ヒップホップ界が生んだクリスマス・ソング・ベスト7:思いがけ … – https://www.udiscovermusic.com/

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ヒップホップやR&Bなどを専門に扱う雑誌『ブラック・ミュージック・リヴュー』改めウェブサイト『bmr』を経て、現在は音楽・映画・ドラマ評論/編集/トークイベント(最新情報はこちら)など幅広く活躍されている丸屋九兵衛さんの連載コラム「丸屋九兵衛は常に借りを返す」の第31回。今回は、ヒップホップのクリスマス・ソングについて。
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12月になると思い出すのは、今は亡きロジャー・トラウトマンの言葉である。
「クリスマスはクリスチャンのためのもの。仏教徒のためでもイスラム教徒のためでもない」
そういう自分は一時期、毎年のように仏教徒マジョリティ国家・日本に来て「クリスマス・コンサート」をやっていたくせに……。もちろんわたしは、そういうシニカルなユーモアも含めて彼を愛していたのだが。
さて、ソウル・ミュージックがコンサヴァティヴな「正しいアメリカ人」としての生き方に寄り添う部分も(ある程度は)備えていたのに対して、そういう概念をなぎ倒さんばかりの勢いで出てきたのがファンクである。ゆえに、ソウル界にはクリスマス・アルバムがたくさんあり、ファンクというジャンルには少ない。そして、肛門と性器の間に位置するチャクラから立ち上るパワーを「蛇の形をした炎」と形容して“Serpentine Fire”という曲まで作った(つまり、古き良きアメリカの常識を破壊するような)アース・ウィンド&ファイアーが、クリスマス・アルバムを出した時(2014年)は、やはり違和感を覚えたものだ。
ではヒップホップはどうか? 同時代を共に過ごすR&Bと比べると、予想通りクリスマス・ソングは少なめ、クリスマス・アルバムはほとんどない。しかし日々の生活のさまざまな場面にトピックを求めるという性質ゆえ、そこかしこで思いがけないアーティストが、驚きのクリスマス曲を世に問うていたりもする。
そんなヒップホップ界が生んだクリスマス・ソングを7曲、独断と偏見で選んでみた。
 
それは1979年。「メジャー・レーベルと契約した最初のラッパー」として知られるヒップホップ界の先達の一人、カーティス・ブロウが、そのメジャー・レーベル、つまりマーキュリーから最初にリリースしたシングルが「Christmas Rappin’」だった……ということは、ヒップホップはその黎明期からクリスマスと深い縁があったということか?!
シャカシャカチャラララと刻まれるカッティング・ギターが目立つサウンド。シックとクイーンの中間を行く曲調だが、サンプリング&ループではなく、人力を基本とした演奏だ。何と言っても「Rapper’s Delight」と同年、ファンクとヒップホップが未分化だった時代の産物らしい出来とも言える。
 
カーティス・ブロウの時代から20年ほど後に登場したDMX(故人)は、1998年5月から1999年12月までの約1年半の間に怒涛の勢いで3枚のアルバムをリリースし、その後の(もう少し勢いを緩めて出した)アルバム2作を加えて、なんと5枚も続けてBillboard 200(アルバムチャート)にて1位を記録した超人である。ガラガラした声が印象的であると同時に、2000年前後を特徴づける「歌えるラッパー」でもあった。
そんなDMXにもクリスマス・ソングがある。かつて「イパネマの娘」らしき曲を(しかし絶妙にメロディを破壊しながら)歌ったことがあるDMXであるからして、「クリスマスをトピックに新たなライムを」などとまどろっこしいことはしない。「世界で最も有名なトナカイを思い出せ!」と檄を飛ばし、そのまま「赤鼻のトナカイ」を歌うのである!
 
DMX同様の破壊力を誇るのが、2018年12月にリリースされた本曲。聴けばわかる通り、まだヒップホップが地方色豊かなジャンルであり、特に南部の勢いが爆発していた00年代前半を思い起こさせるトラック。その上で、あの時代のサウスの立役者の一人、リル・ジョンがシャウトするのだ!黒人街で人気のドリンク「Kool-Aid」のキャラクター、クール・エイド・マンを相方に迎えて。
ただし、十数年を経て変化した点がある。かつてのリル・ジョンは「ラッパーと呼ばれるがラップできない」という稀有な存在だった。つまり、2ライヴ・クルーのアンクル・ルークと同じくシャウト/掛け声によるフックのみを担当していたのだ。さらに悪い(面白い)ことにイースト・サイド・ボーイズも同様だったので、リル・ジョン&ジ・イースト・サイド・ボーイズは——3人もいるのに——常にゲスト・ラッパーを迎えないと曲が成立しないという珍しいグループだった。
それに対して、ここでのリル・ジョンはヴァース、すなわちラップらしいラップを披露!「何も変わってない」と見えたとしても、実際には変わらないものなど何もないのだよ。
 
上記のリル・ジョン曲と同じ2018年のホリデー・シーズンに出されたのがこれ。読むものを混乱させるようなアーティスト名義ではあるものの、要するにレイ・シュリマーのスリム・ジミー(Slim Jxmmi:兄、髪が短いほう)のソロ曲のようだ。
レイ・シュリマーといえばやはり、ミニマムなトラック上で、エコーが効きすぎた頼りない(のが最高な)歌が漂う作風。しかし、このクリスマス・ラップではハッキリとベース・ミュージックを指向しているのが面白い。件のリル・ジョンがジャーメイン・デュプリのソー・ソー・デフ・レコーズで働いていた時代に作り上げたコンピレーション『So So Def Bass All Stars』を思わせる曲調でもある。レイ・シュリマーを聴くZ世代にも「お祭り気分の時はベースもの」という公式が通じるのか? もっとも当のレイ・シュリマーは、めっちゃ若く見えるものの実はミレニアルズ、既に30歳前後なのだが。
 
「ベース・ミュージック meets クリスマス」といえば、この偉業を語らないわけにはいかない。
1996年、バリー・ホワイト曲を換骨奪胎した「C’mon N’ Ride It (The Train)」やマイケル・ジョーダン主演映画——2021年にはレブロン・ジェイムズ版の続編が生まれた——の主題歌「Space Jam」などで、ベース・ミュージックの新たな可能性を見せつけたクワド・シティ・ディージェイズは、フロリダ州ジャクソンヴィルのアーティスト/プロデューサー・チーム。
そんな彼らが成し遂げた偉業とは……ベース・ミュージックだけでクリスマス・コンピレーションを作ってしまったことだ! そのアルバム『All Star Christmas』から、ここではクワド・シティ・ディージェイズらしい公式に則った「What You Want for Christmas」を挙げておくが、他曲も興味深い。
 
さて、ここで西海岸に目を向けてみよう。
My boys, ファーイースト・ムーヴメントが2012年のクリスマスに届けたのがこれ。ロンドン出身のシンガーMNEKを迎えたこの曲を特徴づけるのは、西海岸らしいメロディアスさと爽快なシンセの音色。そこにクリスマスの祝祭ムードが合体した、本稿中で最高の佳曲と言える。
 
最後もやはりウェストコーストで。ファーイースト・ムーヴメント曲の夢心地を華麗にぶち壊す、我らがイージー・マザーファxキン・E師匠の出番だ。
あのドールマイトことルディ・レイ・ムーアの口上で始まるこの1992年曲は……いわゆる“so bad it’s good”、つまり「あまりに酷すぎて素晴らしい」逸品である。しかもイージーは、これをシングルカットまでしたのだから、やはり一流のトリックスターだ。
フィーチャリング・アーティストとして表記されているWill 1X and Atban Klannに注目してほしい(ただし本曲のクレジットは何パターンか存在する)。Atban Klannは後にメンバー・チェンジを経てブラック・アイド・ピーズとなるグループ、そしてWill 1Xとは当時17歳のウィル・アイ・アムなのだ! こんな曲で新弟子を世に送り出す極悪師匠、イージー! でもウィル・アイ・アムのインタビューを読むと、彼が如何にイージーを慕っていたかがわかるのであった……。
Written By 丸屋九兵衛
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