フィリピンで出会った韓国人、韓国は日本を超えたのか? – WEDGE Infinity

2022年11月28日(月)
定年バックパッカー海外放浪記
2022年11月27日
高野凌 (定年バックパッカー)

高野凌 (たかの りょう)
定年バックパッカー
1953年、横浜生まれ。神奈川県出身。大学卒業後は商社、メーカー勤務を経て2013年定年退職。2014年春から海外放浪生活を始める。放浪歴は地中海、韓国、インドシナ半島、インドネシア、サンチアゴ巡礼など。サラリーマン時代は主として海外業務に従事。ニューヨーク、テヘラン、北京にて海外駐在を経験。身長170センチ、57キロ。獅子座。A型。現在2人のご子息は独立し、夫人との2人暮らし。孫1人。
 購買力平価ベースでの1人当たりGDP(国内総生産)や国際競争力ランキングなどの経済指標から韓国は日本を追い越したという言説が昨今かまびすしい。こうした言説に多くの日本人が不快感や疑問や漠とした不安を覚えるのではないだろうか。筆者は定年退職後に放浪旅の途上で遭遇する韓国人と交流するうちに、韓国人そのものも変化しているように感じている。
 今から30年~40年前は、韓国の財閥系商社や大手メーカーのビジネスマンと商談していると彼らの『日本人には負けないぞ』という気魄や気負いを感じたものだ。それは彼らの劣等感の裏返なのだと思った。
 本編第6回でセブの英語学校の支配人、韓国人ケビン君42歳の丁寧な仕事ぶりを紹介した。彼は大学卒業後一般企業に就職。会社人間的生活に疑問を抱いて25歳で退職。その後学生時代に短期留学したフィリピンの英語学校に再就職したという経歴。
 韓国社会はご存じのように高校入試、大学入試、就職試験と熾烈な選抜競争の連続だ。韓国人によるとソウル首都圏の名の知れた大学に入るには高校時代は勉強漬け。高校は朝8時から夜9時まで授業があるのがフツウ。就職しても出世競争が熾烈で、同期よりも昇進が遅れると転職するのは珍しくない。
 ケビン君はフィリピンという韓国と真逆な陽気で開放的な社会で家族と暮らすうちに、英会話学校の老若男女の生徒たちに奉仕することに人生の意義を見つけたという。ケビン君は年齢の割に落ち着いて優しい表情をしている。韓国競争社会から自分の意志で決別して、自分らしく人生と仕事を楽しんでいる。
 ケビン君の生き方は同年代の日本人が羨望するライフ・スタイルではないだろうか。
 8月31日。ボラカイ島の大衆食堂で相席した韓国青年ハン君と歓談。独身38歳のハン君はITエンジニア。銀行・保険会社など大企業のシステム設計・補修などを担当している。1週間だけ休みが取れたので遅い夏休みをボラカイ島で過ごす予定だ。
 フィリピンの教育事情の話をしていたら、韓国の大学はレベルが低下したと嘆いた。「理由は単純で、少子化で子供の数が激減しているのに新設大学がどんどん増えていることが原因。学生の劣化により学位の意味もなくなった。大半の大学は不要だ。背景にあるのは親の見栄。『せめて大学だけは卒業しないと世間からバカにされる』という韓国社会の同調圧力が大学増設の背景にある」と喝破。
 1週間ほど前に他のビーチリゾートで同宿となった日本の学生たちを思い出した。大学4年の3人は就活が終わり最後の夏休みをエンジョイしようとフィリピンへ来た。初日は出会い系サイトでみつけたフィリピーナとデート。2日目は地元の若者が集うクラブに潜入。3日目はフィリピーナが接待するバーへ出撃。真っ黒に日焼けして健康そのもので、明るくフィリピンを楽しんでいる彼らが眩しく見えた。
 彼らは「俺たちバカ大学のバカ学生です」と潔い。「金を出すから大学だけは出てくれ」と親に言われたという。就職先については「期待してないし、すぐに辞めるかも」と口をそろえた。
 上記の大学生は3人とも礼儀正しい好青年だ。1人は自然と人を惹きつける話術を持っている。例えば飲食関係の店長をさせたら繁盛間違いなしと思えた。2人目は陽気でヤンチャな親分肌なところがある。土建業とか解体業とかガテン系の親方が彼の天職に思えた。
 大学に進学せずに得意分野で修行すれば、20代後半で独立してかなりの収入を得られるのではないか。彼らが親の見栄と同調圧力で大学に進学したのは社会的機会損失に思えた。
 日本社会でも韓国同様に大学進学以外の選択肢は社会的に正当に評価されていないように思える。中卒で調理学校へ行くとか大工に弟子入りするとか、高卒で電気工や配管工になるとか、いわゆる手に職をつける道が社会的に認知されれば、なまじっかの大卒一般職より安定した収入を得られる専門職の道を選ぶ若者が増えるのではないだろうか。誰もが大学を出て高給取りのホワイトカラー管理職になれるという幻想を前提とする現代日本の社会モデルは、非現実的であり非生産的と思うが如何だろうか。
 ハン君は韓国社会の諸問題の原因が余りにも感情的(too much emotional)な国民性にあるという。「例えば対中国に関して20年前は“中国は数千年に及ぶ友好国”、10年前は“対中不信感”、そして現在は“反中世論”が沸き立っている。日本が冷静に対中政策で友好と警戒のバランスを図っていることを見習うべきだ」と比較した。筆者は内心日本も似たり寄ったりと思ったが。
 「韓国では路上駐車が当たり前。日本の車庫証明制度をなぜ見習わないのか。日本が憎いと思うと合理的制度すら導入しようとしない」
 「韓国人は見栄で大型車に乗ることを好む。これに対し日本人はお金があっても狭い道路で走れる軽自動車に乗る」
 ハン君の話を聞きながら日本も他所から見たらおかしな社会なのだろうと思った。同時にハン君は自信があるから冷静に日韓を比較して日本の優れたところを賞賛できるのではないか。つまり昔の韓国人が抱いていた日本への劣等感がなくなり、逆に自分自身及び韓国に自信を持っているから客観的に日本を評価できるのではないだろうか。ハン君からは何か余裕のようなものを感じた。
 9月4日。立派な構えの韓国レストランにお邪魔して話を聞いた。50代半ばと思われるソウル出身のマギーさんは18年前にボラカイ島に来た。
 現在は客の80%がフィリピン人、韓国人が15%。コロナの収束とともに韓国人観光客は徐々に増えると予想している。しかしコロナ以前の水準にまで韓国人客が来店することは期待できないという。
 韓国社会の海外旅行ブームは続くが韓国人もかなり国際化してきた。コロナ明けでフィリピンへの韓国人観光客が増えるとしても1週間や10日程度の滞在では旅慣れた個人旅行客は韓国料理をわざわざ食べに来ない。海外に来たのだからとタイ料理、イタリア料理、フィリピン料理などをトライする。
 韓国人団体旅行では滞在中最低一回は韓国料理を旅程に入れるが、韓国の団体旅行の行き先の中心は欧米に移ってきている。アジアへは“行き尽くした”という韓国人が多いからだ。
 今後自分の店ではフィリピン人観光客の比重が益々高くなると予想。フィリピンでもKポップ、KドラマなどKカルチャーのファンが増えてKフードにも興味を持つ人が増えている。特にマニラやダバオなど大都市の人々にKファンが増えている。注)何人かのフィリピン人にKカルチャーやKフードについて聞いたがマギーの言う通りだった。
 経済成長により生活に余裕が出てきたのでフィリピンは国内旅行ブームだ。このトレンドに乗ってフィリピン人を呼び込んで満足してもらえるような宣伝やメニューづくりを準備しているという。
 マギーと話しているうちに不思議に思ったのは外見に似合わず、彼女の話し方が理路整然として英語も正確なことだ。フィリピンに来て仕事をしながら英語を覚えたというが。
 マギーの初対面の印象は失礼ながら“韓国の田舎の大衆食堂の陰気な女将”。話しているうちに大学教授か大企業の経営者のように思えてきた。マギーの話を聞きながら“韓国は日本を超えた”のかもしれないとふと思った。
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