人気ジャンルがゲームにも「ローファイ・ヒップホップ」(後編):ゲーム音楽ディスクステーション第7回 – IGN Japan

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ゆったりしたビートとほんのりジャジーなフレーズが織りなす「ローファイ・ヒップホップ」のムーブメントが、近年ゲーム音楽にも接近しつつあります。第5回に引き続き、その注目作をご紹介いたしましょう。まずは先月リリースされたばかりの新作から。
チーム戦が熱い人気シューター『レインボーシックス シージ』が、まさかのローファイ・ヒップホップ化。プロデューサー兼コンポーザーのKill Miamiによると「同作のプレイヤーにとってのlo-fiサウンドとはどのようなものか、という問いに答えるもの」だそうだが、よもや銃撃戦の渦中にローファイ・ヒップホップを求める人はそういないだろう。ジャケットや『Post Match』というアルバム名が示唆するのは「戦いを終えたあと、一息つきながら聴くBGM」というシチュエーション設定である。雨はもちろんお約束だ。
着眼点は面白いが、本作のサウンドトラック原曲はといえば、チルとはほぼ正反対のものである。タンジェリン・ドリームの一員としても知られる映像音楽作家ポール・ハスリンジャーらが手掛けた重く禍々しいポストクラシカル~インダストリアルは、いうなれば緊迫感の塊。ローファイ・ヒップホップとして調理できるような素材は、ごくごく限られている。そんな中で本盤はアレンジやリミックスではなく「インスパイアド」、つまりある種のイメージアルバムを志向した。効果音や印象的なフレーズを適度に散りばめてはいるが、比重は決して大きくない。

そうしたイメージアルバムとして聴くならば、完成度はかなり高いといえるだろう。むしろローファイ・ヒップホップとしてはかっちり作られすぎているくらいだが、それもそのはずで、Kill Miami自身はもともとヒップホップの本流で名を上げつつある新進気鋭のアーティスト兼プロデューサーなのである。今回彼が組んだ5人のアーティストもまた基本的にローファイ・ヒップホップ界隈の住人ではなく、いってみれば彼ら全員にとって本作は異業種への挑戦であったといえる。そのようなトライアルを許容するのもまたゲーム音楽の懐深さに違いない。(hally)
ゲーム音楽におけるローファイ・ヒップホップの中心地は、メーカー非公認のファンメイドなリミックス&アレンジだ。本作を含む《& Chill》シリーズは、その中でも特に有名なもののひとつである。
《& Chill》はDj Cutmanことクリス・ダヴィッドソンが2012年に旗揚げしたゲーム音楽リミックス専門レーベルGameChopsの看板シリーズであり、これまでに任天堂作品を題材にしたチルウェイブ~ローファイ・ヒップホップのアルバムを5作品リリースしている。『Zelda & Chill』(2018)はその最初のものであると同時に、シリーズ屈指の1枚でもあるともいえるだろう。

リミキサーはドイツの「Mikel」ことミヒャエル・ヤコービ。本作は彼のデビュー作でもあるのだが、そうとは思わせないほど心地よく完成されたレイドバック感とリラックス感を味わわせてくれる。原曲フレーズのジャジーな解釈も実に巧みであり、フレーズをあまり大きく崩すことなく、あたかも最初からそうであったかのようなジャジー加減に違和感なく落とし込む手際は、鮮やかの一言だ。本作の好評を受け、彼は翌年に『Poké & Chill』を、そして翌々年には『Zelda & Chill 2』をリリースしているが、いまだに本シリーズ以外での活躍はほとんどないという、少々ミステリアスな存在でもある。なお《& Chill》シリーズはいずれも任天堂非公認ではあるが、正規にライセンスを受けたものであることを追記しておきたい(アメリカの著作権法下では、アレンジ~リミックス許諾のハードルが日本に比べて格段に低い)。(hally)
2 Melloことマシュー・ホプキンスは、最初にゲーム音楽+ヒップホップのマッシュアップで注目を集め、のちに自らもゲーム音楽クリエイターとしてデビューを果たした、まさにヒップホップをアイデンティティとするコンポーザーである。そしてヒップホップを基軸としつつも、その作風は着実な広がりを見せている。ゲーム音楽家としてのデビュー作にして代表作でもある『Sounds Of Neo – SF: Read Only Memories OST』(2015)はレトロウェイヴ寄りのエレクトロだったし、『Upwind Original Soundtrack』(2017)あたりからはジャズも意欲的に取り込んでいる。
2018年にはオリジナルアルバム『Mindstreaming』において、初めてローファイ・ヒップホップに接近する。わずか1日で全曲を作り上げたというこのアルバムは、さすがに多少荒削りな仕上がりではあったが、全体としては驚くほどしっかりした聴き応えを提供していた。

本アルバムは彼がその次にリリースしたローファイ・ヒップホップ作品で、前作とは対照的に柔らかく心地のよい仕上がりとなっている。『Superminal』は(表向き)ある種の医療施設を舞台とするゲームで、BGMもそれに合わせて、わざと耳に残らなくしているタイプのヒーリングジャズが充てがわれていた(作曲はマット・クリステンセンという別のコンポーザー。別途サントラも発売中 )。
本アルバムはこれを2 Melloがリミックスしたもので、原曲の持つ上品さを活かしながら、適度に「耳に残るサウンド」として再構築することに成功している。ひとつひとつの音の存在感を意識しながら、原曲と聴き比べてみても面白いだろう。(hally)
本職のゲーム音楽家で、ローファイ・ヒップホップに取り組んでいる人は、まだまだ希少だ。日本だと「やっている」と明言しているのは、もしかすると若林タカツグくらいかもしれない。そして本アルバムは先月リリースされたばかりの、彼のローファイ・ヒップホップ路線における最新作である。
チュンソフトから出発し、現在ではさまざまなゲームのキャラソンなどで名を上げている若林は、2020年に「はじめてのLo-Fi Hiphop」というYoutube動画を公開し、自らの習作も兼ねて作り方を実践。その成果をアルバム『Lo-Fi Chill HipHop 2020 Spring -Rainy noon- 』にまとめた。音質やレイドバック感に関して言えば、(たった2年弱前の作品なのに)いま聴くと若干古めかしく感じられるところもあるが、逆にいえばローファイ・ヒップホップ初期における「らしさ」を教科書的な実直さで追求した内容だったともいえる。初めて手掛けるジャンルであっても「ど真ん中」を的確に繰り出してくるあたりは、まさに劇伴作家としての力量がなせる技だろう。

若林は同年夏に続編『Lo-Fi Chill HipHop 2020 Summer -Be Barefoot-』を発表、さらに一段手慣れた(そして多少遊びを抑えた)音作りを披露した。それから一年余、本作『The Ether -Lofi -ChillHop Focus Study-』では、ローファイ・ヒップホップにおける王道中の王道シチュエーションである「ジブリっぽい絵柄の勉強風景」にアプローチ。サウンド的にもまさにド直球の王道といえるものを、文句なしの完成度で送り出すところにまで到達している。(hally)
「ペルソナ」シリーズといえば目黒将司がメインコンポーザーを務めるようになって以降、ブラックミュージックのビートを効果的に取り入れたBGMが作品を彩っている印象ですが、アッパーチューン以外にも、リラックスしたいシーンに寄り添う、しっとりと聴かせるような楽曲も多数存在しています。それらは音使いとしては「ローファイ」の定義から離れるものの、近年チルホップ的な視点からの再評価も確かに起きているのです。そこでここからは《ペルソナ》シリーズの音楽から、チルホップ的な性質を持つ楽曲をピックアップして紹介していきます。
まずは、以降のシリーズのカラーを決定付ける大胆な刷新をもって登場した『ペルソナ3』(2006)。このゲームは、本編開始直後からいきなりウッドベースの太い低音とジャジーなビートでプレイヤーを絡め取ってくるのだが、学生寮到着時にかかる「この不思議な感覚」といい、そこでの日常テーマ「巌戸台分寮」といい、のっけから醸されるあまりにもアダルティな雰囲気には面食らうこと必至である。

街へ繰り出せば耳に入る「When The Moon’s Reaching Out Stars」は、都会的な冷たさを持つ研ぎ澄まされたブレイクビーツ。一方、それをヒップホップビートでアレンジした「ポロニアンモール」は、サグなノリながらもスキャットとブラスが前に出たことでどこか温かみのある対比を作り出している。同様に、エンディングテーマ「キミの記憶」のフレーズを引用した「Joy」も、朗らかなブラスとワウがかったサンプリングに安堵するミドルテンポのナンバーだ。

これらは《ペルソナQ》シリーズにおいて喜多條敦志による編曲がなされており、中でも『ペルソナQ2 ニュー シネマ ラビリンス』(2018)での「ポロニアンモール -inside the cinema-」は、バッキングに対してスキャットを原曲から2拍ずらした構成で、少し掠れたような加工もあり抜け感が際立つ好アレンジとなっている。
ほか、とても定期テストを受けているとは思い難い軽妙なノリの「試験中…」、物語後半の悲壮感をピアノに纏わせた「Living With Determination -巌戸台分寮アレンジ-」や「tartarus_0d04」なども本稿のテーマには合うだろう。明暗あるものの、落ち着いたビートでクールダウンしたい時にスッと聴きやすい。

『ペルソナ3』といえば、ヴォーカリスト・川村ゆみと並び、楽曲面での印象付けに多大なる影響を与えているのが、イースト・コースト・ヒップホップを音楽活動のルーツに持つLotus Juice。そんな彼のリリックとライミングが光る楽曲の中でも、本稿で取り上げたいのが「Deep Breath Deep Breath」だ。ゲーム本編では緊張感のあるエレクトロ・インダストリアルとなっているが、関連の音楽作品等では毎度ガラッと印象を変えたアレンジが作られがちという数奇な曲で、特に劇場アニメ記念盤『PERSONA3 THE MOVIE -#2 Midsummer Knight’s Dream- 主題歌CDセット』(2014)に収録された「Deep Breath Deep Breath -Lotus Juice Remix-」は、ジャジーヒップホップのような風味を持つ隠れた名アレンジ。ここで推しておきたい。(魚屋スイソ)
続いて『ペルソナ4』(2008)から1曲を紹介。前作の暗澹とした雰囲気から一変、楽曲面でも明るくビビッドなトーンが全体を占めているのが特徴の本作。

平田志穂子の爽やかな歌声が吹き抜ける「Your Affection」に象徴されるように、どちらかというとハウスが主体のため、本稿のテーマからは更に離れてしまうこととなるが、「Heartbeat, Heartbreak」については、ゲーム中の天候が雨や曇りの日に流れる曲ということもあってコンセプト的には取り上げておきたい。主題のリフレインとシンプルな四つ打ちが心地よく、繰り返し聴いていられるナンバーだ。

アレンジアルバム『Never More -Reincarnation : PERSONA4-』(2011)にはテンポアップした長尺版が収録されている。雨音のサンプリングとピアノソロによる、アンニュイに傾きすぎない清涼感のある余韻が印象的だが、メインのヴォーカルフレーズを追いつつ展開していくベースラインも聴きどころの一つ。また、『ペルソナ4 ダンシング・オールナイト』(2015)ではテイ・トウワがガラージ/ツーステップリミックスを提供しており、こちらも特徴的なリズムに着目して聴いてみてほしい。(魚屋スイソ)
さて、『ペルソナ5』(2016)の紹介に移ろう。初期Jamiroquaiをイメージしながら制作されたという本作のBGMは、アーバンなノリのアシッドジャズが主軸。稲泉りん(Lyn)のソウルフルなヴォーカルとオブリガートで入るストリングスが作品全体のトーンを決めているが、欲望渦巻く都会の喧噪から一歩離れたシーンでは、静謐さを演出する楽曲も。その象徴たる楽曲が、怪盗団のアジトとなる純喫茶で流れる「Beneath the Mask」だ。前述の「巌戸台分寮」が喧しく感じるほど、音数、BPM共に落ち着いており、揺らぎのある音色と重いリズムが主体のトラックはかなりローファイ・ヒップホップに似た音作りといえる。

近しい性質を持つ楽曲としてはほかに「Have a Short Rest」、「My Homie」、「A Woman」、「Sunset Bridge」、「Break it Down」、「Alright」、そして『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』(2019)のジャズクラブで流れる「No More What Ifs」などが挙げられるだろうか。音色の違いや細かな表情付けによりブルース、カントリー、フュージョンなど様々なジャンルのエッセンスも感じられるが、とりわけリズムに特徴を持つのが「Butterfly Kiss」。エンディングテーマ「星と僕らと」の変奏となるサビで三連に切り替わり、さらにポリリズムを経て回帰する構成は聴きごたえあり。
尚、ここまでに挙げた楽曲の多くが、3拍目にアクセントが置かれたハーフタイム系のビートとなっている。ヒップホップはもちろん、2010年代に勢いづいたトラップやフューチャー系、そしてその流れを継ぐ今日のポップスでも多様されるリズムである。目黒は『ペルソナ3』の楽曲制作時に掲げていたコンセプトについて、文字通りの意味での“フューチャーポップ”(=想像上の未来の音楽)と語っている。実際に数年後のトレンドの要素を含んでいる辺り、いかに鋭い想像力をもって制作に臨んでいたかが察せられる発言だ。こと『ペルソナ5』の楽曲が、ローファイ・ヒップホップ/チルホップリスナーに刺さっているのも、そうした先見の明で強度のある音作りがなされていたからこそだろう。(魚屋スイソ)
最後は新作~準新作のコーナーです。今回は異色のガストブランド作品を紹介!
ガストブランド(コーエーテクモゲームス)から発売された、夏の高校を舞台にした青春魔法バトルもの『BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣』(2017年)の続編。前作のリリースとほぼ同時にガストから独立した浅野隼人が引き続き作曲を担当した。ガストといえば「アトリエ」シリーズに代表されるように、生楽器主体のオーガニックな作風で知られるが、「ブルーリフレクション」の制作にあたっては、キャラクターデザインの岸田メルからガストカラーの一掃をオーダーされている。そこには「戦闘曲はドラムンベースで」とまで指定があった。
これまで浅野も「アトリエ」や「よるのないくに」シリーズに参加し、ピアノ、アコギ、弦、オーボエ、リコーダー、アコーディオンを用いた叙情スコアでガストの一翼を担ってきたが、そのテが使えない。戦闘を彩ってきたヘヴィロック+オケのゼロ年代アニメ手法も封じざるを得ないだろう。そこで浅野は、エレクトロニカなどの電子サンプルにピアノと弦といった、最小編成にアイデアを絞り込む。80年代イージーリスニング的な郷愁を出すのが上手いこの書き手は、青春の煌びやかさはそのままに、チャーミングなバイエル、ナイーヴなアルペジオ、バイオリントランスや、クリスタルアンビエントにメロディを注ぎ込み、「例えば北欧エレクトロニカのような」と話した岸田プランと擦り合わせていった。
アッパーなトラックに比重のかかった前作と比して、今作は大人しめの印象を受けるかも知れないが、作品全体の統一感や成熟度は増している。茶太をボーカリストに迎えた主題歌「Glitter」はウィスパー歌唱のシンバルズポップスで、こちらの作曲は乃木坂46『帰り道は遠回りしたくなる』で大ヒットを飛ばし、声優、アイドルゲーム各種で気を吐く渡邊俊彦によるもの。こちらも併せて出色であることを添えておく。加えて、プレミアムボックスのみ同梱の特典だった為、巷で取り合いになったという前作『幻に舞う〜』のサウンドトラックも単品販売が実現。共に物語の舞台は夏だが、浅野が放つ詩情は寧ろ今の季節に丁度いいアルバムではないだろうか。(井上尚昭)

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