神はサイコロを振らない – Skream!

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LIVE REPORT
Japanese
Skream! マガジン 2022年05月号掲載
2022.03.20 @日比谷公園大音楽堂
Reported by 秦 理絵 Photo by Viola Kam (V’z Twinkle)
愛を確認して、愛を願う。神はサイコロを振らないが初めて日比谷野音(日比谷野外大音楽堂)で開催したワンマン・ライヴ”最下層からの観測”は、第一音が鳴った瞬間から最後の音が終わるまで、人が人を想う気持ちが溢れていた。MCで柳田(周作/Vo)は、”僕らが結成してすぐのころは、愛だの恋だのを歌うバンドじゃなくて。光か闇で言ったら闇しかない、ひとりよがりなバンドでした”と切り出す場面があった。”でも、こんなにもたくさんの人が僕らを観てくれる、こんなに守るべきものができたら、歌うことは変わる。みんなのことを愛しているから、音楽家としてそれを絶対に歌にしないといけないと思いました”と、変化していく自身の心境について語った。バンドはブレないほうがかっこいいように見える。変化は怖いものだ。それでも、自分たちが今本当に伝えたいことはなんなのか。その問いの答えとして、この日、神サイ(神はサイコロを振らない)が見せたのは、今だからこそロック・バンドとして伝えられるラヴ&ピースだった。

すっかり陽が落ちた18時。深遠なSEに乗せて柳田、吉田喜一(Gt)、桐木岳貢(Ba)、黒川亮介(Dr)の4人がステージに現れた。その場の空気を声ひとつで掌握するような柳田の伸びやかな歌のみで始まり、そこにバンド・サウンドが加わると、ステージが一気に眩しいライティングで照らされた。1曲目は「未来永劫」。その”有限の星空”というフレーズで、柳田はそっと空を指さした。残念ながらこの日は曇り空で星は見えなかったが、屋根のない野音にはぴったりのオープニングだ。黒川が叩き出すダイナミックなドラムが躍動感を加速させた「クロノグラフ彗星」から、桐木による鋭利なスラップ・ベースが口火を切った「揺らめいて候」へ。”すごい!見たことのない景色です”と、柳田が満員の客席を見渡して、ストレートに喜びを口にしたあと、ステージが真っ赤に染まったダンサブルなナンバー「パーフェクト・ルーキーズ」では、吉田の手数の多いギターが主旋律とは別のフレーズを繊細に聴かせる。演奏のところどころでは、柳田と桐木がやんちゃに向かい合ったり、吉田と桐木が立ち位置を入れ替えたり、いわゆるTHEロック・バンドのショータイムというような派手なパフォーマンスを次々に展開。神サイにはそんな華やかな演出がよく似合う。

ポスト・ロックをルーツとするロック・バンドの美学が貫かれた「illumination」は、野音の夜空の下で歌うべき楽曲として印象深かった。冷ややかにうねる透明な爆音に乗せて”唄うことだけが 全てだから”と紡がれるフレーズ。自らが命を終えたあとも、その音楽が歌い継がれてゆくことを祈るような楽曲を、柳田はステージに跪き、渾身の歌唱で届けた。”僕らにとって大切な楽曲をやります”と伝えたメジャー・デビュー曲「泡沫花火」では、一筋のピンスポットが柳田を照らした。海底に沈んでゆくような儚いサウンドスケープで歌われる切ない心の機微。2019年にリリースされバンドの知名度を大きく上げるきっかけになった「夜永唄」をはじめ、神サイには名バラードが多くある。この日はそれらが惜しげもなく披露されたが、その一曲一曲を感情豊かに歌い上げる柳田の熱に呼応するように、楽器隊の演奏もぐんぐん熱を帯びていった。そのステージからは、メイン・ソングライターであり、抜群の歌唱力を誇るヴォーカリストである柳田の”歌”への、メンバーの絶対的な信頼が伝わってくる。

最新アルバム『事象の地平線』には、同世代のアーティストをフィーチャリングに迎えたということで、中盤は”その中からひとりが駆けつけてくれています。おいでくださいませ、姫!”(柳田)と、シークレット・ゲストのアユニ・D(BiSH/PEDRO)が呼び込まれた。”神サイさんと神サイさんのファンの愛で溢れているなと思いました”と、アユニ・D。清涼感のあるサウンドに乗せ、柳田とアユニ・Dがお互いに呼吸を合わせ、美しいデュエットを聴かせた「初恋」は、あまりにもスペシャルなハイライトだった。ステージに炎が燃え上がり、電子ドラムを織り交ぜた黒川の洗練されたビートを軸に情熱的なロック・サウンドが花開いた「イリーガル・ゲーム」から、ピアノとストリングスを伴った壮大なバラード「あなただけ」へ。固定観念を打ち破ることをモットーとする神サイの音楽はジャンルの枠にとらわれないが、その楽曲たちにはロック・バンドにしか表現できない狂おしさも通底している。

最後のMCでは、柳田がこの日に掲げた”最下層からの観測”というタイトルについて説明をした。インディーズ時代に幾度とない苦い経験を味わい、メジャー・デビュー以降はたくさんの人に音楽を聴いてもらえるチャンスを得たけれど、まだ満足のいく結果は出せていないという想いがある。だから、この場所を”最下層”と呼び、さらに上を目指していきたいのだという。”ロマンチックなことを言いますけど”と前置きをして、”この雲の上にある何億光年先の星までも向かっていきたい。みんながフル・パワーで、僕らに愛をぶつけてくれれば、そこまでいけるんじゃないか。この曇天を突き抜けて、眩しくて見えねぇって存在になるんじゃないかって思っています。まだまだスタート地点に立ったばかりです”と、柳田。その想いを楽曲に託すように「巡る巡る」へと繋ぐと、ラストは「タイムファクター」へ。解放的なロック・サウンドに乗せた”このまま光となって/きっと辿り着いてみせるよ”というフレーズにも、先ほどのMCの言葉が重なる。その想いは決してフロントマンとして直接的に言葉を伝える機会の多い柳田のものだけではなく、バンド全員の意志でもあるはずだ。そのことが渾身の演奏からひしひしと感じるフィナーレだった。

アンコールでは、心の中で一緒に歌ってほしいと呼び掛けて「LOVE」を届けた。この曲を歌うとき、柳田は”どうか争いのない、戦争のない世界で僕らの想いを繋いでいきましょう”と言葉を添えた。多くは語らなかったが、そこには深刻化するロシアのウクライナ侵攻に想いを馳せるところもあったのではないだろうかと思う。そして、”僕はここに来てくれるみんなのことを信頼してます。だから、僕らのことも信頼してほしいです。みんなの人生を引っ張っていけるような存在になります!”と決意を伝え、「1on1」で全18曲にわたるライヴを締めくくった。1対1で確認し合えた愛は、きっと大きな愛へと繋がっていく。根拠はなくとも、そう信じさせてくれたことが、この日、神サイがくれた大きな宝物だった。
[Setlist] 1. 未来永劫
2. クロノグラフ彗星
3. 揺らめいて候
4. パーフェクト・ルーキーズ
5. 少年よ永遠に
6. illumination
7. 泡沫花火
8. 初恋(w/ アユニ・D)
9. 目蓋
10. 導火線
11. 遺言状
12. イリーガル・ゲーム
13. 夜永唄
14. あなただけ
15. 巡る巡る
16. タイムファクター
En1. LOVE
En2. 1on1


荒々しく衝動的なロック・ナンバーから荘厳なバラード、心踊るポップ・ソングまで。どんなジャンルの楽曲でも自分たちの色に染め上げる神サイ。そんな彼らがメジャー・デビューを果たした2020年以降の集大成となる1枚が完成した。2枚組全20曲。その半分がドラマやアニメ、CMソングに書き下した楽曲であり、バンドの知名度を上げたバラード曲「夜永唄」のリアレンジや、昨年n-buna(ヨルシカ/Gt/Composer)やアユニ・D(BiSH/PEDRO)、キタニタツヤを迎えたコラボ作まで、セールス・ポイントは枚挙にいとまがない。そんななか、必聴はラスト・ソングの新録曲「僕だけが失敗作みたいで」だろう。原点回帰となるポスト・ロック・サウンドに乗せ、柳田周作(Vo)が弱さを吐露する歌詞に、神サイの根底にある泥臭い人間味を感じる。(秦 理絵)
7月にリリースされたn-buna(ヨルシカ/Gt/Composer)とアユニ・D(BiSH/PEDRO)を迎えたコラボ曲「初恋」に続き、フィーチャリング第2弾として、神サイがキタニタツヤとタッグを組んだ配信シングル。ファンキー且つポップなサウンドに乗せて、恋愛における醜くも美しい感情を生々しく描いた今作は、まさに2組の”らしさ”が溶け合ったコラボレーションになった。優しく包容力のある柳田周作とまろやかで鋭いキタニタツヤという、声質の異なるふたりのヴォーカリストの味が際立つほか、全プレイヤーが主役になるアレンジの展開も痛快。神サイに新たなグルーヴをもたらした今作の経験を血肉にしてゆくことで、このフィーチャリングはバンドにとってより意義深いものになっていくはず。(秦 理絵)
今年3月のメジャー1stシングル『エーテルの正体』以降、ハイペースな楽曲リリースが続く神はサイコロを振らない、初のコラボレーション楽曲。作曲にヨルシカのコンポーザー n-buna、ヴォーカリストにBiSHのメンバーであり、PEDRO名義の活動も展開するアユニ・Dを迎えるという、2021年代の音楽シーンを象徴するような3組が集結する豪華コラボになった。n-bunaの真骨頂とも言える、ピアノを中心にした清涼感あふれるバンド・サウンドに乗せた楽曲のテーマは、あの夏の日に置き忘れてきた切ない想い。柳田周作とアユニ・Dの男女ヴォーカルが優しく交錯するメロディには、懐かしい匂いが漂う。神サイの楽曲として、初めて柳田以外のコンポーザーが介入した点もバンドとして意義深い。(秦 理絵)
2021年第1弾フィジカル・シングルは全4曲中3曲がタイアップの書き下ろし。その事実が注目度の高さを物語る。懐かしい景色を描くミディアム・テンポ「未来永劫」(アニメ”ワールドトリガー”EDテーマ)、アッパーなライヴ・アンセム「クロノグラフ彗星」(ドラマ”星になりたかった君と”主題歌)、エレクトロなダンス・ナンバー「1on1」(ドラマ”ヒミツのアイちゃん”主題歌)に加え、伊澤一葉(東京事変/the HIATUS etc.)をプロデュースに迎えた「夜永唄」のアフター・ストーリー「プラトニック・ラブ」と、すべて異なるサウンド・アプローチに挑戦した濃厚な1枚。メジャー以降タイアップが増えたが、全曲に自身の偽りない感情を歌に込める、柳田周作(Vo)のブレないソングライティングの姿勢もいい。(秦 理絵)
なぜ彼/彼女は、そんなに生きづらいのか――テーマやメッセージは全5曲それぞれに違っても、聴き終わったときに残る強烈な印象は、それ。そこに共感が生まれるからこそ、15年結成の福岡出身の4人組ロック・バンドは、こうしてめきめきと頭角を現してきた。9ヶ月ぶりにリリースするミニ・アルバム。いわゆるギター・ロックをアンサンブルの核にしながら、8ビートやギター・サウンドだけに頼っているわけではないことを物語る、多彩なアレンジで差をつける。シンセ・オリエンテッドなバラードとグランジ・サウンド。あるいは、女と男が求めるものの乖離といった、作品の中に仕掛けた大胆なコントラストも聴きどころだ。「揺らめいて候」では四つ打ちに加えファンキーなリズムにもアプローチしている。(山口 智男)
アルベルト・アインシュタインの名言をバンド名とする、神はサイコロを振らないが、約2年ぶりの新作『ラムダに対する見解』をリリース。これまで以上に時間をかけ、丁寧に作り上げたという本作では、今までにないアプローチにも挑んでおり、新たな神サイの表情を垣間見ることができる。特に、MVも公開されている「アノニマス」でのソリッドなギター・リフ、冷たく吐き捨てるようなポエトリー・リーディングには意表をつかれた。また、ピアノやストリングスを使用し、よりドラマチックなサウンドに仕上げたバラード「夜永唄」も秀逸。弱い自分を受け入れながら、僅かな希望を見いだしていくような「No Matter What」など、全5曲収録の神サイ新章突入を強く打ち出した勝負作。(三木 あゆみ)
“神はサイコロを振らない”というバンドが鳴らすのは、暗闇から見る光であり、是が非でも生きるのだという咆哮のロック・ナンバーだ。今年7月にリリースされた初の全国流通盤『anfang』が大きな話題を呼んでいる福岡発の4人組が早くもリリースするニュー・シングル。”俺は何故、誰の為/この声を枯らし叫ぶのか/その意味を今ここに記す”。まるでバンドの決意表明のように力強く歌い上げる表題曲「ナスタチウムの花」は、繊細なギターの旋律と唸るようなベース・ライン、躍動するドラムがひとつの意志となって響き合う。ナスタチウムの花言葉は”困難に打ち克つ”。その燃えるような暖色の花に、彼らはこの必然に支配された世の中で、それでも自らの手で運命を掴むという意志を託したのだと思う。(秦 理絵)
最初に耳に飛び込んできたのは、今にも消えてしまいそうな光を灯すアルペジオと、それに溶けるようなウィスパー・ヴォイスだった。が、Track.1のタイトルどおり”静寂の空を裂いて”、抱えきれないほどの音のシャワーが降り注ぐ――ドイツ語で”始まり”を意味する”anfang”と名づけられた今作は、そんな神秘的な展開で幕を開ける。心理学者 アインシュタインが残した名言をその名に掲げ、2015年8月、福岡にて始動した4ピース・バンドによる初の全国流通盤。暗い影を纏った感傷的な詞やメロディが、複雑且つドラマチックに構成された楽曲によって次々と吐き出されていく。しかしクライマックスは、高らかなギターに導かれるように希望に手を伸ばす「煌々と輝く」。鮮烈な光と影のコントラストが作り上げた残像が、アルバムを聴き終えてからもしばらく消えない。(松井 恵梨菜)
“全部の曲に映像が浮かぶ。神サイの強みが見えてきた作品です”――挑戦を自信に変えて完成させた渾身のメジャー1stアルバム『事象の地平線』
“音楽って楽しいもんやなっていうのを取り戻せた” 神サイ×キタニのタッグが生んだ”遊び”の延長にある至福の音
“神サイはずっと面白いことをやりたいってチャレンジしてきた” n-buna(ヨルシカ)とアユニ・D(BiSH/PEDRO)を迎えた初のコラボ楽曲で描いた初恋の夏
“音楽が生きる希望になりえるものだなって気づいた” 挑戦と飛躍の2020年が導いた神サイの次の1歩『エーテルの正体』
激情と憂愁が渦巻く音像が導いた5つの"理"とは
2022.03.20 @日比谷公園大音楽堂
2021.05.30 @Zepp Tokyo
2018.06.22 @下北沢LIVEHOLIC
2017.11.17 @下北沢LIVEHOLIC
2017.06.11 @吉祥寺ライヴハウス5会場
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Skream! 2022年05月号

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