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FEATURE
Japanese
2022年07月号掲載
ライター:石角 友香
観終わったとき、まさにライヴの終盤にn-buna(Gt/Composer)がポエトリーで発する、今見てきた、聴いてきたものは走馬灯だ――という思いに赤の他人である自分がとらわれてしまった。それほど没入感の強い映像作品である。

ヨルシカが2022年3月に開催した”ヨルシカ LIVE TOUR 2022「月光 再演」”の一部始終を収めたこの作品は、3月31日に東京ガーデンシアターで実施されたライヴだ。コンセプチュアルな”月光”は、2019年にリリースした2枚のアルバム『だから僕は音楽を辞めた』、『エルマ』を題材としており、対になったこの2作の関係性はn-bunaがインタビューで語ってきたように、『だから僕は音楽を辞めた』の続編として『エルマ』が制作されただけでなく、『だから僕は音楽を辞めた』において一人称で綴られる僕=エイミーと、エイミーの音楽や生き方を模倣するような存在のエルマの視点から描かれた『エルマ』双方の視点があり、曲のタイトルからも時間が暗示されている。だが、n-bunaによると解釈はリスナーに任されているという。なので、例えばエイミーがロック・ミュージシャンの27CLUB的な人生観にとらわれて、セルアウトを拒否し、何かを喪失してしまった自分が最も望んでいたことを辞めるというふうにも受け取れるし、エイミーが失ってしまった純度のようなものをエルマに見いだして、言葉を残していっているようにも受け取れる。エルマ自身はエイミーの音楽や生き方から受けた影響の中で、彼をある種模倣し、彼の足跡を辿る旅に出たりもする。そんなふうにも受け取れるのだが、もしかしたらそれはひとりの人間の中で起きる葛藤だとも言えるかもしれない。作品に関するあらゆる解釈を否定しないヨルシカだが、このライヴ”月光”では2作のアルバムすべてを演奏するわけではないし、対を成す曲が交互に演奏されるわけでもない。コンセプトは”青年「エイミー」が死ぬ間際に見た走馬灯”を表現しているのだという。それゆえに非常に舞台や映画を彷彿とさせる演出が施されているのだが、2019年の初演から時を経て、舞台演出もパフォーマンスもすべてがスケールアップと細部の試行を凝らして、再び構築されたのだ。

さて、映像作品を観ていこう。ライヴの現場でも息をする暇もないほど集中していたファンが多かったと想像するが、編集された映像作品はまずいい意味で凄まじい情報量に圧倒される。目で捉えられる限りのすべてを追うつもりでいると、やはり息もできないような集中力を自ずと発動せざるを得ないのだ。昼間の海底から太陽を見るような映像からスタートし、そこにn-bunaのポエトリーが重なる。”僕らは鯨だ”――そんな詩に続いて”3月31日、東京ガーデンシアター、ヨルシカです”という宣誓めいた言葉のあと、目に入るのは横1列に並んだサポート・メンバーを含む6人。「夕凪、某、花惑い」がタイトなアンサンブルでモニター越し、イヤホン越しでも刺さってくる。suis(Vo)は裸足で仁王立ちだ。ノンストップで怒濤のように「八月、某、月明かり」へ。ライヴではスクリーンに投影されていた歌詞が、映像では画面上にも直接書かれるような体感で迫ってくる。一人称の表現と6人の演奏する姿が押し寄せてきて、いい意味で息苦しいほどだ。そう。ヨルシカの表現はn-bunaとsuisだけでなく、全員が音も言葉も意思を持って伝えているのだ。一瞬たりとも目が離せない状態がこのあとも続く。物語を可視化する、ポエトリー部分で映し出される関町の情景が、主人公の意識に受け手を引き摺り込むようだ。

「藍二乗」ではひたすら言葉を書き綴る映像が投影され、まるでn-bunaは自分で作った映画に、オーケストラよろしく生演奏をオケピットで演奏しているように見える。続く「神様のダンス」で16ビートのグルーヴに転じ、人物の心象を歌い分けるsuis。上からのカメラ・アングルがステージ/フロアが石畳調であることを捉えると、物語の連続性がより浸透してくる。その感覚のまま「夜紛い」で映し出される街の景色はステージと地続きだ。心に受けた傷も感銘も等しく記憶でしかない――場末の街の映像はそんな思いを増幅させるのだった。
ヨルシカ – 藍二乗 (Music Video)
ポエトリーの「Poetry – 雨の街について-」が場面転換の役割を果たし、ステージ・セットに窓の多い古風な建物が出現。街灯も灯る。キタニタツヤの蠢くベースからn-bunaのフレーズへの繋がりは洒脱で、「雨とカプチーノ」の輪郭をクリアにした。この曲に呼応するように、「六月は雨上がりの街を書く」では改めてこのバンドの凄まじい集中力に圧倒される。お互いの影しか見えないステージで、全員が音とsuisの歌に集中していることで成立するライヴなのだと理解した。ひと連なりのタームは、歌詞の”この青”を視覚化したような色の背景に染まる「雨晴るる」に進む。相変わらずsuisは1ヶ所に留まり、歌に集中している。彼女を水面に落ちた輪が包むような光の演出も素晴らしい。チーム全体の呼吸のリンクが物語の強度を上げている印象だ。
ヨルシカ – 雨とカプチーノ(Official Video)
儚い印象のコラージュ映像が流れるなか、n-bunaが読むポエトリーは「Poetry – ヴィスビーにて-」。n-bunaが育ったスウェーデンに存在する美しい都市の名前だ。それまでの葛藤や闇の世界から一瞬、柔らかな光を感じるが、一転してリズムの立った「踊ろうぜ」でパッシヴな感覚に。suisも身体全体を使って声を出している。共感じゃなくてこのビートだけが真実だと言わんばかりのリリックの内容とシンクロして、レーザーもアグレッシヴに照射される。その鋭さは、オーディエンスも突き刺して穴を開けているように見えなくもない。約束でも愛でもない、ただエルマの存在に貫通されたいと願ったように――そんな妄想すら膨らむ演出だった。「踊ろうぜ」のオルガン・サウンドとリンクする部分を持つ「歩く」に繋がったのも鳥肌モノだ。背景の映像のひたすら海岸べりを歩き続けるのはエイミーなのだろうか。それを追う視点はエルマのものなのではないだろうか。楽曲を楽しむと同時に、映像や演出に張り巡らされた点と点を意識がどうしても接続しようとする。高いテンションを保ったまま、ノンストップで「心に穴が空いた」へ。ヴィスビーで撮影したと思しき写真や、ライヴ現場ではそこまでクリアに目視できないであろうそれらが、アルバム『エルマ』を構成する大事な要素である写真と重なる。中には『だから僕は音楽を辞めた』のジャケットのアートワークに登場する路地の写真も。まるで自分自身が旅を擬似体験しているようだ。
ヨルシカ LIVE「歩く / 心に穴が空いた」
歌の意味を捉えるというより、エイミーとエルマの人生を体感する旅をしつつ、バンドのジャズやマス・ロックも消化したタフなインストを経て、前向きな穏やかさを持つ「パレード」へ。suisの声が優しい。そこから夜の深海に戻るような映像に乗せて「海底、月明かり」が奏でられる頃には、尖った心も鎮められていく。続く「憂一乗」ではsuisは石段に腰掛けて、背景に大きく映し出された細い下弦の月に照らされている。足先の指でリズムをとる場面も捉えられる。この曲で”思い出の外に触りたい”、”逃げよう”と歌われる世界は他の誰にも理解されなくとも、いや、むしろ理解されないことの至極のようで、続く「ノーチラス」にいったん着地。だが、ポエトリーでn-bunaは深い海の底に沈むことを示唆し、「だから僕は音楽を辞めた」に帰着する。このときのsuisの”間違ってないよな”と歌う声色に不安が滲んだのは気のせいだろうか。ただ、物語はそこで終わらない。そしてこのライヴのタイトルである”月光”の意味も明かされる。エイミーが残した手紙や写真はリスナーである我々の誰もが意思を持てば受け取れる――1対1で向き合いたいとき、再生できるこの作品を通して。
ヨルシカ – パレード (Music Video)
ヨルシカ – ノーチラス (OFFICIAL VIDEO)
ヨルシカ – だから僕は音楽を辞めた (Music Video)
▼リリース情報
ヨルシカ
映像作品
『ヨルシカ LIVE「月光」』
NOW ON SALE
[UNIVERSAL J]
【初回限定盤】
Blu-ray:UPXH-9031/¥6,820(税込)
amazon TOWER RECORDS HMV

DVD:UPBH-9570/¥5,720(税込)
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※三方背ケース(200mm×288mm)仕様、デジパック、歌詞ブックレット&「青年の足跡を辿る地図」封入
shokai_2.jpg


【通常盤】
Blu-ray:UPXH-1079/¥5,280(税込)
amazon TOWER RECORDS HMV

DVD:UPBH-1504/¥4,180(税込)
amazon TOWER RECORDS HMV

Poetry – 海底にて-
夕凪、某、花惑い
八月、某、月明かり
Poetry – 関町にて-
藍二乗
神様のダンス
夜紛い
Poetry – 雨の街について-
雨とカプチーノ
六月は雨上がりの街を書く
雨晴るる
Poetry – ヴィスビーにて-
踊ろうぜ
歩く
心に穴が空いた
Inst. – フラッシュバック-
パレード
海底、月明かり
憂一乗
ノーチラス
Poetry – 走馬灯-
だから僕は音楽を辞めた
Poetry – 生まれ変わり-
エピローグ
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Blu-ray/DVD『ヨルシカ LIVE「月光」』特設サイト
『エルマ』以降、日記帳や小説付きの大作が続いたヨルシカだが、2021年第1弾リリースとなる『創作』は初となる5曲入りEP。全体を通してアコースティックな手触りを大切にした温かなアプローチが印象的だ。季節の移ろいを風流に描いた「春泥棒」、鳥がさえずるインスト曲「創作」からつなぎ、打ち込みと牧歌的なサウンドが溶け合うミディアム・テンポ「風を食む」、カントリー調のアプローチも取り入れ、幻想的な夜を描いた「嘘月」など、新境地と言える楽曲が並ぶ。ヨルシカと言えば、夏の曲が多いイメージも強いが、今作は春の曲ばかり。それも春の終わり際の儚さに主眼を置いた。これはいいことも悪いことにも、必ず終わりが訪れるという、ひとつの暗喩だろうか。彼らの音楽はいつも深読みをしてしまう。(秦 理絵)
これまで緻密に作り込んだ2枚のミニ・アルバムで、リスナーを”ここではないどこかの物語”へと誘ってきたヨルシカが、”音楽を辞めた青年”を主人公にした初のフル・アルバム『だから僕は音楽を辞めた』を完成させた。できれば、今作は初回生産限定盤を手に取ってほしい。音楽を辞めることを決意した青年が”エルマ”に宛てた全14曲の楽曲に加えて、オスカー・ワイルド、ヘンリー・ダーガー、松尾芭蕉ら、偉大な芸術家たちの言葉を引き合いに出して綴られる”手紙”が今作への理解を深めてくれる。”音楽を辞めた”というセンセーショナルなモチーフをテーマにすることで、コンポーザー n-bunaが抱く思想や哲学を徹底的に炙り出し、ひいては”音楽をやる理由”が浮き彫りになる構造が秀逸。(秦 理絵)
ヨルシカの新しいミニ・アルバムのタイトルが”負け犬にアンコールはいらない”だと知って驚いた。めちゃくちゃエモいじゃないか。前作ミニ・アルバム『夏草が邪魔をする』では、ソングライティングを手掛けるn-buna(ナブナ)が自身の死生観を色濃く反映させた切ない夏物語を描いたが、あれから約1年を経てリリースされる今作は、同じ夏の匂いを継承しながらも、”どこかの誰かの物語”とは一蹴できないリアルが滲む。”もう一生、後悔したくない僕らは吠えたい”と歌う表題曲「負け犬にアンコールはいらない」を始め、荒々しい曲調も多い。輪廻転生をテーマに、ピアノによる美しいインスト曲を挟みながら現実と非現実の間を彷徨うようなアルバムは、最後に不思議な余韻を残してくれた。(秦 理絵)
ニコニコ動画で200万回再生を記録する人気曲を生み出してきたボカロPのn-buna(ナブナ)が女性ヴォーカル suis(スイ)を迎えて結成したバンド”ヨルシカ”の1stミニ・アルバム。ピアノの繊細なフレーズが紡ぐインスト曲「夏陰、ピアノを弾く」から幕を開けると、ギターを中心にした表情豊かなバンド・サウンドのなかで描かれるのは、夏の気配を漂わせた切ない恋の物語だった。それはハッピーなラヴ・ソングではなく、すべてが死別を思わせる悲恋の楽曲。カトレアの花、青い空、夕立ち、花火、入道雲という夏を連想させるワードが散りばめられた曲たちは全7曲がそれぞれに独立しながらも一篇の小説としてリンクしているようにも聴こえた。テーマは悲しいが、作品をカラリと爽やかに仕上げたのはsuisの透明感のある歌声の存在が大きい。(秦 理絵)
それは果たして呪いか、祈りか――? ヨルシカが描く”音楽を辞めた青年”が遺したひとつの物語
“もっと人間的な部分を出した活動をしてみたい” 気鋭のボカロP×透明感溢れる女性ヴォーカルが描く”死の救済”
受け手に解釈を委ねつつ、死生観を具現化したコンセプチュアルな、ライヴ"月光"をブラッシュアップした再演を映像作品化
ヨルシカ、初のライヴ映像作品『前世』で描く"生まれ変わる"という死生観
ヨルシカ、"春"をテーマにした新作EP『創作』で表現する、『盗作』の主人公"音楽の盗作をする男"との繋がり
ヨルシカ、約1年ぶりのニュー・フル・アルバム『盗作』完成――音楽を盗んだ男の破壊衝動をテーマにした物語が伝えるもの
『だから僕は音楽を辞めた』の続編となる2ndフル・アルバム完成! 大いなる喪失感が導いた結末とは……?
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Skream! 2022年06月号
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フクザワさんによるあの曲のイメージイラスト

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