「成熟」そして「越境」の2023 BTSを経験した先のK-POP 三好剛平:時事ドットコム – 時事通信ニュース

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「成熟」そして「越境」の2023 BTSを経験した先のK-POP 三好…
2023年01月18日12時00分
米国で放送されたMTVビデオ・ミュージック・アワードに韓国から出演したBTS(MTV提供)=2020年8月30日 【AFP時事】
 2017年のビルボード・ミュージック・アワードでの受賞を契機として、世界にBTSが“発見”されてから間もなく6年を数える。以降もグラミー賞ノミネートや国連総会での演説とパフォーマンス、米ホワイトハウスでのバイデン大統領との面会に至るまで、アジア系アーティストとして類例を見ない経験を果していく中、22年6月に突如発信されたのが動画「バンタン会食」だった。動画の中でメンバーたちは、急激な環境変化によって生まれていた自身たちの苦悩や葛藤を赤裸々に明かしつつ、今後もBTSの活動を続けていくためにいったんグループとしての活動は休息し、しばらくはソロ活動を中心に取り組んでいくことを発表した。その後10月には伝説となる釜山コンサート「Yet To Come」のパフォーマンスで全世界を熱狂させ、直後にメンバーJINが兵役による陸軍入隊を発表。続いてメンバー全員の入隊決意も表明され、グループとしての活動は25年をめどに再開を目指すことが発表された。
 今回、「ポストBTSを占う」というお題目で記事の執筆依頼をいただいたが、本記事では、そのテーマを少しだけスライドすることをお許しいただきたい。というのも、彼らは確かにグループ活動のいったん休止を発表したが、各メンバーのソロに活動が絞られた今この時点にもなお、シーンにおけるBTSの存在感は絶大であること(実際、12月にリリースされたメンバーRMのソロアルバムはビルボードで上位ランクインを続け、また別のメンバーVによるクリスマスソング動画は公開からわずか5日間で1000万回を超える再生数を記録している)、加えて、彼らがデビュー以来達成してきた偉業の数々はいずれも、あのメンバー7人相互のキャラクターとプロセスによってのみ導かれた現象であり、別の誰かが「ポスト」として再現可能なものでは到底無いことが挙げられる。以上からもこの記事では「ポストBTS」ではなく「ビヨンドBTS」、すなわち「BTSを経験したその先のK-POPシーン」を展望するものとして、記事を進めたいと思う。
【目次】
 ◇K-POP、そしてBTSが目指したもの
 ◇BTSを経験した先のK-POP2023、キーワードは「成熟」と「越境」
  ・あらゆる垣根を「越境」&液状化を続けて成熟を迎える「シーン全体」
  ・世代間の「越境」と、意味合いが異なる2000年代以降のリバイバル
  ・メジャーとインディー、ジャンル間の「越境」
  ・国境を超えた音楽やカルチャーの混淆装置として
BTS、2年連続グラミー賞ノミネートの偉業 K-POP隆盛から思い描くJ-POPの将来像
米ホワイトハウスで記者会見に臨んだBTS=2022年5月31日、ワシントン【AFP時事】
 今でこそ世界中の誰もが楽しむグローバルコンテンツとなったK-POPも、元をたどれば1997年、韓国経済がアジア通貨危機によって大打撃を受け、その生存戦略として文化輸出=ソフト・パワー戦略へとかじを切ったことが端緒となっている。国内の小さな市場だけでは国家経済が立ち行かないことを見切った彼らは「越境」、すなわち海外向けコンテンツ産業への投資、文化振興関連機関の設立、創作活動に対する諸規制の撤廃・緩和など、「国家戦略としての文化輸出」を精力的に打ち出し、取り組んでいく。
 しかし、そこからの道もまた平たんではなかった。ことK-POPの海外進出においても、Wonder GirlsやPSY(サイ)、少女時代など、時代ごとにさまざまな韓国トップアーティストが失敗と成功を重ねながら、粘り強く結果へとにじり寄る奮闘によって次世代アーティストへと道を開き、バトンを継ぎ続けた。その間にもK-POPは海外で流行している最先端の音楽や映像トレンドを貪欲に取り込んで、また時代を同じくして隆盛を迎えたYouTubeやSNSを後押しとしながら、ついにその海外進出へのキャズム(溝)を超えたアーティストこそが、BTSであった。
 ところで、BTSもまた異なる階層で「越境」を目指すグループであった。もともと音楽ジャンルとしてヒップホップを志向していながら、同時にアイドルとしての立ち位置を両立させて2013年にデビューした彼らは、楽曲は自分たちで書き、うそのない正直な表現を歌詞に込め、ステージ上ではごまかしのない圧倒的なパフォーマンスを披露するという、ヒップホップ精神に基づくような“リアル”な在り方を重視した。「メインストリームとアンダーグラウンドの架け橋になる」と意気込みながらも、当初はヒップホップ、アイドルどちらのシーンからも歓迎されず、そのバランスを模索し続けたが、その先にたどり着いたのが、15年から始まる「花様年華」シリーズだった。同シリーズでメンバー7人は、ミュージックビデオ(MV)や楽曲を中心としたさまざまなメディアコンテンツで展開されるストーリーに実名で登場して、物語と現実とを越境・横断させながら一大ユニバース(世界観)を形成していく。また、楽曲においてもより幅広い音楽性とストーリー性を取り入れ、大衆的な訴求力を備えながらも着々とジャンルを超えていく実験を重ね続けた。この連作の大成功を受け、以降、彼らは音楽のジャンルどころか、アイドルとアーティストの間にあったはずの境界をも軽々と超えていく「自分自身 myself」の表現を追求する強さを獲得していく。
アメリカン・ミュージック・アワードの会場の外でBTSメンバーの写真を持ってポーズを取るファン=2017年11月19日、ロサンゼルス【AFP時事】
 また、彼らはソーシャルメディアや動画コンテンツの可能性にいち早く着目して、ファンとのコミュニケーションにかける労力も惜しまなかった。これによりそれまでファンとアーティストの間にあったはずの境界線は揺るがされ、“ギブ&ギブ”の精神で延伸・拡張していく強靭(きょうじん)なファンコミュニティー=ARMYが形成されていったことも、皆の知るところであろう。彼らが世界進出を視野に入れ「防弾少年団 BangTan Sonyeondan」の頭文字であるBTSと名乗り始めた時、その略称にもう一つ「Beyond The Scene(夢に向かって絶えず成長していく)」という意味と姿勢も込めたというが、そこにはメンバーとファンが共に重ねるプロセス自体がドラマになっていく、その後のBTSとARMYの「beyond(越えていく)」な関係も予見されていたように見える。
 ここまでK-POPとBTSについていくつかのエピソードを振り返ってみたが、そこにはいつでも「現状のその先=Beyond」へと越境していく、挑戦者の姿勢が見て取れる。それらを踏まえた上で、去る2022年のK-POPシーンを振り返り、来る23年を展望する時、そこに広がる景色は、紛れもなく1997年に「国家戦略としての文化輸出」へとかじを切った先人たちが切願した市場(マーケット)としての「成熟」と、想像以上に多様な「越境」が実現したものになるだろう。
あらゆる垣根を「越境」&液状化を続けて成熟を迎える「シーン全体」
大阪で開催された「MAMA Award」に登場したIVE=2022年11月30日【AFP時事】
 2022年K-POPシーンは、デビュー1年目の新人女性グループが過去に例を見ない規模で大活躍を果たした一年だったが、中でも突出した存在感を放ったのはIVE(アイヴ)、LE SSERAFIM(ル セラフィム)、そしてNewJeans(ニュージーンズ)の3組であった。とりわけIVEはK-POPシーンにおける最重要音楽賞の一つである「MAMA Awards 2022」で、19年以来3年連続でBTSが取っていた「Song of the Year」賞をデビュー1年目にして獲得し、大きな話題を集めた。
 K-POPシーンではこれまで、大きな影響力を持つとされてきた三大事務所(SM、JYP、YG)、そしてBTSの躍進以降彼らの所属するBigHit(=現HYBE)が加わった四大事務所による産業構造が支配的だった中、シーンの中堅を担う事務所であるSTARSHIPエンターテインメント所属のIVEによる躍進が意味するところは大きい。
 またここ数年のK-POPシーンにおいては、他事務所で経験を詰んだアーティストが異なる事務所の新人としてデビューするケースや、日本をはじめ東南アジアなど「汎・東アジア」的なメンバー構成でグループデビューを果たすケースも当たり前になってきた。また、アイドルグループに限らず、実力派ダンサーやラッパーたちによるバトル番組から新たな国民的スターやヒットが次々と生まれている状況も顕著だ。もはや事務所も、国境も、ジャンルの枠組みも、軽やかに「越境」して何もかも一緒くたに巻き込んだ「シーン全体」としての加速度的成熟が、今まさにK-POPの現場では極まりつつある。
世代間の「越境」と、意味合いが異なる2000年代以降のリバイバル
2009年にデビューした2NE1=2013年4月13日、韓国・ソウル【EPA時事】
 2022年K-POPシーンにおけるもう一つの大ニュースは、2NE1(トゥエニィワン)、少女時代、KARAらベテラン勢によるリユニオン(再結成)だった。キャリア10年を超える彼女たちが、時に事務所の垣根を越えて再結集しパフォーマンスを披露する姿に、当時のファンはもちろんのこと、新世代のファンも強く反応した。音楽チャートでもベテランとデビュー1年目のユニットが等しくランクインするような豊かなシーンとなり、こうした成功事例が、今後もベテラン勢による「カムバ」を続かせることは想像に難くない。
 加えて指摘しておきたいのは、これまでとは少し意味合いの異なるリバイバル現象である。K-POPシーンでは、数年ごとに80’s、90’sとおよそ10年単位の音楽トレンドやファッションが参照・引用されるリバイバル現象が続いているが、現在そのブームを迎えているのが、Y2K=2000年前後のトレンドである。これはただ順繰りでトレンドが2000年代に巡ってきたことのみを意味するのでない。2000年代と言えば、韓国が国家としてK-POPの本格的な開発と普及を加速させはじめた時期であることがポイントだ。先述のベテラン勢のカムバックも重ねて考えると、ここから本格的なK-POPシーンによる「自己参照」がより活発となり、他国からは生まれようのない、独自性の強いニュー・トレンドの萌芽(ほうが)も期待される。
メジャーとインディー、ジャンル間の「越境」
 近年のK-POPシーンにおいて、メジャーアーティストが実力派インディーアーティストをフィーチャリング(ゲストとして招聘)や製作陣に迎えるケースは多い。
ファクト・ミュージック・アワードで撮影に応じるNewJeans=2022年10月8日、韓国・ソウル【AFP時事】
 BTSも所属するHYBE傘下の大型新人としてデビューしたガールズグループ、NewJeansが2022年終盤にリリースした楽曲「Ditto」も記憶に新しい。同曲では、作詞に韓国インディーシーンで活動するシンガー・ソングライターThe Black SkirtsとOOHYO(ウヒョ)、MV演出には映画・広告制作スタジオDOLPHINERS FILMSという、シーンもジャンルも横断した珍しい座組みによる作品として発表された。独自の世界観が際立ったMVは、公開されるや即座にSNSを中心に大量の考察が出回り、年末のリリースにもかかわらず大きな注目を集めた。こうした成功劇もほんの一例に過ぎず、23年はますますメジャー/インディーのシーン、そしてジャンルも横断したような「越境」的クリエーティブが増加していくだろう。
国境を超えた音楽やカルチャーの混淆装置として
 2022年10月にリリースされたLE SSERAFIMのセカンドミニアルバムのタイトル曲「ANTIFRAGILE」ではレゲトンのテイストが取り入れられたことも話題となった。
 レゲトンとは、レゲエやサルサといったラテンミュージックとヒップホップが融合したような音楽ジャンルで、プエルトリコで発祥して以来、アメリカの音楽マーケットはもちろんのこと、スペイン語圏の中南米諸国などで広く愛される一大ジャンルである(ちなみに、K-POPシーンでレゲトンの派生ジャンルである「ムーンバートン」の楽曲をいち早くメジャーシーンに持ち込んだのもBTSの人気曲「Blood Sweat & Tears」である)。
BTSと同じ事務所に所属するLE SSERAFIM=2022年4月【EPA時事】
 LE SSERAFIMの逆境をものともしない自己肯定的な世界観とアグレッシブな楽曲がマッチし、同曲はグローバルでも大ヒット。彼女たちのファーストタイトル曲「FEARLESS」がランウェイやハイファッションな衣装など、スタイルとしての「モード」を意識したティザーや楽曲だったことを考えても、彼女たちが楽曲単位でまったく違う国や異なるシーンのカルチャーを実験的に取り込んでは、自分たち自身の表現を試行し、成熟させているのが分かる。そしてこれは彼女たちに限ったことではない。K-POPシーンはこのように日々次なる表現を貪欲に取り込み発展させる形で、いつでもグローバルコミュニティーからの新たな共感や応援を獲得するための実験を重ね続けているのだ。

 以上、「ビヨンドBTS」すなわち「BTSを経験したその先のK-POPシーン」として「越境」そして「成熟」をキーワードに2023年のK-POPシーンを展望してみた。しかしここまで書いてなお、高速でトライ・アンド・エラーを重ねながらアジャイル(迅速で柔軟、適応性の高い)な発展を止めないK-POPシーンに対しては、ここで示したいくつかの展望とて既に何歩も出遅れた見通しであることを認めざるを得ない。
 K-POPは、今この瞬間にもあちこちで立ち起こっている「プロセス」に参加してこそ、新たなムーヴメントの発生から成熟までを感得できる、生きた実験場である。もしあなたがこの記事を最後まで読みきってしまうほどK-POPシーンへの興味があるようなら、あとやるべきことはただ一つだ。今すぐ1曲、気になるアーティストのミュージックビデオを視聴してみること。2023年のK-POPシーンは、出遅れるにはあまりに惜しい一年になる。
◇  ◇  ◇
筆者の三好剛平さん【時事通信社】
三好 剛平(みよし・ごうへい)1983年生まれ、福岡市出身。三声舎代表。福岡を拠点として、文化芸術にかかわるプロジェクトを中心に企画・制作、執筆等を行う。アジア映画企画『Asian Film Joint』、福岡九州のアート・カルチャーシーンを発信する地元ラジオ局LOVE FMの番組『明治産業 presents OUR CULTURE, OUR VIEW』など。K-POPの魅力を普及する『KPOPトレンド研究所』名義の活動も。
(2023年1月18日掲載)
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