ICT雑感:歌(の長さ)は世につれ | InfoComニューズレター – InfoCom

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川淵 幹児

前回の私の雑文では、「サブスク」のことを少し書いてみました。サブスクのサービスが社会に広く普及し、これを賢く使えば大変便利で有用である一方で、いろいろなサービスに手を出してしまいがちであり、家計や支出の面からは必要なサービスを見極めて適切に管理することが必要ではないか、というようなことを申し上げました。
サブスクといえば、音楽の受容の面においても最近大きな変化が起こっていますね。サブスクによる音楽配信サービスが普及し、定額で膨大な楽曲リストの中から聞き放題で楽しめるので、身近に音楽に接していたい人にとってはいいサービスだと思います。こうしたサービスも、オンラインで音楽にアクセスできる環境が急速に整ったことで可能になったと思いますが、ストリーミングではなく音楽を手元に置いておきたい場合でも、オンラインで楽曲データをダウンロードするのが一般的になってきています。私自身も、基本的には形のあるものとして棚に並べたいほうなので、アルバムとしてはCDを買いますが、あの1曲を聴いてみたい、プレイングリストに加えたいというときは、ダウンロードを活用しています。
ところで、このように音楽の聴き方やアクセスの仕方、入手方法が変わったことで、聴き方自体にも変化が起こっているとの議論が盛んになっているようです。曲の一部分をスキップして聴くことが容易になり、一方でたくさんの情報をできるだけ効率的に入手したいという、タイムパフォーマンス(タイパ)を重視する価値観が広がったことで、イントロやギターソロを飛ばして聴くことが行われるようになったというのですが……。
ん? イントロをすっ飛ばす? 小田和正さんの「ラブ・ストーリーは突然に」は、冒頭の「テケテーン」のギターカッティングから聞かなきゃダメでしょ、とか、ギターソロはロックの聴きどころでしょ、「いとしのレイラ」からクラプトンのギターを取ったらどうなるの? などとどうしても思ってしまうのですが……。こうした音楽の聴き方の変化とそれがイントロに与える影響については、実際に検証している人がいて、昭和から平成の間はそれほど変化がないが、ここ2、3年の間に急に短くなってきていて、イントロなしの曲も増えている、などと分析されています。サブスクの配信では、イントロが長いと次の曲にスキップされてしまうのだそうです。
また、曲の長さ自体も短くなってきている、という話もあります。これもサブスクによる音楽配信と関わっているそうで、1曲1曲を短くしたほうが多くの曲数を聴いてもらえて実績が上がるから、ということらしいのですが。
曲の長さの点では、自分が子どもの頃は、ドーナツ版の片面はおよそ3分が目安だったと思います。その後、ロックやポップスの世界ではコンセプトアルバム制作が主流となり、個々の楽曲も長めになったような気がします。日本でもニューミュージックの台頭以降、同様の傾向になったように思いますが、最近はどうなんでしょうか……ちょっと調べてみるのも面白そうですね。
調べ方の切り口もいろいろなアプローチがあるかと思いますが、あまりたくさんのサンプルを調べるのは大変なので、簡易な手法として、米国のグラミー賞の最優秀レコード受賞曲と、ビルボードの年間チャート1位の曲について、10年毎に区切って平均値を取ってみました。洋楽から手をつけたのは、私がどちらかというと洋楽のほうを聴くからです。結果は次のとおりです。著名な曲の具体名も少し挙げています。
(注)1.グラミー賞は前年の曲を対象とするので、年代の取り方は、例えば1960年代=1961-70年受賞曲とした。
2.演奏時間はWikipediaの他、レコードのラベルやダウンロードサイト等を参照した。
3.アルバムバージョンに対してシングルバージョン、ラジオエディットなどの短いバージョンがある場合は、そちらの演奏時間とした。
長年聴いてきた印象のとおり、オールディーズの時代は3分弱が一般的だったのが、次第に長くなって4分を超えるのが普通になり、最近はまた短くなってきているというのが、数字の上でも把握されました。あと、時代が下るとともに、ラジオやMTVの都合に合わせてなのか、一定の長さにそろってきているように思われます。ごく最近のヒット曲、BTSの「Butter」(2分44秒)や今年最大のヒットとなりそうなハリー・スタイルズの「As It Was」(2分47秒)など、短い曲の流れがもっと加速するかもしれません。
洋楽だけではなく、日本のほうも調べてみました。上の例に倣って(これがサンプルとして適当なのか、特に最近の年代は議論がありそうですが)、日本レコード大賞の受賞曲と、年間シングルヒット第1位の曲で取ってみました。こちらはおなじみの曲も多数あるので、具体名も多く掲げてみました。
(注)1.日本レコード大賞の1990-92年は、歌謡曲・演歌部門とポップス・ロック部門の2曲の受賞曲があり、それぞれを0.5曲に換算した。
2.1972、73年の年間シングルヒット第1位はは同一曲(「女のみち」)であり、2曲分として換算した。
3.演奏時間の調べ方は、洋楽の場合と同様。
やはりかつてはそれほど長くなかったのが次第に長くなり、最近はやや短くなる傾向が一応見て取れますが、洋楽の場合と比べるとそれほど明快な傾向がないように感じられます。
日本の場合は、古い時代もムード歌謡などは比較的長時間であったこと、レコードに比べ収録時間の制約のないCDの時代にJ-POPの曲が長時間になったこと、欧米と比べてデジタル配信の浸透がやや遅いことなどが理由として想起されます。曲の作り方も、かつてのAメロとサビの繰り返しといったシンプルな構成から、特に最近のJ-POPでは、Aメロ→Bメロ→サビを繰り返した後にCメロから大サビ、などの複雑な作りが普通ではあります。サンプルの取り方を、例えばストリーミングやダウンロードの回数のチャートで取ると、また違う傾向が現れるかもしれないので、その辺はさらに調査を深めるといいかなと思いますが、いずれにせよ、音楽の受容の仕方がこれから曲の作り方にどのような影響を与えていくのか、興味深いところです。
今回いろいろ調べてみて改めて感じたのが、曲の長さと曲の良さはあまり関係がないな、時間が短くともいい曲はたっぷりと中身が詰まっているなということです。「こんにちは赤ちゃん」(1963年)は2分半足らずの短い曲ですが、日本の新しい家族の姿を鮮やかに示しました。「また逢う日まで」(1971年)は3分足らずの時間でドラマチックな世界を表現しています。デジタル配信という環境の変化によって、内容の詰まった音楽に回帰するのなら、それも悪くないのかなと思います。
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