名画を堪能しながらフランス近代絵画の歴史を学ぶ『スイス プチ・パレ美術館展』内覧会レポート – http://spice.eplus.jp/

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『スイス プチ・パレ美術館展 印象派からエコール・ド・パリへ』
2022年7月13日(水)から10月10日(月)まで、東京・新宿のSOMPO美術館にて『スイス プチ・パレ美術館展 印象派からエコール・ド・パリへ』が開催されている。本展は、スイス・ジュネーヴにあり、19世紀後半~20世紀前半のフランス近代絵画を中心とする美術作品を収蔵するプチ・パレ美術館より、38人の画家による油彩画65点を紹介するものだ。日本では約30年ぶりとなるコレクション展であるが、プチ・パレ美術館は1998年より休館しているため、作品をまとまった形で鑑賞できる貴重な機会といえる。以下、近代フランス絵画を一挙に紹介する本展の見どころをレポートしよう。
展示風景 第6章「ポスト印象派とエコール・ド・パリ」
6章構成の本展では、印象派から新印象派、ナビ派、フォーヴィスム、キュビスム、エコール・ド・パリに至るまでの絵画の流れを確認しながら、それぞれの絵画運動やグループに属する作品を堪能できる。
印象派と聞いて思い浮かべる画家の一人に、オーギュスト・ルノワールも挙げられるだろう。本展の《詩人アリス・ヴァリエール=メルツバッハの肖像》は、晩年に肖像画の注文制作からは距離を置いていたルノアールが手掛けた珍しい作品だ。ルノワールは当初、この依頼に対してあまり乗り気ではなかったそうだが、モデルの女性が帽子を外した時、美しい髪が目に入り、制作を許諾したのだという。白いサテンのドレスの艶や肌の色合いに目を奪われる。
左: オーギュスト・ルノワール《詩人アリス・ヴァリエール=メルツバッハの肖像》1913 油彩、カンヴァス
新印象派に属し、点描法の提唱者の一人であるアンリ=エドモン・クロスの《糸杉のノクチューン》も、色彩の美しさが際立つ作品だ。青を基調とした色味と、幾何学的に描かれた木々や舟、白い衣をまとう女性たちの姿はどこか非現実的で、抒情性を漂わせる。
左:アンリ=エドモン・クロス《遠出する人》1894 油彩、カンヴァス 右:アンリ=エドモン・クロス《糸杉のノクチューン》1896 油彩・カンヴァス
今回は、預言者を意味する「ナビ」をグループ名とするナビ派の画家であるモーリス・ドニの作品が複数出展されている。ドニは、神秘主義や象徴主義などから影響を受け、宗教的な主題に取り組んだ一方、家族や友人などを取り入れた情景の作品を数多く残している。《休暇中の宿題》《ペロス=ギレックの海水浴場》といった絵を見ると、人物の幸せそうな眼差しや明るい雰囲気を味わうことができるようだ。
左: モーリス・ドニ《休暇中の宿題》1906 油彩、カンヴァス 右:モーリス・ドニ《ペロス=ギレックの海水浴場》1924 油彩・カンヴァス
本展では、論文『キュビスムについて』の著者(共著)であり、キュビスムの理論的立役者といえるアルベール・グレーズとジャン・メッツァンジェの作品も同時に鑑賞することができる。グレーズの《座る裸婦》は、装飾を排除した分析的な様式で描かれており、メッツァンジェの《首飾りを着けた若い女》は、キュビスムの理論を打ち立てた時期の前後に制作された作品である。
右:アルベール・グレーズ《座る裸婦》1909 油彩・カンヴァス
左: ジャン・メッツァンジェ《首飾りを着けた若い女》1911 油彩、カンヴァス 中央:ジャン・メッツァンジェ《風景》1913 油彩、カンヴァス 右:ジャン・メッツァンジェ《スフィンクス》1920 油彩・カンヴァス
プチ・パレ美術館の創設者である実業家オスカー・ゲーズは、当時は世間的な評価が得られなかった作家や、美術史上で注目されない女流作家らを多く見出した。そのため、日本ではあまり知られていない作家の絵画や、玄人好みの作品などを多く鑑賞することができる。
アシール・ロージェは新印象派の画家で、スーラ、シニャック、ピサロらの影響を受けている。《窓辺》はロージェの絵の中でも唯一の室内画とされる作品で、春先の陽光が降り注ぐ南フランスの情景の中、幾何学的な構成要素の中で、硬直したような人物が精緻な筆致で描かれており、絵に流れるゆったりとした時間が伝わってくるようだ。
左: アシール・ロージェ《窓辺》1899 油彩、カンヴァス
マリア・ブランシャールは、フォーヴィスムやキュビスムの作家と親交があり、最終的に具象に戻るなど、さまざまな遍歴を辿った画家である。彼女の《輪回しをする子ども》などは印象的な色の領域で区切られており、キュビスムの様式の中に独自性が見受けられる。
左: マリア・ブランシャール 《輪回しをする子ども》1916-18 油彩、カンヴァス
シュザンヌ・ヴァラドンは、ルノワールらのモデルをしながら画家から技法を学ぶという異色の経歴の持ち主で、ドガに才能を見出され、絵を学ぶように勧められたそうだ。ヴァラドンは国民美術協会に認められた初めての女性で、また本展でも展示されているモーリス・ユトリロの母でもある。ヴァラドンの《コントラバスを弾く女》は、コントラバスと奏者の曲線、マントルピースと窓の直線、楽器の赤と衣服の青が対比をなし、構図の妙と優れた色彩感覚が際立つ。
右: シュザンヌ・ヴァラドン《コントラバスを弾く女》1912 油彩、カンヴァス
テオフィル=アレクサンドル・スタンランという名を知らなくても、パリのモンマルトルで一世を風靡したキャバレー「ル・シャ・ノワール」の黒猫のポスターの作家、と言えば、ぴんと来る人も多いのではないか。ポスター画家として有名なスタンランは、「ル・シャ・ノワール」でルノワールやアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックらと出会い、住まいがあったモンマルトルとその周辺の貧しい風景も多く描いている。本展ではスタンランの油彩3点を並べて鑑賞でき、中でもポスターの手本として提供されたという《猫と一緒の母と子》は、大の猫好きで、しばしば猫を少女と共に描いたというスタンランの趣向を堪能できる逸品である。
左:テオフィル=アレクサンドル・スタンラン《純愛》1909 油彩、カンヴァス 中央: テオフィル=アレクサンドル・スタンラン《2人のパリジェンヌ》1902 油彩、カンヴァス  右:テオフィル=アレクサンドル・スタンラン《猫と一緒の母と子》1885 油彩・カンヴァス
キュビスムの画家や多くの知識人と交流のあったモイズ・キスリングは、第一次大戦後に古典主義的絵画の調和のとれた絵画を描くようになった。キスリングは女性の半身像と肖像画を多く描いているが、《赤毛の女》はシンプルな服装と物憂げな眼差し、限られた色調が抑制された美を感じさせ、当時のモダンな女性の魅力をとらえているようだ。
左: モイズ・キスリング《赤毛の女》1929 油彩、カンヴァス 右: モイズ・キスリング《サン=トロペのシエスタ》1916 油彩・カンヴァス
SOMPO美術館は、フランス近代絵画のコレクションを多く所蔵している。今回はその中から、プチ・パレ美術館の収蔵品でもあるルノワール、ドニ、藤田嗣治、ユトリロらの作品が会場の最後に展示されている。同じ作家の関連する作品を一緒に見ることでイメージが膨らみ、より豊かな鑑賞体験ができるだろう。
左: オーギュスト・ルノワール《帽子の娘》1910 油彩、カンヴァス 右: オーギュスト・ルノワール《浴女》1892-93年頃 油彩・カンヴァス
また、会場には出品画家の生没年一覧や、無料の解説冊子も用意されているため、作家が属する運動やグループのほか、どこから影響を受けたのかという流れも直感的に理解しやすい。
出品画家の生没年などが人目で分かる一覧
全体的に美しい色調の絵が多く、絵が引き立つように背景にも趣向が凝らしてあり、明るい気持ちで鑑賞することができるのも本展の特徴のひとつだ。印象派から20世紀前半くらいまでのフランス近代絵画を堪能できる『スイス プチ・パレ美術館展 印象派からエコール・ド・パリへ』を是非お見逃しなく。

文・撮影=中野昭子
中野昭子
アートの中でも特に現代アート、写真、建築が好き。 休日は古書店か図書館か美術館か映画館にいます。 面白そうなものをどんどん発信していく予定。
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