三上ちさこ、20年の歩みを肯定していく圧倒的な歌声 fra-foaの楽曲に新たな意味が生まれたアニバーサリーライブ – Real Sound

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 三上ちさこは、どんな状況でも“今の自分”と徹底的に向き合い続けてきたアーティストだ。今100%の熱量で歌えることを全力で歌う。逆に言えば2005年の解散以降、長きにわたって封印されてきたfra-foaの楽曲を再びライブで歌うというのは、今の自分にフィットする何かを、あるいは今の自分が歌うことの意味を、その中に見出したからでもあったのだろう。
 2000年5月にデビューし、グランジ、シューゲイザー、ブリットポップの影響を受けたノイズ混じりなギターサウンドに乗せて、孤独と対峙する三上の内面世界を表現してきたバンド、fra-foa。一方で解散以降の三上のソロ活動は、とりわけ13年ぶりのフルアルバム『I AM Ready!』をリリースした2018年から、顕著にパワフルな歌声を解放していき、ダンスミュージックも取り込みながら幅広いジャンルを歌うようになっていった。「人はどこまでも独りであること」を訴えてきた三上は、人との繋がりや、大切な誰かを想う気持ち、自分であることの価値に次第に気づいていく。時代の変化はもちろん、出産・子育てを経た三上自身の人生の捉え方の変化も起因しているかもしれないが、いずれにしてもある時期を境に、fra-foaで歌ってきたことは彼女にとってリアルではなくなってしまったのだろう。

 しかし、その気持ちにさらなる変化が訪れたのが、デビュー20周年を迎えた2020年のタイミング。なんと2000年に初のワンマンライブを行った下北沢SHELTERで同じ日付にアニバーサリーライブを行い、fra-foaの楽曲も演奏することがアナウンスされた。そこに至るまでには、最近の新しいファンにも自分の音楽性の変遷を共有したい、そしてずっと応援してくれているファンに長年の感謝を伝えていきたいという、心情の動きがあったのだとか(※1)。前者についてはソロ活動が充実がしているからこそ感じられたのだろうし、後者についてはそれだけ長い時間が経過し、三上自身がもう一度、fra-foaの楽曲を自分事として受け止められるようになったことが大きかったのではないだろうか。
 結果的にライブはコロナ禍で2年の延期を余儀なくされ、もともと2デイズの予定だったものが1デイに凝縮される形となったが、2022年5月25日、『Re: Born 20+2 Anniversary Live -三度目の正直-』として無事に下北沢SHELTERで開催された。新しい表現を積極的に開拓してきたソロの楽曲と、内省的な表現を突き詰めたfra-foaの楽曲、それらが同じライブで鳴った時にどのような景色が見えるのか。ソールドアウトした当日の会場内には、期待と緊張が入り混じった異様な空気が漂っていた。そこではきっと、三上ちさこにとってfra-foaの楽曲とは一体何なのか、という問いへの答えも見えるはずだ。注目のライブは、fra-foa結成から今に至るまでの歴史を三上が読み上げるところからスタートする。

 まず1曲目「Junction」から、声量も表現力も全く色褪せていない三上の歌声に驚いた。人生のさまざまな転機を経験してきたことによる力強さも繊細さも寛容さも、すべてが滲み出ており、22年のキャリアを注ぎ込んで臨んでいるライブだということが伝わってくる、気迫に満ちた歌声だ。〈気づけば折り返し/大事なものもできた/限りある人生だ/くだらないプライドは/置いて行こう〉という歌い出しは三上のテーマそのもの。観客一人ひとりが持ち合わせた特別な感情に語りかけるように、しっかり目を見つめて歌詞を噛み締めながら歌い上げていく。
 セットリストの流れも大きなポイントだった。近年のソロ楽曲から始まり、2012年の自主制作ミニアルバム『tribute to…』収録曲などを経て、後半はfra-foa時代の楽曲を畳みかける。言うなれば現地点から原点へさかのぼっていく構成であり、fra-foaを自分の大事な一部分として認め、遠ざけるのではなく抱き締めるように歌えるようになったことを示していくものだった。〈求め合えぬさみしさ/許し合えぬ悲しさ/そのすべてが君を照らし出すから〉(「dear」)、〈君がその奥に閉じ込めている/誰も知らない哀しみは/どこかで泣いている/あのこを掬うだろう〉(「Inner Star」)、〈潜ってた日々が実を結ぶ/そんなキセキ 見たくはないかい?〉(「TRAJECTORY-キセキ-」)と歌うライブ序盤のソロ楽曲を聴いても、fra-foa時代の自分を今の三上が明るく照らし、“一緒に歩もう”と語りかけているようにさえ思えた。そんな優しい言葉に導かれるように、ライブは後半へと向かっていく。

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