対談:アツキタケトモ × Ghost like girlfriend──境遇重なる新世代アーティスト達が培った「ポップ」の感覚 – Qetic

POP

Text:Daiki Takaku
Photo:小林真梨子
ベッドルームポップ、新世代のシンガーソングライターなど、これまで近しい括りで形容されることも多かったであろうアツキタケトモと、岡林健勝によるソロプロジェクト、Ghost like girlfriend。そんな二人が、同時期に新作を世に送り出すことになった。
アツキタケトモはEP『Outsider』、Ghost like girlfriendは2ndフルアルバム『ERAM』。どちらもこれまでの両者の歩みをより洗練したものになっていることは間違いないが、全く違ったアプローチを採用しながら、同じゴールを目指しているように聴こえる。かなり長い付き合いになる友人同士だという彼らだが、お互いをどのように意識して音楽を作り上げているのだろうか。撮影の時間も和気藹々とした空気が流れていた二人に、その出会いから語ってもらった。
──会うのは久しぶりですか?
アツキタケトモ(以下、アツキ) 最後は下北の地下? 先月かな。
岡林健勝(以下、岡林) 会うときはすごく会うんですけど、制作期間が被っていたんですよね。
──じゃあお互いが忙しいときはほとんど会わずに。
岡林 そうですね。2ヶ月ぶりくらいの電話で5時間話して埋め合わせをするっていう(笑)。
アツキ 先週も今日会うのが決まっていたので事前打ち合わせしようよって言って、電話で5時間くらい事前打ち合わせという名の雑談をして。
──お二人が出会ったのはいつ頃だったんですか?
アツキ 2015年ですね、7年前。
岡林 8年前に〈EMI RECORDS〉から本名の竹友あつき名義でデビューしていて、その頃から一方的には知っていたんです。あきる野市の古民家で弾き語りのライブ、というか夏の催し物のようなものがあって、そこで知り合って。
──そのときはどちらも演者として?
アツキ そうです、二人とも弾き語りで共演でしたね。彼は当時、岡林健勝って名前で弾き語りをやっていて、僕もそのライブに出る前にTwitterとか知って曲も聴いていて、仲良くなりたいなと思っていたんです。そのときも楽屋で4、5時間話したよね。
岡林 そう。当時タケトモは所属していたレーベルとの契約が切れて、オレはオレで所属していた事務所の契約が終わったタイミングで。お互い「この先どうやって音楽を続けますか?」っていうターニング・ポイントを迎えていて。
アツキ お互いに、レーベルなり事務所なりと契約して、さらにそれで思うような結果が出せなくて関係が切れる、というところまでを10代のうちに経験して。周りは20代の中盤とかでデビューしている人が多かったし、そういう経験をしている人が当時は今以上に少なかった。10代でいきなり大人の人たちと一緒にやっていく難しさを感じていたりと共通項が多かったんです。
──お互い出会う前は話が合う相手があまりいなかった?
岡林 同じ境遇という意味では、ここまでピッタリっていう人は後にも先にも本当にここしかいないんじゃないかな。
──ちなみに年齢的には?
岡林 オレが2つ上で、ほぼ同世代ですね。
アツキ 僕がちょっと生意気な感じで(笑)。
岡林 ライブのときに意気投合して、その2、3週間後とかにご飯に行って。そのときには、タケトモは次に向けてバンドを組むためのデモを作っていたり、オレはオレで自主制作でもとりあえず編曲を始めていたりして。もっと自分の音楽性を高めればもう一度チャンスが掴めるかなと思って、作っていたデモを聴かせ合ったりしましたね。お互い前は向いていたけど「もどかしいね」っていう時期でした。
──その当時はお互いに対抗心のようなものはありましたか?
岡林 オレはガチガチにあったけどどうです?(笑)
アツキ いや、僕もガチガチにありました。だから先に言いたくなかった(笑)。すごい対抗心を燃やしてましたね、いまだにですけど。
──最近だとGhost like girlfriendの“Birthday”で共作もしていますね。出会ったときからお互いの印象は変わりましたか?
岡林 取っている手法とかは変わりつつ、出会ったときから目指しているものは互いにブレてないというか。J-POPを聴いて育って、J-POPをやりたいと思って音楽を始めたっていうところが1番深い共通項な気がオレはしているんですけど、そこに向かっていく中で、紆余曲折はありつつもゴール設定は一切ブレることなくやっている印象ですね。
アツキ いっしょにカラオケ行っても、だいたい同じ曲を入れてたりしますね。洋楽と邦楽を聴くバランスも近いというか。洋楽にハマると洋楽ばっかり聴いて「J-POPはダサい」ってなっちゃう人も多いと思うし、J-POPが好きな人はJ-POPばかりを聴く人が多いイメージがあるんですけど、そのときどきでニュートラルにどっちも同じ熱量で好きな人が僕の周りには健勝さんくらいしかいなかった。
Ghost like girlfriend – Birthday【Official Music Video】
──聴いている音楽をシェアしたりしているんですか?
アツキ 最近してないけどたまにCD貸しあったりとか。
岡林 リアルタイムで知ることは少ないかもしれない。ある程度デモとかが出来たときに、リファレンスでこの曲を聴いてたよっていう種明かし的に後から教えることはありますね。でも種明かしのときに「うわ、オレも同じ時期にこれ聴いてた!」みたいなことは往々にしてあって(笑)。
アツキ 口に出してないだけで同じものを聴いてたってことは結構ある(笑)。
岡林 それは気持ち悪いくらいあるね(笑)。
──いっしょに仕事をしてみたときの印象はどうですか?
岡林 まず参加してもらおうと思った理由として、歌心がありながら前衛的なサウンドを作れる人が、身内から世界的な人まで見てもタケトモ以外に思い浮かばなくて。参加してもらった曲(“Birthday”)はオーセンティックな往年の歌モノ感を出しつつ、どこかで自分らしさを出したくて作った曲だったので、そこに合うものを作りそうだなと思って声をかけたんです。
──依頼するときは細かくオーダーしたんですか?
岡林 最初は曲のサビ中にだけコーラスをお願いしますと伝えたんですけど……。
アツキ すいません(笑)。
岡林 AメロBメロとか他のセクションのウーアーも含め、コーラスとかいろんなものを足してくれて、それがオレの狙いにまさにハマって。自分がそれまで抱えていた「王道であり前衛的」というタケトモの印象は、むしろあの作業によって深まったかなと思います。
──想像以上だったんですね。
岡林 やっぱりそうだよね、こういう人だよねっていう認識をさらに深めましたね。
──アツキさんはいかがですか?
アツキ もともと健勝さんの曲をずっと聴いていて「良い曲書くな」と思いつつ、コーラスワークに対してそれまでの作品はあまり重きが置かれていない感じが僕の中ではしていたんです。“Birthday”でコーラスをお願いしたいって言われたときに、ずっと僕が一人のファンとして夢見ていた「健勝さんのこの感じにこのコーラスワークが乗ったらさらに良くなるのに」っていう部分を入れるだけ入れてみたんです。「ハマらなければミュートしてもらって大丈夫です」って半ば送りつけた感じで。サビだけと言われていたんですけどね。僕が望む最高のGhost like girlfriendを目指して、僕の中でも足しすぎなくらい入れたので、使わないだろうなと思ってたんですけど、ほぼ全部使ってくれて。逆に大丈夫?っていう。
岡林 9割9分9厘使ったね。それくらい理想にハマっていて、すごく嬉しかったです。
──話を聴いているともっと二人でいっしょにやってほしくなります。
アツキ 一回だけ二人でいっしょにライブしたことがあって。
岡林 6年前とかだよね。
アツキ しかも二人で曲作って。10日前とかに決まったんですよね?
岡林 そう、ライブハウスの方から一枠空きがでたから出てくれっていわれて。その30分のために5曲作ったんです。
アツキ 僕が曲を書いて健勝さんが歌詞を書く曲と健勝さんが曲を書いて僕が歌詞を書く曲とか、あと二人でスタジオでせーので作ったり。「老け顔」ってユニット名で。
岡林 覚えてないな(笑)。
アツキ 岡林とタケトモでオカトモズにしたいって言ったんですけど健勝さんに却下されたのを覚えてます(笑)。
岡林 そのときは作詞作曲だけだったけど、“Birthday”でコーラスアレンジとして入ってもらった先で、6年前とは違う今持っているスキルで曲を作れたらいいなと思ってます。
アツキ 楽しそう。いっしょにスタジオ入りたいですね、純粋に。
──もうお互いの新作を聴いていらっしゃいますか?
岡林 オレはマスタリングスタジオを出てすぐ送りましたね。
アツキ 速攻でくれた! デモとかも制作段階で送ってもらっていたので、完成形は絶対エゲツないことになるなと思ってたんです。「絶対マスタリング終わったらすぐください」と伝えていたら本当に出来立てホヤホヤのものを送ってくれて、すぐ聴きましたね。
岡林 タケトモからもEPが出来上がってすぐのタイミングで貰っていて。だからもう何周も聴いてます。
──お二人の新作は、どちらも別のアプローチでありながら生きづらさの中に希望を見出そうとしているのを感じました。岡林さんの作品ではまず“ERAM”のリリックに驚かされます。いつ頃から作品のイメージがあったんですか?
岡林 コロナ禍を含め、情勢だったりいろんなことがあって、それが絡んだうえでの人間関係や仕事関係を経て、良くも悪くも人の気持ちがわかる人間になれる自信がなくなったというか。一つの議題に対して今まではAかBかの二択だと思っていたのが、答えが100通りも1000通りもあるように感じて。それが世界レベルの議題でもあれば、二者間の問題の中でもあったりする。こんなに細分化されているなら、もう人の気持ちはわからないなと思ったときにすごく寂しくなって。人といっしょにいることを諦めたくないし、むしろわかり合いたい気持ちがより強まったんです。
今までは自分の中にある気持ちはこの世界に生きている人全員に共通している前提で、考えていることをそのまま書いていれば絶対どこかで共鳴するものが生まれると思っていました。いろんな経験を経て、「そうでもないな」というか、自分の中にあっても他人の中には全くない気持ちもこの世の中にはたくさん存在する。それからは、わかり合うことの成功確率を上げるために、抱えている気持ちの中でもこれなら、あの人やこの人の中にもありそうだなってものからピックアップして曲に起こす作業を積極的にやっていったんです。
そうなると衣食住にまつわること、自分の近くにあることが増えていって、だから“ERAM”は夜中にラーメン食べることだけだし、コインランドリー行くだけとか(“laundry”)、日々の生活の営みに関する曲が結果的に増えていった。人恋しさがそうさせたのかもしれません。
──ラーメンを食べることだけ書いていて、俯瞰してこれでいいのかと迷う瞬間はなかったですか?
岡林 書いている時は最高! って思ってましたね(笑)。
アツキ そういうタイプですよね(笑)。
岡林 嬉しいんです。食レポに近い歌詞だったりも、自分と他人の間にある共通項が探っていくうちに出てくるものがどんどん人懐っこいものになっていった結果で。ラーメンの具体的な描写を歌詞に入れるのも個人的には愛くるしく感じたし、これを面白がってもらえたらいいなとも思うし、空腹時に食べ物が魅力的に見える瞬間がみんなもあるんじゃないかなって。思い切って入れてみた。今はそれを俯瞰で見て、もっといけ!って感じですね。迷いは意外となかったです。
Ghost like girlfriend −「laundry」from『ERAM』
──以前別のインタビューで、振り返ると“fallin’”は外向きだったのかなという話をしていて。自分の純度と外の世界の解像度を上げていくことにはかなりこだわったのかなと思いました。
岡林 そうですね。自分自身を見つめて作るより、自分が内だとしたら自分以外は外だから、自分と他人の間を探すことで、否が応でも目線が外にいくんです。だから自分と他人の間にあるものを形にしていくことで自動的に外向きなものが出来上がっていく。他人だけを見て、自分のエゴを一切投影せずに曲を作るのは性質上おそらく無理なんですが、極力ギリギリまで外を見ようと頑張って、外向きな曲でありつつ、確実に自分の曲でもあるというそのバランスを探りながら作っていました。だから純度は上がっていて欲しいですね。
──『ERAM』にはアツキさんの影響もありましたか?
アツキ 全然お気遣いなく答えてもらって(笑)。
岡林 いやあ、実は去年の年末、お互い制作期間中に1回電話で話したときにタケトモが「Ghost like girlfriendに自分が寄せていそうで怖い」って言ってくれて。心の中で「オレもだぜ」みたいな(笑)。
アツキ そう、寄らないか怖かったんですよね。健勝さんの前回のアルバム『version』とかは「今に見てろ!」感みたいなものを強く感じて。そういうヒリヒリしたものもすごく魅力的だったけど、それから3年で優しくなったというか。「今に見てろ!」だったのが、「いっしょに何を見るか」に変わっていった。
同じような心境の変化が自分にもあって。バンド時代はどうやったら売れるかばかり考えていて、そのためにキャッチフレーズをサビの頭に置いてとか、そういう作り方だったものが、だんだんどうやったら人々の生活に寄り添えるかに変化していて。そういう解像度の高まりを彼の作品を聴きながら感じたし、自分自身の解像度も高まってきていると思っていたので、寄らないか不安だったんです。でも結果的に出来上がった作品を並べて聴いたら全然違う表現になっていましたね。
岡林 出音のイメージのリファレンスをエンジニアさんに投げていて、いくつか投げるうちのひとつにタケトモの曲を入れていたりしましたね。サウンドを作るときに、ポップでありながらソリッドなバランスのものを作りたいってなると、どうしてもタケトモに寄っていく。だけど寄り過ぎないように頑張りつつ、似たような匂いを感じてもらえたらなと思いながら作っていた節もどこかあります。タケトモとの距離に気を使いながら意識していた感じです。
アツキ それでいうと前に電話で、新曲試聴会をしたことがあって“Highway”を聴かせてもらったあとに、“それだけのことなのに”っていう曲を投げたら、「サビのクワイアの感じをアルバムの別の曲でやろうとしてる」って言ってなかった?
岡林 そうそう、だから曲としては残ってるけどクワイアの部分はカットしました(笑)。それくらい意識的に削いだりしていかないと寄っちゃう。
アツキ その曲は僕の“それだけのことなのに”を聴かせる前にもう健勝さんが作ってたものだったので、意識せず知らぬ間に寄っている部分があるってことですよね。そういう意味では僕も健勝さんの曲聴いて、「あ、シティポップ外そうかな」と思いました。“Highway”で100点取られちゃってるからもういいやみたいな。
──アツキさんはEP『Outsider』で意識を変えた部分はありましたか?
アツキ 今までの作品は1曲単位で作っていてアルバムリリースのタイミングでどうやってまとめるかを考えてたんですけど、今回は先に作品全体の聴き応えのイメージがあって。そこにどのピースが必要かを考えて、去年は23曲くらい作ったんですけど、結局それでも納得のいくものができずに今年に入って24曲目を作って、その曲が今回のEPに入ったりしてます。どこにどのピースを嵌めるかという部分ですごい苦労した作品でしたね。
──それだけイメージが明確だったんですね。
アツキ そうですね、今までの作品より洗練されたものにしたいと思っていて。今作では“Family”でTAARさんとやったり、“Shape of Love”でPARKGOLFさんとやったり、共同作業する中で他の人がどうやって音作りをしているのかを学べて、自分の音作りに生かしていけた。
健勝さんも昔はそう思っていたらしいんですけど、これまでは良い歌詞を書いて100点、良いメロディを書いて100点、良いアレンジをして100点、だから300点、最高! って思っていたんですよ。今はそうじゃなくて、どう調和させるか、100点じゃない歌詞の方がアレンジを引き立てたりもするし、どう聴かせたら歌詞が届いて、メロディーが美しく響いて、サウンドがかっこよく聴こえるのかっていう、全体の聴き応えで100点を目指したい。だからこそ、音数を減らして声を変調させたり、クワイアを重ねたりすることで歌詞が届くようにしたり、クラッシュ・シンバルの代わりにサビ頭にコーラスを加えたり、より全体のバランスで考えるようになりました。
アツキタケトモ (Atsuki Taketomo) – Outsider [Official Video]
──アツキさんは以前別のインタビューで「ベッドルームポップから一歩進んで、次に向かいたい」と話していましたね。
岡林 タケトモは出会ってから7年分くらいデモを聴かせてもらっている中で、シンガーシングライターが作った曲をシンガーソングライターとしての自分がアレンジをしているってところから、「作詞作曲するタケトモ」と「アレンジをするタケトモ」っていう2つの人格を持っていっていて。セルフコライトというか外部のアレンジャーを自分の中で呼び寄せて作っているような。“無口な人”を聴かせてもらったときに人格が別れた瞬間があったのかなって思うくらい、それまでと違う視点が入っていた印象があった。作品を重ねるごとにどんどん洗練されてそれぞれの人格に深みが出ている気がしています。それは自覚があった?
アツキ それを見つけたのがこのアツキタケトモのスタートラインです。中学時代は秦基博さんとかを聴いていた世代なんですけど、そういったいわゆるオーセンティックな、シンガーソングライター然としたアレンジを聴いていたから、このメロディーにはこういう音っていう固定観念が自分の中にあって。一方で打ち込みのポップスはこういう譜割りじゃないとダメみたいな固定観念もあって、別物として考えていた。
でも両方好きなんだったら、両方まとめてやればいいという意識にどこかで変わった瞬間があって。別軸のものでそれぞれに寄せていたのが、それぞれの好きなところを混ぜようっていうミクスチャー的な感覚が自分の中で見つかったからことでアツキタケトモの音楽性が生まれた。それを最初に聴かせたのが健勝さんで、“リセット”と“愛なんて”だったかな。それまで「良いね」とか文字で返してくれていたのが、そのときだけはすぐ電話してきてくれて。
岡林 あまりに違い過ぎたんですよ。
アツキ そこで自信が持てました。そのときはレーベルや事務所の話も無い中で、自主制作でしたが、そういう曲を出してからいろんな人と出会ったり、音楽活動の状況も良くなっていった。信頼している人に「良い」と言ってもらえた作品が評価に繋がっていったことでより信頼度は高まりましたね。健勝さんに「良い」って言ってもらえる曲をちゃんと作らなきゃなっていう一つの基準になっていきました。
──お互いのターニングポイントで関わってきたんですね。お二人の作品は生きづらさに対して希望を見出していますが、世の中の具体的にどんなことに生きづらさを感じますか?
岡林 自分の性根の問題だなっていうのもあるかもしれないです(笑)。社会に何かされるというよりは自分の受け取り方というか、自分の性根が良くない部分があるというか。
──契約の関係だったりで燻っていた時期も関係しているのかなとも思ったんですけど。
アツキ たしかに“煙と唾”聴いたときはびっくりしましたね(笑)。
岡林 自分の理想とのギャップがあり過ぎて、それに対するやるせなさが物心ついてからずっとあって。音楽を始めてからのやるせなさは、音楽が自分が思っているように届いていないなっていうやるせなさだし、学生の頃は学生の頃なりの「なんでこうならないんだろう」みたいなやるせなさだったり。やるせなさってものと腐れ縁みたいになってるんですよね。
──コロナ禍は自分と向き合う時間も長かった分、そういったことを感じやすかったかもしれないですね。
岡林 世の中に対して「寂しくさせんなよ」というな気持ちがあったかもしれないです。タケトモの社会に対する憂いみたいなものは、社会に対して歌っている感じがしますね。
アツキ 昔から「何のためにあんの?」みたいなものが嫌いで。それぞれの人生がそれぞれの正解だと思っているんだからそれでいいじゃんっていう気持ちがずっとある。必要のない常識とかで周りを気にしなきゃいけないっていうことに対するやるせなさや反抗心が昔からあったのかもしれないです。
岡林 そういう不満に対する半径のサイズ感がタケトモはどんどん広がっている気がしていて、オレはどんどん狭まっていっている。言いたい事は似ているけどそれに対する視座の持ち方にはどんどん差が出ているんじゃないかな。
──盛り上がってきたところで答えの出なさそうな質問を投げてみたくなりました。、今回何度か話にも出てきた「ポップ」って何だと思っていますか?
アツキ 僕はまず、ポップであるためにはオルタナティブじゃなきゃいけないと思っていますね。すでに20年前に開発された方法論をそのままやるとか、すでにポップとして認められているものを模倣することは一見すると一番ポップに思えるんですけど、それは20年前の面白さ、多くの人の共感を得る面白さであって、今は違うじゃないですか。その頃とは消費税も違うし、社会の在り方も変わり続けているから、昔と同じことを模倣してリバイバルだっていうのがポップだとは全く思わない。ちゃんとそこに新しい方法論で、世の中の人が求めているものにバチっと嵌められた人がそのときのポップスターになれる。
だからポップをそのまま模倣してポップスターになれる人はいないんじゃないかな。それを常に自分の制作の上でも意識していて、ポップを作るからこそ守りに入りたくない。例えばアルバム全曲をキャッチーな曲で固めるんじゃなくて、どこかに変な音を入れたりしたい。今回のEPで言えば“Shape of Love”はスタッフ間で入れるかどうか議論があったけど、絶対これをやりたいって突き通す必要があると思った理由はそういうところで。ポップであるためには絶対どこかにオルタナティブがないといけない。そのときの時代をひっくり返そうって気概がないとポップにはなれない。
岡林 自分のものであり、誰のものになってもいいというか。前作から自分と他人の間にあるものを形にしていく作業を意識的に始めたんですけど、やればやるほど自分が慣れ親しんでいたようなポップスに不思議と近づいている感じがあるんです。あと、100%聴き手のために作ったとしたら、集められたのはいいけど誰と話しているんだろう?みたいな状態になってしまうから、誰の何と共鳴しているのかの目印をわかりやすくしておくためにもちゃんと一定のエゴもなきゃいけない。つまり対話がしやすいような遊び場を作るのがポップスなのかなと。
──対話のきっかけを作る感覚ですね。
アツキ 今の話聞くと、お互いに似たようなものに影響を受けていたり、感覚が似ていたりするけど、全然違う。これは昔からずっと思っていたんですけど、僕よりも健勝さんの方が圧倒的に芸術家肌というか、感覚派な気がしていて。僕は、「ここはこうだからこっちはこう」みたいな論理的なアプローチをしてしまう。
それこそ健勝さんの初期の自主制作盤『when we meet up』から聴いているんですけど、それはすごい音にリバーヴが掛かっていて。そのキラキラ感みたいなものがちゃんと引き継がれて“fallin’”になっていったりする。あのとき健勝さんがイメージしていた感覚を洗練していった結果がこれなんだって後から答え合わせができてるんです。そもそもキラキラ感を出したいという発想そのものが僕の中には無いので、そこに対する強い嫉妬と憧れがあって。その発想力に追いつけないなと思ってますね。
岡林 ありがとうございます(笑)。
──理論派と感覚派なんですね。
アツキ だからぶつからないのかなと思います。理論派と理論派はぶつかっちゃうので。その発想でこうなるのねっていつも驚いていて。“Highway”のラップの部分とかモーニング娘。の“抱いてHOLD ON ME!”のオマージュだったりとか。
岡林 オレが幼少期のとき父親とドライブいくときに必ず流れていた曲だったので、ドライブ・ソングを作りたいと思ってオマージュしたんです。
──理論ではたどり着けなさそうですね。
アツキ 理論では絶対たどり着けない。理論的には“Highway”と“抱いてHOLD ON ME!”はリンクしていないけど、確かにフィーリングは共通しているんですよね。そうやって作っているところにずっと憧れています。
岡林 恐縮です(笑)。
──最後にお互いの作品の中で印象に残っている部分を教えてください。
アツキ “laundly”が名曲だって話をしたくて。「貸したあのTシャツの柄と乾燥機の中で時折目が合う」っていう歌詞があって、まず服と目が合うことで別れたであろう恋人を思い出している状況が思い浮かぶ。あと《カ・シ・タ》って「貸した」を分けて歌うところにその切なさとかランドリーでボーッとしながら回っているのを見ている映像が、メロディーの譜割と歌詞の言葉選びとでバシッと情景描写できていて、僕は泣きましたね(笑)。今からでもシングルにして欲しい(笑)。
岡林 僕は先行シングルの“Family”をニューリリースのプレイリストの中で聴いたんですけど、明らかに他の曲とは出音からして異質で。これをどうやって浮かないようにするんだろうと思っていたらEPで見事にまとまっていたんです。
シグネチャーアレンジというか、この人なりの歌詞やメロディーの癖のようなものが鍛錬されていく中で、この先何に自分らしさを見出すんだろう? これ以上やることって何かあるかな? と思っていたら、とうとう自分なりの出音というものに手を出したなと。例えばNUMBER GIRLは聴いた瞬間に「NUMBER GIRLだ」ってわかるじゃないですか。タケトモはそういうものにどんどん近づいている気がしますね。あとオレが思うアツキタケトモはポップス職人で、今回はすごくオルタナティブな音像の中にも歌のメロディーだけじゃなくリフとかにも歌心が垣間見える瞬間がありました。今こうやって小出しにしているものが全面に出てきたときが、この人の本気であり真骨頂な気もするんです。オレは早くそれが聴きたいので作ってください。
アツキ それは実際そうで、このEPで終わりではなくてEPの曲もいくつか入れる予定のアルバムへ向けての過程なんです。この先さらにポップに開けたものにする。ジャンルがどれだけ散らばっていても出音で個性を作る、出音の質感がいっしょだからこの人の曲だって思ってもらえるものを今回のEPで作れたから、さらに何でもできる気持ちになっています。健勝さんは『ERAM』で一旦出し切った感はありますか? 『2020の窓辺から』のときは「もう曲なんて作らない」ってくらい燃え尽きてたじゃないですか。
岡林 それで言うと「できるわけない」と思っていたポップスが頑張ったらできちゃったのが今作なので、逆にあれもこれもできるってこと?って感じで。だから燃え尽き症候群というよりはむしろやりたいことが増えてる。それは音楽をやり始めてから初めてのことですね。アルバムってアーティストによってアルゴリズムが似ている気がしていて、ファーストで一度集大成を出して、セカンドで迷走して、サードでまた真骨頂が出る、みたいな。オレはサード・アルバムを作るためにセカンド・アルバムを作った節があるというか。圧倒的にいろんなアーティストのサード・アルバムが好きなので、ようやく関門を突破して「やっとサード・アルバムを作れる」って気持ちですね。視界はいつもより開けています。
Text:Daiki Takaku
Photo:小林真梨子
アツキタケトモ
2020年7月より活動開始。時代やジャンルを問わず過去の膨大なアーカイブを吸収し、「ポップスの普遍性」を日々研究、追求するシンガー。歌謡曲に影響を受けたメロディに乗せ、現代社会の陰を描き、オルタナティブなサウンドを掛け合わせた独自の音楽性を追求している。作詞・作曲・編曲・演奏・録音までを全て一人で行った1stアルバム『無口な人』は2020年9月にリリースされ、ノンプロモーションながらSpotifyやApple Musicなどのストリーミングサービスで多くのプレイリストに選出され、早耳の音楽ファンから好評を得た。2021年7月には、10ヶ月ぶりの新作となる2ndアルバム『幸せですか』をリリースした。
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Ghost like girlfriend
1994年7月25日、淡路島出身。シンガーソングライター・岡林健勝のソロプロジェクト。2013年より大学進学と同時に「岡林健勝」名義でライブ活動開始。4年活動した後、名義を「Ghost like girlfriend」と改め、2017年3月「fallin’」リリース。ストリーミング配信を開始するや否や話題を呼び、YouTubeにアップしているMVは公開から5年弱で360万回再生を超えている。同年5月に1st EP「WEAKNESS」、2018年7月に2nd EP「WITNESS」、2019年1月に3rd EP「WINDNESS」のインディー3部作を発表。以上の作品を披露するため、Ghost like girlfriend名義で初めてのライブを2019年3月に渋谷WWWにて開催。即日完売となり、チケットはプレミア化した。その後6月に、EMI Recordsより1st full album「Version」でメジャーデビュー。また、2020年1月24日公開の映画『サヨナラまでの30分』では初の楽曲提供を行う。1月15日に配信シングル「光線」、5月6日に同「BAKE NO KAWA」をリリース、11月18日(水)に4th EP 『2020の窓辺から』をリリースした。
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Outsider – EP
2022年6月29日
アツキタケトモ
収録曲:
1. Untitled
2. Outsider
3. Family
4. Shape of Love
5. Period
6. それだけのことなのに
楽曲配信リンクはこちら
ERAM
2022年6月8日(水)
Ghost like girlfriend
収録曲:
1. ERAM
2. 光線
3. laundry
4. Rainof○○○
5. 面影
6. 音楽
7. Highway
8. Midnight crusing
9. Birthday
10. Flannel
11. マリアージュ
楽曲配信リンクはこちら

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