無二のダンス…ミナミからパリへ〈関西発 月イチ！ ＳＰＯＲＴＳ〉 – 読売新聞オンライン

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　関西ゆかりの選手や旬の話題を月に１度紹介する「月イチ！　ＳＰＯＲＴＳ」。第１回は２０２４年パリ五輪の新競技に採用されたブレイキン（ブレイクダンス）の金メダル候補、ダンサー名「Ｓｈｉｇｅｋｉｘ」こと 半井重幸(なからいしげゆき) （２０）。ブレイキンに取りつかれた世界のトップランナーの魅力を、丸ごとお伝えします。

　ＤＪが奏でるノリのいい曲に身を委ね、アクロバチックなステップを踏んだと思えば、頭を下に回転し、突然、ピタッと動きを止める――。アーバン（都市型）スポーツの中で一躍、注目を浴びるブレイキン。大阪から世界に羽ばたいた第一人者、半井の夢はでっかい。
　「今まで、多くの素晴らしいダンサーが活躍してきたけど、その中で唯一無二と言える実績を残したい」
　４学年上の姉・ 彩弥（あやね） の後を追い、７歳で魅力に取りつかれた。大阪・ミナミの広場が練習場だった。夜、大人に交じって技を磨いた。
　「一つ覚えるともっと難しい技に挑戦したくなる。昔から動きを止めるフリーズや、床に頭や体の一部をつけて回る動きが好き。面白かった」
　パリ五輪は１対１のソロバトル形式で争う。１ラウンドで約１分のダンスを２～４回交互に見せ合い、勝者を決める。ＤＪが即興で流す曲に合わせ、技の難度、完成度、独自性などが求められる。１日３時間は欠かさない練習で習得した技は、本人いわく「無限にある」。ステージに上がれば自由に表現するだけだ。
　「『この技を使いたい』とイメージして、アドリブの中に自分の持ち技を組み込んでいく。最初の２０～３０秒を聞けば、その先の曲調はつかめる。プラン３割、アドリブ７割という人もいるし、僕は五分五分。考えるより先に体が動くこともあるのは、体に染みこんでいるんだと思う。後で映像を見て驚くことがある。『なんでこんな動きができたんやろう』って」

　代表権争いは今年から本格化し、パリ五輪に出場できるのは世界の男女各１６人のみだ。
　「出場する大会でトップを目指すのは当たり前。五輪でも目指すのはてっぺん。ただ、国を背負って戦っても、国籍の違いなどで区別する感覚が僕らにはない。同じホテルで朝食を一緒に食べ、試合が終われば夕食を囲んで勝った人を祝う。ブレイキンはそういう価値観。スケートボードとかと同じですね」
　高校卒業後は川崎市に拠点を移し、３食を自炊する。一流アスリートらのドキュメンタリー番組を見るのが趣味だ。プロダンサーとして、掲げる目標は「唯一無二の実績」と共に、もう一つある。
　「半井がいたから、ブレイキンがいい方向に向かったと言ってもらえる、影響力のあるダンサーになりたい。趣味として楽しく踊るだけでも、競い合ってもいい。僕の旅を見て、姿を見て、少しでも影響を与えられたら幸せ。今は、パリ五輪の金メダリストにふさわしいダンサーになるため、全てを懸けてダンスに向き合っている」
　ハタチにして揺るぎない信念を持つ。ただ者ではない。（上田真央）

　 なからい・しげゆき 　２００２年、大阪府大阪狭山市生まれ。大阪学芸高時代の１８年ユース五輪で銅メダルを獲得。２０年にソロバトルの世界大会「Ｒｅｄ　Ｂｕｌｌ　ＢＣ　Ｏｎｅ　Ｗｏｒｌｄ　Ｆｉｎａｌ」で最年少優勝を果たし、２２年の全日本選手権で２連覇を飾った。
　◆ブレイクダンスの採点方法　２０１８年ユース五輪では、技の難易度や出来栄えを測る「身体（ボディー）」、音楽との調和を見る「解釈（ソウル）」、創造性や個性を評価する「芸術（マインド）」の３点を柱に相対評価された。パリ五輪でも同様の採点方式が採用されるとみられる。
　◆歴史　１９７０年代、米ニューヨークの貧困地帯で、ギャングの抗争を平和的に解決する手段としてストリートダンスと音楽を用いたのが始まり。ブレイクダンスとも呼ばれ、テレビ番組や映画で人気が広まり、９０年代以降、世界各地で大会が行われている。

　昨夏の東京パラリンピックで現役を終えたいと思っていました。やりきって、「もう無理」って感じられたらいいなって。３６歳で大会を迎え、結婚もしていない。スポーツをしていると、負けず嫌いが恋愛にも出ちゃうみたいで。同世代がどんどん引退して、選手から奇麗な女性に変わっていくのもうらやましかった。
　昨年８月２８日、国立競技場で走り幅跳び決勝を６位で終え、思いました。「待っとけよ。ここで終わるわけにはいかんぞ」と。目の前で長身のオランダ選手に世界記録を出されたのが悔しくて。身長１メートル５７しかないチビの私でも勝てないはずはない。障害者という立場になってから、努力をめいっぱいして、恵まれた体格の人をぎゃふんと言わせたいと思ってきましたから。
　「人生楽笑」は高校時代、自分で考えた言葉です。中学から軟式テニスを始め、強豪高校に進んだけど、寮生活が厳しかった。「嘆くより、笑って楽しく過ごしたいな」と考えた時、ふっと頭に浮かびました。
　右膝から下を失った時も胸に染みた言葉です。仕事中、鉄骨の落下事故に巻き込まれたのは２１歳の時。勤めていた塗装会社の社長はずっと応援してくれた、大好きな人でした。毎日お見舞いに来てくれるけど、会うと気まずい。手紙を書きました。「次に病室の扉を開く時は、お互い、いつもの笑顔でいましょうね」と。良好な関係は今も続いています。
　５月に兵庫県伊丹市から赤穂市に引っ越しました。先日、道を掃除していたら少女と知り合い、ツツジの花をもらいました。パリで２年後にあるパラリンピックでは、この町の人たちに応援してもらえたらいいな。そう思いながら新しいコーチの下で練習しています。
　 なかにし・まや 　１９８５年、大阪市生まれ。陸上女子走り幅跳びで、片方の脚に下肢義足を装着する「Ｔ６４」クラス。１９年世界パラ陸上で初の金メダルを獲得し、パラリンピックには東京大会まで４大会連続出場した。阪急交通社所属。

　毎月第２土曜日の大阪本社夕刊で、アーバンスポーツ、パラスポーツの選手コラム、トピックを掲載します。２０２１年の東京五輪・パラリンピックで高まった熱気をパリ大会につなぎます。読売新聞オンラインにも順次、掲載していきます。
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