOREVER」は日本でも宇多田ヒカルの出演で大きな話題を呼んだ。

Photo by AI.VISUALS
●両日メインステージ「トリ」の3アーティスト、NIKI、Joji、ジャクソン・ワン
88risingの「今の」勢いが伝わる両日のヘッドライナーだった。初日はインドネシアの女性シンガーNIKI。88risingレーベルの中心の一人だが、直前にコロナ陽性でキャンセルとなってしまった。非常に残念だったが、自身の本名をタイトルに冠した最新アルバム『Nicole』は、良質なポップ・アルバムとなっている。アジア系女性シンガーとして、今後ポップ・スターとして活躍してほしい。

YEBI LABS (Joji DJ set)(Photo by LINDSEYBLANE)
NIKIがキャンセルになったことで、初日のトリは、JojiのDJセットYEBI LABSが務めた。Jojiは最新シングル「Glimpse of Us」がアメリカでも世界でも大ヒット中の日本とオーストラリアのハーフ。高校生まで大阪に住み、世界的なYouTuberとして沢山のバズを生んだ後、88risingと共に、アーティストとしての地位を確立している。本来私たち日本人にとって身近なはずだが、最もミステリアスな存在である。今回のDJ SETはヒップホップやトラップ、ダブステップなど中心に、最新ヒット曲「Glimpse of US」においては自身のメインヴォーカルをズタズタにリミックスするなど、かつて過激系YouTuberとして知られたJojiのアバンギャルドな面が発揮されており、シュールでアングラな「ジョージ・ミラー」をたっぷり堪能させてもらった。NIKIの代打となったことで急遽、歌唱パフォーマンスも行い、オーディエンスお待ちかねの大名曲「Slow Dancing In The Dark 」を大合唱し締めくくった。今回の出演を、このようなお約束的な定番の締めくくりで終えることはJojiの反骨の美学としては想定外だったと思うが、仲間である88risingやNIKIのために一肌脱いだ印象だった。しかし、「Glimpse of Us」は歌わず。「聴きたければソロ・ツアーに来てくれ」と言い放ち、彼らしさはしっかり発揮した。

Jackson Wang(Photo by AI.VISUALS)
2日目はジャクソン・ワン。香港出身中国人のソロシンガーでマルチクリエイター。彼はK-POPグループGOT7のメンバーでもあり、K-POPが多国籍化する最初の段階から活動してきた。K-POPフォーマットと、中国パワーが合体した最強のアジアン・アーティスト。自分自身の会社、レーベル「TEAM WANG」からソロ音源ををリリースし、中国本国でも1位を記録し、グローバルな中華系スターとして一気にに注目の存在へと昇りつめた。今回は9月9日にリリースされた『MAGIC MAN』のコンセプトに沿ったパフォーマンスをフェスで披露することを予告し、先行シングル「BLOW」「CRUEL」で示されたダークな世界観を細部に至るまで自身の完全主義的なこだわりを追求した見事にショウだった。これまで、自身の出身である香港カルチャーを個性とした世界観から、人種やカルチャーを超えた「アジアのキング・オブ・ポップ」像を完成させている。2日間の締めくくりである「フィナーレ」では「座長」的な役割をしっかり務めた。中華系の大女優ミッシェル・ヨーがステージに駆けつけ、映画界におけるアジアン・パワーの代表的な存在である彼女の登場は、強烈に「アジア・エンターテインメント」の上昇(Rising)を見せつけた。
こういった出来事の端々に感じさせるのは、ジャクソンの器の大きさであり、常にストイックに努力し周りに気配りを忘れないジャクソンのアジア的な「徳」の表れとして大観衆に共有されたのではないだろうか。心技体全てが充実したジャクソン・ワンがどのようなブレイクを果たすのか見守りたい。

Sean Miyashiro、Michelle Yeoh、Jackson Wang(Photo by ALIVECOVERAGE )
●鍛え上げられたクオリティと芸能フォーマットの力で圧倒したK-POP勢
トラックも、ラップも、歌も、全てが磨き上げられている。初日のメインステージのトリから数えて3番目Jay Parkのステージは観る者を圧倒した。音楽のクオリティに加えて、筋肉やつるつるの肌といったボディメイク、MCで見せる優しさ、謙虚さ、ファンへのサービス精神。これらは、私たち日本人がこの10数年沢山のK-POPアイドル達から散々経験してきたことだ。アメリカでの観客の反応は、よりシンプルで本能的であり、熱狂的な人気で迎えられていた。クオリティと芸能性を両立した最上級のポップエンターテインメントとして求められていると感じた。2日目のBIBIとCHUNG HAも、キレキレに歌い踊り、ラップし、ファンサービスし、会場を圧倒していた。
普段見慣れたグループでのダンス&ヴォーカル・アイドルだけでなく、ソロ・アーティストがアメリカや世界を制する姿も近いうちに見られるかもしれない。ポップ・エンターテインメントとして、これほど完成されたフォーマットはどこの国にもない。そこに、88risingが一役買うことも想像しやすい。しかし同時に、完成されすぎていると感じた面もある。それは、日本の音楽関係者である私の中に嫉妬があるのかと思ってしまったり(笑)。そのせいなのかはともかく。K-POPの力をまざまざと見せつけられた。

BIBI(Photo by AI.VISUALS)

Chung Ha(Photo by ALIVECOVERAGE)

Jay Park(Photo by ALIVECOVERAGE)
●チル&メランコリック、シティポップにも通じる生音系
NIKIがキャンセルとなったことを受けて急遽出演が決まったKeshiはベトナム系アメリカ人シンガーソングライター。マルチミュージシャンであり、ラップと歌を行き来するスタイルで人気知名度が高く、12月の日本での公演も決まっている。NIKIのキャンセルは残念であったがKeshiのパフォーマンスをLAで体験できたことはラッキーだった。他にも88risingと新たに契約したHojean、音響的な要素も魅力のBOYLIFEといった新しい才能と初めて出会えたことも嬉しかった。mxmtoonのレトロ感も私たち日本人にとって親しみやすい。私にとっては、初めて出会う才能であったが、会場にいるファンを観ていると一定の人気を持っているようだった。88risingは音楽において目利きだが、同時にデジタルの数字もしっかり押さえている。Z世代に支持されるトレンドは奥深い。

Keshi(Photo by IVANMENESES)
●88の底力。無限大の可能性を感じさせる東南アジア系
初日のトリを予定されていたNIKIやリッチ・ブライアン、Warren Hueなど、88を支える生え抜きアーティストと呼べるようなアーティスト達はインドネシア出身だ。人口2億5千万人。平均年齢が日本より20歳も若いこの国のエネルギーは今回のフェスでも明らかだった。
今回のフェスで私が初めて存在を知ったタイのラッパーMILLIのパフォーマンスも印象に残った。力強くソウルフルでセクシーなラップと歌は、K-POPとはまた違う「アジア」の姿を伝えていた。これらのアーティストは既にSNSやサブスク動画サイトで人気を築いており、88risingのメディア力と結びついて、世界のマーケットでどんな展開を見せてくれるのか楽しみだ。

MILLI(Photo by ALIVECOVERAGE)
●88risingの次のプッシュ? 新しい学校のリーダーズ
昨年88risingと契約した日本のダンス&ヴォーカルグループ新しい学校のリーダーズ(ATARSHII GAKKO!)は、キレキレのダンスを武器に、常にクレイジーなアイデアとひらめきを表現し、TikTokでも見事にハマり世界中に知られる存在となっていると言えるだろう。今回、HITCフェス前に、サンフランシスコ「グレート・アメリカン・ミュージック・シアター」、LA「ザ・ロキシー」と、由緒正しいアメリカ音楽シーンの登竜門的なクラブで、二度のワンマンライブを行なっている。私は8月18日のロキシーを観たが、アメリカの観衆がフラットに彼女たちのパフォーマンスを心底面白がっている姿を肌で感じた。今回の二日目のフィナーレでは、唯一、単独でパフォーマンスしたことからも、88risingが強く押していることを感じた。Z世代を捕らえ、Instagram/YouTube/Spotifyのエキスパートという面がある88risingがTikTok時代の刺客として彼女たちを選んだのではないかと推測した。ショーン曰く、日本アーティストのプロジェクトが複数動いているとのこと。リーダーズやTERIYAKI以外にも、88risingと組んで世界を席巻するアーティストの活躍を期待したい。

新しい学校のリーダーズ(Photo by AI.VISUALS)
●ヒップホップ、R&B、次のトレンドは?
TERIYAKI BOYZⓇやリッチ・ブライアンやJoji、NIKIなど、88risingの音楽のベースにはヒップホップそしてR&Bがある。今回のフェスでも良質のアーティストが沢山登場していた。1Nonlyは、シティポップの名曲「Stay with me ~真夜中のドア」をサンプリングした「Stay with me」をネットでバズらせている。ベトナム系アメリカ人のR&BシンガーTHUYのように、本格的なR&Bスタイルでオーディエンスを圧倒したアーティストや、EAJやAUDREY NUNAとDEB NEVERなどのロックサウンドにラップを乗せた、オルタナティブなアプローチも新鮮さを放っていた。

Rich Brian(Photo by AI.VISUALS)

EAJ(Photo by LINDSEYBLANE)
●フィナーレ
トリのジャクソン・ワンが9月9日リリースのニューアルバム『MAGIC MAN』をイメージしたセットで最高潮に盛り上げた後、2日間のフェスを締めくくるコラボレーションでのフィナーレへ。ジャクソンとタイ人ラッパーMilliによる「Mind Games」から、新しい学校のリーダーズが登場。フィナーレで単独でフィーチャーされ、彼女たちが88risingから期待されていることが伝わった。現在の音楽シーンでヒットに大きな影響を持つTikTokでの活躍は、どちらかと言えば、YouTube、Spotify、Instagramに強い印象がある88risingにとって新しい展開に思えた。TERIYAKI BOYZⓇとリッチ・ブライアンの共演での「TOKYO DRIFT」の熱狂的な盛り上がりから、フィナーレのラストを締めくくった「California」「Midsummer Madness」に代表されるメロウなラップとR&Bボーカルのリレーソングは、皆が「88risingらしい」と感じる音楽性だろう。出演アーティストと客席が音楽を通じて一体となり、最高に幸せな時間を作り出した。
このフィナーレでも目を引いたのは中国人アーティストのジャクソンだ。88risingの所属ではないが、ヘッドライナーとして全体に気を遣いながらフィナーレもしっかりまとめ上げていた姿は、アジア的な「座長」といった印象。ストイックに自らの表現やビジネスをコントロールし、K-POPと88risingの二つの大きな潮流を押さえながら、中国の大きなマーケットで結果を出しながら、アメリカでも存在感を増している。このジャクソンのニューアルバム、そして、11月リリースが発表された全米のスターとなったJojiのアルバムは今後に大きな影響を残すインパクトを与えそうだ。方や「大中国×K-POP」の王道スター、方や「露悪的YouTuber×天才的なサウンドアーティスト」。この陰と陽が、2022年後半の世界の音楽シーンに与えるインパクトに注目したい。

The Kinjaz(Photo by IVANMENESES)
●SNS力とクリエイト力を武器にしたスマートな企業タイアップ
YouTubeの浸透と共に登場し、InstagramとSpotifyを攻略し、いわゆるZ世代を支持層に存在感を増してきた88risingは、他業種の大企業にとっても魅力的な存在だろう。ショーン・ミヤシロがかつて働いていたWEB媒体で身につけた手法の中にスポンサー企業とのタイアップも含まれていると思う。このフェスにおいても、GUESSやTOYOTAなどの企業はさりげなく、ブースやスクリーン展開していた。通信会社AT&Tも上手く転換中の演出に溶け込ませていたのも印象深い。フェス中継はAmazon傘下のTwichで行なわれた。
TERIYAKI BOYZⓇのメンバーでもあるVERBALとYOONのブランドAMBUSHは、コラボグッズを販売。Warren Hueをモデルにスクリーンにスタイリッシュな映像を放映し、ブースで展開と合わせて音楽×ファッションをクールに提示していた。LAで人気のアジア料理店ナイト・マーケットがキュレーションしたフードも美味で好評だった。経済的に途上国で、この円安状態である私たち日本人にとっては全てが高価に感じられたのは残念だった。
●ピースで優しいアジア的なフェス
アジア系の台頭を象徴する88risingのフェスとあって、全体の空気もアジア的な穏やかさ、ピースな雰囲気が居心地が良かった。LAにいながらにして暴力的な雰囲気を一切感じない。そして、中国系、韓国系、東南アジア系、多様なアジアが音楽を通じて同じ時間と空間を気持ちよく過ごすという体験は、今まで体験した記憶がない。今回客層は、ジャクソン・ワン効果なのか中華系が思った以上に多い印象があった。ジャクソンのような中国人のグローバル・スターが登場することで、市場がさらに拡大しアジア系音楽の存在感は益々増すのではないだろうか。政治的な問題も難しいなか、カルチャーを通じて好影響となることも期待したい。今回のフィナーレでのジャクソンの奮闘ぶりやショーン・ミヤシロ、ミッシェル・ヨーと並び立った姿を見るとポジティブな意味でのCHINAの「rising」を感じた。彼自身も繊細な問題への発言は控えているように感じるが、表現の奥から背負っているだろう大きな葛藤を感じることがある。それこそが、中国系の若者たちの支持を得る理由になっていると思う。
日本で、代々木公園のタイ・フェスティバルや台湾フェスティバルなどに参加することはあるが、異文化を楽しんでいた自分があり、そこに同じアジアの仲間という感覚は無かった。88risingもフェス参加者も、この心地よい時間と空間を自分の居場所と感じることを楽しんでいて、それがこのフェスに特別な一体感をもたらしていた。

Photo by ALIVECOVERAGE

本記事は「Rolling Stone Japan」から提供を受けております。著作権は提供各社に帰属します。
※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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