Gábor Lázár – Boundary Object – ele-king.net

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Gábor Lázár
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 マーク・フェル直系のデジタル・グリッチ・ハウスを展開するガーボル・ラザールの新作アルバム『Boundary Object』が、〈Planet Mu〉からリリースされた。2020年の『Source』も〈Planet Mu〉から発表されたアルバムだったので、同レーベルからは二作連続のアルバムとなる。
 ガーボル・ラザールは10年代のエクスペリメンタル・ミュージックを象徴するようなアーティストである。ラザールは2013年にラッセル・ハズウェルとのスプリット『Split』を彼自身が主宰する〈Last Foundation〉からリリースして以降、時代を代表するようなレーベルからコンスタントにアルバムをリリースしてきたのだから。
 まず2014年にロレンツォ・センニの〈Presto!?〉から『I.L.S.』をリリースした。次いで2015年、「Boomkat」傘下の〈The Death Of Rave〉からマーク・フェルとのコラボレーション・アルバム『The Neurobiology Of Moral Decision Making』を発表した。このアルバムに衝撃を受けたエレクトロニック・ミュージック・ファンも多いだろう。そして2017年にはフェリシア・アトキンソンとバルトロメ・サンソンの〈Shelter Press〉から『Crisis Of Representation』をリリースした。2018年に〈The Death Of Rave〉から『Unfold』を、2020年には〈Planet Mu〉から『Source』をリリースする。
 
 ざっと振り返ってみるとわかるように、ラザールは、リリース数はそれほど多くはないものの、時代を代表するレーベルやアーティストとのコラボレーションを積み重ねることでキャリアを築いてきたアーティストである。マーク・フェル的なグリッチ・テクノ/ハウス・トラックの後継者という意味でもとても重要な仕事を成し得てきた。彼は00年代以降の電子音響作品のサウンドを継承してきたのだ。
 最新作『Boundary Object』は、ラザールのデジタル技法の総決算とでもいうべきアルバムである。たしかに『Boundary Object』のすべての音には、SND(マーク・フェル)への深い洞察と崇拝やヴラディスラフ・ディレイからの影響をそこかしこに聴きとることはできる。しかしグリッチ・ノイズの活用には、ダンス・ミュージックの律動性や身体性を拡張させるような「新しい機能」もあるように思えた。
 どうやら本作はブダペストとプラハで自身が制作したインターフェースを用いて、リアルタイムで制作・録音されたらしい。この「リアルタイム」が大きなポイントではないか。バキバキにデジタル加工されたエクスペリメンタルな音であっても、どこか身体性に作用するサウンドに仕上がっていたのは、この「リアルタイム性」ゆえではないか。デジタル・グリッチ・サウンドによるDJとでもいうべきサウンドなのである。
 じっさい全8曲、どの曲もダンス・ミュージック/ハウス・ミュージックのリズム=律動を拡張している。1拍目のリズムとパッドが強調され、その後にグリッチ/デジタル加工された音響がうごめき、また繰り返す。反復はしかし微細にズレを孕みつつ、だが最初のアタック音はキープされる。ダンス・ミュージックをバックビートではなく、前拍を重視し組み直していく感覚が重要だ。ここにマーク・フェル/SNDは実践してきたグリッチ・ハウスの継承と発展を聴くことができるのだ。10年代グリッチ・サウンドを経由した「いま」のエレクトロニック・サウンドが鳴っている。
 アルバムの構成も見事だ。まず冒頭の安定と不安定と周期と非周期のあいだでリズムが変化する “Boundary Object I” でアルバムの基調となるサウンドを提示し、ストレートなリズムと隙間のあるサウンドをミニマルに聴かせる5曲め “Boundary Object V” で新しいミニマリズムを鳴らす。そして再びシンコペーションに満ちたサウンド・エディットの “Boundary Object VII” に行きつくなど聴き手を飽きさせない多彩な音響を展開する。しかもどのトラックも身体に作用するようなサウンドなのである。
 かつてのアルバムではさながら音の実験・研究所のように無機質に、かつミニマルに展開していたが(それはそれでクールで素晴らしいものだ)、この新作では音でリスナーとコミュニケートをもっと深めたいという意志を(勝手にだが)感じたほど。
 滑らかさと艶やさ。身体性の拡張。聴覚の拡張だけではないフィジカルな感覚の生成。これがガーボル・ラザールが最新作で至った地点ではないか。エクスペリメンタル・ミュージックでありながらも、最先端のダンス・ミュージックですらあること。そして、このふたつの境界線を軽々と超えてみせること。そう、ここにはリズム/ビートの新しい風が吹いている。
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