マサチューセッツ工科大学で授業を受け持つラッパーが誕生。教育と … – CINRA.NET(シンラドットネット)

メイン画像:(Photo by:Jeff Schear/Getty Images for AT&T)
シカゴのラッパーのルーペ・フィアスコが、マサチューセッツ工科大学でラップの授業を受け持つことが発表された(*1)。
カニエ・ウェストやJay-Z、ファレル・ウィリアムスとも絡みながらキャリアを進めていった大物ラッパーの教育分野への進出は大きな話題を集め、各種ニュースサイトを賑わせた。
アトランタの大物プロデューサーのジャーメイン・デュプリも米メディア「TMZ」の取材でこの件について語り、「いまは多くの子どもたちが俺たちの音楽を聴いている。子どもたちは教師の言うことよりもラッパーの言うことをよく聞くから、やりたい人はやったほうがいい」とコメント(*2)。ラッパーの新たな道の開拓への期待を覗かせていた。
ルーペ・フィアスコは空手教室を運営する父のもとで、幼い頃から読書に親しみながら育ったという。家庭の方針でさまざまな文化に触れる機会も多かったそうだが、そのなかには日本のアニメや漫画も含まれていた(*3、4)。
活動初期はギャングスタラップに取り組んでいたというルーペ・フィアスコだが、のちに社会問題などもトピックにした広い視野と知的なリリックで人気を集めていった。このルーペ・フィアスコのスタンスを生んだのは幼少期からの教育であることは明らかであり、実際に本人もたびたびインタビューで家庭環境について話している。
またルーペ・フィアスコは、2015年には実績あるラッパーとラッパー志望者をつないで言語学などを学ぶ団体「Society of Spoken Art」を立ち上げたこともあった(*5)。今回の教育分野への進出は、その経歴を思うと納得のことだ。
なお、「Society of Spoken Art」ではハーバード大学やペンシルバニア大学といった教育機関の著名な学者と協力してカリキュラムを編成しており、その協力団体のなかにもマサチューセッツ工科大学の名前があった。マサチューセッツ工科大学とルーペ・フィアスコは、ほかにも2020年度のプログラミングの授業でサイファーを教えた縁もある。
ヒップホップと教育といえば、まず挙げられるのがKRS-Oneの活動だ。
「Knowledge Reigns Supreme Over Nearly Everyone(知識がほぼすべての人を支配する)」の頭文字を取ったラップネームからして知識を重要視していることがうかがえるが、「ティーチャー」とも名乗り1990年にはグループのBoogie Down Productionsで『Edutainment』と題したアルバムをリリースしていた。
これは「教育(=education)」と「娯楽(=entertainment)」を組み合わせた言葉で、ヒップホップというエンターテイメントを通してアフロセントリシティーや社会問題に関する知識を説くものだった。
KRS-Oneはその後も社会問題をテーマに扱った曲を多く発表。1996年には文化としてのヒップホップに焦点を当てて教育にも取り組む団体「The Temple of Hip Hop」を設立した(*6)。
逆に教育者のほうからヒップホップに接近する例もあった。ハーバード大学などで教鞭を執る民主主義や人種差別などの専門家、コーネル・ウェストは2000年代前半からヒップホップを取り入れた音楽作品を発表。
2008年にはCornel West & BMWMB名義のアルバム『Never Forget: A Journey Of Revelations』をリリースした。同作には先述したKRS-Oneやコンシャスラッパーとして人気を高めていたタリブ・クウェリ、カニエ・ウェスト周辺で活躍していたRhymefestなど豪華な面々がヒップホップ界から集結し大きな話題を集めた。
コーネル・ウェストはその後もE-40やイモータル・テクニックといったラッパーの作品に参加。ヒップホップとの接点を持ちつつ教鞭を執っていった。
こういった教育とヒップホップの接点は、2000年代後半にまた新しい成果を生んでいた。2007年、プロデューサーの9th Wonderがノースカロライナ中央大学の音楽学部で駐在アーティストとして就任したのだ。
9th Wonderは同校でヒップホップ史の授業を担当し、ルーペ・フィアスコに先駆けて教育の分野に本格進出した。また、2010年にはデューク大学で公民権運動やブラックパワー運動にまつわるソウルを教える授業「サンプリング・ソウル」にて教鞭を取り、以降も教育の分野での活動を継続(*7)。
こういった経験は9th Wonder自身の柔軟性も培ったようで、2016年にリル・ヨッティが「2Pacとノトーリアス・B.I.G.の曲は5曲も知らない」と発言して炎上した際、熱の入った擁護コメントをTwitterに投稿。「毎年教室で18歳と話しているうちに理解せずにはいられなくなった」とのことだった(*8)。
そのほかにもJay-Z率いる「Roc Nation」も、音楽やスポーツを学べる学校「Roc Nation School of Music, Sports & Entertainment」を運営。
故ニプシー・ハッスルも地元の学校に資金を提供していたほか、アフリカ系アメリカ人の文化を伝える施設「Destination Crenshaw」の企画にも関わっていた(*9、10)。Jeezyが2006年に地元アトランタで高校生のエッセイコンテストを開催したこともあった(*11)。
以前紹介した「Lofi Girl」の奨学金プレゼント企画もこのひとつと見ることができるだろう。ラッパーやプロデューサーといったヒップホップ関係者たちは、さまざまなかたちで教育に取り組んでいるのだ。
関連記事:YouTubeチャンネル「Lofi Girl」が奨学金を贈呈。サブスク時代のプラットフォームの責任とは?(記事を開く
地元の若者をギャングから遠ざけようとフットボールチームをつくったスヌープ・ドッグのように、ヒップホップ関係者たちは地元のコミュニティーをよりよくするために動くことが多い。社会とつねに関わってきたヒップホップのなかで、未来を担う若者たちに知識を授けようという取り組みが生まれるのは自然なことなのだ。
スヌープ・ドッグのフットボールチームの設立者としての側面に迫ったドキュメンタリー『コーチ・スヌープ』のトレイラー映像(Netflixを開く) / 関連記事:監房から厨房へ。なぜスヌープ・ドッグは料理本を?ゴキゲンな語り口の裏にある地域貢献の精神(記事を開く
またKRS-Oneが言っていたように、ヒップホップは単なる音楽ジャンルを越えた文化としての側面も持つ。そんなヒップホップは教育機関からしても研究する価値が高く、それを扱う論文も数多く出ている。
2017年、ハーバード大学はアメリカの芸術の遺産としてのヒップホップの価値を認め、そのなかでも特に後世に伝えるべき200枚のアルバムを保管していくプロジェクト「Classic Crates」をスタート。
9th Wonderも選出に関わり、ケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』(2015年)などがハーバード大学の図書館に保存された(*12)。
ジャーメイン・デュプリが言ったようにラッパーの影響力が強まっている時代の流れもあり、今後もヒップホップと教育に関する話題はさまざまなかたちで見ることになるだろう。
*1:Complex「Lupe Fiasco is Going to be Teaching a Class at MIT」参照(外部サイトを開く
*2:HipHopDX「JERMAINE DUPRI COSIGNS LUPE FIASCO TEACHING AT MIT」参照(外部サイトを開く
*3:Entertainment Weekly「The successes of rapper Lupe Fiasco」参照(外部サイトを開く
*4:Hip Hop Dictionary Lupe Fiascoインタビュー参照(外部サイトを開く
*5:Business Insider「Lupe Fiasco explains why he’s using Reddit as the exclusive forum for news of his upcoming album」参照(外部サイトを開く
*6:MTV「KRS-ONE BUILDS ‘TEMPLE OF HIP-HOP KULTURE’」参照(外部サイトを開く
*7:XXL Magアーカイブ「9th Wonder to Teach Course at Duke University」参照
*8:Complex「9th Wonder Defends Lil Yachty, Lil Uzi Vert, and Other New School Rappers」参照(外部サイトを開く
*9:Los Angeles Times「After Nipsey Hussle’s shooting, students closest to him vow to lift up their community」参照(外部サイトを開く
*10:KCRW「Destination Crenshaw was a Nipsey Hussle dream」参照(外部サイトを開く
*11:AllHipHop「Young Jeezy Offering Scholarship To Atlanta Area High School Students」参照(外部サイトを開く
*12:Fact Magazine「Kendrick Lamar’s To Pimp A Butterfly to be archived at Harvard Library」参照(外部サイトを開く
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