Lo-FiヒップホップのYouTubeチャンネルは、「引き算」による陶酔感がすべてだ – WIRED.jp

『WIRED』US版のシニア・ライター。ポップ・カルチャーのさまざまな交差に関する記事を書いている。『The Fader』や「Gawker」の元エディタ。ロサンゼルス出身。新興勢力の声をとりあげる文芸ジャーナル『Spook』の創始者。
ディオン・ルイスは困難な状況のなかでもベストを尽くそうとしていた。2020年の8月、嵐のせいで居住するシカゴ界隈が1週間の停電に見舞われたとき、ルイスは即興を思いついた。ルイスはそのしばらく前に「Code Pioneers」というYouTubeのアカウントページをつくって、コンピュータープログラミングにおいて直面するさまざまな状況について教えるチュートリアルを配信していた。
だが停電の最初の夜は録画ができず、それなら妻と娘と一緒に充実した時間を過ごそうと決めた。リビングに集まった3人は揺らめくキャンドルの明かりに囲まれて座り、ルイスがヴィデオチュートリアルの「BGMとして使うために以前ダウンロードしておいた」曲に耳を傾けた。そこで流れたのはRalphRealの「Mix It Up」や、ポートランドの実験主義的ミュージシャンであるBad Snacksの「Wallflowers」といった曲だった。
次の朝、そのとき聴いた音楽に心を動かされたルイスは、DJコントローラーとヘッドフォンをつかみ、ノートパソコンに「かろうじて残っていた電源」を使って「Late Night Coding in Chicago」をつくり上げた。この32分間の穏やかなLo-fiヒップホップソングのミックスは、いまに至るまで、彼のYouTubeアカウントページで視聴回数が最も多いヴィデオのひとつになっている。
最初の頃にその投稿ヴィデオへのコメントに書かれていたように、ルイスは「何か別の次元」に突入したのだ。そのヴィデオに人気が集まったのは、YouTubeのディープなサブカルチャーに詳しい人たちにとっては、それほど驚くことではなかった。「Late Night Coding in Chicago」のようなジャンルのヴィデオ(およびサウンド)は、いまYouTubeでブームになりつつある。ユーチューブによれば、そのジャンルの2020年における視聴回数は総計10億回以上にも上るという。
正式には、このジャンルはLo-fiヒップホップと呼ばれる。その音楽の真髄は、過剰さを拒絶するところにある。ルイスが最初のヴィデオに取り上げた曲がすべてそうだったように、そのジャンルの曲は一般的にリラックスしてスローな雰囲気をもち、歌詞がなく、見事なまでに控えめで、かかっていることさえ忘れてしまうほどだ。ムードをつくるために選ばれた音楽なのだ。
ルイスによれば、ふつうは「70〜95BPM(1分間の拍数)の間ぐらいの気持ちいいメロウなリズム」をもつそういった曲たちは、仕事や勉強、瞑想、サイクリング、料理、あるいはルイスのページを訪れる人たちの場合はプログラミングといった、ありとあらゆる種類のタスクの背景を満たす働きをしてくれる。
ルイスはフルスタックのウェブ開発者[編註:フロントエンド、バックエンドの双方を担うエンジニア]であり、IT業界でもう10年以上も仕事をしてきた。「Code Pioneers」を立ち上げたのは、「新型コロナウイルスのパンデミックによる一時帰休や自宅待機、賃金カットなどに苦しむ」人たちのことが心配になったからだ、とルイスは言う。サイトの説明に明記されているように、プログラミングについて学びたい人なら誰でも彼のページを利用できる。
チャンネルには、HTMLの基礎からウェブページでインラインフレームをつくる方法に至るまで、幅広いトピックが掲載されている。最も初期にアップロードしたヴィデオでは、ルイスは「開発者に必要なスキルNo.1」について詳細に語っている(答えを聞いたらあなたはきっと驚くだろう)。
停電最初の夜から実現したヴィデオは、「あらかじめ計画したものではまったくなかった」とルイスは言う。だが7カ月後、そういったヴィデオはルイスのページの「顕著な特徴」となり、それによって彼のチャンネルは1万7,000人もの忠実な登録者を獲得した。
「Lo-fiヒップホップのヴィデオは、どんなチュートリアルよりも大きな影響を視聴者に与えています」と彼は言う。少し前、あるリスナーからルイス宛にメッセージが届いた。そこにはルイスのヴィデオストリーミングを聴くことによって、自分はリモートワーカーとしての「孤独に立ち向かう」ことができた、と書かれていた。


© 2022 Condé Nast Japan.

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