応援歌、選手本人の歌…「野球レコード」にハマった男の壮絶人生(FRIDAY) – Yahoo!ニュース – Yahoo!ニュース

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写真:FRIDAYデジタル
コレクションはおもしろい。特定のテーマに沿って集められた充実のコレクションを見るのも楽しいけれど、それ以上にコレクションすることに夢中な人間の話はもっとおもしろい。この連載では、毎回いろいろな蒐集家の元を訪ねて、コレクションにまつわるエピソードを採取していく。人はなぜ物を集めるのか? 集めた先には何があるのか? これでもコレクションのごく一部! 見たこともない「野球レコード」のオンパレード! 『金曜日の蒐集原人』とは、コレクターを蒐集したコレクションファイルである。 「プロ野球 音の球宴」というDJイベントがある。野球選手が歌っているレコードや、野球に関する音楽ばかりがかかって、フロアに詰めかけた野球好きたちを大いに沸かせる。主催するのは野球レコードのコレクターであるFPM中嶋こと中嶋勇二さんと、相棒のヨシノビズムさん。野球選手のレコードというと、演歌のような地味なイメージがあるけれど、それで盛り上がれる? 実際のところはどんなものなのか、中嶋さんのコレクションを実際に見せてもらい、聴かせてもらってきた! ◆パ・リーグを好きにさせた7色のユニフォーム ──ぼくはあまり野球に詳しくないので、聴きどころというか、それぞれのレコードのポイントを見逃す可能性があります。そのへんは編集さんにフォローしていただきましょう。中嶋勇二さん1964年の品川区生まれ。普段は「FPM中嶋」と名乗っています。 中嶋 ファンタスティック・ピッチング・マシーン(笑)。 ──これは当然、DJで音楽プロデューサーのFPM田中(ファンタスティック・プラスチック・マシーン)こと、田中知之さんのもじりですよね? 中嶋 そうです。共通の友人知人はたくさんいるんですが、まだご本人にはお会いしたことはないので、許諾も得ていません。 ──たぶん笑って許してくださると思いますよ。ちなみに、ぼくと中嶋さんにもやはり共通の友人がたくさんいて、初めてその存在を知った頃は「日ハムさん」と呼ばれていましたよね。 中嶋 mixi時代のアカウント名が日ハムでしたから。 ──日ハムを名乗っていたくらいだから、当然のことながら日本ハムファイターズのファンで、もっと言えばパ・リーグのファンなんですよね。 中嶋 そうです。 ──マンガの影響で野球好きになったということなんですが、我々が子供時代の野球マンガといったら、まずは『巨人の星』。それから『侍ジャイアンツ』というように、読売ジャイアンツの全盛期でした。ましてや東京に住んでいたら、かなりの確率で巨人ファンになるはず。なのにパ・リーグを選んだのは、なぜでしょう? 中嶋 マンガから得る知識というのは、どうしたってジャイアンツ中心になって、自分も最初はジャイアンツを意識してたんですけど、ある日、親が日拓ホームフライヤーズ(日ハムの前身)と阪急ブレーブスの試合のタダ券をもらってきました。日拓のホームグラウンドは後楽園球場だったんで、見に行ったら客席がガラッガラなんです(笑)。 ──同じ後楽園でもテレビで見る巨人戦は超満員ですもんね。 中嶋 そんなガラガラの球場の中で、張本(勲)とか大杉(勝男)とか白仁天みたいなゴツイおっさんが派手なユニフォームを着て野球をやってるわけですよ。 ──はい、事前に検索して見てきましたが、当時、話題作りで7種類のユニフォームを作ったそうですね。「日拓ホームフライヤーズ」で画像検索するとすぐに写真が見られます。 中嶋 そんな球場の有り様にすごく衝撃を受けて、日拓はもちろんパ・リーグそのものを気に入ってしまったわけです。 ──ご自分で野球をやったりはしませんでした? 中嶋 自分が小学生の頃はまわりに少年野球チームがなく、一人で壁に向かってボールをぶつけて遊んでいたくらいで。そもそも自分にはスポーツの才能がないということには気がついていたので、早々に断念していました。 ◆最初の1枚に写っていた少年と野球友達になる ──中嶋さんが最初に手にした野球レコードというのは、どれなんでしょうか? 中嶋 歌ものではないんですが、少年ファイターズ会っていう子供向けファンクラブの入会特典で1975年に配られたインタビューのソノシート『ぼくらのファイターズ』ですね。 中嶋 それから1977年に『それゆけぼくらのファイターズ』という球団の応援歌ができまして、これも発売されてすぐに購入しました。お金を出して買った野球レコードという意味では、こちらの方が最初ですね。このジャケットで左端に写ってる男の子は、いま小学館で編集者をやっているんですよ。 ──わはは! それはどうして知ったんですか? 中嶋 わたしが書店で働いてたとき、書店員や出版社の親睦会みたいなものがあって、そこで日ハムのファンなんですって言ったら「わたしもそうなんです!」って盛り上がって。そうしたら「あのレコードジャケットに写ってる子供の中にわたしもいるんですよ」って言われて。 ──それは凄い話ですねえ。 中嶋 それ以来、一緒に東京ドームへ試合を見に行ったりする仲になりました。 ──このレコードをスタート地点として、野球レコードを集めていくようになったのでしょうか? 中嶋 いや、そういうわけではないです。日ハムのファンだから木田勇選手のレコードなんかも発売されたときに買っていますが、その時点ではまだコレクションという意識はなかったです。 ◆ノベルティソングとしての野球レコード ──高校生あたりから音楽に夢中になっていったそうですが、それは何かきっかけがあったのでしょうか? 中嶋 テレビっ子だったので、やっぱり音楽との出会いもテレビからです。当時は『ぎんざNOW!』を月曜から金曜まで見ていて。毎回いろんなバンドがゲストで出てきて。たとえばハルヲフォンとか。 ──近田春夫さんのね。ぼくは清水健太郎さんが出ていたのをよく覚えています。 中嶋 木曜日に「ポップティーンPOPS」っていう洋楽メインのコーナーがあって、コッペとかがMCをやっていて。それでまあ時期的に中学から高校に入るくらいのときにパンク、ニューウェーブの波がきて。それで徐々に音楽に興味を持ち始めて。 ──どんなのを聴いてました? 中嶋 初めて自分で買ったレコードは……たしか大瀧詠一さんの『LET’S ONDO AGAIN』。 ──また変化球からいきましたね! あ、でもそこからすでに中嶋さんはノベルティソング、大瀧さん流に言うなら趣味趣味音楽に目覚めていたんだ。のちに集めることになる野球レコードもある種のノベルティソングですからね。 中嶋 たしか『ぎんざNOW!』でも『ナイアガラ音頭』を聴いていた覚えがあります。で、他にはあの当時だとやっぱりYMOですよね。そこから遡っていくうちに、YMOの細野晴臣と大瀧詠一は昔一緒にバンドをやっていたのか! みたいなことを知って、だんだん音楽の知識が深まっていくんです。 ──それでニューウェーブとかパンクが好きになり、ライブハウスに行ったりするうちに、加藤賢崇さん、川勝正幸さん、岸野雄一さんといった方々と出会うわけですね。そこで加藤賢崇さんたちとバンド「東京タワーズ」を結成するに至ると。 中嶋 ぼくはそれまで楽器なんか全然やってなかったんですが、賢崇と会ってるときに「バンドやってみたいねえ」なんて話になって。賢崇も楽器をやる人じゃなかったんだけど、パンクなら自分らでもイケるのではないかという非常に甘い見込みでね(笑)。 ──当時のパンクにはそういう側面もありました。東京タワーズは懐かしの歌謡曲をパンク・ニューウェーブ的なアプローチでカバーするというコンセプトでしたが、メンバー編成はどうなっていましたか? 加藤賢崇さんはボーカルでしょ。 中嶋 で、わたしがドラムで。 ──なるほど。別にドラムを低く見るつもりはありませんが、弦楽器や鍵盤楽器に比べれば、ドラムはとりあえずリズムを刻んでいればそれっぽく聴こえますもんね。で、そんなこんなでバンド活動を続けていく中で野球レコードと出会うんですね。 ◆モトコーで出会った大熊忠義のレコード 中嶋 1990年代の前半だったと思うんですけど、東京タワーズと活動を共にするバンド仲間で関西ツアーに行くんです。そのときに、安田謙一さんが現地でいろいろ面倒を見てくださって。 ──安田さん優しい人ですよね。 中嶋 とみさわさんもご存知だと思いますが、神戸の元町の高架下(通称:モトコー)に中古盤屋やら古本屋やらが集中したエリアがあるでしょう? そこを安田さんが案内してくれて。 ──はいはいはい。ぼくは2011年に神戸の古本祭りに行ったとき、収穫を抱えてレジで並んでいたらいきなり安田さんが現れて、「とみさわさん、今日このあと暇なら神戸を案内しますよ」って言ってくれて、モトコーを案内してもらいました。そのときまで面識はなかったんですけどね、ツイッターでぼくが神戸入りしてるのを見て、わざわざ来てくれたんです。 中嶋 その安田さんのモトコー接待をぼくたちも受けて(笑)。いまもまだあるのかはわからないんですが、当時のモトコーには奇妙な店がたくさん並んでいて。 ──中嶋さんたちが行ったのは1990年代前半ですよね? ぼくは2011年だったけど、まだけっこう残ってましたよ。誰が買うのかわかんないワープロ専用機ばかり並べてる店とか。 中嶋 ある中古盤屋なんて、店内に入るといきなり土間なんですよ。普通に三和土があって、その奥には畳の部屋が見えて。壁面にはスチール製の本棚がバーっと囲むようにあって、そこに7インチシングルが実に無造作に並んでいて。どれでも1枚50円とか、そういう売り方の店で。しかも、売られているのはだいたい放送局とか有線放送から流れてきた放出盤なんです。 ──ジャケットに四角い管理札が貼ってあったり。 中嶋 そう、ジャケットに直接マジックで番号が書かれていたり。そういうものがメインのお店で、そこでは本棚から適当にヨイショっと抜いて、全員で土間にウンコ座りして1枚ずつ見ていく。 ──そのときの中嶋さんは、まだニューウェーブとかパンクのレコードを探してるわけですよね? 中嶋 そうなんですけど、懐かしの歌謡曲、それこそとみさわさんの趣味とも通じるようなものも集めていました。 ──野球レコードにはまだ目覚めていない? 中嶋 そのとき誰かに「中嶋、野球好きだったよね。これ野球選手が歌ってるよ」って渡されて、「そういえば野球のレコードっていうのもあるよな」と、初めて気がついた。 ──そのとき渡されたレコード、つまり意識的に野球レコードを集めるきっかけの1枚というのはどれでしょう? 中嶋 大熊忠義の『この足で…』ですね。大熊選手というのは阪急ブレーブスの2番打者で、非常に歌自慢な人なんですよ。 ──スポーツ選手は肺活量が大きいから、歌が上手い人は多いですよね。 中嶋 一緒に写っているのが福本豊で、『この足で…』というのはつまり福本選手のことを歌っているわけです。 ──ああ、盗塁王の人ですね。それくらいは野球音痴のぼくでも知ってます(笑)。 中嶋 だから福本が1番バッターで出塁して、2番の大熊がアシストすることで福本は盗塁記録を達成できたんです。 編集氏 大熊は初球から打ったりせず、福本が走り出す(盗塁する)まで待つんですよ。 ──ああ、そういうことね! その関係性も込みでこのレコードを見ると、またグッといいものに思えてきます。で、これをモトコーで手に入れたところからすべてが始まるわけですね。 中嶋 「野球か!」と。その当時、すでにぼくの周りにはテーマを決めてレコードを収集している人間がたくさんいて、じゃあ自分は音楽も野球も好きなんだから「野球もの」を集めてみるというのはおもしろいなと思ったのがきっかけです。 ──ふたつの趣味欲を満たせるものを見つけたというのは大きいですね。 ◆バリエーション違いの底なし沼 中嶋 こうした“企画もの”のレコードっていうのは、中古盤屋でも丁寧な扱いをされるジャンルではないから、初めのうちは行くレコ屋、行くレコ屋、どこでも掘り放題なんですよ。しかも安いから、入れ食いだー! って(笑)。 ──未開拓のテーマを発見したときって、コレクターにとって最高の瞬間ですよね。 中嶋 それからだいぶ後のことになりますが、同じものをダブって買ってしまったりして、自分が持ってないものと出会える機会がだんだん減っていくんです。 ──チェックリストは作ってないんですか? 中嶋 いや、そこまでマメじゃないので、作ってないです。そもそも、どんなレコードが存在するのか全貌がつかめない状態で集めてるから。 ──では、記憶だけが頼りって感じですか。あ、でも野球好きなら、どの選手が歌っていたという記憶と現物のレコードの記憶が重なるから、そこはそんなに大変じゃないのか。 中嶋 微妙なバリエーション違いというのが厄介なんですよ。最初は自主制作盤として出されたものが、のちに正規盤としてリリースされたり。そういうのがいろいろありまして。 ──バリエーション違いにまで手を出していくと、コレクターは地獄を見るんですよね。 中嶋 こういったジャケットのデザインやレーベルが違うものはまだわかりやすいんですけど、いろいろとレコードを集めていくうちにメジャーなレコード会社でも自主制作部門の番号があるらしいとか、そういうことを知るようになって。 ──そこまでこだわり始めると底なし沼ですね。 ◆ハマスタで勝手に孤独を感じる女の情念 ──しかし、野球といってもその対象は広いです。収集対象の定義づけっていうのはありますか? 中嶋 メインとしては「球団歌」「応援歌」というのがまずあって、それから「選手本人の歌もの」。あと応援歌のカテゴリーに含まれると思うんですけど、「選手個人の応援歌」。 ──王、長嶋といったスター選手はそういうのがたくさん出てますね。 中嶋 こういったものが中心になります。あとは、ざっくりプロ野球をテーマにした歌謡曲っていうのも、内容がおもしろければコレクションに加えます。 ──たとえば、どういうのがあるでしょう? 中嶋 たとえば、先ごろ亡くなられた水島新司先生の『あぁ野球狂』とか。 ──あっ、これは「漫画家本人歌唱レコード」というテーマでぼくも持ってます。水島先生ご本人が歌ってるんですよね。こちらの矢野顕子さんの『行け柳田』も、たしかに野球歌謡だ。 中嶋 そういった野球テーマの歌謡曲でいちばん気に入ってるのが、この『横浜スタジアム(大洋・巨人戦)』っていうやつなんですけど。 ──これは、ジャケットもいいですねえ。うちは親父が大洋ファンだったので、横浜球場とか川崎球場にはしょっちゅう連れて行ってもらいました。ぼくの「昭仁」という名前も、近藤昭仁選手から取られてるんです。 中嶋 あっ、そうなんですか! ──でも、親父の期待に反してまったく野球好きな人間として育ちませんでしたけど(笑)。それにしても、このタイトルとジャケット写真を見ただけだと、単なるハマスタのテーマソングとしか思えないんですが。 中嶋 ちょっと聴いてみましょう。 (※しばらく『横浜スタジアム(大洋・巨人戦)』を鑑賞しています) ──泣きのギターが鳴り響いて、曲調はメロウな感じの歌謡曲ですね。うわっ、いきなり「♪張本はレフトへ~、きれいに流し打ち~」だって(笑)。「♪長嶋監督も~、すごく嬉しそう~」って、何この歌詞(笑)。最高じゃないですか! 中嶋 歌詞がひたすら野球の試合の実況になってるんですよ。 ──副題の(大洋・巨人戦)とは、そういう意味だったんですね。しかも、一番の歌詞が巨人サイドからの視点で、二番は大洋サイドからになってるじゃないですか。 中嶋 歌詞全体を通してよく読むと、恋人に捨てられた女の人が弟を連れて野球見物に来て、素晴らしい試合運びで球場全体が盛り上がる中、自分だけ試合を実況しながら孤独感を感じているという、よくわかんない構造になってるんです(笑)。 ──「愛した人のさよならで」というのは、いわゆる野球の「サヨナラ」ともかかってるのかな。いやいや、これは凄いレコードですね。 中嶋 野球場をテーマにした曲では、山崎ミカの『後楽園で逢いましょう』も有名ですね。 ──普通の人にはちっとも有名じゃないと思いますが、いちおうぼくも持ってます。 ◆「家族もの」を象徴する「金田ファミリー」 ──他に中嶋さんは「選手の家族もの」も集めてましたよね。そのコレクションも見せてください。 中嶋 今日は7インチばかり持ってきたんですけど、家族ものになるとCDがメインになっちゃうんですよ。選手と結婚したモデルとかアイドルとか、あるいは娘がアイドルデビューするとか、そういうのはだいたいCD時代なんですね。 ──たとえば、松本典子はヤクルトの笘篠(賢治)と結婚して引退するじゃないですか。その瞬間から松本典子のレコードを全部買わなきゃいけなくなるんでしょうか? 中嶋 いやいや(笑)、家族ものについては自分が気に入ったものが1枚あればいいというルールにしてます。 ──わはは、そりゃそうですよね。 中嶋 郷ひろみが3度目に結婚した相手が、徳武利奈っていう元ヤクルトのコーチだった徳武定祐の娘なんですよ。だから郷ひろみのレコードも「家族もの」になるんです。あと福山雅治が吹石一恵と結婚しましたけど、お父さんが元近鉄の吹石徳一なので、福山も「家族もの」にカテゴライズされる。まあ、買ってはいませんが。 ──修羅の道だなあ(笑)。 中嶋 俳優の金田賢一がカネやん(金田正一)の息子なのは有名ですよね。『ながしま音頭』という曲を歌ってる榎本美佐江という人は、カネやんの最初の奥さんなんです。 ──曲名の「ながしま」は長嶋茂雄とは関係ないんですか? 中嶋 関係ないです。で、カネやん本人は歌ってはいないんですけど、美空ひばりの『男の腕』っていう曲の中にはカネやんの語りが入っていたりします。 ──これ、美空ひばりサイドのジャケットを見ただけでは野球ものだと気づかないでスルーしそうですね。左下に小さく「せりふ・金田正一」って書いてあるのを見て気づいたんですか? 中嶋 そうですね。それからカネやんの弟が金田星雄といって、彼自身も国鉄スワローズに入団して2年間だけ在籍していたんですが、すぐに引退して歌手に転向しました。この『やったるで!』というのはカネやんの口癖で、「原案:金田正一」ってクレジットされてます。 ──わはは「金田ファミリーもの」だ! これだけ集めるのはかなり詳しくないと無理ですね。 中嶋 そう、家族ものになると、その選手の家族構成を把握しておかないといけません。あと、「誰それ選手の娘がデビュー」といったようなニュースを欠かさずチェックしておかないと。 編集氏 阪急にいた山沖之彦の娘が宝塚歌劇団に入ったりしたじゃないですか(※宙組で男役を務める芹香斗亜)。それでレコードを出してたりしないですかね? 中嶋 その可能性はあるんですよ! 宝塚もサントラ的なレコードを出しているので、その中に参加しているかもしれません。さすがにそこまでは手を出しかねていますけど(笑)。 ◆投球フォームが流れるような13枚 中嶋 「家族もの」でもうひとつ、最近見つけてびっくりしたのが、この長島一郎の『俺にゃ本当の恋だった』というやつ。これがジャケットデザインだけじゃわからないんですが、裏のプロフィールを見ると「巨人軍の長島(原文ママ)選手と従兄の間柄であるため長島選手より長島の芸名を贈られデビュー」なんて書いてあるんです。 ──ああ、このプロフィールもそうですけど、長嶋選手って昔は「長島」表記されることも多かったですよね。 中嶋 そう、当時はあんまりそういうことに頓着しなかったんです。だからネットオークションで検索するときも、長嶋選手とかは「嶋」と「島」の両方で検索しないといけないんです。 ──表記揺れ問題はファンシー絵みやげの山下メロさんも言ってました。でも、このレコードは歌手名の「長島」だけでピンときたんですか? 中嶋 いや、これは出品者がちゃんとジャケ裏のプロフィールもテキストで記載してくれていたので、それが検索に引っかかりました。 ──中嶋さんの野球レコード・コレクションといえば、木田選手の『青春・I TRY MY BEST』を複数買いしているのも注目ポイントです。いずれは背番号にちなんで16枚集めたいという目標があるそうですが、なぜそんな無茶なことを思いついたんでしょう? 中嶋 最初はうっかりダブって買っちゃったんですよ。 ──ああ、中嶋さんはチェックリスト作らないし(笑)。 中嶋 それで何枚かダブったときに、木田の背番号は16だから集めるのにちょうどいい数字だなと思って。 ──その感じ、わかる~。背番号が55とかだったら集めようとは思わないですよね。ということは、全野球選手の中で木田がいちばん好きだから、という理由ではないんですか。 中嶋 いや、もちろん贔屓チームの主力選手だったので当然ファンではありますが、選手としていちばん好きかというのはまた別の話で。あの……、以前えのきどいちろうさんのお供で木田さんの家にお邪魔したことがあって、そんな縁も複数買いには影響していると思います。 ──このレコードはジャケットの写真もいいですね。 中嶋 そうなんです。やっぱり野球選手はグラウンドでプレイしている姿がいちばん様になります。ピッチャーだったらユニフォームを着てピッチングしている姿であってほしいし。 ◆70年代中期から始まった野球レコード全盛期 ──いまも頻繁にレコードを掘りに行かれるんですか? 中嶋 こういうご時世ですからレコード屋に行く機会は減ってます。それと、ここ数年は店頭に行ってもびっくりするような、見たこともないような盤に巡り合うことがないので、いまはネットオークションが中心になってしまいますね。 ──まあ、これだけ掘ってればさすがに未知の盤と出会うのは難しくなってくるでしょう。総数は何枚くらいまできましたか? 中嶋 レコードだけじゃなくCDも含めれば、おそらく1000枚近いと思います。 ──最近は野球ものが作られていないという話も聞きましたが。 中嶋 はい。こういう企画ものレコードってやっぱり会社に体力というか、余裕がないと生まれにくいものなんですよ。 ──そうですね。企画ものはミリオンヒットによる売り上げがあるから作れるというのは、出版の世界も同じです。映画もそうだろうし、エンターテインメントはみんな同じですね。 中嶋 サイクルとして野球がシーズンオフになるのが11月から翌年の1月くらいまでの期間で、レコード会社の決算が年度末にあるじゃないですか。それで、年度末までに余った予算を消化するっていうのと、野球選手がシーズンオフになるタイミングがちょうど合うんです。そこでレコーディングをして、開幕に合わせてリリースする。 ──どちらにとっても都合がよかったんですね。では、逆に野球レコードの全盛期というのは? 中嶋 1973年にジャイアンツの連覇がV9で止まって、翌年は中日が優勝します。そのときに『燃えよドラゴンズ!』が出て、これが大ヒットするんですよ。しかも、歌詞の中に選手の名前が出てくるんですが、選手が移籍したりすると前の年の歌詞はそぐわなくなるので、どんどん歌詞が更新されていくんです。その結果、ほぼ毎年そのシーズンごとのバージョンを出し続けることになりました。 ──あっ、作曲はアニソンで有名な山本正之さんですね。 中嶋 そう。当時はまだアマチュアだった山本さんが、板東英二さんのラジオ番組に曲のデモテープを送ったことからレコード化されたんです。 ──ということは山本さんの作曲家としてのデビュー作でもあるわけですね。 中嶋 で、『燃えよドラゴンズ!』が74年に出て、その翌年に広島は『それ行けカープ』をヒットさせます。そこからだんだん野球レコードのバリエーションが増えていったという現象があって、1974年から1975年にかけてドラゴンズとカープの応援歌というか、球団がらみの曲がたくさんリリースされて、いわゆる野球レコードの隆盛が起こったんです。 ──つまり1970年代の後半が野球レコードの全盛期だった? 中嶋 その時代に作られたのがもの凄く層が厚いというか、バリエーションに富んでいて。 ──なんとなくわかります。 中嶋 それからだんだんCDの時代になって、バブルもはじけ、レコード会社にも余裕がなくなって、そういうものは作られなくなっていくんです。 ◆「審判もの」と「子供番組もの」 編集氏 おっ、さいたまんぞうさんのレコードもありますよ。 ──そうか、あの方は特技が野球の審判でしたね。 編集氏 ぼく、まんぞうさんによる審判の下で草野球をやったことが何度かあるんです(笑)。 中嶋 そう、まんぞうさんはアマチュア野球審判員なので、これも野球レコードになるんです。 ──中嶋さん、伊集院光さんのラジオのアレコードに出たとき、三重県で高校野球の審判をやってた人が自主制作で出した『高校野球 審判の詩』というのを紹介していたじゃないですか。「審判もの」っていうジャンルもありそうですね。 中嶋 まんぞうさんとそれで、まだ2枚しかないですけどね(笑)。 ──地方の、自主盤の、審判ものなんて、よく見つけましたね。 中嶋 あれは岸野に譲ってもらいました。彼が地方に行ったときに見つけて、「野球ものあったよー」って。 ──吉田豪さんを取材したときも、掟ポルシェさんがチッチョリーナの写真集を見つけてくれた話がありました。 中嶋 ありがたいことに、こういうテーマで集めているっていうのを知ってる人は、いろいろ気にかけてくれるんです。以前も、とみさわさんが連絡くれたことあったでしょう。 ──はいはい。ぼくがレコード掘ってて、ちょっと見たことない野球レコードがあったからジャケを写真に撮って中嶋さんに「これいる?」ってメールしたら「持ってます」って返ってきて、さすがだなと。 中嶋 あとは「子供番組もの」っていうのがあって、子供番組の中で野球をテーマにした曲があったりするんですよ。「ピンポンパン」でビッグマンモスが歌う『ぼくらは未来のベーブ・ルース』というレコードがあって、リリースされたのが時期的に王選手が世界記録を達成するかしないかっていうタイミングなのに、なぜか王選手ではなく、ベーブ・ルースというところがひねくれてるなあって(笑)。 ◆コレクションが止まることはない 中嶋 先ほども言いましたが、最近はもう自分的にびっくりするような野球レコードが見つからなくなってきたので、「球団の親会社もの」っていうのを集め始めてます。 ──なんですと?(笑)。 中嶋 これ、日本ハムの社歌なんです。 中嶋 他にも西武鉄道の社歌とかね。そうやってバリエーションを作っていけば、コレクションが止まることはないだろうと。 ──コレクターって、行き着くところまで行くと集める理由を考え始めるんですよね。 中嶋 これ歌ってるのは倍賞千恵子さんで、コーラスがボニージャックス。すごくいい曲なんで聴きましょう。 (※しばらく日本ハムの社歌『若い明日』を鑑賞しています。よかったら皆さんもこちらからどうぞ!) ──ああ、たしかにいい曲ですね。勤労意欲の低いぼくでもやる気が出てきました。 中嶋 工場とかで毎朝この曲が流れてるのかなあと想像して楽しんでます。 ──倍賞千恵子さんということは、プロレスレコードのコレクターにとっては「家族もの」ですね。 中嶋 ははは、たしかに。 ◆「企画もの」の定番ジャンル、ディスコも! ──企画もののレコードには「ディスコ」っていうのが重要なジャンルとしてあるじゃないですか。時事ネタや流行ネタはすぐに「なんとかディスコ」ってレコードになりますけど、野球レコードでそういうのはないんですか? 中嶋 ありますよ。たとえば『ディスコ 熱血!ジャイアンツ』とか。 ──これはいいですねえ。作詞がコピーライターの仲畑貴志で、作編曲は……鈴木茂だ! これってはっぴいえんどのシゲルさんですよね? 中嶋 そのはずです。歌はノンクレジットだけど、声の感じは富士サファリパークの串田アキラさんっぽいんですよね。 ──あはは、たしかに! 「ホントにホントにライオンだ~」の匂いがします。企画もののレコードって、有名人が変名でやってることって多いから、可能性はゼロじゃないです! 中嶋 で、こちらが『ディスコ 翔べ スワローズ!』で、これもまた作詞が仲畑貴志で、作編曲が鈴木茂なんです。 ──ああ、同じ座組みでやっつけ仕事してるー(笑)。 中嶋 レコード番号をよく見ると、ジャイアンツが「ETP-10560」でスワローズが「ETP-10561」の1番違いなんですよ。 ──わはは、同じタイミングで発注が来たんですね。ということは、同じ時期に他のチームのディスコものも出ていたりするんでしょうか? 中嶋 この頃はちょうど直前にジャイアンツが低迷していて、スワローズが強かった頃なんですよ。それに合わせて、巨人とヤクルトものを作ればいいかって感じだったんじゃないかな。 ──なるほどなるほど。 中嶋 やっつけ仕事かどうかはわからないけど、この『SOUL TIGERS コバのテーマ』は元阪神のピッチャー小林繁のテーマソングで、野球ディスコの名曲です。そして、こっちの『COME BACK!長嶋』も、実は曲が一緒なんです。 ──あはは、ホントだ! 曲を使いまわしてる。 中嶋 最初に『SOUL TIGERS コバのテーマ』を手に入れて聴いて、それからしばらくして友人から『COME BACK!長嶋』を聴かされたらびっくり仰天して、「同じ曲じゃねえか!」って(笑)。 ──企画ものにはよくあることですよね。中嶋さんは、持ってる野球レコードって、全部聴いてますか? 中嶋 聴いてますよ。……いや、「家族もの」はさすがに聴いてないのもあるかな。松井秀喜のお父さんが香西かおりとデュエットしてるCDがあって、それはいちおう買ったけど、まだ封も開けてない(笑)。 ──わはは、まあそれを聴いたところでねえ。 (取材後記) 音楽系のコレクションは、音のおもしろさを文字では伝えきれないのがもどかしいところです。せめてジャケットのよさだけでも味わって欲しくて、いつもより写真を多めに掲載しました。今回お話を聞かせていただいた中でいちばんのハイライトは、中嶋さんが球団の親会社の社歌まで集め始めている、というところでしょう。コレクターは自分が「集めたいもの」を集めきると、いつしか自分が「集めるべきもの」を探すのです。 取材・執筆:とみさわ昭仁 コレクションに取り憑かれる人々の生態を研究し続ける、自称プロコレクター。『底抜け!大リーグカードの世界』(彩流社)、『人喰い映画祭』(辰巳出版)、『無限の本棚』(筑摩書房)、『レコード越しの戦後史』(P-VINE)など、著書もコレクションにまつわるものばかり。最新刊は、自身とゲームとの関わりを振り返った『勇者と戦車とモンスター 1978~2018☆ぼくのゲーム40年史』(駒草出版)。
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