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配信
紅白ではとにかくファッショナブルだった明菜
【歌姫伝説 中森明菜の軌跡と奇跡】 １９８８年１１月１日に発売された中森明菜の通算２２枚目のシングル「Ｉ ＭＩＳＳＥＤ 〝ＴＨＥ ＳＨＯＣＫ〟（アイ・ミスト・ザ・ショック）」は、衣装のイメージから選曲された異色のシングルだった。それは明菜のアーティストとしての存在感を示したものとなった。 【写真２枚】初々しいビキニ姿の中森明菜 等 当時を知る古参の音楽関係者は「本来は作品に合わせて衣装や振り付けを決めていくものでしたが、明菜の場合、楽曲も衣装も同じ価値観で、とにかく両者が一体化したものを求めていたのでしょう」と前置きした上で、「シンガー・ソングライターはよく楽曲を作りながら、頭の中で自分のステージをイメージするといいます。どんなセットで、照明はどうしたいとか…。自身の楽曲をどう表現したらいいのか、いろいろ考えるものです。明菜はシンガー・ソングライターではありませんが、表現者として卓越した勘というか才能を持っていたのでしょう。ある意味でインスピレーションと思いますが、本来なら作家が求めることを、明菜は楽曲を聴いた瞬間、自分自身…つまり中森明菜の世界に取り込んでしまうのです。明菜の作品はすべてオンリーワンに化してしまうのです。明菜のセルフプロデュース能力なのですが」。 もっとも「アイ・ミスト・ザ・ショック」は、明菜の制作を担当してきたワーナー・パイオニア（現ワーナーミュージック・ジャパン）の藤倉克己（現音楽プロデューサー）が危惧した通り、チャート初登場３位（８８年１１月１４日付、オリコン調査）と１位は逃した。 洋楽部のカリスマ・ディレクターといわれた藤倉が、明菜の担当ディレクターに異動して最初に手掛けた作品が「サザン・ウインド」（８４年４月）。それから「ＴＡＴＴＯＯ」（８８年５月）までの１６作で連続首位を獲得してきた。が、その輝かしい記録が途絶えたことになる。藤倉は改めていう。 「正直ショックでしたが、重要なのは明菜が納得して歌えるかどうかです。もちろん抵抗しましたが、明菜の考えている方向性とかイメージとか…、シンガーとしてどう表現したいのかは理解できたし、そこまで考えているんだと、その深さも改めて感じさせられたことも事実です。とにかく時代を作る歌手としては間違っていなかった。そういう意味でも結果的には良かった」 藤倉のコンセプトとしていた「歌謡曲の王道」とは違ったが、明菜の意欲は理解できたという。 同曲の転機は８８年１２月３１日、「第３９回ＮＨＫ紅白歌合戦」だった。当初は「ＴＡＴＴＯＯ」が歌唱曲に挙がっていたが、明菜は「アイ・ミスト・ザ・ショック」を歌うことを強く熱望した。 「普通なら『ＴＡＴＴＯＯ』ですよ。しかし、明菜は甲賀真理子さんデザインの白い衣装をまとって『アイ・ミスト・ザ・ショック』を歌う自分の姿をイメージしていたのでしょう。ここでも明菜のこだわりを感じます。やはり『紅白』だからこそ意味があるのだと考えたのでしょうね」（前出の古参音楽関係者） 明菜の勘は見事にはまった。「紅白」で紅組司会だった和田アキ子は明菜を「この若さで、このスケール。中森明菜さん」と紹介。さらに歌の前振りでは「彼女のファッション・センスにもご注目ください」と、楽曲というより衣装をアピールしたのである。 「『紅白』での明菜は衣装を含め大きな話題になりました。結果ではありますが『アイ・ミスト・ザ・ショック』も注目され、ＣＤセールスも急増しました。オリコンのチャートは１位を逃しましたが、売り上げ的には『ＡＬ―ＭＡＵＪ』や『ＴＡＴＴＯＯ』を超えましたからね。『紅白』の視聴率が高かった（５３・９％）ことも功を奏したのだと思います」（当時を知るワーナーの営業担当者） デビュー６年。「アイ・ミスト・ザ・ショック」で明菜のシングルのトータルセールスは１０００万枚を突破したともいわれている。 ちなみに、この年で明菜にとってＣＤ連続１位とともに「紅白」も連続出場がストップした。 ＝敬称略 （芸能ジャーナリスト・渡邉裕二） ■中森明菜（なかもり・あきな） １９６５年７月１３日生まれ、東京都出身。８１年、日本テレビ系のオーディション番組「スター誕生！」で合格し、８２年５月１日、シングル「スローモーション」でデビュー。「少女Ａ」「禁区」「北ウイング」「飾りじゃないのよ涙は」「ＤＥＳＩＲＥ―情熱―」などヒット曲多数。ＮＨＫ紅白歌合戦には８回出場。８５、８６年には２年連続で日本レコード大賞を受賞している。
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