「マンピーのG SPOT」に芥川龍之介が出てくる痛快、「洋楽の肉体性への欲求」とデタラメ言葉の遊び心 – Yahoo!ファイナンス

POP


IDでもっと便利に新規取得
ログイン
現在 JavaScriptが無効 になっています。
Yahoo!ファイナンスのすべての機能を利用するためには、JavaScriptの設定を有効にしてください。
JavaScriptの設定を変更する方法はこちら
11:31 配信
東洋経済オンライン
1995年に発売された「マンピーのG★SPOT」のCDジャケット
「胸さわぎの腰つき」の衝撃から44年。以来ずっと桑田佳祐は自由に曲を書き、歌ってきた。サザンとソロの全作品のうち、26作の歌詞を徹底分析したスージー鈴木氏の新著『桑田佳祐論』から一部抜粋、再構成してお届けする。(文中敬称略)

サザンオールスターズ《マンピーのG★SPOT》
作詞:桑田佳祐、作曲:桑田佳祐、編曲:サザンオールスターズ
シングル、1995年5月22日

■「マンピーのG★SPOT」

 1月に阪神・淡路大震災、3月に地下鉄サリン事件という、激動の年――1995年5月に発売されたこの曲は、そんな年だったことなど、まったく感じさせない能天気な曲であり、現在でもコンサートの定番となっている人気曲である。《真夜中のダンディー》(71万枚)ほどではないが、こちらも50万枚を売り上げる大ヒットとなった。
 それにしても「マンピーのG★SPOT」である。このエロティックな文字列を前に、評論への意欲は萎えてしまう。「マンピー」である。「G SPOT」である。さらには「G」と「SPOT」の間に「★」なのだから。

 しかし、気持ちを奮い立たせて、この文字列と向き合ってみる。まず指摘するべきは、こんなタイトルの曲を歌う音楽家は、極めて稀だということだ。少なくとも、日本ロック/ポップス史のビッグネームの中では皆無だろう。
 松任谷由実や山下達郎、佐野元春、矢沢永吉、浜田省吾……が「マンピーのG★SPOT」のようなタイトルの曲など決して歌わないだろう。カバーすらしないはずだ。忌野清志郎だったら、少しの可能性はあるかもしれないが、それでも、そこそこの違和感が残ると思う。

 言い換えれば、このようなタイトルの曲を作り/歌う(作れる/歌える)ということが、桑田佳祐にとって、他の音楽家に対する強烈な差別化となっているということである。やや大げさに言えば、こういう曲を作り/歌ってきたからこそ、桑田佳祐は、日本ロック史における最大の存在になれたのである。
 では、「マンピーのG★SPOT」のような言葉に、桑田佳祐を向かわせたモチベーションは何なのだろう。単純なサービス精神や遊び心によって、なのだろうか。

 私が思うのは「洋楽の肉体性」への欲求である。

 そもそも洋楽には、黒人音楽も含めて、エロティックな歌詞の曲は山ほどある。日本人が知る中では、比較的上品な部類のビートルズでさえ「道路でヤろうぜ」(《Why Donʼt We Do It In The Road? 》)という曲があるくらいなのだから。
 しかし、洋楽フリークだった桑田佳祐少年が耳にした、日本のグループサウンズやフォークの歌詞はどうだったか。ビートルズへの思いを押し殺し、「花・星・夢」など少女趣味的な単語で塗り固められたグループサウンズの歌詞、ボブ・ディランへの思いを押し殺し、四畳半でキャベツかじりながら銭湯に通うようなフォークの歌詞。

 さらに、日本(語)のロックが勃興し始めても、歌詞は「♪風をあつめて 蒼空を翔(か)けたいんです」であったり「♪君はFunky Monkey Baby」であったりと、今ひとつしっくりこなかったのではないか。
♪風をあつめて 蒼空を翔けたいんです
アーティスト:はっぴいえんど
作詞:松本隆
作曲:細野晴臣
♪君はFunky Monkey Baby
アーティスト:キャロル
作詞:大倉洋一
作曲:矢沢永吉

■桑田少年にはすべて借り物の言葉に聞こえた? 

 桑田佳祐少年には、すべて借り物の言葉に聴こえたと思うのだ。そして、一部の洋楽のように、もっと肉体的で、下半身からストレートに撒き散らされるような言葉で歌いたくなったのではないか。その結果が《女呼んでブギ》であり、《マンピーのG★SPOT》だった。
 肉体的な表現には強いインパクトが宿る。強いインパクトには広い一般性が宿る。なのに他の音楽家は、恥ずかしいのか面倒くさいのか、肉体的な言葉からは距離を置き続ける。結果、桑田佳祐には、「洋楽の肉体性」による先行者利益が、未だに保たれている状態と言えるだろう。

 サビのメロディを階名で示せば「♪あれは・マンピーの・Gスポット」が「♪ミソラッ・ドララ・ドーッド」(キーはEm)。「♪(マン)ピーの」で「♪ラ→ラ」と1オクターブ急降下するのが面白い。
 ポイントは「マン(ピー)」。ド(実音でG)という最高音であることと、かつ1拍目が休符になっていること(♪あれは・ウン=休符・マンピーの)によって、2拍目の「マン」の音に肉体的なエネルギーが爆発する。

 そう言えば、桑田佳祐の歌い方も、洋楽ボーカリストを真似つつも、単に英語的な発音を真似ただけではなく、極めて肉体的な歌い方に昇華されている。だからこそ、この日本において一般性を持ち得て、後の日本ロックのスタンダードになったのではないか。
 以上のような背景の中で、「マンピーのG★SPOT」という言葉が生み落とされたと考えるのだが、どうだろうか。しかし、そんな背景があったからといって、「マンピー」「G SPOT」、その間の「★」に至るのは、桑田佳祐の才能と狂気だけがなせる業だろう。

だから僕にとって、『マンピーのG★SPOT』という曲を今もたまにライブで歌うっていうのは、けっこう大事なことなんです。あれは、自分が森繁久彌をやっている感覚なんですよ。「ほらほら、ちょっとセクハラしちゃうよ」みたいなね(笑)。(『文藝春秋』18年10月号)
 と、桑田佳祐本人は、実に軽薄なのだが。

■「芥川龍之介がスライを聴いて 〝お歌が上手〟とほざいたと言う」

 と、「マンピーのG★SPOT」という言葉の背景を深読みしてみたが、「マンピーのG★SPOT」は「エロティック」という意味が読み取れる分、まだマシである。この曲の中での最強フレーズ、いや、下手したら、日本ロックの歌詞史上の最強フレーズは、この「芥川龍之介がスライを聴いて〝お歌が上手〟とほざいたと言う」ではないだろうか。
 とにかく意味がまったく分からない。まず文豪・芥川龍之介と「スライ」を組み合わせている時点でシュールである。一応説明しておけば、「スライ」とは、60年代後半から70年代前半にかけて人気を得た、サンフランシスコ発の黒人・白人混成バンド――「スライ&ザ・ファミリーストーン」のことだ。

 その上、芥川龍之介が「スライ」に「お歌が上手」と「ほざいた」というのだから、意味は完全に消失する。もうナンセンスとシュールの極みである。
 しかしそれでも、ビートに乗せて「♪芥川龍之介がスライを聴いて〝お歌が上手〟とほざいたと言う」と歌ってみると、何というか、妙な高揚感を感じるのは何故なのだろう。意味は完全に消失しているのに、「絶対にこの言葉の並びでなければダメなんだ」という感じさえしてくるではないか。

 ポイントは桑田佳祐の作曲法にある。桑田は自著『ただの歌詩じゃねえか、こんなもん』(新潮社)でこう語っている。

歌詞は、メロディーが浮かぶと同時に、デタラメ言葉──まァ英語が多いんだけど──で浮かんでくるわけ。日本語の歌詞は絶対に浮かんでこない。浮かんだ言葉とメロディーをゴニョゴニョそのまま唄ってくと、コード進行がピーンとわかる。今度はギターを持って、言葉はデタラメのまま、何度も何度も唄うんだよね。それは、ボク一人でもやるし、バンドと一緒にもやる。そのうちに何となく、そのデタラメ言葉にピッタリとくる日本語が何カ所か出てくるわけ。
■デタラメ英語を日本語に置き換える

 この本は84年の刊行なので、95年時点の作曲法とは異なっている可能性もあるが、でも基本は変わっていないだろう。まずはデタラメ英語をハメながらメロディを作り、次にそのデタラメ英語を日本語に置き換えるのである。

 ということは「芥川龍之介~」も、最初はデタラメ英語だった可能性が高い。そのデタラメ英語に近い発音やリズムの日本語が、たまたま「芥川龍之介」と「スライ」だったということになる。
 だから、文字にしてみるとナンセンスとシュールの極みなのだが、歌ってみると、その響きに必然性が発生して、「絶対にこの言葉の並びでなければダメなんだ」という感じが湧き上がってくる。

 言ってみれば、ここでのナンセンスは単なる「無意味」ではなく「意味からの解放」である。桑田佳祐は、歌詞世界を意味から自由にした上で、ビートや発声と有機的に連携させて、肉体的な総合芸術(妙な言い方だが)へと進化させたのである。
 歌い方も重要である。まず「あくたがわ」は「acたがわ」と発音したい(「あく」を英語的に)。また「たがわ」と「スライ」はどちらも文字を詰めて歌う。「ほざいたと言う」の「と言う」は「てゅー」と発音。

 ぜひ一度、歌っていただきたい──「♪芥川龍之介がスライを聴いて〝お歌が上手〟とほざいたと言う」。

 私にとってこのフレーズは、声に出して歌いたい日本語の最高峰である。

前回:「勝手にシンドバッド」が強烈な印象を残した必然(6月17日配信)
東洋経済オンライン
最終更新:6/24(金) 11:31
東洋経済オンライン
投資信託ランキング
Yahoo!ファイナンスから投資信託の取引が可能に






Copyright (C) 2022 Toyo Keizai, Inc., 記事の無断転用を禁じます。
Copyright (C) 2022 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

source

最新情報をチェックしよう!
広告
>すべての音楽情報をあなたに・・・

すべての音楽情報をあなたに・・・

インターネットで情報を探すとき、あなたはどうやって探しますか?いつも見ているページで情報を得る?検索エンジンで好きなアーティスト名を検索してでてきたものを見る?本当にそれであなたの欲しい情報は手に入れられていますか?

CTR IMG