挫・人間 下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第21回】 – Skream!

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COLUMN

2021年10月号掲載
自分はいわゆる「ひきこもり」である。
家を出ることへの恐怖と、家を出ないことへの憧れが比例して成長してゆき、大人になる頃には家に取り込まれた悲しい怪物になっていた。
休日の楽しみが「家を出ない」であり、一人称が「我が家」で、シロアリに弱い。

しかし実は音楽家に引きこもりは多い。
自分も引きこもりのバンドマンだから分かる。そんな奴が書く「君に会いたい」系の歌詞は、「最寄り駅くらいまでは君のほうから来い」という意味が隠されている。

外出しなさ過ぎて異性と会えないので余計に「会いたい」という気持ちが爆発し、歌になるのだ。
西野カナさんも有名な曲でそう叫びながら震えていたが、引きこもりによくある自律神経の乱れかもしれない。

そう思うと引きこもりは不健康なのだろう。
だが、ここまで外出が向いていないとなると、「ひきこもりを極めた先に、自分にしか見られない景色があるのでは?」というフロンティア精神が生まれる。

どんなものでも突き抜けてしまえば一芸の時代だ。
おれが「引きこもり系インスタグラマー」「引きこもり系YouTuber」「引きこもりアンバサダー」「引きこもり総合エグゼクティブプロデューサー」になる日も近い。

そう思って以来、無為にひきこもるのではなく、「何かこの生活に刺激的なモノを」、と、YouTubeでロシア人の喧嘩動画を観たりした。
しかしその後何気なく吉本新喜劇を観ていたら、その夜新喜劇の舞台上で出演者たちが「喧嘩パーティー」を始めて血の雨を降らせてしまった。

これは心に悪い。そんなわけでやり方を変え、引きこもりスキル向上の縛りプレイを導入した。

縛りプレイの内容は「3日間全裸で過ごす」だ。
コンビニや宅配便など、他者と関わるのは困難だが、「全裸で対応する勇気があるのならセーフ」という、あろうがなかろうが変わらないであろうルールを設けた。最早監禁だ。
念のため繰り返すが目的は「引きこもりスキルの向上」「インスタグラマーになる」である。

この縛り、やってみると意外と不便。
「ラーメンの汁ってこんなに跳ねてるんだ」とか、「ギターってこんなに冷たいんだな」と気付く。
お風呂から上がっても全裸を貫いていると、自分が「人類文化への反逆」を行っている気分になる。
鏡を見たら悲しい全裸がこっちを見ていた。おれは今、ホグワーツの生徒だったら、何寮に入れるのだと言うのか。

3日間は矢の如きスピードで過ぎた。宅配便どころか、LINEすら来なかった。
全裸引きこもりは孤独だ。こんなに頑張っていても、誰にも褒められない。

しかし、崇高な精神は他者からの賞賛を必要としない。
気付けば、握りしめていた拳に、いつしかおれは「真実の美」を手にしていた。

全裸で思う。人は家に守られるが、同時に人間存在の孤独も浮き彫りにするのだ。おれは全裸を通して、心に「会いたい」以外の歌いたい気持ちが芽生えたのを感じた。

全裸だから、今こそあなたに歌いたい。
正しさとは……
愚かさとは……
それが何か み・せ・つ・け・て・や・る!!

STAY HOME!!
2008年、熊本で結成。”閃光ライオット2009″の決勝大会に進出し、同大会のキャンペーン・ガール、夏未エレナが選出する”夏未エレナ賞”を受賞。2013年に1stアルバム『苺苺苺苺苺』を発表。その後もリリースを重ね、2021年は1月にライヴDVDをリリース。3月にUSEN STUDIO COASTにて単独公演を実施。8月4日には6thアルバム『散漫』をリリースし、11月17日には梅田バナナホールでのワンマン・ライヴ開催を控えている。
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快作『ブラクラ』から1年5ヶ月ぶりのアルバム。ハイテンションな高速デジタル・ハードコア「I LOVE YOU」で幕を開けることが、今作のバンドのモードを物語っている。陽気な南国サウンドのはずが恐怖の人喰いサウナに変貌にする「デスサウナ」、湘南乃風のタオル回しを彷彿とさせる「アイオワの風」など、ノリと勢いで完成させた楽曲たちからはコロナ禍の憂うつなど微塵も感じさせない。相次ぐメンバーの脱退、加入を経て、過剰なまでに詰め込んだ情報量の中に、バンドのロマンチシズムがこれまで以上に滲み出た。きっと誰かのためにこのバンドは存在する。そんな下川リヲ(Vo/Gt)の自覚が顕在化した「誰かを救える歌」は、負け犬の味方であろうとするバンドが放つ熱い援護射撃だ。(秦 理絵)
4thアルバム『OSジャンクション』から約1年4ヶ月ぶりとなる5thアルバム。バンドの特色のひとつであるミクスチャー・カオスを見事痛快にアップデートした「ソモサン・セッパ」から、甘酸っぱいメロディとポップネス、ロマンチシズム溢れる「一生のお願い」、豊かなギターの音色が優しく包み込む「電球」、妖しく鋭い緊迫感で禍々しい存在感を放つ初期曲「あてのない女の子」など、音楽性という概念にとらわれることのないバラエティに富んだ楽曲が揃う。各曲まったく異なる個性を放つのにどの曲もバンドの本質が詰まっていて、作品トータルで”挫・人間”を体現するという、非常に理想的な作品。怒濤の伏線回収とも言うべき、洗練された異端が作り出す正統派ロックを体感してほしい。(沖 さやこ)
挫・人間の4thアルバム。1曲目「webザコ」では激しくアグレッシヴな曲かと思わせておいて、まさかのキラキラ・ポップ・チューンへ急旋回するさまに”なんでだよ(笑)”と突っ込ませつつも聴き手をグッと作品に引き込む。そのほかにも挫・人間らしいクレイジーで変化球的な曲たちが存分に楽しませてくれるが、一方でストレートなロック・サウンドに青臭い歌詞を乗せたラヴ・ソング「恋の奴隷」でバンドの底の深さを見せつけるあたりがニクい。そして筋肉少女帯の影響を色濃く感じさせる「ダンス・スタンス・レボリューション」は、サウンドやリリック、語りの口調だけでなく、80年代後半の”匂い”までも曲に閉じ込めたような、”最後のナゴムの遺伝子”という看板に偽りなしの1曲だ。(宮﨑 大樹)
全国流通盤としては初のシングル。シングルと言いつつも表題曲は3曲目で、3曲すべて方向性や音楽ジャンルが異なるところなど、挫・人間がこれまでのアルバム制作で培ってきたスキルやポリシーを感じられる。打ち込みと生楽器を織り交ぜたダンス・ミュージックはバンドにとっても新機軸。世間への怒りをユーモラスにぶちまけた歌詞とのコントラストもアクセントになっている。ラストに逆転ホームラン劇的な謎の高揚感を持つSEX MACHINEGUNSばりに突飛なメタル・ナンバー、短尺で駆け抜けるロマンチックでほのかに切ないポップ・ソングと、これまでにないアプローチをしながら自分たちの好きなものをはち切れんばかりに詰め込んだ楽曲を生み出し続けている彼らのポテンシャルの高さには毎度感服だ。(沖 さやこ)
約1年ぶりの新作となる3rdフル・アルバムは、下川リヲ(Vo/Gt)いわく”ギター、ベース、ドラムというバンド・セットにこだわって制作した”もの。バンド・サウンドでもって渾身のストレートを投げる作品だ。ゆえにロック、ファンク、ダンス・ナンバー、アコースティック、渋谷系、バラードなど音楽性の幅の広さや、各プレイヤーのスキルの高さが以前よりも明確に。特にソウル・ナンバーTrack.9のサウンドの完成度の高さには舌を巻く。とはいえ挫・人間のアルバム、当たり障りのないものになるわけがない。どの楽曲も大真面目でいびつでユーモラスで、もがきながら生きている人間の姿がある。下川が高校時代に作ったピュアな楽曲で締めくくるラストも美しい。笑えるのに感傷的で泣ける、挫・人間の真骨頂。(沖 さやこ)
1stフルの内向性と2ndフルのポップな外向性や現代性を掛け合わせたような作品。美少女アイドルになりたいという思いで作ったTrack.3、三味線風のギター・リフとピコピコシンセに合いの手が特徴的なTrack.1など、とうとう頭のネジが全部抜けてしまったか? と思うほどの過剰さやヤケクソ感がある曲が目立つが、ちゃんと向き合うとそのドギツさはしっかりエンターテイメントとして昇華されていることを実感できるだろう。現実より非現実の方が身近だというソングライターでありフロントマン 下川リオの人間性や趣味嗜好も明確に表れ、非現実の素晴らしさを説くようでもある。非現実と現実の狭間で揺れる心情が感傷的な、メロウなヒップホップ×ファンクのリード曲は秀逸。(沖 さやこ)
自分に対する根拠のない自信と他人からの冷笑は決して100対100じゃないことはバカじゃないからわかる。そのうえで両極に振り切ったり、ないまぜになった感情を過剰なポップとして鳴らせるのがロックンロール・バンドだと思う自分にとって挫・人間は暑苦しいほどそれそのものだ。NHK Eテレの”念力家族”のテーマ・ソングに抜擢され書き下ろした「念力が欲しい!!!!!~念力家族のテーマ」は、高速四つ打ち~スラッシュ・メタル~ファンクを3分以内に押し込めた狂気の沙汰ナンバーだが、”情報量が多い”こと自体がポップなご時世を逆手にとった感もあるし、洒落たアレンジが渋谷系を思わせる曲もあれば、フロントマン下川vs世間の構図を自分自身で脚色したり。クレバーだけど俯瞰しないスタンスがそのまんまアルバムになっている。(石角 友香)
AV監督、IGGY COEN作のMV「人類」を見ている分には、いわゆるメンヘラ、ネット住民、非リア充をエンタメとして受け取れたりするのだが、ここはぜひ音源でこのバンド、そして稀有な両性具有感と現実にはどうしようもなく男子な下川というヴォーカリストの才能にダイレクトにやられてほしい。音作りもアレンジも過剰なまでに衝動的で構造はベタだったりするのだが、それぐらい濃くないと下川の逸脱した歌と拮抗できないのだ。単にルサンチマンのはけ口としての表現ではないことは、恐ろしく冷徹にも取れるリリックや、高いスキルを持つトーキング・スタイルの歌唱、何より下川の少年少女と大人、下衆と天使を否応なく行き来する存在感が証明している。でもホントに”閃光ライオット”出身なの?(ホントですが)(石角 友香)
殻を破り、挫・人間は新領域へ。”散漫”にバンドを再定義した6thアルバム
普段の俺たち、普段の俺を音楽にしたら、すごく挫・人間っぽいものができてしまった
中学生のときに聴いたロックのような”僕とお前の歌”みたいなものを書きたかった
30分というプレッシャーのなかで書き上げたものが、結果として今の自分が一番訴えたいことになった
最初から最強なわけじゃない、挫折してる奴が投げるストレート
“枠にとらわれずに楽しいことをやる” 捻くれ者が鳴らす無邪気な愛に満ちた音楽
わかりやすいものを作っても、ギトギトした部分は出てしまう
2021.08.04 @渋谷CLUB QUATTRO
2021.02.28 @USEN STUDIO COAST
2020.10.12 @渋谷TSUTAYA O-EAST
2019.01.25 @渋谷CLUB QUATTRO
2018.06.24 @LIQUIDROOM ebisu
2017.11.10 @渋谷CLUB QUATTRO
2016.11.27 @渋谷CLUB QUATTRO
2016.09.17 @下北沢ライヴハウス10会場
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