もう一度踊らない? 40歳を過ぎてからのダンスがもたらす健康効果 – Women’s Health Japan

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「踊りに行くと、心と体がまた1つになる」
イギリスDJ界のレジェンド、カール・コックスのビートに合わせて踊っているのは、主に40代から50代の中年男女。スリルを求める学生や、野心に溢れた25歳の若者の姿は少ない。

アヌは42歳のトラウマ専門医。4歳のひとり息子が「イビザ(EDMの聖地)でできた」と確信しているアヌにとってパーティは、仕事や家と同じくらいなくてはならない人生の一部。
20代や30代が遠い昔の記憶になっても、気の合う仲間とビートに合わせて踊り続ける。その行為は私たちの心と体に、どのような影響を及ぼすのだろう? イギリス版ウィメンズヘルスが徹底検証。

でも、アヌのような人は少数派。2017年の調査によると、英国民は平均31歳でクラブ通いをやめる(これはあくまで平均であり、2019年の調査では、45歳を過ぎても週に1度は踊り狂うというイギリス人が370万人もいることが分かった)。
でも、この状況は変わりつつある。2022年5月、DJのアニー・マックは新しいイベント『ビフォー・ミッドナイト』をスタートさせた。薄暗いフロアの先で業界の大物がクルクル回り、名曲が流れればオーディエンスがどよめくという一見普通のイベントだが、夜7時に始まって、シンデレラが城を出る(深夜0時)までに終わるので、お気に入りのDJが深夜2時まで現れず、家に帰ると朝の4時を回っているようなことがない。
『ビフォー・ミッドナイト』は「寝なきゃダメな人」のためのイベントとして知られている。マックは、このイベントを「クラブに行くのは好き」だけれど「週末も頭を使う必要があり、睡眠時間を削るわけにはいかない人」のために作った。
初日のチケットは見事完売。ロンドン北部イズリントンの会場では、40代~50代の人が20代~30代の人と踊った。年齢不問で誰もが自由に羽を伸ばせるインクルーシブな『ビフォー・ミッドナイト』は、オーディエンスに大ウケかつチケットの売上も好調とあり、次回の日時も決まっている。
ベテランのクラバーたちは、快楽のためだけに踊っているわけじゃない。クラブには、エネルギーを発散させたり、帰属意識を与えたり、心の傷を癒やしたりする力もある。
この質問をする相手として、著書に『The Dance Cure: The surprising secret to being smarter, stronger, happier』を持つ元プロダンサーで現心理学者のピーター・ラヴェットほどふさわしい人はいない。
まずは脳の話から。「脳の中にある内因性オピオイド系というネットワークは、高揚感のもととなる数々の幸福ホルモンを分泌します。そのうちの1つ、β-エンドルフィンは体にもともと備わっている鎮痛剤です」
β-エンドルフィンはケガをしたときだけでなく、好きな人に抱きしめられたときや、ジントニックを飲みながらリラックスしているときにも分泌される。思いやりや安心感を抱かせるオキシトシンも、ダンスによって分泌される幸福ホルモンの1種。
「英オックスフォード大学の研究では、自分の動きを人の動きに合わせる(クラブでDJの音楽に合わせて踊ったり、ラインダンスで意図的に動きをシンクロさせたりする)と、この内因性オピオイド系が活性化して、モルヒネや麻薬のような作用を持つ幸福ホルモンの量が増えることが分かりました」とラヴェット博士。幸福ホルモンの量が増えると痛みを感じにくくなり、結束感や連帯感が強くなる。
専門家に言わせると、ダンスは人類の進化の過程でも重要な役割を果たしてきた。つまり、人類が誕生してから今日までずっと踊り続けてきたのは、結束感を醸成し、生存に不可欠な活動(シェルターの建設や狩り)を協力して行えるようにするため。
社会的な動物である人間にとって、ソーシャルネットワークは昔から生きる上で欠かせないもの。その点、ダンスが中高年に与える影響は特に大きい。
何十年も生きていれば、個人のソーシャルネットワークは変わる。「子どもが巣立ったり親が亡くなったりして、個人が帰属するコミュニティは変わります」とラヴェット博士。でも、クラブや野外フェスティバルで群衆と共に踊れば、自分のソーシャルネットワークが歳と共に変わっても、社会に対する帰属感を失わずに済む。
40歳を過ぎてからも元気に踊れば、身体面で得をする。「私は59歳ですが、この歳になると体の節々が痛みます」とラヴェット博士。「40代~60代で踊ることの身体的なメリットは、痛覚閾値が高くなって、痛みを感じにくくなることですね」。代替医療専門誌『Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine』掲載の研究結果も、線維筋痛症(体の広い範囲に痛みやこわばりが生じる神経学的疾患)の患者が定期的に踊ったところ、体の痛みが著しく緩和したことを示している。中年期以降に踊れば、認知機能の向上も見込める。
「DJに合わせて即興で自由に踊ると、問題解決能力が向上します」とラヴェット博士。「特に、正しい答えが複数あるような問題の解決が楽になります」。健康心理学者のスーラ・ウィントガッセン博士も同じ意見。「踊っていると意識が体の動きに向くので、注意力やマインドフルネスが醸成されます。そうするとストレスが減り、健やかに歳を重ねられるようになり、認知機能の柔軟性が高まります」
認知機能の柔軟性は、意外と早めに考え始めたほうがいい問題。医学専門誌『The British Medical Journal』掲載の論文によると、認知機能(記憶力、論理的思考能力、理解力)の低下は、かねてから言われる60歳を待たずに、早ければ45歳で訪れる。
世の中にはドラッグ(エクスタシーやMDMA)の話を抜きにパーティーは語れないという人も多いけれど、この記事に登場する女性たちが求めているのは、違法薬物ではなく音楽、ダンス、コミュニティのコンビネーション。
例えば、英バーミンガムに住むマインドフルネスの専門家で、“マインドフルDJ”として知られる49歳のカリーンは、まだ未成年の17歳で初めてクラブに忍び込んだ。19歳でハウスミュージックに出会い、ダンスパーティーに顔を出してはDJを物色した。車でクラブに通っていたため、お酒を飲むことはめったになかった。
いまも3カ月に1度のペースで音楽イベントに参加する。でも、昔よりえり好みが激しくなった。ダンスフロアが何千もの人々で埋め尽くされるイベントに行くこともあるけれど、一番好きなのは暖かい国で開かれる親密な雰囲気のフェスティバル。音楽の趣味が似ている人たちとも知り合った。「自分が好きなイベントに行くと、同じ顔ぶれだったりして」とカリーン。「このグループを私たちは“ミュージック・ファミリー”と呼んでいます。素晴らしい関係ですよ」
カリーンが狙うのも日中に始まるイベント。夜の早い時間帯に終わるので、朝帰りをせずに済む。「疲れているので、週末は潰したくありません」
カリーンにとってダンスは、健康を奪うものではなく促進するもの。「健康のためになることと言えばジムに通うことかもしませんが、踊るのは最高に楽しいので、体だけでなく心にもよい。踊れば当然運動になりますが、自分が何かとつながっている感じもします」。カリーンいわく、踊っていると鬱積(うっせき)したエネルギーが発散されて、負の感情の性質が変わり、魂が浄化されるそう。
パンデミックによる行動制限の解除を受けて、ロンドン東部のハックニーにある『GROW』のイベントに参加したカリーンは、コミュニティの必要性を実感することになる。「私自身、パンデミックをうまく乗り切ったつもりでいましたが、あのイベントでは、実際かなり我慢していたことに気付かされました」
1年半ぶりに友達と顔を合わせ、抱き締めたくて仕方なかった人を抱き締め、聴きたくて仕方なかった音を聴いた。「音楽は私の中にありますが、あの言いようのない感覚は、音楽とコミュニティが融合してこそ得られるものです」とカリーン。「なんとなくスピリチュアルな感覚です。ダンスフロアの向こう側にいる人と同じ曲を聴きながら踊るだけで、一体感が得られます」
ダンスを愛する人の中には、カリーンと同様「過去とスピリチュアルにつながれる感がある」と言う人が多い。ワークショップ&イベント運営会社『Street Spirituality』創設者で、長年にわたりシャーマン教やスピリチュアルな文化を探究しているエディ・エルシーいわく、これは驚くことでも何でもない。
「変性意識状態を体験するのは、さまざまな伝統文化の中で、人生に欠かせないことと言われています。反復的な音に合わせて反復的に体を揺らすのは、一種の意識変容であるトランス状態に入るためのオススメの方法の1つです」
※変性意識状態とは、覚醒時の意識状態が日常的な意識状態と大きく異なることを言う。クリエイティブな“フロー”に入る(スケッチやランニング、絵画などに没頭して数時間が数分に感じる)のも、深い瞑想に入るのも変性意識状態の一例。この状態では、論理的な思考を司る脳の前頭葉が大人しくなり、自由でクリエイティブな思考や深い安らぎを与えるシータ波の活動が活発になる。
「コミュニティは踊りを通して、みんなで一斉に変性意識状態に入ります。精神的には周囲とつながり、心理的には人とつながる。教義的な決まりでも強要されるものでもないのですが、変性意識状態の共有は本当に大切にされており、このような儀式的なダンスはヒーリングの一様式として見られています」
エルシーによると、伝統的な社会において儀式的なダンスを仕切るのは、高齢者であることが多い。踊るのは若者だけ、という現代の認識とは非常に対照的。この認識を変える一番の方法は、40代、50代、60代のダンス人口を増やして、それをノーマライズ(標準化)すること。
クラブやフェスティバルに行ったところでスピリチュアルな体験はできないと思うかもしれないけれど、そこには古くから伝わるスピリチュアルな儀式と共通の要素がある。その一例としてアンダーグラウンド・クラブでは「人々が俗世を離れて“リミナル・スペース”に入ります。そこでは誰もが共通の意図を持ち、踊りや音、ドラッグを用いて変性意識状態に入ります。儀式ですから、ドレスコードがあってもおかしくありません。多くの場合、この儀式は朝まで続き、みんな何らかの形跡を残して去ります。汗や笑い声などですね。だから俗世に戻ると、何かを脱ぎ捨てたような感覚になるのです」
「この体験をシャーマン文化の中で育った人に話せば、たぶん『かなりよさそうな儀式ですね』なんていうコメントが返ってきますよ」
アヌが踊る最大の理由は癒やされるため。彼女と彼女の夫にとってダンスは、子ども時代のトラウマを乗り越える上で有効なツール。「メロディは魂を癒やしてくれます」とアヌ。「メロディに合わせて体を揺らすと、心と体がつながります」
ウィントガッセン博士によると、ダンスのヒーリング効果は科学的にも証明されている。「ここ最近、体にアプローチして辛い出来事やトラウマに対処することの重要性を指摘する研究結果が増えています。EDMR(眼球運動による脱感作と再処理法)や体性感覚療法も、そのアプローチの一種ですね。こういう療法は、分離不安症などの長期的な症状を和らげることが分かっています」
生理学的な話をすると「脳は、トラウマ的な出来事を普通の出来事と同じように処理することができません」とウィントガッセン博士。「だから、トラウマ的な出来事を経験すると、脳が(認知領域と感情領域の)2つに分かれてしまいます」
脳の認知領域(脳の前部と上部で論理的な思考をつかさどる領域)はオフラインになり、脳の感情領域(脳の中心にある辺縁系や、“戦うか逃げるか”反応をつかさどる扁桃体)が主導権を握るため、論理的な思考能力が著しく衰える。
ウィントガッセン博士の話では、トラウマ的な出来事に対する反応(いら立ち、不安、パニックなど)を論理や理屈で何とかしようとすると、心の綱引きが始まってストレスが増してしまう。
同時に脳は、トラウマ的な出来事に付随する感情から自分の身を守るために、その出来事に関する記憶や思考を抑圧しようとすることがある。トラウマ的な出来事に対して無反応になったり、分離不安症になったりするのは、この抑圧メカニズムのせい。ウィントガッセン博士いわく、この症状にも段階があり、軽度の場合はスマホをスクロールして気を紛らわせるくらいで済むけれど、重度の場合は心身が分離しているように感じる。
でも、ダンスで体にアプローチすれば、このような症状が快方に向かう。「ダンスなどで感情を具現化すると、無理して脳の論理的な領域を使うことなく、“いま”に戻ってくることができます。これは、トラウマ的な出来事を処理して感情表出を制御する上でも、心と体を1つにする上でも欠かせないことですよ」
コロナ禍の孤独と不安からいまだ抜け出せない現在の社会も、ここから学べるものがある。
「コロナ禍で私たちは、人と一緒にいることに恐怖を覚えました。ロックダウンが終わったとはいえ、どのくらい危険なのかも正確に分からないまま長い月日を過ごしたあとは、人の多いところに行くのが怖くて当然です。コロナ禍では、人と切り離された感じもしました。一緒に踊れば、こういう否定的な感情が弱くなり、つながっているという感覚が強くなります」
ウィントガッセン博士によれば、To-Doリストがどれだけ長くても、自分が楽しい、生きていると感じられることをするための時間や空間は、トラウマの有無に関わらず万人が作るべき。
「一般的に“楽しいことをする”のは、“自分を甘やかすこと”だと思われています。でも、それが人生や心身の健康に与える影響は絶大です。みんな健康になりたいと言うのは平気なのに、楽しみたいと言うのはためらう。人生を楽しむことは、体の健康にも心の健康にも重要です。私たちには、それが分かっていないのかもしれません」
「正当な理由がないと楽しめないなら、心と体が1つになることや、解放感が得られることをするのは一種の医療行為だと思ってください」
アヌには、その意味がよく分かる。果たさなければならない責任が多い中で、ダンスは心の健康を守るために欠かせないツール。「私たちは、いつも仕事や子育てに必死です。だから、ダンスフロアで自分のことを褒めてあげると、心と体がまた1つになるんです」
事実、あの夜アヌは、コヴェントリーの駐車場でカール・コックスに合わせて踊りながら、このミュージシャンがデビューした1991年以降に生まれた人にしか味わえないあふれんばかりの幸せと、つながりと解放感を味わった。ガチガチの日常生活を離れ、群衆と一体化して無我夢中で踊る喜びは、何物にも代え難い。
だから、もう一度踊りに行こう。それだけで、あなたの心と体が驚くほど元気になるかも。
クラブやフェスティバルが苦手でも大丈夫。ダンスの恩恵は別の種類のイベントでも受けられる。
エクスタティックダンスは“つながり”を中核としたダンスの形式で、自分の頭を出て体に入ることが重要とされる。どの会場でもフォーマットは大抵似ており、ダンスフロアでは私語が禁止。アルコールも提供されない。ライブDJは、ソフトな出だしから一転、中盤で高速のクレッシェンドになり、最後は再び穏やかになる曲を好む。
朝から踊るコミュニティ『モーニング・グローリーヴィレ』はアルコールを提供しないダンスイベントで、“意識のあるまま踊る”というコンセプトを世に広めた。このイベントは、アーティスティックかつクリエイティブな空間で朝10時頃から始まる。会場には、複数のDJが控えるダンスフロアだけでなく、マッサージやヨガ、レイキのワークショップが受けられる“ウェルネス空間”もある。

ニューヨークから世界中に広がりつつあるダイナミックな5リズムは“動く瞑想”。数々な神秘的なメソッドを探究してきたガブリエル・ロスが、ニューエイジのスピリチュアルな信念に基づいて生み出した。ただし、呼び込みが苦手な人は避けたほうがいいかもしれない。
 
※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Claudia Canavan Translation: Ai Igamoto

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