鍛え抜かれデビューしたXGとグループ再編に向かうリリスク、細分化するフィメール・ラップの現在|日刊サイゾー – 日刊サイゾー

 ラップというアートフォームがヒップホップというジャンルを超えて広く浸透したのが2010年代だったとしたら、それら変幻自在なフロウやリズミカルな押韻を前提としたうえでことばを発する動き、あるいはそれら繊細な話芸を大胆な発声法で超えていくような試み、つまりは〈ポスト・ラップ〉とも言うべき展開が2020年代の新たな運動として開始されてもおかしくはないだろう。
 事実、近作で時にラップ的な譜割りの歌唱を披露していた宇多田ヒカルは、「PINK BLOOD」(2021年)でラップと歌という二元論を解体し、崩していくような冷徹な表現を行なった。ポエトリーラップを起点としながらその歌唱に感情の起伏を注入していた春ねむりは、「春火燎原」や「Bang」(2022年)といった曲でラップとスクリームが綱引きし合うような、往来する揺らぎを表現するに至っている。奇しくも、両者ともに海外での活躍が目覚ましく、その音楽性もジャンルの域を軽やかに超え始めている。前者はハウスやアンビエントを、後者はブラックゲイズやトライバルビートをも飲み込み、奇想天外な展開でエモーションを脱臼させるような効果を発揮する。2人は折にふれてヒップホップ文化へのリスペクトを公言してきた点も共通しているが、そのようなミュージシャンが今まさにポスト・ラップ的アプローチで新たな律動を発し始めている動きを見逃してはならない。

 海外での活躍が目覚ましく――と、さりげなく書いてしまったが、例えば先日のコーチェラ・フェスティバルにおける88risingの活躍も記憶に新しい中、こと国内を拠点に活動するミュージシャンの動向に目を向けると、ここでもまた象徴的な出来事が立て続けに起きている。
 5年間の育成期間を経て、鍛錬に鍛錬を重ねたうえで3月に満を持してデビューしたXGは、国内勢ではめずらしくグローバル市場を見据えたガールズ・クラッシュ系グループである。
 スポーティなスタイルにゴス・テイストを加えた様式美が独特の陰影を発しているこの7人組は、K-POPのカルグンムを模した完璧なフォームで統率あるダンスを披露する。楽曲の贅肉は極限まで削ぎ落されており、ヒップホップ史に照らし合わせて言うならば、かつて2000年代にミニマリズム・ヒップホップの極致としてUSチャートを賑わせたイン・ヤン・ツインズ「Wait(The Whisper Song)」を彷彿とする域に達している。
 ただ、前述のようなダンスパフォーマンスに加え、抑揚を効かせたうえではっきりとした発音に徹するきびきびしたラップ~歌は、引き算の美学と言えど、いわゆる詫び寂びのような境地に落ち着くわけではない。あくまで自立した女性像を標榜した現代的な美意識が徹底されており、それは「Tippy Toes」というしなやかでスリムな造形を想起させるタイトルにおいても、「yeah we gunnin for the crown group masterpiece」とあえて「王冠」を掲げる自信に満ちあふれたリリックにおいても表現されている。多言語を操るメンバーや次々とバイラルに投下されるプロモーション戦略を踏まえても、やはりXGは明確にグローバル市場を狙っているに違いない。
 レーベルの凄まじい本気度がうかがえるが、例えばXGが国内市場だけをマークしていたならば決してこのような振り切った音楽性にはなり得なかっただろう。あくまで海外リスナーを獲得できるというポートフォリオが描けていたゆえの音楽性であり、裏返すとそれは国内市場に対するいささか諦めのような認識も見えなくはない。
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