佐藤純之介に聞いた、ソニー「360RA」の魅力。小岩井ことり新曲は夏 – AV Watch

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藤本健のDigital Audio Laboratory
第895回

  • 藤本健

2021年5月17日 11:38
ソニーが開発した立体音響技術を使った新しい音楽体験「360 Reality Audio(360RA)」。海外より遅れ、日本でも4月23日から本格的サービスがスタートした。音楽をヘッドフォンで聴くことで、前後・左右・上下の360度から音が聴こえるというユニークな技術であり、従来のステレオサウンドとは大きく違うサウンドを体験できる。
現在これを体験するには、Amazon music HD、deezer、nugs.netに加入し、サブスクリプションでのストリーミング配信を受けるとともに、専用スピーカーやスマホアプリを通じて再生させるのが条件となる。サービススタート時点では洋楽・邦楽含め4,000曲程度とのことだったが、楽曲はどんどん追加されており、今も各所で360 Reality Audioでのミックス作業が進んでいるようだ。
先日、そうした現場のひとつを取材してきた。取材したのは、元バンダイナムコアーツ(ランティス)のチーフプロデューサーで、現在は株式会社Precious toneの代表取締役で、音楽プロデューサー/エンジニアの佐藤純之介氏。
劇場用アニメ「ガールズ&パンツァー最終章」のオープニング楽曲「Grand Symphony」をはじめ、さまざまな楽曲を自ら360 Reality Audioで新たにミックス、リリースしている。さらに今夏には、声優の小岩井ことりさんを起用し、360 Reality Audioのために書き下ろした新曲もリリースするという。実際、どのようなことをしているのか、話を伺った。
――純之介さんが、360 Reality Audioに取り組むことになったキッカケはどのような経緯だったのでしょうか。
佐藤氏(以下敬称略):基本的に、新しいフォーマットが好きなのです。サラウンドは興味がありましたし、これまでもハイレゾ、DSD、Blu-rayなど、なんでもすぐ飛びつきます(笑)。
子供のころから立体音響やサラウンドに興味を持っていまして。冨田勲さんのシンセサウンドに影響を受け、使われていたクワッドフォニックなどに興味を抱いたのが最初だったと思います。ただ、サラウンドスピーカーを設置するというのは、簡単ではありません。
10年以上前でしょうか、5.1chが聴けるサラウンドヘッドフォンが登場したときは、とても面白いと感じました。ただ、ゲームなどには使えるけど、音楽用として見たときに、少し物足りなかったという印象でした。またヘッドフォンでのサラウンドに特化した制作ツールがないなと思った覚えがあります。
一方、最近はASMRなども流行っていますし、何らかの立体的音響にアプローチしたいなと考えていました。ただ、Ambisonicsは手軽とはいえないし、Dolby Atmosも再生環境を整えるのは簡単ではない。そんな中、CES2020でソニーが360 Reality Audioを発表したのを知り、これは面白そう、と思ったのです。すぐに、ソニーの知人に、「なんとか360 Reality Audioに関われないだろうか?」と連絡してみたところ、「隣の部署でやっているから紹介しますよ」ということになり、やりとりがスタートしました。
――そこから、すぐに制作を始めた、ということですか?
佐藤:そうではなかったのです。連絡してすぐに、ソニーの社内制作ツールである「Architect」を借用して使ってみたのですが、個人で使うには非常に複雑でした。ほかの仕事に忙殺されてしまったこともあり、そのまま時間が過ぎてしまいました。
今年に入り、ソニーの担当者から「プラグイン版である360 Reality Audio Creative Studio(以下360RACS)というものを開発しているが、そのベータ版ができた」という連絡をもらいました。聞けば、AAXプラグインとしてPro Toolsで動作するとのこと。Pro Toolsは得意なので、「Pro Toolsでオートメーションが描ける、これだ!」と思い、2月からベータテスターとして参加し、制作を始めました。
――360RACSを使った感想はいかがでしたか。
佐藤:触ってみたところ、非常に面白かった。プラグインとしては、少し変わった使い方ではありますが、ヘッドフォンでモニターしながらでも立体的に音を動かすことができますし、ヘッドフォン環境だけでミックスできてしまうことが分かりました。
当初は「試しに1、2曲を」というつもりだったのですが、制作がとても面白く、色々な作品をミックスしてみたい、と思うようになりました。
ただ、ヘッドフォンのモニターだけで音作りをするというのは、手軽でいいのですが、やはり最終的にはスピーカーでモニターしたい。360 Reality Audioの音をスピーカーで鳴らすには上に5ch、真ん中に5ch、下に3chの計13chのモニタースピーカーを設置する必要があります。そのようなスタジオはほとんどないので、ソニーPCLのスタジオか、ソニーの乃木坂スタジオに行くしかなかった。
「それも少し面倒だな」と思っていたところ、ソニー担当者から「では、設置アドバイスなどフォローしますから、佐藤さんのスタジオを360 Reality Audio対応スタジオにしてみませんか?」と提案されまして(笑)。結局「それは面白いかも」とつい提案にのってしまい、GENELECスピーカーを新調したり、それに合わせ内装工事を行なったりして、3月14日に360 Reality Audio対応スタジオとして稼働させました。
――ヘッドフォンでのモニターと、スタジオの13chスピーカーでモニターする場合とでは、違いはありますか。
佐藤:当初は自宅でヘッドフォンでミックスしていたのですが、それをスタジオの環境でも聴いてみたところ、まったく違和感がなかった。まさにイメージ通りに音が配置され、音が動いているのが確認できました。なので、基本的なミックス作業はヘッドフォンで行ない、その後確認のためにスピーカーでもチェックする、という工程で制作しています。
――ガールズ&パンツァー最終章の「Grand Symphony」を聴きましたが、スピーカーで聴いても、ヘッドフォンで聴いても、とても立体的ですし、どの方向から音が鳴っているのかという事も同じように感じることができました。
佐藤:ここでのヘッドフォン再生は標準的なHRTF設定でのものですが、HRTF測定を行なって最適化すると、さらにスタジオの音に近い印象です。一般のリスナーはストリーミングで聴くことになりますが、スマホアプリで耳を撮影する事で個人の頭・耳に最適化されますから、よりリアルに聴くことができると思います。
――今まで、どのくらいの楽曲を、360 Reality Audioでミックスしてきたのですか?
佐藤:2カ月で60曲程度、360 Reality Audioでミックスしました。そのうち40曲程度が、従来からある楽曲を改めてミックスし直したものです。残りの20曲程度は、まさにいま進行中の新楽曲でして、通常の2chと同時に、360 Reality Audioに合わせたミックスも行なっています。
実際に配信がスタートしているものはまだ少ないのですが、いくつかをピックアップすると、「NITE WAVE -360 Reality Audio mix- by Shinnosuke」は360 Reality Audioの日本ローンチに合わせてリリースした作品です。SOUL’d OUTの元メンバーで、現在音楽プロデューサーとして活躍中のShinnosukeによる夜の海をイメージしたLo-Fi HipHopミニアルバムです。
佐藤:「KYOTO SOUND TRIP Produced by TEAM WHIM -360 Reality Audio mix-」も360 Reality Audioの日本ローンチに合わせてリリースした作品。これはサウンドプロデューサーの熊谷主毅氏を中心としたプロジェクト「TEAM WHIM」のメンバーらが京都をイメージした、ポストクラッシック〜アンビエントミュージックのコンピレーションアルバムです。
そして「STARRIUM -360 Reality Audio mix-」は、ピアニストで作曲家のRyuta aokiのソロアルバム「STARRIUM」を360 Reality Audio化した作品です。そのほかの楽曲も納品済みなので、順次リリースされると思います。
――今後も360 Reality Audioのミックスは行なっていくのですか?
佐藤:はい。いろいろと計画しているのですが、大きなトピックスとしては、360 Reality Audio用に作る楽曲として、小岩井ことりさんをフィーチャーした楽曲をリリースする予定です。
佐藤:これまで360 Reality Audio用にミックスしてきた作品は、もともと2chで制作されたものをミックスしたり、新曲であっても2chミックスをメインに考えて作られたものです。
しかし、360 Reality Audioだからこそできる楽曲を作ってみたい。立体音響であることから逆算して音楽を作ったら面白いはず、と思いました。独立後、以前から小岩井ことりさんとは何か一緒にやろうという話はしていたので、これはちょうどいい機会と思い、「360 Reality Audio用の書き下ろし曲を一緒にやりましょう」と提案し、作詞・作曲をお願いしました。そうして作ってきたのが、天球図をテーマにした「Stellarium -360 Reality Audio mix-」という楽曲です。
編曲は別のアレンジャーにお願いし、歌唱は小岩井さん。ピアノ5台による連弾という仕立てになっていて、それぞれ上のピアノ、下のピアノ……というように、レイヤー化するとともに、その立体の中に小岩井さんのボーカルの声を作り込んで定位させていく。360度の音像があるからこそ表現できるものにしようと、今作業しているところです。
――それは、非常に面白そうですね。ぜひ、聴いてみたいです。これまで360 Reality Audio用の楽曲は4,000曲以上リリースされていますが、360 Reality Audio用に作った楽曲というのは、少ないのではないでしょうか。
佐藤:わたし自身、まだ他の作品を知りません。もしかしたら国内初リリースということになるかもしれません。海外でもまだ少ないと思いますね。
この楽曲を聴くためには、Amazon music HDかdeezerに登録していただく必要があるのですが、それだけでは、多くの方に体験してもらえないと思っています。ですから、普通にヘッドフォンで聴くことで、ある程度の体験ができるようなミュージックビデオを制作し、YouTubeなどで公開する予定です。
2chに落としてCDリリースするという、従来とは全く逆方向の企画も計画していますが、そのミックスをどうするかが、なかなかまとまらない。広い空間で音を作っているものを単純に2chにまとめてしまうと、音が団子になって、グチャッとしてしまう。その辻褄をどう合わせるかも一緒に考えていて、少し時間がかかってしまっている。ただ、夏までにはわたしのレーベルであるPrecious toneからリリースする予定です。
――先ほど、約60曲をミックスしてきたというお話がありました。実際どのような手順で制作しているのか、作業の流れを教えてください。
佐藤:360 RACSは、最大128個のオブジェクトを天球に張り付けるようにして、音を配置していくことができます。固定して動かないスタティックオブジェクト、動かすことができるダイナミックオブジェクトに分類されますが、いずれにせよ、予め作り込んでおいた音を配置してミックスしていきます。
そこで、もともとあったPro Toolsのセッションデータをまずオブジェクト数分、ステム出力しておきます。これを改めてPro Toolsに読み込むとともに、360 RACSを使ってそれぞれの場所に配置していきます。ステム書き出しのタイミングでエフェクトはかけているので、360 RACSを使った作業では、ほとんどエフェクトを設定することはありません。
その中でちょっと特殊な位置付けになるのが、リバーブです。
普通の2chミックスであれば、各チャンネルをリバーブにセンドし、それをリターンで戻して……という使い方をしますが、360 Reality Audioはそれぞれのオブジェクトを張り付ける形なので、センド/リターンという従来の考え方がマッチしません。
ではどうするかというと、予めリバーブを掛けたいトラックをコピーして同じ音のトラックを用意するとともに、それだけにインサーションでリバーブを掛けるのです。そして、たとえばリバーブを掛けてない元の音をフロントに、リバーブを掛けた音をリアに、というように別オブジェクトとして配置することで、立体感を出していくのです。上下に配置することでも、また違った立体感が演出できるのです。
それから、例えばベースは立体感を出すために前と後ろに配置する、といったことをしています。前だけでは、2chで聴いているのと同じ感じになってしまって、包まれている感じにするには物足りないのです。ベースを前後に配置するだけで、多チャンネルでのメリットが出てきます。
――今後、360 Reality Audioを使ってやってみたいことはありますか?
佐藤:いまのプラットフォームでは、難しいかもしれませんが、いずれ映像と組み合わさった作品が作れるようになったらいいなと思います。以前、Blu-rayの副音声に96kHzのサウンドを入れて、48kHzと切り替えられるようにしたら、手軽にハイレゾを楽しむことができ、これはいいなと感じました。それと同様に、音声を切り替えると立体的にサウンドを楽しめるようになったら楽しいだろうな、と思います。
 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto


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