最先端のジャンルがゲームにも「ローファイ・ヒップホップ」特集(前編):ゲーム音楽ディスクステーション第5回 – IGN Japan

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ローファイ・ヒップホップとは? ご存じない方に説明するなら、ゆったりしたビートとほんのりジャジーなフレーズが織りなす「癒やしのインスト・ヒップホップ」といったところでしょうか。ヒップホップと言いつつも、実はその文化の中から生まれたものではなく、主な支持層はこれ系のサントラに郷愁を感じる00年代アニメ世代、あるいは「作業用BGM」として魅せられた若いYouTubeリスナーなどだったりします。ヒップホップ本流との結び付きは、あくまでも気だるいビートだけで、音楽的にはむしろVaporwaveの後裔的な位置にあるといえるでしょう。霞がかったノスタルジックな音像や、ビジュアルイメージと一体化したサウンドの扱いなどには、確かにVaporwaveの影響を感じることができます。
さて、そんなローファイ・ヒップホップですが、最近これにゲーム音楽が接近しつつあります。ムーブメントとしてのローファイ・ヒップホップはすでにピークを超えた感がありますが、逆にいえば、ゲーム音楽という「部外者」がキャッチアップしても違和感がないくらいに、その認知が進んだということです。ローファイ・ヒップホップにおけるゲーム音楽ならではのアプローチは、どのようなものになっているのでしょうか? 
実のところBGMとしてローファイ・ヒップホップを使いこなして話題になったゲームは、今のところ『コーヒートーク』(前回参照)くらいしか見当たらないのが現状だ。ローファイ・ヒップホップはまだゲーム音楽にとってそれくらい挑戦的なものであり、今のところはアレンジやリミックスでの活用が大半を占めている。そうした状況下、『リーグ・オブ・レジェンド』で知られるライアットゲームズが、極上の「地ならし」をしてくれた。「Sessions: Vi」は同社のサウンドチームが提供するフリー素材集で、外部から招聘した21組のアーティストによる計37曲ローファイ・ヒップホップを詰め合わせたものだ(有名どころではIdealismやKuplaなどが参加)。どのトラックもがっちりツボを押さえたきめの細かい音作りであり、単なる「素材」では片付けられないほどにハイクオリティだ。
ループビジュアルが描き出すのは「枯れた近未来の日常生活」だろうか。その雰囲気もあって、全体的な質感はややエレクトロニカ的かつチル寄りになっている。将来的にこれらの音楽を使ったゲームが、じわじわと世に出てくることになると思うと、待ち遠しい限りだ。年内には続編も登場予定とのことである。(hally)
前回『コーヒートーク』でも引き合いに出したChillhop Musicは、ローファイ・ヒップホップに特化したオランダ発のレーベルだ。2013年に設立され、YouTubeにてコンスタントに楽曲投稿とストリーミング配信を行う傍ら、近年では年間10枚を超えるペースでの精力的なアルバムリリースも続けている同ジャンル界最大手の一つ。ジャケットに描かれているアライグマはレーベルを象徴するキャラクターであり、動画やアルバムのアートワークに見覚えのある方も多いのではないだろうか。
本アルバムではElements Gardenの上松範康らが手掛けた『FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS』シリーズの楽曲をChillhop Musicに所縁のあるアーティストがアレンジを行っている。《FF》らしさを引き継ぐ原曲は、主題がはっきりしているだけにローファイ・ヒップホップのような引き算の音楽とも相性は抜群。ゆったりとしたヒップホップビーツが物悲しくも幻想的なメロディーを一層引き立たせている。
元よりアコースティックな編成の楽曲が多いため、Flitz&Suppe「Mystic Ruins」でのピアノのように原曲にある音色にフォーカスしたリミックスが中心な一方、Nymano「Rain in Forest」でのギターのように同系ながらもフィルターやエフェクターを介してよりビートにマッチする音色で再構築された楽曲も。また、この手のアレンジアルバムでは珍しく同じ原曲を別のアーティストがそれぞれリミックスしたバージョンも分けて収録されている。それらや原曲を聴き比べながら、トラックメイクのプロセスに思いを馳せてみるのもこのアルバムならではの楽しみ方だろう。
なお、SQUARE ENIX MUSICからは他にも1990年前後のスクウェアゲーム楽曲群で組まれた『SQUARE ENIX Chill Out Arrangement Tracks』という盤が2020年にリリースされている。こちらはチルウェイヴからフォークトロニカまでジャンルは多岐に渡るが、Christian Gulinoの「フィナーレ」、Chocoholicの「異郷の町」など純ローファイ・ヒップホップといえるようなリミックスも収録。関口シンゴ(Ovall)、没 a.k.a NGS(Dos Monos)、DJ Synthesizerといった日本人アーティストが参加している点にも注目の良質コンピだ。
さらに遡るならば、2010年リリースの『Chill SQ』もこの系譜にあると言えるだろう。こちらは流石にローファイ・ヒップホップとして括るにはいささか時代が早いが、「FINAL FANTASY IV ~ 愛のテーマ」や「FINAL FANTASY V ~ 親愛なる友へ」など、一部の音使いからはその潮流が伺える。
いずれにせよ、元来音数が少なく、必然的にメロディーとリズム中心で構成されてきたゲーム音楽と、同様にウワモノとバッキングによる比較的シンプルな構成のチルアウト系ラウンジミュージック/ローファイ・ヒップホップとの高い親和性が、これらのアルバムを通して再確認できるのではないだろうか。(魚屋スイソ)
『グラディウス』に端を発するコナミコマンド「↑↑↓↓←→←→BA」35周年企画の内の一つとしてリリースされたこのアルバムでも、ゲーム音楽とローファイ・ヒップホップの相性の良さを実感できる。
リミックスを手掛けているのは、2000年代より活動するヒップホップユニット・LGYankeesのトラックメイカーとしても知られるDJ No.2だ。ヒップホップシーンで長く活躍してきたアーティストの実質ソロワークということで、確固たるルーツと文脈に基づくコンセプトが貫かれている。
お馴染みのメロディーのスクリューによるハズしから、デチューンされたコードで浮遊感を維持して進行する「Beginning Of The History (GRADIUS Chill Remix)」、和風メロ/中国風メロのローファイ・ヒップホップという新境地「町 (がんばれゴエモン! からくり道中 Chill Remix)」「Yie Ar KUNG-FU (イー・アル・カンフー Chill Remix)」、レイドバックしたビートとサイン波による多幸感がエグい「Twinbee’s Home Town Song (ツインビー Chill Remix)」など聴きどころ多数。ゲーマーにとっては本来アガるはずの、聴き馴染んだメロディーでチルするという倒錯体験をぜひ。(魚屋スイソ)
ローファイ・ヒップホップを語る上で重要アーティストの一人とされるフィンランドはヘルシンキのビートメイカー、tomppabeatsことTomi Lahtinen。
Bandcamp公開楽曲がきっかけで注目された彼が2017年に発表した2ndフルアルバム『Arcade』(モノクロのジャケットアートはアーケードゲームのアップライト筐体がモチーフで「アーケード」とカタカナで表記されている)に収録された全16曲のラストを締めくくる「150916」は、任天堂「スーパーマリオブラザーズ」のSEやセガ「アウトラン」のネームレジストBGM「Last Wave」(川口博史作)といった80年代ゲームサウンドを大胆に引用。特に「Last Wave」の引用に関してはオリジナル音源よりBPMを上げることで原曲のメロウなタッチをエモーショナルなものに転化しドラマチックな効果を与えている点が面白い。何気ない生活音や彼にとってはエキゾチックに響くかもしれない築地の市場の環境音。世界のどこかにある、そしてどこにもある日常の一コマを散文的に綴ったようなアルバムの中でこの「150916」はひときわ高揚感あふれた印象的なトラックとなっている。
ローファイ・ヒップホップというジャンルにおけるオリジネイターに名を連ねつつ、2010年に惜しくも夭折した日本のヒップホップアーティストNujabesからの影響も公言するtomppabeats。Twitterの喧騒から距離を置き、仲間とのInstagramを楽しみつつ日々の暮らしを大事にするのが性に合うと語る彼にとって80年代のビデオゲームの存在は、単なるノスタルジーではなく平穏な日常にひとときの刺激と彩りを与える「花火」のようなものなのかもしれない。
ゲーム音楽はほんのきっかけでいい。最良のチルを求めるビート愛好家に勧めるアルバムががこの『Arcade』だ。(DJフクタケ)
2010年代後半に勃興したとされるローファイ・ヒップホップですが、実のところその音楽性そのものには大きな革新があったわけではありません。遡れば90年代のジャジー・ヒップホップ(とりわけ前出の日本人アーティスト・Nujabes)に直接的な源流があると言われてはいますが、そもそも80~90年代にはブームバップ、アシッドジャズ、ニュージャズ、トリップホップなど、ローファイジャズにヒップホップを絡めるムーブメントがたびたび起こっていました。とくにトリップホップの面影は今日のローファイ・ヒップホップにも一部でリンクしており、潜在的なルーツとして無視できません。ゲーム音楽とインスト・ヒップホップの出会いも、こうした時代背景のもとで、90年代後半からひそかに始まっていました。そこには知られざる名盤も埋もれています。
ローファイ・ヒップホップの原典としてしばしば言及されるのが、Nujabesも参加したアニメ『サムライチャンプルー』のサントラだ。だがここで紹介したいのは、同アニメを原作とするプレイステーション2作品(グラスホッパー・マニファクチュア開発)のほうである。高田雅史の手掛けたその音楽は、やはりヒップホップ志向ではあるのだが、アニメとはまるで方向性の異なるトリップ・ホップ~エレクトロニカ色の強い仕上がりとなっている。ローファイ・ヒップホップにこそ接合しないが、強面のインスト・ヒップホップとして得難い魅力を発揮しまくっており、埋もれるには惜しい力作である。高田としては異例なほど音数をぐっと絞り込んだトラックメイキングで、時折彼らしい独特のヒネリを加えながら、ストイックにビートを追い込んでいる。同時期の『BLOOD+ One Night Kiss』(2006, 未音源化)とともに、高田のヒップホップ路線において双璧をなす作品であるといえるだろう。ちなみにローファイ・ヒップホップの文脈に交差しそうな高田作品もちゃんとあって、特に『シルバー事件』(1999)の一部トラックは見逃しがたい。(hally)
アダルト系ノベルゲームの物語性がにわかに注目を集めはじめた00年代初頭、そのフィールドのなかでストイックにインスト・ヒップホップを突き詰める孤高の作曲家がいた。ゲーム会社UNKNOWNの代表であると同時に音楽担当でもあったkt2だ。
当時はアダルトに限らず、国産ゲームにインスト・ヒップホップが使われた事例はほとんどなかった。しかしこの時代のアダルト系ノベルゲームには、一般作ではちょっと出来ないような尖った感性を許容する風土があり、だからこそこのような先駆的な試みが可能だったのである。
ハードボイルド路線の本作に彼があてがったのは、ジャジー・サンプルを柱とするアンニュイなトリップホップと、ディープな音響志向のアンビエント・テクノだった(実際のところサンプルは既存の音素材から録ったものではなく、それっぽく聴こえるようエフェクトや打ち込みを工夫して作ったものだったというから驚かされる)。本作の音楽は一部で高い評価を受けたが、サントラCDはゲームの限定版パッケージ同梱という形で提供されたのみであり、当時その魅力が十分知れ渡ったとは言い難い。
UNKNOWNが残したゲームは本作と『No Reality』(2001)の2本のみだが、こちらも負けず劣らずの良質なトリップホップ&アンビエントとなっている。なおkt2ご本人による特別のお計らいにより、今回の記事公開にあわせて、両作に未公開作品「こっちから見た君に贈る」イメージアルバムを加えたUNKNOWNの全CD作品が、Bandcampにてオンラインで配信された。これを聴いたローファイ・ヒップホップ世代からの再評価が待たれるところである。(hally)
最後は新作~準新作紹介のコーナーです。
国産フューチャー・ベースに「kawaii」の系譜を打ち立てたUjico*こと氏家慶太郎。《太鼓の達人》シリーズや《Beatmania IIDX》シリーズなどにも楽曲を提供するなど音楽ゲーム界隈でも知られた存在だが、巧みにチップチューン心をもくすぐるこの爽快無比な才能が、より深くゲーム音楽にコミットしたらどうなるだろうか? 密かにそんな妄想をしていた人が、きっと筆者以外にもいたはずだ。そして期待はついに現実のものとなった。今年4月、彼が初めてBGM全曲を担当したゲーム『黄昏ニ眠ル街』(PC)が発売されたのだ。冒頭を飾る楽曲「鵬翼」から軽快な躍動感で一気に引き込んでくれるが、アルバム全体としてはかなり大人しめなので、「おや?」と思う向きもあるかもしれない。しかしそこには「ダンス系に収まらないUjico*の多彩な作風を引き出したい」という開発サイドの思惑がある。Ujico*はそれに対し、BGM作家に徹して真摯に向き合った。自己主張は必要最低限だが、ときおりエッジの効いたエレクトロニカな味付けが折り込まれるあたりに、隠しようのない彼の個性が滲み出ている。フューチャー・ベース系のファンにとっては物足りないかもしれないが、BGM集としての完成度は申し分なく、彼のゲーム音楽作家としての適正は十分以上に示されたといっていいだろう。今後のさらなる活躍に期待したいところだ。(hally)
2020年10月発売のゲーム。自社通販限定版に付属していたサントラが話題を集め、12月に単独販売を開始したのだがコレが売れに売れて即完売状態が続き、2021年に入った3月には4度目の再販を受付。それでもまだ買えない人がいて再生産に入っている。そこへ今回投入される新アイテムが、追加ダウンロードコンテンツ音源を集めた『OST Vol.2』だ。
音ゲーにつきもののダンスミュージック路線だが、珍しいことにエレクトロスイングという音楽を基幹としている。2007年頃に誕生した若いジャンルで、ジプシージャズやビッグバンドなどの古典的なサウンドと、ハウスやドラムンベースなどのトラックと融合させたものを言い、日本ではランブリング・レコーズやヴィレッジヴァンガードが15年ほどかけて育てあげてきた。そのランブリングからエレクトロスイングバンド「FAKE TYPE」の一員としてデビューしたDYES IWASAKIが、ゲーム看板曲『MAD RAT HEART』を書き下ろして評価を得た。各種トレイラーで用いられた、アコーディオンから始まるキャバレーサウンドがソレである。
加えてサウンドディレクター高須和也のもと、a_hisa、かめりあ、ZIZZ STUDIO(大山曜、川越好博、崎田浩一)と手分けして書かれた楽曲群は、3枚に及ぶ大作アルバムとしてまとめられ、完売祭りとなったのは冒頭で話した通りだ。(ちなみにZIZZ STUDIOはゲームディレクター溝上侑 の前作『深夜廻』でも付き合いがあり、溝上Dの更に前作『夜廻』でメインテーマを書いていた日本一ソフトウェアのサウンドスタッフ古賀美香は、今作では効果音制作に回っている。)
“エレクトロスイング” と十把一絡げに紹介したものの、今作は各人アソビの範囲を拡げて来ており、a_hisaのチャーミングな高速チャールストン、大山曜のバイオリンダンス、かめりあのハッピーエレクトロ、果ては高須和也のヒロイックなブラスメロはスクエニRPGを想起。6曲ほどのコンパクトアルバムながら1人1曲納品の高密度作品となった。M-06は先掲『MAD RAT HEART』を主体に再構築したラップヴァージョンで、ラッパーとして特別参戦するのは、DYESがする在籍「FAKE TYPE」の片割れ、トップハムハット狂である。(井上尚昭)
『Celeste』(2018)で一躍注目を集めたレナ・レイン(Lena Raine)は、いまやインディゲーム界隈でもっとも名の知られた女性コンポーザーと言っても過言ではないだろう。アコースティックピアノとシンセサウンドの独特なブレンドで優しく温かい音を響かせた『Celeste』の音楽は、一聴するとごくシンプルだが、いわゆる雰囲気系で終わるものではなく、ゲーム音楽で育った世代ならではの情熱的なメロディや力強いプレゼンスも確かに併せ持っていて、それこそが彼女の個性になっていた。
今年6月にリリースされた最新作『Chicory: A Colorful Tale』の音楽も、そんな作風の延長線上にある。ただ『Celeste』と明らかに異なっているのは、60曲にも及ぶ膨大なトラック数と、アコースティック楽器中心の編成だ。ときどき不意にゲームっぽさ丸出しの打ち込み曲を織り交ぜたりもするが、基本的にシンセの音はごく控えめにしか使っていない。ここまで生楽器に寄せた彼女の作品は前例がないものの、アブストラクトな音が抑えられたことで、優しさのなかに芯の強さを忍ばせる作風は、より一層明確になったといえるだろう(特に終盤では王道RPG路線に舵を切り盛り上げるだけ盛り上げる)。なお本サウンドトラックとほぼ同時に、別テイク集『Chicory: The Sounds of Picnic Province』もリリースされている。こちらは「連続再生での流し聴きに特化した、ちょっと実験的なサントラ」ということである。(hally)

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