今陽子さん「若く、格好いいが威張らない70歳でいたい」 – 日本経済新聞

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――尾藤イサオさんらと出演された「いずみたく没30年メモリアル企画『ぼくたちの音を楽しむ』」(4月23、24日)が好評でしたね。いずみたく先生とのご縁はどこで?
私は小さい頃から歌好きで、近所では有名な目立つ子だったんですが、直接のきっかけはいしだあゆみさんのファンだったことです。私の父は名古屋に有名人が来るといつも頼まれて司会者をしていて、あゆみさんの歌のイベントの時も司会だったので楽屋口から入れてもらいました。そこであゆみさんと意気投合してしゃべっているのを見たいずみたく先生のプロダクションのマネジャーに、「君、芸能界に興味ない?」ってスカウトされて。中1の時でした。
中2で上京し、先生のご実家から学校に行きながらレッスンに通う生活です。ただ先生は厳しい方だったので、徹底して基礎を叩き込まれました。今はプロの歌手でも楽譜が読める人が少なかったりしますが、先生は「プロの歌手になるのなら譜面はもちろん、発声も基礎からしっかりやらなければ」と。そこで音大の先生に声楽を習ったり、他にもピアノやバレーなど、ミュージカルに必要なものを全部教わりました。
――先生には「人気やヒット曲に頼らない本物のシンガーになりなさい」と教えられたそうですね。
とにかくなかなか歌を歌わせてもらえなかったんです。発声もバレーも基礎が長かった。ただ、それがあったから55年もの間、歌ってこられたんだと今は思います。
――80年代に渡米されたのは。
歌手としてヒット曲があるのはありがたいことなんですが、若い頃に「恋の季節」と「涙の季節」の大ヒットを2曲持っちゃったので、一時はそれに苦しめられました。私は昔から洋楽好きで、今でもライブの7、8割は英語の歌とかミュージカルソングです。だけどヒットがあるとファンには常にそれだけを求められ、時にはミュージカルで役を演じていても、カーテンコールで「恋の季節を歌って」と言われてしまう。ファンとはそういうものでしょうね。でも私の中では「今日はミュージカルで、ピンキーじゃないの……」と心の声が言う。「このままヒットに溺れていると終わっちゃうな」と思ったので、28歳でニューヨークに行って勉強し直し、30歳で"遅い成人式"を迎えて帰ってきたんです。
――いい経験だったでしょうね。
あの約2年間は私の人生で一番大きいですね。たった1人で海外に住んで、何でも自分でやらなければならなかったので。ただ英語は、昔でいうペンパルと英語で文通していたり、FEN(米軍人や家族向けのラジオ局)を聞いたりしていたので、すぐしゃべれるようになりました。貪欲なので、和英・英和辞書を常に持ち歩いて、分からないことはすぐに調べてね。
――今でもブログなど、新しいことへの取り組みが盛んですね。
パソコンで資料をスキャンしてアップする、Firefoxをダウンロードしてインストールするなど、70歳らしくないことをやってます。そういう頭の軟らかさは常に持っていたいし、時代の波に乗り遅れたくないなと。そもそも私は70歳になっても「まだまだヒヨッコだ」と思ってますから。
――え、そうなんですか?
皆さんは大御所と言ってくださるんだけど、そういうのは嫌いなんです。ふんぞり返ってる先輩をいっぱい見てきて、かっこ悪いと思っていたからですね。だから私は実力は蓄えていても一切ひけらかさず、威張らず、若い子と和気あいあいでいられる先輩になりたいな、とずっと思っているんです。
――「実るほど頭を垂れる稲穂かな」ですね。
そう、それです。日本語はいいですよね。そうすれば若い子から見てもかっこいい先輩でいられると思うので。若くかっこいいけど威張らない70歳。そういうふうでありたいと思っています。
――ムッシュかまやつさんが、まさにそういうタイプの方でした。
GS時代にはムッシュさんやマチャアキ兄ちゃん(歌手でタレントの堺正章さん)など兄貴たちと一緒にやってきましたが、みんな気さくで偉ぶってませんからね。北島三郎さんなど一流の方ほど、お会いすると気さくですから。
――今回の公演は師匠のいずみたく先生と向き合う公演でしたね。
6年前の公演では私はゲストだったんですが、今回は難しい歌をたくさん歌うことになりました。曲数は私が一番多かったかも(笑)。朗読あり歌ありで、先生が育てた本物のプロのOBもたくさん来てくれました。
――ところで、ご自宅ではお母さんを介護中だそうですが。
母は95歳ですが、介護は1人で頑張っても無理だから、専門のスタッフに頼るようにしています。頼るためには威張ってちゃ駄目だから、そういう人間関係を作っておけば結局自分が楽になるんです。
――今さんの若さの秘訣は。
少ない時で5000〜6000歩、多い時は1万歩以上、ほとんど毎日歩いています。季節の変化や周りの風景を見ながら歩くのは、頭を活性化させるのにいいんです。
もう一つ、今は母を介護しながら「老いる」という現実を学んでいます。ここまでにしてくれた母を大事にして、父の元に届けなきゃという使命感。それも私を奮い立たせているんだと思います。6月に出した本『認知症の母が劇的回復を遂げるまで』では、母の介護の中で気づいたことを全て書きました。
――ブログでのファンとの交流も楽しそうですね。
私の場合は50年来のファンなども多いので、昔の写真やアルバムをスキャンして載せるとすごく喜ばれます。そうするとアクセス数がすごいんですよ。街を歩いていても「今さんのブログ楽しいからいつも見てます」と言われると、余計張り切ってやっちゃいますし。私は「今陽子オフィシャルブログ」の記者で編集長なんで(笑)。ブログでファンになったという10代の子もいるんですよ。「実はね、本職は歌手で」と教えると「おばあちゃんに聞きました」とか言って。もう今は親子3代のファンですね。
――声の質や声量が昔と変わらないのも素晴らしいと思います。
おかげさまで声はすごく丈夫なので。「恋の季節」は15歳でレコーディングしましたが、今の方がいい声が出ると思います。きちんとした発声で歌ってますから。
――この55年間、日本経済にもいろんなことがありましたが、一番鮮明に覚えていることは?
オイルショックの時だったかな、いつも華やかな銀座のネオンが全部消えたことがあったでしょう。あれはショックでした。でも先日も急に節電要請が出て、同じようなことが起こってますよね。
それとやはりコロナ禍です。私は一番バブリーな頃の芸能界にいたので、お金のことや節約を考えたことはなかったんです。でも2年前からはコロナ禍で仕事が全部中止、延期になり、私の芸能生活の中で最も収入がなくつらい時期でした。税理士の先生に付いてもらって給付金の申請もしましたし、人生で初めて、このまま3、4年行ったらどうやって母を守ろうかと真剣に考えました。まだちょっとは名前があるから、路上シンガーで歌えばお客さん集まるかな、前にザルを置いとけば、とか……。
――何をおっしゃいますか(笑)。
いや本当に、そこまで考えましたよ。生徒を集めて歌の先生やろうかとか。でも落ち込んだりしないで、これを打破するにはどうするかと考える。私はここ(喉)に職業を持ってるんだから、声さえ出れば、健康でさえいれば働けるじゃないか、と気付いた。やっとこの4月くらいから仕事が入ってきて、ようやく春が見えてきたかな。今度は冬眠から覚めたように急に忙しくなっちゃってますが。
――国の年金を当てにするより長く働く方が健全ですよね。
私も65歳から年金頂いてますけど、働けるうちは働きたいし、人の前に出るってことは元気になるじゃないですか。それがやっぱり年取っても元気でいられる秘訣じゃないかなと思います。
――資産運用のご経験は。
うちは両親ともその辺に興味がなくて、保険すら入ってなかったんです。地震や火災も多いので私はさすがに損害保険には入ってますけど。資産運用は興味もなかったんですが、定期預金では増えないからちゃんと考えた方がいい、と最近よく言いますよね。ただ70の今から自分にできるのか分からなくて、怖いですね、まだ。
――そうですか。呼んでいただければ何でもお手伝いしますよ。
ありがとうございます、逆に一番怖いですけど(笑)。もうちょっと生きそうなので私もまだ頑張らなきゃいけないんですけどね。
(撮影/福知彰子 取材・文/大口克人)
[日経マネー2022年6月号の記事を再構成]
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