繊細で優しく、ほろ苦く美しい歌である。ビージーズの1970年代半ばからのディスコ時代以前の作品としては、日本で抜群の人気を誇る。’71年の英国映画『小さな恋のメロディ(Melody)』の主題歌として今も多くの人の心に残るのが「メロディ・フェア」である。
まだ幼ささえ残る少年少女の初恋を描いた映画は、日本で大ヒットした。
メロディを演じるトレイシー・ハイドの前歯がキュートでみずみずしい笑顔、金髪が愛らしいダニエル役のマーク・レスターの落ち着いた初々しさが、数多くの名シーンとともに、ビージーズなどの旋律をバックに脳裏に刻まれて離れない。
緑豊かな墓地を2人で手をつないで歩き、一つのリンゴをかじるシーンでは「若葉のころ(First of May)」、授業を抜け出して海岸で遊ぶ場面では「ギブ・ユア・ベスト」など、ビージーズの楽曲が効果的に使われていた。そして何といってもテーマ曲の「メロディ・フェア」である。主人公のメロディのテーマ曲でもある美しい作品だ。
校長の叱責に「ぼくたちは一緒にいたいんです」というダニエル。2人の交際に理解を示さない両親に対して「幸せになりたいだけなのに何がいけないの」というメロディ。その2人の「結婚式」をあげるために集団脱走したクラスメートたち。ガキ大将のジャック・ワイルド演じるオーンショーが聖書の朗読をするシーンには思わず笑みがもれる。
「泣き顔のあの娘は誰なんだい/たくさんのことに気がついてしまって/生きることは競争のように厳しいと知って/疲れた顔なんて見せないでおくれ/メロディ・フェア、さあ髪をとかして/君だってとても素敵さ/メロディ・フェア、君は女なんだよ」。
ラストを飾るBGM、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング(CSN&Y)の「ティーチ・ユア・チルドレン」も素晴らしい。「親たちに教えておくがよい/子どもたちの世界はゆっくりと過ぎてゆく/君たちの夢を親に語るがいい/何と言われようとも」。
そしてダニエルとメロディを乗せたトロッコはどこへ向かったのか?
「メロディ・フェア」はバリー、ロビン、モーリスのギブ三兄弟による作詞・作曲。もともとはビージーズ4作目のアルバム『オデッサ』(’69)に収録されていた。バリーは、「「メロディ・フェア」はおそらくはビートルズの「エリナー・リグビー」に影響を受けたのだと思う。同じようなステートメントを創りたかったのだ」という。
日本では映画が公開される前月の’71年5月にシングルカットされ、映画の人気と相まって、50万枚近くを売り上げ、オリコンの3位に昇る大ヒットとなった。英米では映画はヒットせず、同曲もシングルカットされなかったが、隠れた名曲として人気があるという。
オリジナル・サウンドトラックの三宅真一郎氏のライナーノーツによれば、制作のデビッ
ド・パットナムは「私は音楽映画を作る。なぜなら、音楽こそ世界の共通語だからだ。音楽によるコミュニケーションによって、愛と平和の世界を作る。そういった意味で『小さな恋のメロディ』は一種のミュージカル映画だ」と語っていた。
文・桑原亘之介
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